『……続報です。本日午後開催されたトリエステ独立派の決起集会は、警備に当たっていたグリフィンの制止により最終的に逮捕者34名を出した物の重軽傷者共にありませんでした。』
「最近やっと暖かくなってきたわね」
「あぁ」
麗らかな春の風を切って走る1台のオープンカー、それに乗るのはイタリアの裏社会で名を知らぬ者は居ない天才爆弾コンビのフランカとフランコ。
2人はカーラジオを流し聞きしながらトスカーナに愛車を走らせている。
こんな気分の良い日のドライブだと言うのに相棒であり師匠であるフランコはさっきから生返事しか返さない。
「ねぇフランコ。ちゃんと聞いてる?」
「ん?あぁ、聞いてる」
フランコの頭の中はフランカの声でもカーラジオでも無い。
数週間前から感じる謎の感覚でいっぱいだった。
同じくトスカーナのモンタルチーノ。
そこそこ人の居る田舎町と言った様相のこの街には一組のフラテッロがバールにて休憩をとっている。
余裕そうにワインを楽しむヒルシャーにトリエラが愚痴をこぼす。
「どうして私達作戦二課が消えた公安部の人間の捜索なんか……」
「そうだな、すぐに思いつくのは人手の無い公安部が安い仕事を回した。二課長辺りが手柄欲しさに仕事を取ってきたか。もっと想像力を働かせれば……」
「私達の失点狙い?」
「可能性の話だよ」
流石トリエラ、聡明だ。とヒルシャーは満足げに微笑んでワインを飲む。
「誰を信じて良いのか分かりませんね」
「心強い味方もいるさ」
「私ですか」
ヒルシャーは飲んでいたワインを置き、少々疲れた目ではあるが真剣にトリエラを見た。
「ダメか?」
「ダメです」
「トリエラは僕を絶対裏切らない、僕も君を裏切らない。心強いだろ?」
その眼差しに、そのセリフに顔を赤くしたトリエラが誤魔化そうとワインに手を伸ばす。
トスカーナで有名な赤ワイン。そう、赤ワインをくーっと飲んだトリエラは……
「けほっ!けほっ!」
その後は地元の少年や迷彩服を着た青髪の少女に聞き込みを続け、消息を絶った公安部員が使っていた宿を突き止めたヒルシャー達は住所と思わしき4ケタの数字とピノッキオの冒険の本を見つける。
その本を読んだトリエラは───所詮は夢物語だと溜息と共に本を閉じる。
それが幼稚な本だからなのか……
自分と同じ、作られたピノッキオが人として生まれ変わる話だったからなのかは分からなかった。
「やっぱりあの家は怪しそうです。近所の女の子に聴き込んだらピーノと呼ばれる男が住んでいます、丁度訪ねようとしていたのでマイクを仕込みました」
「分かりやすいな……そいつがピノッキオか?しかし2人じゃ厳しくなってきた、フィレンツェ支部から応援を呼んでも数時間はかかる」
消えた公安部員の残した住所を見張る2人は盗聴器を耳にスコープを覗く。
「早く突入しないとあの子が危険では?」
「中の様子も分からない、もう少し様子をうかがおう」
───────────────────
アウローラはただの女の子だ。
トスカーナの田舎に生まれ、両親に愛を注がれ、自然に囲まれて育った心優しい、好奇心旺盛なおませな子だ。
けどその好奇心が仇となった。
「ピーノ?」
ほのかな恋心を寄せる美少年に会おうと家に入ったのが運の尽き。
彼女が見つけたのは目当ての美少年ではなく、チェコスロバキア製のサブマシンガンVz61スコーピオンだった。
なぜこんなものが?おもちゃかな?
しかしスコーピオンを持った右手にはズシッと1300gの重さが伝わった。
「動くな!」
背後から怒鳴られたアウローラの肩が震える。
振り返ればグロックを向けたフランカの言葉が更にアウローラを混乱させた。
「その銃を下ろして床に置け!噂の公社か、グリフィンの殺し屋か!?」
噂の公社?グリフィン?殺し屋?
どの言葉も田舎に生まれて育ったアウローラには聞き馴染みのない物だった。
「あの……ピーノは」
どこに?そう言おうとした瞬間フランコに腕をひねり上げられるアウローラ。
親に手をあげられる様なことも無く育った娘には強烈な痛みだ。
筋肉が千切れる様な痛み、しかしフランコは裏社会を生きてきた人間として冷徹にアウローラを見る。
「こいつはなんだ?」
「知らないわ」
痛みと恐怖で涙が出る。
ピーノはどこに?この人達は何者?
「アウローラ……」
「知り合いか?」
「近所の子だ」
なんで……こんな怖い人達とピーノは普通にお話しているの?
「ピーノ!助けてピーノ!」
「はぁ……僕には構うなってせっかく警告したのに」
「ピノッキオ、どういう事か説明しなさい」
一先ずは制圧が出来たことを確認したフランカがグロックをしまってピノッキオに問う。
「ただの近所の子さ。僕に親切にするのが楽しいらしくてね」
「じゃあ……暗殺者じゃないのね。幸い、かどうかは分からないけど。この子をどうするつもり?」
「どう?どうって……もちろん殺すさ」
胸ぐらを掴まれたアウローラはピノッキオの冷徹な暗殺者としての顔を見せられ、突き飛ばされる。
もう手も足も動かせなかった。
ほのかな恋心を寄せる美少年が反政府組織の暗殺者など誰が想像できようか。
黒いナイフを抜きゆっくりと迫るピノッキオに、儚い希望も砕かれたアウローラを救ったのは以外にもフランカだった。
「待ちなさいピノッキオ!殺すのはやり過ぎよ」
「顔を見られたんだ。帰すわけにもいかないだろ?」
「これくらいどうってことは無いわよ」
「プロなら優先順位を考えなよ」
「プロだから殺さないの。私は殺す人間は選ぶ流儀よ」
目まぐるしく変わる状況にいるアウローラ。そんな彼女でも分かるのは3つ。
1つ、まだ自分は殺されていないこと。
2つ、自分を制圧したおとこがピノッキオに拳銃を向けていること。
3つ、その男の後ろに青い髪の迷彩服を着た女の子がいること。
「逃げてーッ!」
アウローラは叫んだ。あんな子は近所でも見たことがなかったが、無関係な人間をこれ以上巻き込みたくはなかったから。
その声に反応したフランコがハンドガンを青髪の子に向ける。
「今度はなんだ!」
その娘が両手に持つ、上腕ほどはある大振りのナイフから敵と判断したフランコが引き金を引くも、人間とは思えない機動でかわされ一閃。
ハンドガンのトリガーから先のバレルとスライドが切断された。
フランコは驚愕した。
ありえないからだ、どれだけ鋭利な刃物でもこんな風に拳銃を叩き切るなど。
「何者なの!?」
「近所の子……じゃないね」
フランカにグロックを、ピノッキオにナイフを向けられている状況を脅威とも思って居ないのか両のナイフを構えもせず女の子は名乗った。
「……制圧」
青髪の子……鉄血製戦術人形のブルートは2振りのナイフを構えた。
「やれやれ……もう女の子はこりごりだ」
ピノッキオも独り言ちてナイフを構えた。
一触即発の空気感。
民間人のアウローラはもちろん、反政府組織とは言え裏方の爆弾屋であるフランカフランコも思わず息を飲む程の場の粘度。
それを扉と共にぶち破ったのは突入してきたトリエラだ。
「動くなパダーニャ!武器を置いて床に伏せなさい!」
「……今日は来客が多いな」
「おじさん達以外は招いてないんだけど……な!」
ピノッキオが持っていたナイフをトリエラに投擲、ピノッキオ達が動き出す。
間一髪ショットガンで防いだトリエラが再照準しようとするがフルサイズのショットガンが思わぬ障害となってしまう。
「むぅ……存外」
トリエラの援護に向かおうとしたブルート、しかし彼女は直ぐにその場を飛び退く。
そして先程までブルートがいた空間を散弾が過ぎた。もちろんトリエラの撃ったものでは無い。
「散弾を避けるか……化け物め」
フランコが壁のラックにかけられていたセミオートショットガンを構える。
その姿を見てブルートは自信ありげに口角を歪ませる。
「僥倖……ッ!」
両者ともに動けない。いや、動かない。
フランコはブルートの先の機動力を見て理解しているのだ。次の一発、外せば確実に懐に入られると。
「……」
「……」
突然だがこのブルートは普通の個体とは違う。鉄血製人形としては圧倒的に脆いブルートタイプでありながら、グリフィンや正規軍と数々の戦いを潜り抜けた猛者だ。
最近は切り甲斐の無いテロリスト相手で腕が訛っているとは言え侮れない個体。
そんな彼女にとって、今回の作戦は簡単な物だと思っていた。
「ッ!」
フランコがショットガンを撃つ。
その迫り来る散弾に、ブルートはあえて飛び込んだ。
重要なモジュールにのみ被弾するペレットをナイフで切り落とし、それ以外をあえて脆いその身に受ける事で最短の距離を詰める。
セミオート機構により次弾が装填される前にショットガンを切断、その返す刃でフランコに切りかかる。
「クッ!フランカ!」
「OK!」
ブルートの視覚モジュールが捉えたのはフランカが投げ込んだ
お手製の閃光手榴弾。
グリフィンで使っている物とは比べ物にならない程弱々しい閃光と轟音ではあるものの、それは確実にブルートのカメラに焼き付きを起こさせた。
ブルートが咄嗟に地面を蹴って距離を取る。
しかし何も起こりはしなかった。ブルートが感じるのは肉を切り裂いた手の感覚と、人間一人分の息遣いだけ。
焼き付きから戻った視覚モジュールが見たのは涙を流して縮こまるアウローラと残された血痕のみ。
浅かったのだ。
「不覚……」
「ひッ!?こ、殺さないで!」
「むぅ……救助」
手負いを追うよりも目の前の女の子を落ち着かせよう。
きっと指揮官ならそっちの方が喜ぶ。
ブルートは散弾を浴びてズタボロになった姿を忘れ、アウローラをなだめようと四苦八苦した。
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……!
……ラ!
……エラ!
「トリエラ!」
「うっ……」
「まだ動くな。脳震盪だろう」
揺れる頭を抑えながらトリエラが身を起こす。
ピノッキオを相手にとったトリエラであったが近接格闘術の経験の差で顎を打たれ倒れたのだ。
「平気です……女の子は?」
「大丈夫、グリフィンが保護している」
「五共和国派は……」
「すまん……全員逃げられた」
ヒルシャーは目を逸らす。それは己の失態から目を背けたかったのか、トリエラを見えいられないからなのか。
「かすり傷ひとつ付けられずに殴り倒されるなんて……私が突入を主張したばっかりに……」
「決断したのは僕だ」
「貴方に貰ったSIGは盗られるし……それに貴方に怪我までさせて……すいません」
トリエラの目元を涙が走る。
珍しい彼女の弱音と涙にヒルシャーも言葉が詰まった。
「今回は相手が悪かったんだ。仕方ないさ」
「私は義体です!」
その慰めの言葉が、トリエラの暗い気持ちを溢れさせた。
「こんな風に負けたら何のために命を削りリスクを背負っているのか……まるっきり無意味です!」
「トリエラ……」
「触らないでください!私を……しばらく放って置いてください……」
彼女の中にドロドロとした物が溜まりだす。
それを陰ながら見守っていたブルートは、何も言わずこの場を去った。
「ヤバい……GUNSLINGER GIRLの4巻ってほぼほぼグリフィンが入る余地がない……」
友「知るかよ、そりゃあオメーの仕事だろうに」
「そりゃそうだけどさ」
友「戦術人形トーナメント編とか過去編とかにすれば?」
「ジャンプじゃねぇんだぞ!?」