GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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モダンウォー

「さて諸君、緊急任務だ。早速ではあるがブリーフィングを始めよう。尚、本作戦には特別ゲストとしてトリエラ、ヒルシャーが参加する。2人とも挨拶を」

 

「ヴィクトル・ヒルシャーです」

 

「えーっと、トリエラよ。よろしく」

 

「2人ともありがとう。それでは本作戦の概要を説明する。目標は偽装貨物船サンタ・ルチア号。先ずはジャミングを仕掛け外部との通信を遮断、クラカヂールに援護させて部隊を降下させる。そして船内を制圧。その後は情報と、あれば金目の物を頂いて撤退。船はティレニア海の藻屑になってもらう。なにか質問は?……よし、ではアサインされている者はチンピラ上がりのテロリストにモダンウォーを教えてやれ。以上、解散!」

 

 ───────────────────

 

暗い海中を水中戦用のボディに変えたアリーナが泳ぐ。まるで海洋生物の様に音も無く進む先は一隻の大型船。

 

貨物船サンタ・ルチア号だ。

 

アリーナは愛用の鎌とは別に、指揮官から持たされたジャミング装置を手に貨物船に近づく。

いくら貨物船がレーダーを積んでいようと海中を探るにはソナーが必要だ。

 

只の貨物船がそんな物を搭載しているはずも無く、乗組員は誰一人として気づいてはいない。 

 

(こんな事をするくらいなら船底に穴でも空けてしまえば良いのに。指揮官は変な人ね)

 

そんな事を考えながら、アリーナはそっとジャミング装置を設置した。

 

 

「んぉい!無線機の調子がおかしいぞ!」

 

「あぁ?知るかよ。どうせ故障だろ」

 

「チッ、クソッタレが……仕事増やしやがって」

 

サンタ・ルチア号のブリッジでダラダラと過ごしているのはカモッラの下級構成員達。彼らは賭博や麻薬での借金などでマフィアから追われ、仕事を手伝うか死ぬかを選ばされた人間達だった。

 

「あぁあ……うぁあ……」

 

「ラリってんじゃねぇよジャンキー、ブツよこせ」

 

「やめてくれよぉ……やめて……やめ……やめろぉぉぉア!」

 

イラつきを隠しもしない無線手が麻薬中毒の同僚から薬を奪う。

 

「どこ行くんだ?薬を吸うなら海に落ちないようにしろよ」

 

「ばーか、俺が吸うわけじゃねぇよ。少しコレを吸わせて楽しもうかと思ってな」

 

「アレは大事な商品なんだぞ。やりすぎないようにな」

 

「わーってるよ。壊しすぎたら俺達が壊されちまう」

 

「違うな、壊してくれって懇願することになる」 

 

無線手に注告するのは、ギャンブルの借金返済のためにサンタ・ルチア号に乗せられた操舵手。

 

そんな操舵手の言葉にイラつきを加速させて無線手はブリッジを出ようとする。

しかし突然聞こえて来た騒音がその足を止めさせた。

 

「おい!なんだこの音!?」

 

「波の音じゃない!」

 

「……だ」

 

「あ"ぁ"?」 

 

無線手はジャンキーの襟首を掴んでコンソールに叩きつける。

 

ルーマニアを出航してからストレスが溜まっていた無線手にとって、この状況は溜めたストレスを爆発させるには充分だった。

先程まで蕩けた目をして麻薬を楽しんでいたジャンキーの目が怯えている。その手が麻薬中毒の震えとは明らかに違う、恐怖で震えている。

 

「ワニだ……ワニが飛んでるんだ……ワニ!ワニが!」 

 

「うるっせぇんだよクソジャンキー!何がワニだ、そんなんがどうやったら空を飛ぶんだえぇ!?」 

 

「お、おい!外を見ろ!」

 

無線手の拳がジャンキーに叩きつけられる瞬間、操舵手が叫ぶ。

暗い夜の空、うるささを増す騒音。

 

その音が耳を塞ぎたくなる程に大きくなった時、ブリッジの窓越しに1機のヘリコプターが現れる。

 

それは明らかに民間機などでは無い。巨大で威圧感を隠そうともしないヘリコプターの名はソ連産まれの傑作ガンシップ、ハインド。

その機首に搭載されたガトリング式重機関銃YakB-12.7をブリッジに向けた。

 

「逃げッ!」

 

乗組員が逃げる暇など与えず、発砲と同時に4本の銃身が回転を初め大口径の12.7mm弾を吐き出す。

ヴヴヴヴッ!と、けたたましい機銃の掃射の音。鉄板が貫徹される音。そんな音の中では人があげる断末魔など些細な音だ。

ハインドはブリッジを舐め回すように旋回し、12.7mmの曳光弾が線描き、機械をスクラップに、人を肉塊に変えて行く。

 

そんな光景をヘッドセット越しに眺めながらコクピットの2人が叫ぶ。

 

「私は空でもエースなのよ!」

 

「はっはァ!ブリヌィの完成には生地が足りないな!」

 

SKSとAK-47は上機嫌だ。

 

『こちら指揮官。ハインド……クラカヂール1、進捗は?』

 

「こちらクラカヂール1、首尾は上場!あたしとSKSでブリッジを蜂の巣にしてやったよ。中の人間は挽肉さ」

 

 『了解した。降下部隊を突入させる、甲板上で動きがあれば援護頼む』

 

「Даボス。あたし達に任せときな」

 

「仲間を傷付けさせはしないわ」

 

ハインドの掃射が終わるとグリフィン所属のブラックホークが2機、サンタ・ルチア号の甲板上でホバリング。ファストロープの体制をとった。

 

ブラックホーク1に搭乗しているM16A1がAR小隊と特別ゲストであるトリエラに叫ぶ。

 

「よーし!みんな準備はいいか?ロックアンドロード!」

 

全員がセーフティを解除、薬室に弾丸を装填した。

 

「ロックンロール!」

 

次々とAR小隊が降下していく中、トリエラはグリフィンから貸し出された装備に目をやった。

 

ケブラーを使った軽量かつ大口径弾の貫徹を許さないというType3防弾ベストや、手帳のような薄さで今までに使ったことの無い程クリアな通信が出来る無線機。

 

そして何よりも、今手に持つM1897。

 

福祉公社に置いて来たはずの愛銃がなぜグリフィンにあるのか。もちろんサイファーにこれを渡された時には名前が同じだけだと思ったが、調整されたトリガープルにポンプの引き具合、細部に至るまでの使い心地が福祉公社に置いて来たショットガンと同じなのだ。

 

トリエラの頭に何か言いようの無い感情が込み上げてくる。

 

『トリエラ、大丈夫かい?』

 

「ヒルシャーさん……えぇ、私は大丈夫です。大丈夫ですけど」

 

トリエラはますます分からなくなってきた。

 

自分を知っている未知の知人。

 

現代の技術では考えられないガジェットの数々。

 

SF映画から出てきたのかと言いたくなる義手や、本物の様に動く動物の耳を生やした子供。

 

サイファーは人間だと言っていたが、自らを"人形"と呼ぶ女性達。

 

「今はまず、作戦の事を考えないと。もうグローザ隊と……エルザも降下してるだろうし」

 

『いいかトリエラ、必ず帰って来るんだ』

 

ブラックホークから垂らされたロープを掴み、降下体制をとったトリエラのイヤホンからヒルシャーの心配する声が聞こえた。

 

この全てがイレギュラーな中で唯一いつもと変わらない彼の心配が何故かいつもより安心できた。

 

「分かってますよ。だから、安心して待っててください」

 

数日間ではあるがグリフィンの教官達に教えられた通りに降下。どうやらトリエラが最後だったらしく既に部隊は降下を終えて展開していた。

 

AR小隊の5名とトリエラ、グローザ隊のOTs-14  OTs-12 AK-74U 9A-91とエルザの5名。計11名は貨物船に降り立つ。

 

『こちらサイファー。エルザ、大丈夫か』

 

「はい、お母さんと一緒なら誰にも負けません、わがままを聞いてくれてありがとうございます」

 

『……本当は2度と戦場には出したく無かったがな』

 

トリエラと同じ防弾装備に身を包み、スイス製アサルトライフルからロシア製の、母と慕う9A-91と同じ銃を手にするエルザ。物騒な装備がなければピクニックにでも行きそうな笑顔だがここは戦場である。

 

この娘は本当にエルザなのか?あの無愛想で連携のれの字も知らない、ぶっちゃけ嫌いだったエルザだと言うのか?

 

「トリエラ、どうかしたのかしら」

 

「AR-15……さん?」

 

「AR-15でいいわよ」

 

「じゃあAR-15で。エルザ、だいぶ変わったなって」

 

少しだけ呆けていたトリエラではあったがすぐに頭を振って作戦に集中する。既にグローザ隊は船内に侵入しつつあった。

 

シールドらしき物を構えたM16A1を先頭にして船内に入れば、クラカヂールに食い荒らされた人の肉片があちこちに飛散している。 

ただの人間であれば胃の中身をぶち撒けそうな光景ではあるが、そこは百戦錬磨の戦術人形と義体。

顔色一つ変えずに進む。

 

「CP、こちらグローザ。操舵室を占拠」

 

『了解。ティスとAR-15はブリッジの残って管制の奪取を』

 

「ん、了解。秘密兵器は電子戦もできる」

 

「分かりました、ティレニア海に進路を取ります」

 

ティスとAR-15はコンソールにもたれかかる死体を退かすと船の制御システムにハッキングを仕掛ける。

 

本来であれば電子制御の乗っ取りにはかなりの時間が掛かる上、制圧についても同じなのだが戦術人形のポテンシャルがそれを可能にしてくれている。

 

「AR-15、ここは頼んだぞ。他の皆は私に付いてこい!」

 

M16A1が声を上げて先に進めば、まだ船内にいたカモッラと会敵した。

 

「コンタクト!」

 

カンカンと船内を走る音で構えていた戦術人形達の射線に、哀れにも飛び込んできたカモッラ。その末路は火を見るより明らかだ。

 

サプレッサーで抑えられた銃声が鳴り、幾分か弾速が低下した弾丸が命を刈り取る。

ジャミングとハインドに襲撃によりパニックに陥っていたカモッラに為す術はない。そもそもがチンピラ上がりやマフィアの抗争で成り上がった者に対処しろというのが無理な話だ。

 

「なんだよ!なんなんだよ!あの女達!?」

 

「サリエルだ……サリエルが来たんだ!逃げろ!」

 

「どこにだよ!周りは海だぞ!」

 

「海でもいいから飛びぎゃッ!?」

 

「ぐあッ!」

 

トリエラが一際大きな銃声を轟かせてカモッラを始末する。恐慌状態のマフィアなど訓練を積んだ彼女には的撃ちに等しい。

だが全ての敵が恐怖で動かない状態ではない、中には決死の突撃を行う者も出てきた。

 

手にはナイフや鉄パイプ等を持って攻撃してくるも敵うことはない。

 

「死ねクソガキ!」

 

「ッ!」

 

トリエラは刃渡り17インチのM1917銃剣で格闘戦に移行、その刃は持ち主が不在の中、一〇〇式の手により研ぎ澄まされ、刀剣の如き鋭さを誇る。

 

トリエラ自身の体躯を生かし、懐に飛び込んだ彼女は的確に肝臓、肺、首を切り裂く。

 

実に鮮やかで教本通りの格闘戦である。

 

その後ろではSOPMODⅡの抜き手が相手の心臓を抉り抜き。グローザは体操選手のような動きで飛び上がってスラリとした両脚で敵の首をへし折っていた。

 

「……ねぇエルザ。グリフィンの人達って皆ああなの?」

 

「慣れればなんともないわ、SOPさんのアレは慣れないけど」

 

抉り出した心臓をスクイーズの様にもてあそぶSOPMODⅡには、流石のトリエラも珍しく吐き気を覚える。

 

「にぎにぎ~キャッキャ!」

 

「コラSOPⅡ。そんな物捨てなさい」

 

「RO……はぁ~い」

 

一行は向かってくる敵、逃げる敵を撃ち倒し。水密扉をぶち破って歩みを進める。

あと少しでコンテナが格納されて居るであろうポイントに付くという時、グローザとM16A1はその違和感に気がついた。

 

「変ね……」

 

「あぁ、静か過ぎる。M4、水密扉を開けてくれ!他の皆は警戒待機!」

 

「分かりました、姉さん」

 

M4が水密扉のハンドルを回すと異様な空気と臭いが漂ってくる。

 

そこには赤が広がっていた、一面の赤が。

 

無機質なコンテナをキャンパスにして人の血と臓物がぶちまけられ。道端の石ころのように切断された手脚が転がる。

室内での銃撃戦よりも色濃い血なまぐささにトリエラが顔をしかめる。

 

「何コレ……モンスターでも居るんじゃないでしょうね」

 

「まぁ、ある意味そうかもな」

 

慎重に前進するトリエラが見たのは、屍の上で退屈そうにするアリーナだった。

 

その純白のボディは返り血で赤黒く染まり、得物の鎌には所々に肉片が付着している。

 

「遅かったわね。全部片付けておいたわ」

 

「苦労かけたかな?」

 

「別に。殺し概のない只の人間よ、あなた達グリフィン人形の方が楽しめる」

 

おどけるようにして肩をすくめたM16であったが直ぐに扉の壊れたコンテナに目が行った。

 

「グローザ、あれ」

 

「分かってる。AK-74Uと9A-91、見てきて」

 

グローザの指示に従って74Uが中を確認する。そこには思わず口笛を吹いてしまうほどの重火器の数々が所狭しと詰め込まれていた。

 

「ボス、AK-74Uだよ。見えてる?」

 

『あぁ、すさまじいな』

 

「DShK38、シモノフ対戦車ライフル、RPG-7に箱いっぱいのセムテックス。ご機嫌な重装備だね」

 

「指揮官。スティンガーに9K32もあります」

 

『MANPADSもか!』

 

「もっと面白いのもあるわ」

 

アリーナが武器装備が入っていたのとは別のコンテナを指した。

 

屍の山から降りた彼女がそのコンテナを叩く。小さく、だが確かな悲鳴と啜り泣きが聞こえてくるのだ。

 

『……ヒルシャーさん、この貨物船はどこ発だったかな?』

 

『たしかルーマニア、コンスタンツァ港……まさか!』

 

『誰でも良い!速くそのコンテナを開けるんだ!』

 

弾かれた様にコンテナの解錠レバーに手をかける9A-91とRO。

 

そのコンテナから何が出て来ても良い様にとトリエラはショットガンを構える、これまででグリフィンの人間が人間ではないことは十二分に理解させられたのだ。

 

例えハリウッド映画のモンスターや殺人マシーンが出て来ようと討ち取るつもりだった。

 

「コンテナ開きます!」

 

「皆どいて!」

 

9A-91とROの腕に力がこもる。

トリエラの指がトリガーに伸びる。

 

そして出てきたのは……

 

 

 

「子供?」

 

誰かが呟いた。それはトリエラだったかも知れないし、他の誰かだったかも知れない。

そんな事を忘れる程に開け放たれたコンテナは悲惨だった。

 

「助けて……助けて……」

 

「……て……ころして」

 

 

コンテナ内の様々な臭い。

 

体臭に排泄物の臭い、そして腐敗臭。金属コンテナの中でサウナの様に熱を帯びたそれらがトリエラとエルザの鼻を、M16達の嗅覚ユニットを突いた。

 

「これは……最悪のパッケージだな」

 

M16が呟く。

 

『指揮官、どうする?』

 

「生存者は15名……ハインドとブラックホーク2機ならギリギリ飛べる。救助を優先するんだ」

 

『重体の子供も居る。往復してる余裕は無いぞ……そうだ!あのセムテックスだ!セムテックスを使って天井に穴を開けるんだ、そうすればヘリに積みやすい!』

 

「了解した、クラカヂールとブラックホークを上空待機させる。頼んだぞM16」

 

グリフィン基地の司令室、俺とヒルシャーさんは深い溜息を吐く。

 

「カモッラめ、武器密輸のついでに人身売買か」

 

「もっと早くに……クソ!なんで僕は!」

 

奥歯を噛み締めたヒルシャーさんが声を押し殺して唸る。

 

つくづく人身売買に関わる男だ。そして何よりも彼女が心配なのだろう。

 

「大丈夫です、トリエラは強い子ですよ」

 

「君に何が!」

 

「落ち着いて。落ち着いてくださいヒルシャーさん」

 

彼は……純粋だ。いや、トリエラに純粋であって欲しいのだろう。

トリエラ自身、自分がどの様なルートで義体になったのか薄々勘づいている。

そして当たっている。

 

そんなトリエラに人身売買を見せてしまった。言いようのない後悔と罪悪感だろう。

 

「我々が今できるのは後悔では無く心配と期待。そして今後にできるのはお帰りなさいと迎えること、けして罪悪感から来る謝罪はダメです。トリエラが賢くてため込みやすい性格なのは貴方が一番知っている、違いますか?」

 

「まったく。頭の固さは変わっていないな」

 

「ラバロさんまで……」

 

「いいからコーヒーでも飲め」

 

気を利かせてくれたカリンが無言でコーヒーを出してくれる。その後は無言だ、互いに何も言いはしない、だがどこかホッとする。

言葉は無いが何となくで意思疎通ができるアレだ。

 

「落ち着いたか?」

 

「えぇ、ありがとうございます」

 

こう言う時には人生経験豊富な大尉に任せるのがいい。

 

しかし……

 

「しかし人身売買なんて、コレを許すイタリア海軍はどうかしていいますよ」

 

「同感ですヒルシャーさん。報復部隊を向かわせましょう」

 

「殺すのか?」

 

「いいえ、我々にとって海軍将校も大統領も一般人と変わりない。先ずは法廷で何もかもを奪ってから殺します。カリン、諜報班に連絡を」

 

「かしこまりましたわ!」

 

まだまだ2000年代も初頭。高度に設計されたファイヤーウォールなんて物はないし、コンピュータウイルスが生まれてから20年と少し。

電子戦では負け無しの諜報班に頼めば今回の黒幕も丸わかりだ。

 

「1枚1枚、ポテトチップスを作るようにスライスしてやりましょう。地位も権力も全てをね」

 

「……サイファー、お前は時々えげつない顔をするな」

 

「本当ですか大尉?それは困るなぁ」

 

───────────────────

 

「グローザ隊、セムテックスの設置を確認」

 

「AR小隊もだ!」

 

怯える子供達を退避させ、セムテックスを設置した2隊は同じく遮蔽物に身を隠す。

M4が起爆装置を握る。

 

「やれM4!」

 

「はい!カウント5、4、3、2、1」

 

0!

 

M4の叫びと共に押された起爆装置はセムテックスを爆発させた。

隠れていてもなを感じる熱風と衝撃波にトリエラが顔を蹙める。

 

「ひゃほー!ドッカーン!」

 

「SOPⅡ、騒がないで」

 

そうして船内に空いた大穴からローター音と共にロープが垂らされた。

さっさと子供達を抱き上げて離脱しよう。

そう思っても一筋縄ではいかない。

 

『M16、早く離脱しろ!船体がいつまで保つか分からんぞ!」

 

「ダメだ指揮官!子供達が怯えちまって動かない!」

 

「……私に任せて」

 

「何する気だトリエラ?」

 

ショットガンも防弾ベストも置いたトリエラが子供達の前に立つ。

 

ゆらりとたなびくツインテール。

そしていつもとは違う優しい、慈しみに溢れた表情でコンテナに積まれていた子供達を抱きしめた。

 

「大丈夫、大丈夫だからね」

 

優しく背中を撫で、頭をトントンと叩く。

その手つきは妙に手慣れている。

 

「だい……丈夫?」

 

「そう、大丈夫よ怖いことはないわ。全員で生きるためにも私達を信じて、付いてきて。ね?」

 

「……うん」

 

「よし!良い返事ね。M16、この子達をどうやってヘリに乗せるの?」

 

「あ、あぁ。一人ずつ抱きかかえて登るんだ。デバイスは渡す、これをロープにかませれば勝手に引っ張り上げてくれる」

 

「分かったわ、一人ずつ行くよ。ほら順番に捕まって」

 

落ち着きを取り戻した子供達ははティスやRO達に抱えられヘリに乗っていく。

少しばかりのピストン輸送を経て救助対象の子供達を全員乗せることができた。

 

残るはトリエラとエルザの二人だけ。

 

「ねぇトリエラ。トリエラがあんな風に子供を宥められるなんて知らなかったわ」

 

「私もエルザがこんなにお喋りだとは思わなかった」

 

トリエラはどこか寂しくも誇らしげな顔を向けた。

 

「私の夢の中でね、香水を付けた優しい眼鏡の……たぶんお母さんがよくやってくれるの。真似しただけよ」

 

「……私のお母さんの方が良いわ」

 

「バカな事で競ってないで帰るわよ。皆が待ってるんだから」

 

ここで俺は無線を切った。

 

「…………」

 

「ヒルシャーさん、無線は切りましたよ」

 

「……すまない」

 

あの作戦の翌日。

 

世間では貨物船が行方不明になったことやイタリア海軍のスキャンダルが世間を騒がせる中、ヒルシャーとトリエラのフラテッロはグリフィンから去ろうとしていた。

 

「サイファー、いろいろとお世話になりました」

 

「こちらこそです、ヒルシャーさん。ですがくれぐれも福祉公社には内密に」

 

「えぇ、分かっていますよ。ところでトリエラは?」

 

「あそこで揉みくちゃにされてます」

 

ヒルシャーが視線を動かした先には戦術人形に囲まれるトリエラが。

 

「えぇー!トリエラ帰っちゃうのかにゃ!?寂しいにゃー!」

 

「これ!よさぬかIDW!おほん。若き娘よ、これからも何かあればワシらグリフィンを頼るのじゃぞ!」

 

「うんうん!トリエラも私達の家族だもんね!」

 

熱烈な別れの挨拶にたじろぐトリエラであったが、エルザの声には真剣な顔をした。

 

「トリエラ、何かあったら連絡して。お父さんもお母さんも絶対に二人を助けるわ」

 

「……ありがとうエルザ。ところでお父さんっていうのは」

 

「サイファーさんのことよ」

 

物凄いジト目で見てくるトリエラに俺は全力で首を振った。

 

「ではこれで、グリフィンの皆さんもお元気で」

 

「ヒルシャーさんも。なにかあれば遠慮無くグリフィンへ」

 

「覚えておくよ」

 

ヒルシャーは心のどこかにラシェルを見て、トリエラと共に去った。

 

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