GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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マキアート

「遅い!ほら速くする!」

 

「あーあー待っておくれ。こうも寒いと体がかじかんで」

 

「言い訳は無し!なに?私と出かけるのが嫌なわけ?」

 

言葉はキツいのに顔はプンプンとでも付きそうに可愛らしく怒っているのはワルサーWA2000。

今日はいつものスーツでは無く、学生を思わせる黒いコートに赤いマフラーを巻いた冬服コーデだ。

とても似合っている、可愛い。

 

「はっはっは!嫌なら初めから付き合う物かよ」

 

そう言っておどけてみせると、WA2000はどこかホッと安心するような顔をして……

 

やはり強気な態度で接してくる。

 

「ふんだ!……まぁ良いわ。今日は特別に一緒に居てあげる。感謝しなさいよね!」

 

勝ち気に手を腰に当てて俺を指さしてくる姿に懐かしい物を見た気がするが……まぁ、良いだろう。

 

さて、今日なぜWA2000と出かけているかと言うと俺の監視と先の作戦に出てもらった彼女への礼だ。

俺はてっきりケーキとかアイスを要求されると思ってたんだが、WA2000が求めたのは俺が休日に仕事をしないかの監視役だった。

 

……本当にそれでご褒美になるのかとも思ったが彼女が求めるのならかまわんと了承。したのは良い物の、なぁ。

 

「射撃場にこもって居たかったがな」

 

「アンタ休みの日はそればっかじゃないの」

 

「今日はWA2000を撃ちたかった」

 

「ぜっっったい嫌!アンタなんかに絶対撃たせないから。それよりほら、行くわよ!」

 

少し先でプンスカと怒るWA2000、行くわよと急かされても寒くて動きが鈍いのだから勘弁して欲しい。

 

「俺……寒いの無理なんだわ……」

 

「あーッもう!仕方ないわね!」

 

ツカツカと歩み寄ってきたWA2000は、トレンチコートのポッケに突っ込んでいる俺の腕を取って引き抜き、彼女と腕と組まされる。その状態でグイグイと引っ張るのだから、俺は彼女に従うしかない。

 

「おいおい、手が寒いって」

 

「い、いいの!こうでもしないと私が置いていっちゃうじゃない。今日の私はアンタの監視役なんだから」

 

俺の方を向きもせずに、どこか焦りを感じさせるように口が早くなる彼女の物言い。それに笑顔を浮かべてしまう。

分かっているのだ。これがWA2000の甘え方であり構って欲しいことのサインであると。

 

だからこそ、あえて何も言いはしないのだ。

 

彼女の顔が赤く火照っていることも。

視線が忙しなく動いていることも。

 

俺の腕に組み付いてくる彼女の腕に、少なくは無い力がこもっていることも。

 

あえて言わないからこそ。指摘しないからこそ。

 

「じゃあ行こうか、わーちゃん」

 

「わーちゃんって言うな!」

 

「でも街中でWA2000はおかしいだろ?」

 

あぁ、だからこそ。

 

「じゃあマキアート、マキって呼びなさい。いい?」

 

こんな風に、微笑む彼女が見れるのだ。

 

「それでWA2……マキよ、今日は何が目的なんだ?」

 

「特に無いわね、引きこもりのアンタを外の連れ出すのが目的だったし。そっちこそ何か無いわけ?」

 

「なんて物言いだ。一応は指揮官だぞ、俺」

 

「気さくな部下で嬉しいでしょう?」

 

勝ち誇るような笑みを浮かべたマキアートが覗き込んでくる。その深く紅い瞳の、なんと美しき事か。

 

数年間寝食を共にしたというのに彼女達の美しさや可愛らしさには慣れそうもない。美人は3日で飽きるは嘘っぱちである。

 

「そうだな、嬉しいよ。マキは気さくで優しい……俺の自慢の家族だ」

 

はっはっは!俺のカウンターは決まったようだ、マキは目を見開いて頬を朱に染める。ぷいと顔を逸らすして誤魔化そうにも耳まで赤くなっているのが可愛い。

 

不意にマキの手が俺の手に絡みつく、俗に言う恋人繋ぎ……ちょ、力強くない?!

 

「痛い痛い痛い!タンマ!ストップ!」

 

「う、うっさい!」

 

「折れる!折れるって!」

 

あーッ!

 

 

───────────────────

 

 

「おー痛ってぇ……まだ指がヒリヒリする」

 

「ふん!自業自得ね、人を揶揄うからよ。それよりほら、荷物持ちなさいよね」

 

結局、マキが敗北宣言を受け入れてくれたのは俺の指が鬱血で赤から紫に変わる寸前だった。

だと言うのに買い物の荷物を持たせようとしてくるのだ。少し当たりが強すぎるような……

 

「なに?何か言いたいの」

 

「……いや、マキを揶揄った罰だ。甘んじて受け入れよう」

 

「何よそれ。まぁ良いわ、早く次のお店に行くわよ」

 

彼女は腕を引っ張ってストリートを進む。あの後に話し合った結果、マキがショッピングを希望したのでぶらりぶらりと気ままな買い物と洒落込んでいる。

何故ならここはナポリのトレド通り。とてつもない長さを誇るショッピングストリートで、専門店が立ち並ぶ活気溢れる商店街だ。

 

通りを彩る多種多様な小物にアクセサリーに服。流行を身にまとったマネキン達は、ショップウィンドウ越しに見る一種のアートの様にさえ思えてくる。

 

何気に歩行者天国なのも良い。

 

「スプリングフィールドへのお土産も買ったし……あ!」

 

俺はマキに連れられてアクセサリーショップのショーウィンドウを眺める。

その中の1つ、可愛らしい黒猫の装飾がついたネクタイピンが気に入ったのか、彼女はジッとそれを見つめだした。

 

「かわいい……」

 

黒猫……なぜだか俺はマキを連想してしまった。任務時や訓練中の時は鋭い眼光でターゲットを撃ち抜くマキではあるが、オフではなんだかんだと他人の世話を焼いたりスプリングフィールドや俺に甘えたりする。

何だかそれが猫のようで笑みがこぼれた。

 

「お、あの黒猫のネクタイピン。可愛いな」

 

「……サイファー」

 

「マキに良く似合いそうだ。ちょっとこの店に寄って行こう」

 

グリフィンの社長などと言う分不相応な役職のお陰で金だけは有るのだ。あれくらいの物なら懐にとっても大事にはならんだろう。

 

そう思って店に入ろうとする俺をマキが引き留めた。

 

「どうし」

 

「サイファー……いいえ、指揮官。後ろ、誰かが付けてる」

 

「!?」

 

「ウィンドウの反射で確認したけど、おそらく数は2人。どうする?」

 

俺達を付け狙う2人組、どこぞのマフィアか共和国派のテロリストか……何にしろWA2000が言うのだから間違いないは無いのだろう。

 

ではどう対応するのか?

 

このまま何事も無いように祈る?NOだ、祈って何になる。

2人組の追跡をかわす?それも良いが根本的な解決にはならんだろう。

 

「WA2000、少し先に人気の無い裏路地があるはずだ。そこに誘い込んで仕留める」

 

「了解」

 

なによりせっかくの休日を邪魔されたのが気に食わん。

 

WA2000と今まで通りウィンドウショッピングをしている風を装いトレド通りをしばらく進んで裏路地に入る。

人の居ないここならば多少の揉め事は隠せられるだろう。

それが例え死体のできる揉め事であっても。

 

俺とWA2000は二手に分かれて追跡者を待つ。

コツコツと石畳を踏み鳴らす音が近づいて来た。WA2000の言う通り、その足音は2つ。どちらも安物のスニーカーでは無く値の張る革靴であろうことが伝わってくる。

そして……

 

「全員動くな!」

 

「武器を置いて床に伏せろ!」

 

追い詰めたとでも思ったのだろう追跡者は、ハンドガンを構えて裏路地に飛び込む。

 

だがその裏路地にはゴミいっぱいのダストボックスと積み重ねられたダンボール。空き缶が転がるばかり。

 

その光景が追跡者達を油断させた。

 

「え!居ない!」

 

「バカな。いったいどこに……」

 

その油断が命取りだ。

 

俺はかぶっていたダンボールから飛び出して追跡者の1人に迫る。

 

「なッ!?」

 

体格では圧倒的に俺が劣っている、何せ相手は外国人で俺は日本人。

だが、だからと言って太刀打ち出来ないワケじゃない。

小回りの利く日本人が有利なときだってあるのだ。

 

追跡者に組み付き、腕を捻りながら足払いで投げてやる。もちろん追跡者の持つハンドガンを奪う事も忘れない。

 

これぞワルサーP38に教えてもらったグリフィンCQC。

 

「ユーロポールじゃあCQCなんて教わらないよな。

”ヴィクトル・ヒルシャー”?」

 

「ヒルシャーさんッ!?オマエぇえ!」

 

「そこまでよトリエラ、銃を下ろして」

 

自身の担当官であるヒルシャーが投げられ、もう一人の追跡者、トリエラが怒りに顔を歪めてSIGP230を向けてくるが……背後に隠れて居たWA2000の方が速かった。

 

WA2000のサイドアームであるAMTハードボーラーがトリエラの頭に向けられているのを見たヒルシャー。

 

「ック!トリエラ、銃を下ろすんだ」

 

「けど!……分かり、ました」

 

さすがに義体と言えど、45ACPをヘッドショット。至近で食らえばひとたまりもあるまい。

それを良く知り、そしてトリエラを大切に思うヒルシャーだからこそ無力化できた。

 

これがジャンなら迷い無く撃てと言うだろうな。

 

「WA2000、トリエラを武装解除させてくれ。銃を使えない時は銃剣が、拳が、歯が武器となる娘だ。慎重にな」

 

「分かってるわよ。ほら、身体チェックするから腕を上げて」

 

「トリエラに何をする!」

 

「ヒルシャー、身体チェックだと言ったろう。俺よりもWA2000の方がトリエラにとって良い、それよりもだ……」

 

俺はヒルシャーの視線を遮るように立って彼の目を覗き込む。

 

ジッと……ずぅっと……

 

「なるほど、なるほど」

 

面白い目をしている。

後悔……懺悔……怒り……恐怖は見えない。

なるほど、強い男だ。担当官の中では比較的前向きな男なだけはある。

 

家族と言う過去に囚われたクローチェ兄弟。

積み上げ、崩された過去に囚われたマルコー。

今は亡き同僚に託されたトリエラに囚われたヒルシャー。

だが他のフラテッロよりも未来と言う前を向いている男だ、ヒルシャーという男は。

 

勝手に人の卵子を取っておくのは如何な物かと思うが……

 

「……随分と優しいじゃない。指揮官さん?」

 

「ん?あぁ、トリエラ。君を傷つけるつもりは無いからな」

 

「面白い事言うわね」

 

何だ?

そう思って首を傾げる俺を、WA2000に拘束されているトリエラが睨みつける。

 

「自分の部下に人形なんて言わせる人間が言う言葉とは思えないし、お前なんか信用出来ない!」

 

……ん?

 

人形……人形。そんな事、あっ。

 

M590『私達は指揮官の人形です』

 

「あー……ごめんなトリエラ。あの子にはよーく、よーく!言っておくから」

 

そういえばティベリーナ島襲撃作戦でM590がそんな事を言っていた事を思い出した。

そして、それを聞いたトリエラが不快な顔をしていた事も。

 

そうだよなぁ、俺ももう20も後半。トリエラからしたらおじさんか。そんな男が女の子侍らせて人形扱いなんてしてると思えば気持ち悪いわなぁ。

 

20も後半かぁ。

 

「……なんで凹んでんのよ」

 

「いや……ごめんな。気持ち悪いよな、うん。そっか、俺ももう30近いのか……歳をとるのって早いなぁヒルシャーさん」

 

「なんでこっちに振るんだ!?」

 

胸の痛みを堪えてヒルシャーさんの肩をポンポンと叩いた。

 

「バカな事で凹んでないでこの状況をさっさと何とかしなさいよこのバカ指揮官!」

 

「わーちゃん……でも何か改めて自分の歳を振り返るとだなぁ」

 

「うっさいバカ!」

「痛ったァ!?」

 

WA2000が詰め寄ってきたかと思ったら脛を蹴っ飛ばされた!

セーブしてるんだろうけど戦術人形のパワーだぞ!

 

「ちょ、なんで!ごめんて!変なことで凹んですみません!」

 

「このバカ!それもあるけど違うわよ!アンタ、何でさっき私よりも先に飛び出したの!」

 

ゲシゲシと蹴らないで!ケツも脛も蹴られたら痛いんだけど!

 

「アンタは普通の人間なのにいっつもいっつも無茶ばっかりして!何がユーロポールじゃあCQCなんて教わらないよな?よ、カッコつけてんじゃ無いわよ!」

 

(ヒルシャーさん……)

 

(あぁ、今の内に)

 

「そこぉ!動くな!」

 

なんだこの光景、マジでなんだ?

人気のない裏路地にドイツ人と拘束された女の子。そして部下に蹴られてる俺。

もうカオスである。

 

「人間の体なんて脆いのに!前だって、撃たれて死にかけて……」

 

WA2000の蹴る力が段々と弱くなった。

次第に言葉尻が萎んで行って、ギュッと拳を握りしめて嗚咽を漏らしだす。

ここまでされて俺は漸く気がついたのだ。

 

彼女が泣いている事に。

 

「あの時だって……基地に運ばれた時、アンタ血塗れで。意識も無くて……私、死んじゃうって思って!さっきもそう思って!うぅぅ……」

 

「……ごめんな、いつも心配かけて」

 

「ばか!ばかぁ!」

 

わんわんと大粒の涙を流すWA2000、そんな彼女を優しく抱きとめて背中をトントンと叩きあやす。

そうだった。俺はただの人間で、銃弾一発で死ぬ生き物なのだ。それを忘れて……いや、忘れたフリをして無茶ばかりして。

家族を泣かせて。

 

「よしよし、ごめんな。大丈夫、大丈夫」

 

「うぅぅ……ばか、あほ」

 

「すみませんヒルシャーさん、こんな所で話すのも何ですから場所を移しましょう。お互い、聞きたいことがある様ですし」

 

さっきヒルシャーの目を覗いた時に何となく感じたが彼にとっても今回は偶発的な行動だったのだろう。

迂闊な行動を悔いる目をしていたし、計画的にしては行動も杜撰だし、バックアップもないし。

 

「あ、あぁ……分かった」

 

「ありがとうございます。トリエラもいいかな?」

 

「……ヒルシャーさんが行くなら着いて行くしか無いじゃないですか」

 

さて、お話しようか。

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