キリキリと痛む胃を抑え福祉公社の応接室から出た。
理由は簡単、クリスティアーノ襲撃作戦の時の謝罪である。
「胃が痛い……」
「指揮官、お疲れ様!でもあの人怖かったねー」
「あぁ、ありがとうペトラ。今回はこちらに完全な非があるから仕方ないさ。とりあえず帰ろう」
ジャンに睨まれてから背筋が冷たい、帰って温かい物が飲みたい……
64式消に茶でも淹れてもらおうか、この前仕入れた番茶がいいな。
そんな事を思いながら公社を歩いていると、赤毛の女の子と気の良さそうな男が目に入った。
「お久しぶりですサイファーさん」
「お、社長さんじゃないか」
「おぉ、ペトルーシュカとアレッサンドロじゃないか。あれからメイク技術は上がったかい?」
「P90とFMG-9が教えてくれましたから大丈夫です!」
義体2期生のペトラことペトルーシュカとその担当官アレッサンドロの2人。
一応はスポンサーだからな。
この2人にも挨拶と、取り急ぎなにか支援が居るかを聞いた時にメイクを教えられる人材の派遣を頼まれたのが交流の切っ掛けだ。
「あの2人は諜報班だからメイクや変装のレベルも高い、そちらにとって良い経験が詰めたのなら良かったよ」
「本当に助かったぜ、俺が教えるにしても限度があるからな。ところで隣の子は?見ない顔だが」
「はいはーい!わたしはスペクトラM4、指揮官からはペトラって呼ばれてるよ。よろしくね」
「え!?」
「スペクトラM4、それにペトラだって?あっはははは!」
ペトラの自己紹介を聞いたペトルーシュカは驚き、アレッサンドロはおかしな物でも見たかのように笑い出す。
あーそうか、そうだもんな。
俺は何となくその理由を察する事が出来たが、ペトラはバカにされたとでも思ったのか少し不機嫌そうだ。
「ちょっと何よ!何がそんなに面白いワケ!?」
「あーお嬢さん悪い悪い!」
「ご、ごめんなさい!実は私もサンドロ様からペトラって呼ばれてて。使ってるサブマシンガンがスペクトラM4だったからつい……」
「そうなの?確かにそれは面白いわね!」
ペトラはさっきまでと打って変わって笑い出す。
俺も最初は驚いたモンだったな、まさか原作を読んだら同じスペクトラM4でペトラがいたんだから。
「ペトルーシュカ、彼女はスペクトラM4の使い手だ。もしサブマシンガンで分からない事があると聞いてみると良い。良いかなペトラ?」
「もちろんよ!ねえペトルーシュカ、わたしあなたの事気に入ったわ。特にスペクトラM4を使ってる所とか!これから仲良くしましょう」
「えぇ、よろしくね」
やや強引では無いかと思ってしまうが、当の2人は嬉しそうに握手を交わしているから良いんだろう。
こうして彼女達が喜んでいるのを見るのは何よりもの疲労回復になる。
「そういや社長さんにはまだ礼を言ってなかったな」
「礼?ペトルーシュカのメイクの件ならさっき」
「トスカーナの件だよ。俺達がある人物を国外亡命させていた時、グリフィンの部隊に助けられた。指示したのは社長さんだろう?」
「……たまたまウチの部隊が張っていて運が良かった、と言っても納得しないし、アレッサンドロは誤魔化せんか」
素直に認めるとニヤリと自信ありげに笑うアレッサンドロ。彼に嘘は通じないから認めるしか無いな。
トスカーナの件。原作でもあったアレッサンドロの師匠、ロッサーナを逃がす作戦。
たしか相手が右派左派のテロリストとかじゃなく政府機関だったから、念の為にとテロ予告があったと偽情報を流した上で部隊を待機させて居た。
確か配備していたのは……
「小さな女の子がグレネードランチャーで敵をぶっ飛ばして、黒髪の女が防弾仕様の車をガトリング砲で穴だらけにして……あれは一体何者なんだよ」
「ウチの社員で家族、頼もしかったろう?」
確かデストロイヤーとイントゥルーダーだったか。
「そりゃあ頼もしい事この上なかったが……相手は恐らく政府のどこかの組織だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫、もう手は打ってある。俺はポンコツだが俺のバックに居る子達は皆優秀だからな、それに」
「それに?」
「もし奴らが軍隊なり何なりと差し向けても、こちらとしては返り討ちにできるさ。まぁそんな事にならないのが大前提ではあるがな」
「冗談にしてはキツイぞ、それ」
はっはっは!
ウチには優秀なスタッフと潤沢な物資、いざという時の奥の手も完備してるからな!
「もし福祉公社が差し向けられた時には盛大に歓迎するからそのつもりでよろしく」
「そうなら無いよう、ジャンさんをあまり怒らせない様に頼むぜ」
「しっかりと誠心誠意謝罪したし菓子折も良いのを選んだから大丈夫だ……たぶん」
会話もそこそこに、俺達はグリフィンに戻った。
ピノッキオの件が片付き、少しばかり訓練場が寂しくなった我が基地ではあるが。いつもの喧騒を取り戻している。
要は今日も今日とてテロやらデモやらで出動要請がかかっていると言うことである。
「基地に到着!これで歓迎会とかあれば良いのにねー」
「毎度毎度やられても困るし、謝罪行脚の帰還を祝われてもなぁ」
「それもそうね。じゃあ執務室に行ってさっさと仕事を終わらせましょうか」
執務室に戻り、ペトラと書類を捌いていく。
どこの広場でデモをするから警備を配置や、どれだけの資材を購入したのかとかと言った書類仕事をこなしホッと息をつく……間もなくデスクの固定電話が慌ただしく着信音を鳴らした。
「はい、こちらPMSCsグリフィンです!はい……はい。かしこまりました」
「どうしたペトラ?」
「また警備依頼、共和国派の爆弾テロ予告だってさ。ホント多すぎて参っちゃうわ」
「そうか……ついに来たか」
少しばかり震えそうになる手を握って、大きな大きな溜息を吐く。
爆弾テロなど、共和国派とかの過激派組織が跳梁跋扈の一歩手前なGUNSLINGER GIRLにおいては珍しくも無い。
しかしこのテロには大きな意味がある。
小さな天使のターニングポイント。
「あの悲劇はなんとしても阻止しなければならんのだ」
「指揮官?どうしたのよ」
「ペトラ、今すぐ腕利きの部隊を呼んでくれ。最重要オーダーを発令する」
もう二度と、あの子でトラウマを増やしたくは無い。
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福祉公社から去って行くサイファーさんとペトラを、私とサンドロ様の2人で見送った。
「……気を付けろよペトラ。あの組織は何か歪だ」
「え?」
ニコニコと人当たりの良い笑顔を浮かべていたサンドロ様が険しい目をしていつもより低いトーンで話す。
それには警戒心が現れていた。
サンドロ様は人間観察が得意だから私には感じられなかった何かを見つけたんだと思う。
「あ!サイファーさんの事ですか?確かにあの人は不思議ですよね」
「確かにあの社長も歪ではある。けど俺が一番気になったのはあの社長じゃなくてお嬢さんの方だ、お前は話してて何かクセとか見つけたか?」
「クセですか?」
「人は無意識的に身体を動かす。その無意識にそいつを知る手掛かりが現れるもんだ」
サンドロ様はそう教えてくれた。
私はうーんと唸ってさっきまでのやり取りを思い出す。
「……すみませんサンドロ様。思い出せないです」
「そうか、俺もだ」
「サンドロ様?」
「あのお嬢さんには無意識が無かった。社長さんの様に手のひらを隠そうとしたり、鼻を触ったりの無意識を、俺は感じられなかった。けどな、そんなのはあり得ないんだ」
サンドロ様はタバコに火をつけて紫煙を吐き出す。
私には、それはサンドロ様が頭の整理をしている様に思えた。
「子供だろうが老人だろうが、聖人だろうが人殺しだろうが。いや、生き物なら有るはずの無意識が無い。
まるで、そうプログラミングされたロボットみたいだ。しかもあのグリフィンって組織は殆どの人間がそうだ」
私はサンドロ様の説明に感心してしまった。
確かに、言われてみればそうであったように感じる。
「そこまで分かるなんて……サンドロ様はやっぱりすごいです」
「ばーか、年季が違うんだよ。ま、お前にも分かる日が来るさ」
「サンドロ様が教えてくれますか?」
「当たり前だろ。俺とお前は相棒なんだから」
サンドロ様の顔は、いつの間にか普段と同じ優しい顔に戻っていた。
ガンスリ9巻感想
「まだ遊びたい盛りの子供が……こ、子供が戦争をするもんじゃない!こんな事をしていると、みんなおかくなってしまう!」
友「子供に銃を持たせちゃいかんよ!」