このお話を読んでくださっている皆様
何とか書けはしたのですが大変に短くなっております。
これからも完結目指して頑張りますのでご理解いただけると幸いです。
小太鼓を叩くような銃声が連なり、真鍮製の空薬莢が甲高い声を上げるシューティングレンジ。
そこに私、クラエスは居た。
うっすらと硝煙をあげるVP70を下げてホッと息をつく。
「やるなぁ、高得点じゃないか」
彼の声に振り返ると、サイファーさんが何故か誇らしげに拍手をしていた。
「こんにちはサイファーさん。今日も暇なんですか?」
「暇じゃないさ、クラエスに会うのも立派な仕事だ。それに今日は差し入れもある」
「今日も、でしょう?またジャンさんに怒られますよ」
「今日は甘い物じゃないから大丈夫だ……多分な」
この人は何だか不思議な人だ。
私達よりもずっと年上なのにそれを感じさせない、よく言えば柔らかい人だ。
まぁ、子供っぽいとも言うのだけれど。
そんなサイファーさんは相変わらず子供の様な笑顔をして植物の苗を渡してきた。
「ウチの基地には家庭菜園があってな。増えた苗をクラエスに渡してくれってラ……まぁ、用務員に言われたんだ」
「ありがとうございます」
「それと差し入れの缶コーヒーをどうぞ」
「……カフェラテはコーヒーじゃなくてコーヒー飲料です」
私達はシューティングレンジ内のベンチに座って少し休憩を挟むことにした。
「どうかな?新しくなったシューティングレンジは」
「はい。色々と使いやすくなってます、空調がしっかりと効いてて過ごしやすいです」
「ウチの工兵隊は優秀だからな、他にも何か要望があれば公社の人に言いなさい。できることはしよう」
「スポンサーとしてですか?」
「それもあるが……只単に俺が君達を手伝いたいのさ」
この人は何者なんだろうか。
彼に会う度、私はそんな疑問を考えてしまう。
でも分かることは殆ど無い。
今まで分かった事は彼が甘い物好きであること、グリフィンの人間と深い関係があること、年の割に子供っぽいこと。
今のように、時折哀しい目をして遠くを見つめること。
そしてそれを私達義体に隠そうとすること。
でもどうしてか、彼がなぜ哀しい目をするのかは聞けなかった。
「クラエスどうかしたか?」
「……いえ、何も」
「そうか。しかしこうして無為に時を過ごすのも悪くは無いな」
「やっぱり暇なんじゃないですか」
返答に困ったのだろう。彼は知らん振りをするように顔を背けてしまう。
そんな幼稚な仕草に、私は呆れるでも無く思わずクスリと笑ってしまう。
こうして誰かと無為に時を過ごすのは初めてだ。それが彼のような大人の男の人なら特に。
でもなぜだろう。頭では無い、心のどこかに同じような物がある。
頭では無く心が、血が覚えている。
そんな気がするのだ。
「クラエス?」
「いえ、少し……昔のことを思い出してたんです。多分、お父さんとの記憶」
私はふと、なぜこんなことを彼に話したのかと疑問に思った。
そんな思わずこぼれた言葉に、彼はまた哀しい目をした。
「すみません……こんなこと」
「いいさ、人間生きてりゃ感傷的になることだってある。クラエスのそれは人間なら当たり前のことなんだ。気にすることは無い」
そう言って彼は深く、暗く濁って、でも優しい目を私に向けた。
なるほど、リコとヘンリエッタ達が怖がるのも頷ける。
それほどまでに歪な瞳だった。
「指揮官、どこですかー」
「む、M4か」
彼はどこからか聞こえてくる声に反応すると、缶に残っているカフェオレを一気に飲み干した。
「どうしたんですか?」
「この声は今日の副官のM4だ。そろそろ帰る時間だったかな」
シューティングレンジに、そのM4と呼ばれた人が入って来た。
私は艶やかなロングヘアの女性がM4と呼ばれる人だと理解する。
サイファーさんが1人で公社に来ることは無い。いつも医療スタッフだというHS2000さんやPA-15さんとは別に、毎回違う人が副官として来る。
今日のM4さんも見たことが無い人だった。
「クラエス、こんにちは」
「こんにちは」
だと言うのにM4さんはまるで以前に会ったことがあるように接してくれる。
いや、この人だけでは無い。グリフィンの人全員がそうなのだ。
「それでは指揮官、行きましょう」
「そうだな。じゃなクラエス」
その後は例の方と会談です。そんな話をして去って行く2人。
そこで私はこの人達に疑問を言ってみることにした。
「サイファーさん、貴方は一体何を見ているんです?」
普段なら他人に口出しするような事はしない。でも何故か、今日は聞いてみたくなった。
それだけのことだ。
「知りたい?」
ゆっくりと振り返った彼は変わらず哀しそうに、けれどどこか楽しそうに問い返す。
「……えぇ」
「教えてあげない」
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イタリア フラスカティのワイン農園にて。
「農園の暮らしに飽きたか?ピノッキオ」
「いや……意外な程に馴染んで自分でもびっくりしてるよ」
ブルートとトリエラから逃れて数ヶ月、ピノッキオとフランコはフランカが所有するワイン農園に身を寄せていた。
ローマの目と鼻の先だと言うのに警官の巡回すらないほどの長閑さだ。
「案外、合ってるのかもな」
「おじさんの、その眼帯も似合ってるよ」
麗らかな木漏れ日の中で過ごす2人。ともすればテロや殺しの事など忘れてしまいそうだが、彼等は忘れる事は出来ない。
特にフランコはそうだ。
あの時、モンタルチーノで対峙したブルートに切り裂かれた左眼が。
眼帯の下に隠された潰れた眼には、確かに復讐の念があった。
それが忘れる事を許さない。
「……お前が伸び伸びとしているのを見るていると、当分ここに居るのも悪くはないとフランカが言っていた」
「でも腕が鈍る」
殺しも仕事も何もかもを忘れて、ただ生きるのも悪くは無い。だがフランコとピノッキオはどこかで感づく物があった。
そう遠くない内、自分達は殺しにに戻らなければならない。
フランコは己を生き返らせてくれたフランカのため、ピノッキオは自分を拾って育ててくれたクリスティアーノのため。お互いに生きる動機のため再び武器を手に取るのだと予感めいた何かが囁く。
そしてその予感は的中するのだ。
ワイン農園に潜伏するフランカフランコ ピノッキオの元にクリスティアーノが共和国派の内紛のため当局に売られるとの情報が入ったのは直ぐのことだった。
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「お前は……」
「突然の訪問をお許しくださいシニョーレ。私はサイファー、PMSCsグリフィンの社長をやらせていただいております」
「グリフィンッ!?……なるほど貴様がサリエルのボス、と言うわけか」
「サリエル?あぁ、死を司る天使ですか。確かにウチの子達はあなた方テロリストから見ればそうなるのでしょうな」
「それで?貴様の用件は何だ。私を殺しに来た……という様には見えんが」
「流石はミラノの名士と謳われる人、慧眼であらせられる。そんな貴方に今回はお願いがあるのです、シニョーレクリスティアーノ……いや、ジュゼッペおじさん。これはそちらにとっても悪い話では無いと思いますよ?」