GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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人形

血と何かで汚れたスレッジハンマーから愛用のショットガンに持ち替えたM590は、ポイントマンとして彼女達を連れて屋敷を進む。

 

『こちらスプリングフィールドです。ターゲットの予想位置を送りますので急いでください』

 

「了解、福祉公社の戦力は分かりますか?」

 

『指揮官の予想通り、フラテッロが三組投入されています』

 

「分かりました。私達はターゲット予想位置に向かいます」

 

スプリングフィールドからの情報を受けた突入隊は、ステルスなど気にせずに走った。

 

今は隠密や慎重さよりも速度が欲しい。

できることならば、ヘンリエッタ達がエンリコを確保する前に我々が拘束して離脱するのがベスト。

幸いなことにテロリストの大体は正面玄関に回っている。

 

しかしながら敵が居ないわけでは無く、曲がり角で接敵してしまう。

 

「はわわわわ!ビックリさせないでくださーい!」

 

「え?きゃっ!?」

 

そんなどこかポワポワとした物を感じさせる口調で、突入隊のL85A1がアサルトライフルをぶっ放した。

 

先頭に立つM590に警告無しで、だ。

 

「ちょ、L85A1!何やってるんですか!」

 

「ストップ!ストップですわ!」

 

後続のFMG-9とP226が半ばランボー撃ちになりかけているL85A1を止めようと動くが……その必要は無くなったようだ。

 

理由は彼女の持つライフルの機関部からガキンッ!と嫌な音がしたから。そんな音は普通はしない、つまりは異常事態と言うわけで……

 

要はジャムったのである。

 

勘違いしないで頂きたいがL85は欠陥品などでは無い。

適切かつ想定内の扱い方ならば何も問題は無いのだ、適切かつ想定内の扱い方ならば。

 

今回は射手が悪かった。

L85A1《銃》では無く、L85A1《射手》が悪かった。

 

「立てますか?」

 

「あ、ありがとうございます。MP5」

 

「M590さんに負傷が無くて良かったです。それで?L85A1さん、ライフルは使えますか?」

 

突入隊最後の分隊員であるMP5がM590を起こす、その顔には若干ではあるが怒りが見える。

 

そんなMP5にL85A1が返した。

 

「うぅぅ……ごめんなさぁい。でも大丈夫です!これを使いますから!」

 

そう言って彼女が取り出したのはL85シリーズ用の銃剣。

 

L85A1はM4やAKの様にバヨネットラグがバレルに付いていない。簡単に言えば、ライフルグレネードの要領で銃口に銃剣を差し込むのだ。

 

それはつまり発砲できなくなるワケで……

 

「まさか……機関部が壊れたんですの?」

 

「……えへへ」

 

恐る恐る尋ねるP226に、L85A1は恥ずかしそうな笑みを返した。

 

 

結局は銃剣一つで何になると言われたL85A1。

 

彼女は大人しくサイドアームのシグを握って最後尾から二番目、MP5の後ろに陣取った。

そうして進む彼女達の前には、背を向けて正面玄関から侵入してきた福祉公社を待ち構えるテロリスト達。

今度こそポイントマンとして先頭に立つM590が引き金を絞る。

 

装填されているのはバードショット。

爆音と共に射出されたペレットはいつもより小さいが、大きく広く拡散して数人を巻き込み負傷させた。

 

しかしバードショットはOOバックのショットシェルより加害範囲は広いがペレットの一粒は小さい。対人で使って、なおかつ即死するのは意外と難しい。

 

実際M590の射撃を受けたテロリストで加害範囲の端に居た者は即死とはいかなかった。

それでも手や背中をズタズタにされて辛うじて生きている状態だが。

 

「ぎゃあぁ!痛い!いたッ」

 

「どうした!なにがッ!?」

 

M590は負傷している敵には目もくれない、仲間を信用しているから。

 

そしてその通りにMP5やFMG-9がまだ生きている者に9mm弾を撃ち渡して楽にしてやった。

 

突然に背後から攻撃され、大半の敵は自分が奇襲を受けていることも理解できずにやられた。

例え運良く生き残ったとしてもその場だけ、雑多な小火器で健気にも立ち向かうには戦術人形という存在は分が悪すぎる。

 

そろそろターゲット予想位置、焦るメンタルで通路を曲がろうとしたM590のシールドが銃弾を弾く。

 

「絶対にここを通すな、エンリコさんが逃げる時間を稼ぐんだ!」

 

「く、来るなら来てみろ福祉公社!あ、穴だらけにしてやる!」

 

咄嗟に身を隠して通路奥を伺えば、彼女の視界には急ごしらえの機関銃座がテーブルやベッドで作られたバリケードと共に見えた。

 

既に冷静さを欠いているのか備え付けられたRPD軽機関銃の照準は定まっておらず、銃弾は四方八方に飛んでいる。

 

一か八か突撃しようかと顔を覗かせたFMG-9の至近を銃弾が穿つ。

 

「わっ!と、どうしましょうか。スタングレネード投げます?」

 

「そうですね、私のシールドが大きければ皆さんを守りながら距離を詰められたんですけど……」

 

「りょーかい。じゃ、スタングレネードを」

 

『私達に任せてください』

 

FMG-9とM590の無線から聞こえたのはスプリングフィールドの声。

次に耳から入って来たのは窓ガラスの割れる音と遠方より響く銃声。

 

そして訪れた静寂。

 

『どうぞ、先に進んでください。スナイパーのリコさんに気をつけて』

 

「狙撃支援、感謝します。スプリングフィールドさん」

 

『急いでください。トリエラさんが窓から突入しようとしています』

 

「了解!」

 

頭に綺麗な穴を開けて、自分が死んだことにも気付かずに骸となったテロリストを踏み越えてM590達は進んだ。

 

───────────────────

 

子供のヘンリエッタを使って敵の懐に飛び込み、屋根に上らせたトリエラをラペリングで突入。

 

その作戦は上手く行き、ジョゼ達はエンリコを降伏させて縛り上げることに成功した。

しかし任務を終えたはずの彼らには、焦りの色がありありと見えている。

 

「エンリコ確保。よし、急いで離脱しましょう。グリフィンと交戦すればことらも無事では済まないでしょうし」

 

「……あの、ヒルシャーさん。本当にそのグリフィンって傭兵達は危険なんですか?私達は公社の義体です、そう簡単には負けません」

 

「トリエラ、君の言いたいことも分かるが敵は未知数だ。けど義体と同等かそれ以上の者がいる事は確かだよ、ですよねジョゼさん」

 

ヒルシャーの問いかけに、縛り上げたエンリコを連れながらジョゼが頷く。

 

実際の所ヒルシャーもにわかには信じがたい事ではある。

しかし敵が我々には理解できない科学技術を使っていることは、エルザの件や影武者では無くコピーロボットなる物を撃たされた事から認めるしか無かった。

 

さらにはグリフィンにも義体かそれ以上の何かが居るという。そんな相手に死んで来いとトリエラを送り出せるほど、彼は人としての何かを欠いてはいない。

 

「この建物から銃声が消えた、嫌な予感がしますね。トリエラ、先導を」

 

「言われなくたって分かってますよ」

 

トリエラのつっけんどんな態度に、少し肩を落としたヒルシャーであった。

 

しかしここは戦場である。それも戦闘力も規模も、敵対的かも分からないアンノウンが潜む戦場。

気を抜いてはならないとハンドガンを握り……

 

突然、部屋に何かが投げ込まれた。

 

「伏せてッ!」

 

真っ先に動いたのはヘンリエッタだった。

彼女は警戒を発するとジョゼを庇う様に押し倒し、尚且つ捕らえているエンリコを突き飛ばして肉壁とした。

 

トリエラもヘンリエッタに続く形でヒルシャーを押し倒して庇う。

 

投げ込まれた物体を義体として強化された身体能力で彼女達が捉える。

それは穴の空いた円筒型の筒。その形状には見覚えがあった。

 

あれは正しく……

 

「スタングレネード!」

 

スタングレネード内部に充填されている炸薬が亜音速で燃焼。月明かりだけが微かに照らす室内を100万カンデラの閃光と190デシベルの轟音が揺らす。

 

それは義体として身体能力を強化されたトリエラ達にとって、目と耳を塞いで尚強烈な物だ。

ヘンリエッタの声に反応したジョゼ ヒルシャーも、日々の訓練と庇われたことで平衡感覚を失いかけながら体制を立て直した。

 

ただ1人、なんのアクションも取れなかったエンリコだけが床でのたうち回っている。

 

「ぐぁぁあ!目が!目ギャッ!?」

 

閃光をもろに浴びて苦しむエンリコの叫びは、分厚い装甲板で殴りつけられる事で静かになった。

 

敵襲、それも五共和国派とは違う明らかな手練れの気配を感じたトリエラがM1887を腰だめに構えて目を開ける。

そうして見たのはトリエラよりも小さく幼い女の子。

 

一瞬呆気にとられるトリエラであったが、その子が険しい兵士の顔をしていたこと。

少女の手にドイツ製傑作SMGであるMP5が握られていること。

そして何より、MP5の銃口が自身に向けられていることが、この少女が明確に敵であることを示しているとトリエラは確信した。

 

「遅いです!」

 

「な、速い!?」

 

彼女専用に誂えられた特注の高性能外骨格を装備したMP5は一気に距離を詰めて照準を向けた。

 

トリエラは義体として今まで戦ってきた。その分、至近距離での白兵戦も経験がある。

しかしその経験はあくまでもテロリスト集団が相手の戦闘経験。向けられている銃口に意識を向けることは出来ても、その銃口下部に何が付いているかまでには意識が回らなかった。

致命傷となるヘッドショットだけはガードしようと銃口を凝視したのがトリエラの敗因だろう。

 

MP5の専用装備は特注の外骨格ともう1つ、

 

それはハンドガードと一体化したフラッシュライトだ。

 

スタングレネードには及ばないものの、強力な閃光がトリエラの視界を焼いて一瞬の隙を作る。

そしてその僅かな隙は、サイファーが手塩にかけて育て上げたMP5にとって充分すぎる隙だった。

 

次にトリエラが目を開けた時には彼女は背中に感じる強かな痛みと、自身を見下ろすMP5にホールドアップされていたのだから。

 

「小さいからって甘く見ないでください!」

 

「トリエラ!」

 

「はい、お兄さん達も動かないでくださいね。2人とも捉えてるから」

 

ヒルシャー ジョゼの両名が動こうとするもFNG-9が両手の銃口を向けた事で制止させられる。

もう1人の義体であるヘンリエッタもP226にダウンさせられ、部屋はグリフィンによって完全に制圧されたのだ。

 

「クソッ!ジャンさん、狙撃を!」

 

『無理だ。屋敷の外に狙撃手、頭を抑えられた。リコも動かせない』

 

ジャンの言う通り、リコが少しでも遮蔽部から動こうとすれば遠距離から放たれた銃弾がギリギリを掠める。

 

その上、WA2000によってドラグノフの狙撃用スコープを撃ち抜かれたリコは狙撃支援は行えない。

 

「HQ、こちらM590。フラテッロを制圧、ターゲット確保」

 

『こちらHQ、了解。突入部隊は速やかに所定のポイントに向かわれたし、アウト』

 

「L85A1、ターゲットの拘束……は済んでますね。では離脱します、急いで」

 

「待ちなさい!」

 

トリエラが一人、気丈にも咆える。

 

「貴女達は何者なの!」

 

「私達は指揮官の人形です」

 

人形。

 

その身も蓋もない言葉はトリエラにとって不快感を感じさせた。

 

トリエラ自身、身寄りの無い子供を戦闘マシーンに変えて戦わせている福祉公社に所属している。

 

そんな福祉公社ではあるが、衣食住はキッチリ提供されるし、5.56mmや7.62mmと不穏な単語が混じっているものの教育もしっかりと受けられる。

なにより周りの大人達は、大半が義体の事を人間として接してくれている。

それに比べ、グリフィンは自身を人形などと言ってしまう様な扱いをしているのか……

 

無論そのような事は無く、真面目なM590が真面目に返答してしまったが故に、いわゆるアンジャッシュな状態になっているだけなのだが。

 

「サイファーはエンリコをどうするつもりだ。そいつには聞きたいことがある」

 

「ジョゼッフォさん、安心してください。聞きたい事を聞いたらターゲットは福祉公社に送るそうですから」

 

「……そうまでしてサイファーは何を知りたがっているんだ」

 

「さぁ?それは私達の知ることではありませんので……ああ、そうでした。指揮官から伝言が、『次は味方でいたい』です」

 

「では皆様、ご機嫌よう~」

 

「ごきげんようですわ!」

 

律儀にも頭を下げて礼をしたM590。

それに続く様にして丁寧に去っていくL85A1とP226達を見てどこか毒気を抜かれるヒルシャー達だった。

 

後日、福祉公社にジャン宛で人一人が入りそうな木箱が届いた。

それはもちろん着払いであったそうな。




友「なんか文章変じゃね?」

 「この時はグループメンバーからハブにされて学科長から厳重注意されてた時だったと思うから多分それのせい」

友「草。大学生はプライベート=グループワークだから辛いよねぇ、ホント」
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