GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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お見舞いにきたわよ

「アンジェリカ、お見舞いに来たわよ」

 

「えっと……誰?」

 

「……あたしはデストロイヤー。ちゃんと覚えときなさいよ。今からあたしとアンジェリカはまた友達になるんだから!」

 

なぜデストロイヤーはアンジェリカを友とするのか?それはデストロイヤーの精神性の幼さに由来する。

デストロイヤーはイントゥルーダー、グリフィンではスプリングフィールドなんかに絵本を読んでもらったりしたらしい。

あんなに我が部隊を苦しめた鉄血がコレで良いのかとは思うがデストロイヤーが幸せなら良いか。

 

そして読み聞かせされた物語の中で特に気に入ったのが、何を隠そうパスタの国の王子様だったのだ。

 

あの本は素晴らしい作品だ。

1度読んでみたが感動した。絵本なんてはらぺこあおむしくらいしか覚えちゃ居ないが間違えなく名作だと感じることができる本だった。

 

「これ、あげる!」

 

「絵本?」

 

「体を直してる時の暇つぶしよ。早く元気になってよね」

 

デストロイヤーは持ってきていたカバンから何冊かの絵本を取り出すとアンジェリカに差し出した。

どうやらデストロイヤーセレクションらしい。

 

「俺は少し席を外す。治療頼んだぞ、2人とも」

 

「お任せください指揮官さん」

 

「ピンチの仲間を救う!いいじゃん、テンションあがっちゃう!」

 

「デストロイヤーは福祉公社の皆さんに迷惑をかけないようにな」

 

「なにそれ。心配しなくてもそんな事しないわよ!行こアンジェリカ!」

 

プンスカと怒ってアンジェリカの手を引く彼女を見送り、俺とイントゥルーダーは公社の中を行く。

もちろん公社職員の監視は着いているが、何も企む事が無いのだから空気と同じだ。

 

さて、これから俺が向かうのは戦場だ。

あのいかにも百戦錬磨の相手に、俺は生き残れるのだろうか?

 

「こっちだ。失礼の無い様にな」

 

浅黒い肌に金髪オールバックの職員が開けた部屋には部長室の文字。

その扉の向こうには、いかにもと言った風体のモニカ・マリア=ペトリス統括部長。

そして作戦二課を担当するロレンツォ課長。

 

どちらの目も平静を装ってはいるが困惑や疲弊を隠せては居ない。

恐らく最初に交渉したカリンのカードが効いたのだろう。

挨拶もそこそこにソファに座った。

 

『どんな相手も札束でぶん殴ってメリットを提示すれば頷きますわ!それに最悪のカードも切りましたし』

 

そう元気に言っていたカリンのアドバイスは正しかったらしい。

 

「わざわざ来て頂いて感謝するわ。早速だけど、我々は貴方の真意を聞きたいの」

 

モニカ部長はハンカチで汗を拭い、問う。

 

「貴方は何が目的なのかしら」

 

「目的?そんな物を聞いてどうするんです?」

 

「申し訳ないけど我々はグリフィンを信じられないわ。突然現れて職員を拉致、義体を連れ去り、何度か交戦経験もある貴方達が何故スポンサーとなったのか」

 

なるほど、少しばかり……いや、かなり警戒されているが当たり前か。

しかして問題は俺の言う事を信用してもらえるか……だな。

 

「私は目指すのは全ての義体の生存、そして幸福。それが我が家族の願いであり、我が目的であり、我が存在意義です」

 

ヘンリエッタ、優しい子だった。

Alfaと2人で星を教えてくれた。

 

トリエラ、賢い子だった。

部隊運用について意見してくれたこともあった、彼女に家族の命を救われた事も多々ある。

 

リコ、好奇心が旺盛な子だった。

WW3の荒廃した世界でもあの子の興味関心は止められなかった。

 

アンジェリカ、人を慈しむ事のできる子だった。

生体兵器として改造されたパラデウスに涙を流したのはこの子だけだ。

 

クラエス、大人びた子だった。

だが確かに少女の心を持った可愛らしい子だ。

 

「あの子達は生きねばらならない。それも幸せに、えぇ幸せにです。大きな銃と小さな幸せなんかじゃない。たっぷりの幸せを受けて笑う姿を俺は見たいんです」

 

「そのために、福祉公社のスポンサーになったと?狂ってる、常人の考えではないわ」

 

常人?常人と言ったか?

 

この場に居る誰もが常人ではなかろうに。

 

「国の為にと少女をキリングマシーンに変える貴女方と私、一体どこが常人だと?まさかその手がキレイな手だとは言うまい?」

 

「道徳の話かしら?」

 

「逸らすな。俺は目的の為なら何でもしてやる、何でも敵に回してやる。例え血反吐を吐いて汚泥を啜ろうと、家族の為ならな」

 

「あのカリーナと言う娘の言う事が本当なら、グリフィンはイタリアを敵に回すことになるわ」

 

「いけないか?イタリアを敵に回して。我々にはそれだけの力がある、ただの警備会社とは思わん事だ」

 

そう、福祉公社やイタリアの上層部には1つ伝えている事がある。

それは……

 

「コーラップス爆弾。1つ起爆するだけで地獄を作れる、それを我々は持っている」

 

基地の地下深くに安置されているコーラップス液を兵器転用すればどのような事になるのか。

既に福祉公社には情報を送ってある。冗談と割り切れない、信憑性のある情報を。

 

コーラップス爆弾、実は原作開始以前にアメリカがベトナム戦争に投入していたのだ。

それをイタリアで起爆すればどうなるか……

 

「もっとも、イタリア政府は我々を福祉公社のスポンサーとして認めてくれたのでな。テロなどはせんよ、何よりクローチェ兄弟から睨まれる。それは嫌だ」

 

爆弾テロで人生を狂わされた2人に爆弾テロは地雷だろう。

あの2人も何れはグリフィンに引き込みたいのだから心象が悪くなるのは頂けないな。

 

「我々としては義体と担当官さえ無事ならば公社職員の命なぞどうでもよい。特に貴女達の様な義体を捨て駒として考える人間は、この手で縊り殺してやりたいくらいだ!しかしまぁ、義体となったから彼女達は生きている、その点は感謝しよう」

 

そう言って頭を下げる。

どうした?狂人を見る顔をして、毎朝鏡を見ているのなら見慣れた物だろうに。

 

「指揮官様、お相手が困っていますわ」

 

「あぁ、これはとんだ失礼を。どうか許して頂きたい」

 

イントゥルーダーに声をかけられ、分裂した俺をひとつに戻す。

そうだ。失礼をしたなら謝らなければ。

 

あれ?

 

そう言えばなんで俺、ヘンリエッタ達と過ごした記憶があるんだっけ。

あぁ……

帰ったら調整が必要だな。

 

───────────────────

 

「あれ。マルコーさん、あの子達は?」

 

「あぁプリシッラか。例のグリフィンが寄越した医療班とアンジェリカの見舞いらしい」

 

「お見舞いって……アンジェリカの知り合いですか?」

 

「知らん。ただ、もう仲良くなっちまってる」

 

マルコーとプリシッラの目線の先では一緒に絵本を読んでは感想を語らうアンジェリカとデストロイヤー。

デストロイヤーが持ってきたリュックサックにはいっぱいの絵本が詰まっている。

 

その1冊1冊がデストロイヤーにとって思い出深い大切な物だ。

 

「お見舞いは分かりましたけど、医療班は?」

 

プリシッラの疑問の声にマルコーは顎をしゃくってHS2000とPA-15を指す。

 

プリシッラは一瞬驚いたが、福祉公社の医療スタッフと何が何やら分からない専門的な会話を繰り広げる彼女達を見れば、否が応でも納得せざるを得なかった。

 

「あんな子供達がですか!?信じられない……」

 

「そうですか?」

 

「あ、聞こえてた?私はプリシッラよ、よろしくね」

 

「初めまして、グリフィン医療班のHS2000です。わたしからすれば、こんな杜撰な技術で人間を改造する方が信じられません」

 

医者というのは得てして歯に衣着せぬ物言いをする物だ、それはHS2000も例外では無い。

 

イタリアの技術の粋を集めた義体化手術を杜撰の一言で片付けられれば、医療スタッフでは無いプリシッラも少しカチンとくる。

 

いや、その技術の粋を集めて尚酷い状態になっているアンジェリカ達をバカにされたように感じたからだ。

プリシッラはそう言う女性、福祉公社で働くには少しばかり常人の考えが捨てきれない人なのだ。

 

「酷い言いようね」

 

「事実です。でもまぁ、それを何とかする為にわたしが派遣されましたから」

 

そう言うとHS2000は福祉公社の医療スタッフと共に部屋を出る。

プリシッラはグリフィンから派遣された小さな医者にただ驚くしか無かった。

 

ふと、プリシッラの耳にアンジェリカの笑い声が入った。

そちらに意識を向け直せば、少女らしい笑顔を見せるアンジェリカ。

 

その笑顔に心を洗われる。

 

「アンジェ、お友達ができて良かったわね」

 

「はい、プリシッラさん!」

 

「あなた誰?」

 

「ふふ、チャオお嬢さん。私はプリシッラ、愛の堕天使よ、よろしくね」

 

「何それ、まぁいいわ。あたしはデストロイヤーよ」

 

「デストロイヤーって、物騒な名前ね。本当の名前は教えてくれないの?」

 

「本当も何もこれが名前よ!」

 

プンスカと怒るデストロイヤー。

福祉公社の義体達には居ないじゃじゃ馬な子に、プリシッラは思わず笑をこぼす。

 

アンジェリカ達義体もこんな風に感情表現をしてくれれば。

そんな思いをプリシッラは抱いた。

 

「あははっ!プリシッラさん、私とっても面白いお話を教えて貰ったんですよ!」

 

そう言ってアンジェリカは1冊の絵本をプリシッラに見せた。

 

少女の夢と思い出が詰まった素敵な童話集。それを見たプリシッラは、いや、マルコーでさえ目を見開き詰め寄る。

 

「これって……」

 

「バカな!」

 

マルコーがアンジェリカからひったくる様に手に取った童話集にはイタリア語が書かれていた。

 

La principessa del regno della pasta。

 

「パスタの国の……王子様……」

 

「おじさんもその本を知ってるの?」

 

「これをどこでッ!」

 

「アンジェリカから借りたのよ、やっと返せたわ」

 

思わず掴みかからんとばかりに詰め寄るマルコーにデストロイヤーはあっけらかんと言い放つ。

 

その言葉にアンジェリカは困惑した。デストロイヤーとは今会ったばかりなのに、彼女の言い方はまるで以前あった事があるかのようだからだ。

もちろんデストロイヤーの言うアンジェリカは義体では無く戦術人形のアンジェリカ。だがそんな事はマルコー達が気づきようもない。

 

だからデストロイヤーは説明したのだ。

 

自分達が何者で、どこから来たのかを。

 

そして何が目的なのかを。

 

「じゃあグリフィンの人達は皆ロボットってこと!?」

 

「第三次世界大戦?タイムスリップ?信じられん……」

 

「戦術人形になった私……」

 

三者三様に言葉を詰まらせ驚く様は、デストロイヤーを大いに満足させる。

 

デストロイヤーはこういう所のある娘だ。

 

「そうよ。そしてアンジェリカとあたしは友達だったの、よく本の貸し借りをして」

 

「おぉ、居た居た。帰るぞデストロイヤー」

 

「あ!指揮官!」

 

トテトテと歩いて来るデストロイヤーを笑顔で迎えるサイファーとイントゥルーダー、そんな2人はマルコーとプリシッラを見やる。

 

マルコーは温度の整えられた室内には似つかわしくない汗をかき、プリシッラもその顔色は悪い。

 

「その……何かありましたか?もしかしてデストロイヤーが失礼を?」

 

「い、いいや……」

 

「?そうですか、なら良いんですが」

 

「ねぇ指揮官、もう帰るの?」

 

「あぁ、ごめんなデストロイヤー。俺も仕事があるから帰らないとダメなんだ、アンジェリカ達の定期検診には連れて来てあげるから許しておくれ」

 

「約束よ」

 

「分かってる。では我々は帰ります、お邪魔しました」

 

そう礼儀正しく頭を下げて去って行くサイファー。そんな彼らの姿が見えなくなるまで動けなかったプリシッラは、部屋にマルコーとアンジェリカしか居ないことを確認してホッと胸をなで下ろす。

 

そんな風に気を緩めたプリシッラとは対照的に、未だ緊張感を持ったマルコー。

 

「おいプリシッラ。今のは誰にも話すなよ」

 

「分かってますよ。それに誰が信じてくれるんですか?頭がおかしくなったと思われて閑職に回されちゃいますよ」

 

「そう……だな。分かったな、アンジェリカ」

 

「はい、マルコーさん」

 

焦る大人達とは裏腹に、アンジェリカは新しい友達から譲り受けた童話集達を大切に抱えた。

 

(デストロイヤーちゃん、また会えると良いな)

 

小さな天使は楽しげに微笑んだ。

 

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