GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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マジでスランプです。



あれは……人間なの?

鮮やかなバイオリンの音が鳴り響く部屋の一角、奏者であるヘンリエッタは極度に緊張していた。

 

お客様の前で演奏しているから?

大切なジョゼさんが演奏を聴いているから?

ロレンツォ課長やもっと上の人が自分の演奏を聴いているから?

 

いいや違う。

 

あの人がいるからだ。

 

───────────────────

 

「素晴らしい演奏だヘンリエッタ。君もそう思うだろう?」

 

「えぇ。練習すれば一流のバイオリン奏者になれるわ」

 

俺とスケアクロウはバイオリンを演奏し終えたヘンリエッタに拍手を送る。

 

いや、俺は音楽に関しては素人だが素晴らしい演奏だと思う。

 

「ジョゼ、ヘンリエッタ。下がってよろしい、戻って明日の準備をしろ」

 

「はい、課長」

 

「サイファーさんとスケアクロウさんも下がってくれて良いわ」

 

「分かりました。警備の者を残して行きます、何かあればいつもの様に」

 

「えぇ、分かっているわ。あなた達グリフィンのお嬢さん達は優秀でお喋りも楽しいから好きよ」

 

「ありがとうございます。では」

 

俺とスケアクロウはジョゼ達に続いて部屋を出た。

 

今回のクライアントはイザベラ・ダンジェロ夫人。

イタリア本土とシチリア島とを繋ぐメッシーナ海峡横断橋の架橋を行うメッシーナ海峡横断橋会社の理事長であり、我が社PMSCsグリフィンのお得意様なのだ。

 

「久しぶりだなサイファー」

 

「あぁ、ジョゼもヘンリエッタも元気そうで何よりだ。仕事が仕事だから心配してたよ」

 

「所でなんでこんな所に居るんだ?」

 

「ウチは警備会社だぜ?ダンジェロ理事の最小限で最大級の警備ってニーズと合致してな、グリフィンが常駐するよう契約してるんだ」

 

「なるほど、確かにそんな注文はグリフィンにしかできそうにないな」

 

理事としては美人が最低限しか配備されていないのにメッシーナ海峡横断橋の工事は妨害無く進むし、俺は報酬が美味い。

 

Win-Winである。

 

「それにしても、指揮官のサイファーが出張ることは無いんじゃないか?」

 

「こっちも色々とあるのさ……っと、余り話すとお互いに悪いだろう。じゃあな」

 

ジョゼと別れた俺とスケアクロウは途中で警備終わりのハンターとエクスキューショナーと合流、理事長宅を後にした。

 

たしか……フェッロだったか?公社の人間に睨まれる中でお話を続けたいとは思わんよ。

 

「ハンター、エクスキューショナー。警備ご苦労様」

 

「なに、獲物を待つのも狩人の仕事だ」

 

「ハンターはそう言うが、オレは待つのなんて退屈で嫌だ。速く酒が飲みた……そうだメシにしようぜ!」

 

「エクスキューショナー、あなたという人形はもう少し真面目に」

 

「そう怒るなスケアクロウ。あぁ、そうだ。いいレストランを見つけたんだ、皆で行かないか?」

 

「良いじゃないか!」

 

盛り上がる車内。

エクスキューショナーは行こう行こうと急かし。

ハンターは満足げにフッと鼻で笑う。

額に手を当てているスケアクロウもどこか嬉しそうだ。

 

さて、そうしてレストランについた俺達は思い思いに料理を待つ。

 

「けどよろしかったのでしょうか?お昼に我々がご一緒してしまって」

 

「いいじゃないか、サイファーから命令されたらオレ達は従うだけだ。おーい、ウェイター。ワインボトルを追加で頼む!」

 

「さすがに飲み過ぎだぞ。まだ昼間なんだから少しは控えたらどうだ」

 

やんややんやとレストランで賑やかにしているスケアクロウ エクスキューショナー ハンターの鉄血三人衆。

 

「スケアクロウ、俺は君達と居ることが出来て嬉しい。だからそんな風に思うことは無い、今は気にせず食事を楽しもう」

 

「まぁ、指揮官様がそう仰るのでしたら」

 

「ほらサイファーがそう言っているんだ。皆飲め飲め!」

 

「すまないな指揮官、エクスキューショナーに付き合ってやってくれ」

 

やれやれと、しかしながらどこか楽しげに笑うハンターにサムズアップ。そうこうしているとレストランのウェイターが料理を運んできた。流石はイタリアなだけあって彩りや盛り付けも美しく、見るだけでも満足できそうだ。

 

しかし、そんなイタリア料理でも今日はひと味違う。

そう、ここはローマ。出された料理は美しくもシンプルかつ豪快、今にもかぶりつきたくなる。

 

特にエクスキューショナーが頼んだステーキ。

 

子羊のステーキのビジュアルはステーキ肉と言うより肉塊……否、それはもはや石が如き姿。

 

「おおお!それじゃ早速」

 

「待てエクスキューショナー」

 

「な、なんでだハンター!?」

 

期待に胸をふくらませている彼女にハンターが待ったをかける。

長身つり目のエクスキューショナーが子供のように頬を膨らませて可愛らしく睨む姿を楽しく眺めていると、ハンターがとぽとぽとワインを注いでくれた。

 

彼女のベリドットのような美しい目が二ィっと歪んで笑みを浮かべる。

どこか挑発的だと言うのに、引き込まれそうな程に惚れ惚れとしてしまう。

 

「乾杯が先だろう。こう言う事は大切にしたい、特に大事な仲間となら尚更な」

 

「む!確かにそうだな」

 

「では指揮官様、乾杯の音頭を」

 

スケアクロウに促されてグラスを手に取る。

 

「じゃ、乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

それぞれのグラスが小気味良い音を奏でた。そうして乾杯を終えたグラスをゆっくりと回してワインの香りを引き立たせる。

 

普段はAlfaとビールを飲んだりM16とジャックダニエルを楽しんだり、一〇〇式に日本酒を注いでもらったりと酒浸りの生活ではあるが、ワインには余り手を出さなかったな。

しかし美味い物だ。

 

深い色味の赤ながら透き通る様な赤ワイン、その香りは確かなブドウと、どこか野性味を感じさせる芳醇な香り。だというのにスッキリ爽やかに飲めてしまう。

しかしここで酔い潰れるのは勘弁願いたい。

 

ふと、対面に座るエクスキューショナーに目を向けた。

乾杯も終わり、彼女はステーキに手を伸ばす。フォークで肉塊を押さえつけ、その身にナイフを走らせている。

その断面は血を滴らせる赤、実に見事な焼き加減と言う他ないだろう。

これには流石のエクスキューショナーも息を呑んだ。

 

「……いただきます」

 

重々しく口を開けると、切り離して尚巨大な肉に食らいつく。

こんな食べ方はマナーがなっていない、食事の作法としては最低と言える。

 

しかし……いや、だからこそ美味そうに見える。

 

鋭い歯で肉を毟り、肉汁と血とで口を汚し、力強く咀嚼する。

荒々しくワイルド、その野性的な食い方が確実に食欲を煽って来る。

気がつけば俺も周りの客もエクスキューショナーに視線が釘付けだ。

 

「ッ!すみません、私もあのお姉さんと同じ物を!」

 

「俺もだ!同じステーキを頼む!」

 

「は、はい、かしこまりました!」

 

さっきからレストランのウェイターは大忙しだ、あの注文量を見るに厨房も大変な事だろう。

 

「あー……んぁ?どうしたんだよサイファー、速く食おうぜ」

 

「そうだな。では、いただきます」

 

エクスキューショナーに促されて俺もステーキを食べた。

 

サシの多い霜降りが高級とされるが、個人的に赤身の多い肉の方が好きだ。どうやらこの店は当たりだ、スパイスとハーブの効いた肉を噛み締める度に旨みが榴弾の様に口内で爆発してくる。

 

「うむ……美味い」

 

「そんなに美味しいのですか?……その、指揮官様のと私の頼んだお料理を一口だけ交換しませんか?私も気になります」

 

「それはいいな、私も指揮官と一口交換がしたい」

 

そうして頼んだ料理を皆でシェア。

スケアクロウのトマトパスタは素朴ながらトマトソースに確かな甘さと旨みのある一品。

ハンターは狩人を名乗っているからかジビエのロースト。

牛ステーキとはまた違う旨さと、しっとりとした肉もまた美味いのだ。

 

しかし……

 

「ふふ」

 

「指揮官、どうかしたのか」

 

「なに、君達とこうして楽しく食事ができて幸せだなとな」

 

本当に……幸せだ。

 

 

───────────────────

 

 

「失礼します」

 

「貴女は……グリフィンのスケアクロウさん、だったかしら?」

 

一般二課のリーダーを務めるフェッロは理事長宅で声をかけてきたスケアクロウに警戒を露わにする。

 

グリフィンは未知の存在、そして危険な組織であるとの認識をしている彼女にとってこの警戒は当然のことだ。

 

「このデータを渡すように指揮官から命令されましたので」

 

「不審なものは受け取れません。申し訳ありませんが……」

 

「理事長を狙う、裏切り者のデータだったとしても。ですか?」

 

「なっ!?」

 

なぜ、昨日ジョゼに調べる様言われた物をグリフィンが用意しているのか。

あの場にはグリフィンの人間はいなかったのに。

 

フェッロは柄にも無く焦って口から出てきそうになる言葉を飲み込む。

 

そんなフェッロが面白いのか、スケアクロウはマスクの上から分かるように広角を上げサディスティックに嗤う。

 

「悪いことは言いません、そのデータを使いなさい。貴女達人間よりも我々の方が速く正確なだけですわ」

 

「……」

 

「まぁ、私は任務はこのデータを貴女達福祉公社に渡すこと。それから先は何も言われていませんので、使うも使わないも貴女達次第」

 

「待ちなさい!……貴女は人間なの?」

 

「少なくとも貴女が答えを知る必要がありませんわ、では私はこれで。五共和国派の撃退は任せましたので、どうぞ頑張ってください」

 

フェッロは福祉公社の人間だ。今まで多くの人間を見てきた。

その経験の中に無い、無機質なスケアクロウの瞳。

 

人間を生き物とも思っていないようなその目つきに、フェッロは冷や汗を流す。

 

「あれは……人間なの?」

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「カリン、例の件は?」

 

「ダンジェロ婦人の警護は完遂いたしましたわ。五共和国派は福祉公社が撃退したようです」

 

「あー、すまん。そっちじゃないんだ」

 

「あ、あちらの方でしたか。それならご安心ください、指揮官さま。どんな人間も札束で殴ると頷くものですわ」

 

「俺はこの手の交渉事に全く向かんからなぁ、頼んだよカリン」

 

「えっへへ!お任せ下さい、指揮官さま!」

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