GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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軍となる

さて……何をどーして俺はここに居るのか?

それは俺には分からん。分かるとすれば神のみぞ知る、と言うヤツだろうか。

 

俺は元々どこいらにでもいる一般大学生だった。

そう、大学生だったのだ。

 

いつもの様に、覚えたての酒とタバコで気を紛らわせつつ。全ての事から逃げようと……いっそ死ねたらと考えて眠ったのが大学生としての最後。

 

次に目覚めた時は、見慣れたアパートの壁ではなく小綺麗な天井だった。

 

「知らない天井……だったかな」

 

一瞬で理解した、これは夢なのだ。

学生向けボロアパートの、参考書やレポートで無く、酒の空瓶と吸殻の山を作っていた俺の部屋。それが清潔で、どこか懐かしさを感じる保健室に変わる訳が無い。

 

そして俺が寝ていた安物のベッド。

それが体調不良と偽って寝ていた。あの懐かしさを感じる保健室のべッドになる訳が無い。

 

うーむ……これはあの頃に戻りたいと考えて居た俺の、深層心理的な物が見せる夢に他ならないだろう。

 

なら2度寝しても大丈夫か。

 

ただでさえ少ない脳みそが寝ぼけて出した回答に、素直に従おうと布団を被り直した時。勢い良くベッドを囲むカーテンが開かれ2人の少女が飛び込んできた。

 

「指揮官!気がつかれはったんですね!」

 

「指揮官さん、体に違和感はありますか?どこか痛い所は?」

 

何なのだ、これは。どうすればいいのだ。

 

涙を浮かべながら手を握ってくれる女の子。

テキパキと慣れた手つきで俺の容態を確認してくる女の子。

 

俺は彼女達にどこかで見覚えがあった。

だが現実では無い、こんなに可愛らしい子は生まれてこの方見たことが無い。

そう、リアルではだ。

 

思い出すのは、まだ使えると騙し騙し使っていた俺の型落ちスマートフォン。その中のゲームアプリの……

 

「え、GSh-18にHS2000?」

 

「よかった……うちらの事が分かるんですね!」

 

「ん、容態に変化無し、脈拍にも異常なし。けど、健康状態に問題あり」

 

おぉ……普段から何かした覚えは無いが、神様は見ていてくれていると言う事だろう。素晴らしい夢を見させてくれるものだ。

 

気遣ってくれてた友人でも、ハゲを気にして不機嫌気味な教授でもない。

とてつもない美少女との夢を見させてくれるのだ。どこの神だか知らないが、御供えをして五体投地をしたい気分だ。

 

このままGSh-18とHS2000に囲まれてベッドで寝るのも悪くは無い、むしろ良い。

 

「指揮官!起きてください、また寝んといてください!」

 

「GSh-18……もう少しこの夢を見させてくれ、戦術人形に囲まれるなんて素晴らしい夢なんだ。起こさんといて……」

 

「夢ってなんですか!みんな心配してるんですよ!」

 

毛布を被って籠城を決め込むものの、その頼りない装甲は呆気なく剥ぎ取られた。

しかしリアルな夢である。こんな美少女見たこと無いのに2人ともまるで本物のようなのだ。

 

サラサラの髪に綺麗な瞳、整った顔はあまりにもリアルで現実と間違えそうになる。

 

「夢に決まってるよ。俺は2人みたいな可愛い子を見た事無いし、そもそも2人とも現実に居ないもの」

 

「指揮官さん……脳の検査もした方がいいかも」

 

「か、かわッ!ええから早う起きてくださいよ!」

 

こんな夢見れるなんて俺はラッキーボーイだぜぃ。

 

そんなバカな事を考えていると保健室の外からドタドタと激しい足音が複数聞こえて来た。

その足音の主達は、加減を知らないのか保健室のドアをぶっ飛ばして来たのだ。

なんて事だ、この素敵な夢は爆発オチで終わるのか。

 

身構えた俺は、バカな顔を晒していたと思う。

 

「指揮官……わぁ!ホントに指揮官だ!」

 

「指揮官!指揮官!」

 

豪快なノックでドアをぶち破ったのは2匹の犬……ではなく2人の女の子。

 

M4SOPMODⅡとUMP9、そして遅れてAR小隊の面々や他の戦術人形が顔を覗かせた。

 

「なんてこった……俺は知らない間にとんでも無い得を積んだらしい。極上の夢だな、これは」

 

「指揮官!指揮官!」

 

「指揮官!指揮官!」

 

「よーし……SOP、9!来い!」

 

「「わーい!!」」

 

少しの予備動作から繰り出される2人のトップスピードの突撃。

 

質量×速度=威力とは誰が言ったことか。砲弾のように真っ直ぐに突っ込んでくる2人を受け止めようと踏ん張ってみる。

しかしまるでダメだった。

SOPとUMP9の頭が俺の腹にめり込み、ぶっ飛ばされたのだ。

 

2人の重みに温かさ。そして後ろにあった金属ラックが奏でる激しい衝突音と激痛に、意識を手放した。

 

──────────────

 

「待ってくれカリーナ……なんだ、ありえるのか?本当に……」

 

2人のタックルで気絶した俺が再び目を覚まし見たものは、始まりと同じだった。清潔感のある保健室の天井……こちらを心配そうに見てくるカリーナ達。

 

そして教えられる、俺が今まで見ていた夢は現実であると言う話。

 

「けどなカリーナ」

 

「カリンです、指揮官さま」

 

「……カリン、信じられるか?俺は何か変な事をした訳でも無けりゃ、特別なパワーがある訳でも無い。普通の大学生だったんだ。それが一夜にして大好きなフィクションの中に入っちまったんだ」

 

「フィクションって……指揮官さま、それはあんまりですよ」

 

思わず口から出た言葉に後悔する。

 

俺は何を言っているだ。さっき感じた全ての感覚は紛れも無く本物だったと言うのに、頭のどこかがそれを否定する……いや、否定したがっている。

 

「……悪かったよカリン。でも本当に混乱しているんだ、そもそもなんで君達は俺を指揮官って呼ぶんだ?」

 

「それは指揮官さまが私達の指揮官さまだからです。今までだって指揮官さまのおかげで戦って来れたんですよ、ですよね皆さん?」

 

カリンがそう言って振り向くと、大勢の声でそうだ!そうだ!と肯定の返事が帰って来る。

 

「そうじゃ!お主が着任して来た時のことは昨日の事の様に思い出せるんじゃぞ」

 

「指揮官はずっと一緒に居ました!ずっと私のアイドル活動を応援してくれていました!」

 

「指揮官さまの愛は、あの運命的な出会いをした日からずっと記憶してますよ!」

 

ナガン、P38、M1911達が力強く頷いた。

そしてそれに続くように、彼女達よりも大柄な美女達も続く。

 

1人は艶やかな長い黒髪と、存在を強く主張する一対の角が。

もう1人は狼の尾の様にも見える白銀の1つ結びが。

 

その姿は間違いなく鉄血工造のハイエンドモデル。

エクスキューショナーとハンター。

 

「オイオイ指揮官よぉ、オレ達に何度も何度も苦渋を飲ませたこと忘れたのか?」

 

「ハンターであるわたしを狩った人間は指揮官だけだ。間違い無くな」

 

まさか鉄血組が居るとは思わなかった……それだけじゃない。

人の山に埋もれてはいるがアデリン、アリーナ達パラデウス組もこっちを見ている。

 

心当たりはもちろんある、こちとらサービス開始当時から一切のログボも逃した事ないヘビーユーザーなんだ。通常の戦術人形は全員確保したし融合勢力も鹵獲している。

 

「けどなぁ。俺の知らない俺なんて、信じられるモンじゃねぇんだがな……ん?スプリングフィールド、どうしたんだ?」

 

「私達と指揮官しか知らない事を言えば信じてもらえるでしょうか?」

 

「俺と君達しか知らないこと?例えばどんな」

 

「そうですわね。指揮官が高熱でうなされながら指揮をされている時、私を見て母さんとおっしゃいましたわ」

 

「……認めよう、スプリングフィールド。だって一人暮らしで不安だったんだよ」

 

インフルでダウンした時に思わず口にした言葉、それを聞かされたらもう認めるしかない。

本当は認めたく無いが認めなくてはならない以上、何か理由が欲しかったのが本音ではあるが、あれ聞かれてたかぁ。

 

「しっかしなぁ……異世界転生?気がついたら美女美少女に囲まれてハーレム?冗談じゃない。何でそんな使い古された状況になってるんだ」

 

「その……いいですか、指揮官さま?落ち着いて聞いてください。私達も同じなんです」

 

「同じ?……まさか」

 

「私達も転生。いいえ、転移して来たんです」

 

目を伏せて伝えてくるカリン、その顔には深刻さがありありと浮かんでいる。よくよく見れば周りの彼女達もどこか不安げにしていた。

 

当たり前だ。

 

荒唐無稽、夢中説無にetc.etc……こんなバカげたシチュエーション、誰だって経験したことが無い。みんな何かを頼りたいのだろう、俺だってそうだ。

 

でも頼れない、彼女達を見ていたら頼るなんて出来ない。俺の知らない俺も所詮俺なのだ、なら出来るはずだ。

 

「……カリン、今居るこの建物の詳細は把握しているか?」

 

「指揮官さま!?やってくれるんですか!」

 

「やれるか分からんが、望まれたならやってやる。それでカリン、この建物は把握しているのか?」

 

「はい!この建物は私達の基地とほとんど同じです。既に詳細なマップも用意してあります」

 

「全員が集まれそうな広い場所はあるか?」

 

「はい!問題ありません!」

 

カリンが見せてきたマップを貰い頭に叩き込む。

 

やってやる、どーせウジウジしてても何にもならんのだ。

人生諦めるか進むか。そのどちらかを選ばなければならないのなら、今明確に求められている役割に準じよう。

 

俺ならばどう選ぶ?指揮官ならばどう選ぶ?

 

「よし……オーダーを出すぞ!この基地に居る全ユニットは、可及的速やかに集合せよ!」

 

「「了解!」」

 

──────────────

 

硬っ苦しいグリフィンの士官服に袖を通し。1歩、また1歩と集まった皆の前に歩みを進めた。

眼前に広がる光景は正しく圧巻である、だが多くの視線と期待が俺に突き刺さりプレッシャーとして重くのしかかる。

 

「総員、傾注!」

 

ジェリコの号令が響き渡り、誰も彼もが一糸乱れぬ動きで姿勢を整えた。

恐ろしい、目が泳ぐ、口が渇く、手が震えて足が竦む。

 

だがやらねばならない。覚悟を決めろ、指揮官を演じろ。頼りにされているのなら、それに応えなければならない。

 

「諸君、楽にしてくれ。まずは挨拶からだ、私は指揮官。そうだな、サイファーと呼んでくれ」

 

どよめく群衆に対して、ジェリコが杖を突き鳴らす事で制した。

 

そんな彼女の瞳が、この集団の中でも一際強く俺を射抜く。

貴様は本当に指揮官たり得るのか、と。

 

「君達の疑問や不安は分かる。結論を言えば、我々は異なる世界に転移して来た。荒唐無稽な話ではあるが……これは紛れも無く事実だ」

 

グリフィン 鉄血 パラデウス。生まれや組織に関わらず多かれ少なかれ困惑を抱いている。

リッパーやイェーガー達からもバイザー越しに感覚が読み取れるほどに。

 

「だが未知の事情とは言え、我々は止まる訳にはいかない。我々は生きなければならない。

なぜか?我々が死んでいないからだ!その機能を停止していないからだ!我々はこれまで数多くの困難に直面し、立ち向かい、その悉くを乗り越えてきた。同じだ、まるで同じなのだ!」

 

動きは大袈裟に、心は大仰に。

 

俺はあらん限りの力を拳に込めて振り上げる、腕を伸ばして大きく動かす。

やる事はフリー素材と化したチョビ髭閣下の何番煎じ、だがこれでは道化にしかならないのでは無いか?

 

俺は彼女達の期待に応えられているか?

 

「我々の成すべき事は明確であり確実である!それは何か?諸君らは既に、それを理解しているものと俺は考える!

だが1つ!私の目標を言うなれば、私の望み、私の願い。それは私の部下であり、大切な家族である君達1人1人の幸福と安寧である!」

 

大きく広げた両の腕をピタリと止めて皆を見やれば、熱の篭った目、目、瞳。

 

やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。 俺はそんな目で見られるような人間じゃない。

 

「そのためにも!私に力を貸して欲しい!君達の経験を、能力を、力を!いや君達自身を私は欲している!

我々は生きねばならない!我々は意思があるからだ!

我々は戦わねばならない!我々は死んでいないからだ!

だからこそ……だからこそ諸君!」

 

「どうか、俺と共に!これからを歩んで欲しい!」

 

ザッと軍靴が短い音を奏でた。

眼前に広がるは壮観で圧巻、大勢の軍人が誰と言うでも無く同じ動きで敬礼する。

 

個が群となり軍となる。正しくその瞬間だった。

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