GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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すみません、短いです


強くなったら、褒めてください

ジャンは自分のデスクをおもむろに殴りつけそうになった。

理由は単純、今朝方渡された書類が原因だ。

 

別に公社の存在がバレたとかそんな事では無い。

 

寧ろ公社的にはプラスのニュースだ。

 

福祉公社に大口のスポンサーが新しく着いたこと。

そのスポンサーは……

 

「グリフィンめッ!!」

 

ジャンは忌々しそうにそう吐き捨てた。

 

───────────────────

 

トリエラ、ヒルシャー達フラテッロ達は久しぶりだというのに何故だか懐かしさを感じるグリフィンの訓練場に招待され、この場に居る。

 

「おい見ろよジョルジョ」

 

「わかってるよアマデオ」

 

「美人ばっかだ……」

 

「陸軍よりもすごい施設だ……」

 

「「……はぁ」」

 

オマケで作戦二課のジョルジョとアマデオも着いてきている。

 

「ようこそ、福祉公社の職員方。私はサイファー、よろしく」

 

「……初めまして、ヒルシャーです。今回はよろしくお願いします」

 

一応グリフィンの基地で一日を過ごした事は内緒なので、初対面の振りをするサイファーとヒルシャー。

 

「モンタルチーノの事は聞いています。ウチの教官達にかかればピノッキオなんざに苦戦する事は無くなりますよ」

 

「それは……ありがたいです」

 

「では教官達を紹介しましょう」

 

サイファーがそういうと、コツコツと4人分の足音が近づいてきた。

その美貌に、女好きのアマデオは思わず口笛を吹く。

 

「指揮官。ジェリコ以下AR-18、ナガン、マカロフ、到着いたしました。いつでもご命令を」

 

「うむ、君達にはトリエラを鍛えて欲しい。必要なら銃弾から戦闘ヘリまで出す、彼女が負けることの無いよう。また、先に進めるようにして欲しい」

 

4人が一糸乱れぬ敬礼を見せる。

その姿は陸軍出身のジョルジョや、海兵隊出身のアマデオでさえ惚れ惚れするような光景だ。

 

しかしトリエラは納得できなかったらしい。

 

「AR-18さんはいいですけど……ナガンとマカロフは私より小さいし、ジェリコさんは……」

 

トリエラがチラとジェリコの杖を見た。どうやらそれが気がかりのようだ。

 

それを見たジェリコは杖を着きながらトリエラの前に移動し……トリエラの顔を杖でぶった。

 

「ッ!?なにを!」

 

「頭を上げろ!胸を張れ!前を見ろ!」

 

その怒声にトリエラだけでなく鍛えられたジョルジョ アマデオ、そして教え子のサイファーも思わず背を伸ばす。

 

それほどまでに威厳に溢れた声なのだ。

 

「トリエラ、貴女が心配するのはこの訓練で自分が使い物になるかどうか。それだけです」

 

「……」

 

「不安ならそのショットガンを構えて見なさい」

 

「……一応言っておきますが装填されているのは実弾で」

 

「私が命令したのはショットガンを構えること。口答えしろとは言っていない」

 

そう言われたトリエラは若干の苛立ちを見せてショットガンを構えた。

 

もちろんトリガーから指は離しては居るが、ジェリコが少しでも動けば発砲できる体制ではある。

 

「どうですか?構えましたよ」

 

「……はぁ、なっていない」

 

「え?」

 

ジェリコの左腕が動いたのを見たトリエラは無意識でトリガーに指を伸ばす。

トリエラが咄嗟に反応したのは見事としか言いようがない。それは義体としての性能と経験から来る反応速度。

 

だが視線までは気が配れなかった。

「せいッ!」

 

「ッ!?」

 

ジェリコが右手の杖を手放しトリエラの眉間に掌底を叩き込む。

 

意識の範囲外から来た打撃。

一瞬ではあるが、よろけた彼女からジェリコは素早くショットガンを奪い取った。

 

「まるでなってない」

 

ジャコン、ジャコンとショットガンのポンプを引いて排莢。

ジェリコは呆れるでも、憐れむでも無い。ただただトリエラの瞳を真正面から見つめるだけ。

 

それはトリエラが今まで味わったことの無い感覚だった。

義体の中でも優秀で、命じられてきた任務のほとんどを完遂してきたトリエラにとって、大人に怒られるという慣れない経験。

 

しかし、傷心の今確かに求めていた経験。

 

「これで心配は無くなりましまか?」

 

「……」

 

「返事!」

 

「はいっ!」

 

トリエラがぶたれた時に思わず動き出しそうになったヒルシャーであったがそれをサイファーが止めた。

一瞬サイファーを睨むも、彼の目には誰が見ても分かるように優しい目をしている。

 

サイファーは暗に伝えているのだ。

今この場は、厳しさこそ優しさなのだと。

 

「安心するのじゃヒルシャーよ。殺しはせん、ただ死にそうになるだけじゃ。ワシらもその辺は弁えておるわ」

 

「少なくともAK-47とSKSよりもトリエラは賢い子よ。あのバカ共を教えた私が言うんだから間違えないわ」

 

「あ、あぁ……」

 

一見すればトリエラよりも幼いナガンとマカロフに諭されたヒルシャー。

しかし彼女達の醸し出す強者の雰囲気に思わず頷くしかない。

 

2人の姿はまるで世界大戦を戦い抜いた歴戦の古兵そのものの様だ。

 

「まぁ、ヒルシャーさん。泣いたり走ったりして成長する事もあるんです。我々は黙った着いていくしかないですよ」

 

「あぁ、サイファー……そうだ、ん?着いていく?」

 

ジェリコは笛を取り出すと首にかけてサイファーやヒルシャー達を見渡す。

それがどこか学校教師のようであるが、ここはグリフィンの訓練場で彼女達は教官なのだ。

 

「訓練計画はみっちりと詰まっている、1秒たりとも遅れは許さん!全員走り込み初め!」

 

AR-18の号令と共に杖を突き鳴らすジェリコ。

なんで俺達も!?と言いたげに走り出すヒルシャー、アマデオ、ジョルジョを笑って見送るサイファー。

 

だがそんな彼の尻をジェリコがぶっ叩く。

 

「あだぁ!?」

 

「WA2000から聞きましたよ、また無茶をしたと。そんな元気があるならトリエラ達の訓練にも参加出来ますね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれジェリコ!俺は普段から参加してるじゃないか!」

 

「口答えをするな!走り込み初め!」

 

「りょ、了解!」

 

過酷な訓練は多少の小休止を挟みつつ続いた。

 

走り込みやプランクと言った基礎的な物から、グリフィンの人形達が考えたアスレチックのタイムアタック。

 

主に近接戦闘に対する経験を積ませるためにグリフィン人形や鉄血人形との格闘訓練。

 

その全てのプランを終える頃には全員が疲労困憊となり、グラウンドに突っ伏している程だ。

 

「以上で今日の訓練を終える!今日の事を忘れること無く、各員一層の奮励努力を行うように!解散!」

 

ジェリコの声が聞こえるが返事をする程の元気は無い。

 

トリエラはグラウンドの冷たさに生まれて初めて感謝の念を抱きつつ呼吸を整える。

そんなトリエラの傍にフラフラと近づいて座り込むヒルシャー、彼もほとほと疲れ果てた顔だ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「僕も……歳をとったな、トリエラは大丈夫か?」

 

「ヒルシャーさん、土が冷たくて……気持ちいいです……」

 

「そうか……あぁ、確かに気持ちがいいな」

 

情けなくも大の字で寝転んだヒルシャー。

確かにヒンヤリとした土が身体に籠った熱を奪っていく。

 

そんな姿がどこか可笑しくてトリエラは笑ってしまう。

 

「貴方もそんな事をするんですね」

 

「それ程までにグリフィンの訓練が過酷だったんだ」

 

「ふふっ、そうですね。本当に……キツかった、一勝も……出来なかった……」

 

トリエラが思い出すのは戦術人形との格闘訓練。

相対するどの相手にも1本先制すら取れず、今までの様に力任せに飛びかかっても避けられ、いなされ、倒された。

 

「トリエラ……」

 

「大丈夫です。負けて悔しいけど、なんだか心地いいんです」

 

涙が溢れる。

モンタルチーノと同じように、ポロポロと。

 

しかし不快感はなかった。

訓練とは言え、ともすれば命にも関わる事故にもなり得る危ない格闘訓練は、命のやり取りとは違う……スポーツの様な爽やかさをトリエラにもたらした。

 

「私、あんまり凄くなかったんだなぁって。義体になって、沢山訓練して、沢山殺して……そんな自分が負けるわけが無いって自惚れに、ようやく気がつきました」

 

「そうか……その」

 

「別に慰めて欲しい訳じゃありませんよ。ただ……」

 

トリエラも少女らしいスラッとした手足を伸ばして、隣のヒルシャーと同じく大の字になる。

 

「強くなったら、褒めてください」

 

トリエラの顔はとても晴れ晴れとしていた。

それは誰の目からも明らかで……

 

「どうしたアマデオ」

 

「プリンシペッサを見ろよ、良い顔してるぜ」

 

行きも絶え絶えにアマデオとジョルジョも笑った。

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