GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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そばに誰がいて自分には何があるか

ある日のグリフィンの応接室。

なんて事はない日常だ、そんな日にジョゼ達が来た。

 

副官のM4が飲み物を用意してくれて、俺達はソファに腰を下ろす。

 

「アンジェリーナの様子はどうなんだ?」

 

「大丈夫、無事に孤児院に入ったよ。PPSh-41がバリアフリー化してくれたから十分に快適だろうさ」

 

俺がそう言うと、ジョゼは一言そうかとつぶやいた。

その口角がやや上がっているのを見逃さない。

 

「それを聞きにグリフィンまで来たのか?」

 

「そうだと言えば嘘になるな。少し確認したい事があって来たんだ、ヴェロッキオ大佐を覚えているか?」

 

「ヴェロッキオ……あぁ、実地試験の時にSOCOMで殺した男か。なるほど奴が闇に流した武器弾薬について追っているのか」

 

「話が早くて助かるよ。そう、その武器についてなんだ」

 

ジョゼはM4が淹れたコーヒーに口をつけ、一旦心を落ち着けるかのように飲み、その隣でヘンリエッタがどこかソワソワとジュースを飲んでいる。

 

俺はなんだか第六感とでも言うのだろうか、どこか直感めいたものを感じた。

これは大きな災いに繋がるのだと。

 

「ここ最近、派閥を問わず共和国派や過激派団体がどこかに移動しているらしい。どれもヴェロッキオ大佐が武器を横流ししていたと思われる者達だ」

 

「それは、何か起きるな……確実に」

 

「何か心当たりは?」

 

「すまない。こちらも追ってはいるんだが奴ら紙や現金の受け渡しでやり取りをしているらしくてな、足を使って調べてはいるものの芳しくはない……ウチは皆が美人だからある意味悪目立ちするんだよ」

 

俺の物言いにジョゼは困ったような笑みを浮かべるのみだ。

 

ふとヘンリエッタを見ると飲み終えたグラスを持って手持ち無沙汰になっているようだった。

そして目が合った。早くにジュースを飲み終えたのが恥かしいのか、この子は少し恥ずかしそうに目をそらす。

 

可愛らしい子だ。

 

「おかわりはいるかな?ヘンリエッタ」

 

「は、はい!お願いします」

 

「別に恥ずかしあることは無い、子供は大人に甘えるものだ。しかしヘンリエッタもこのジュースを気に入ってくれて嬉しいよ」

 

「はい、初めて飲むけど美味しいです」

 

初めて飲む?

いや、そんなハズは無いだろう。確か俺が腹を撃たれた後にジョゼとエッタが取材の体で来た時にも体にピースなジュースを出して……

 

あぁ……そうか。

 

「美味しいか、そうかそうか。ならお土産で何本か持たせてあげるから公社の皆で飲むといい」

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

そうか、義体の副作用が。

もうそんなに経ったのか。

 

「ふふっそうか、初めてか」

 

「指揮官……」

 

「大丈夫だM4、俺は大丈夫。けど後でちょっと頼らせてくれ」

 

辛いなぁ、ホント。

 

でも今はまぁ、M4達が支えてくれる。前よりはるかに楽だ。

辛いことには変わりないがね。

 

「……なぁサイファー、なにかあったのか?なんと言うか雰囲気が随分と明るくなった気がするよ」

 

「そうか?まぁそうだな……ちゃんと家族と向き合って、腹を割って話したからかな。情けない話だがようやく彼女達と本当に信頼し合えたというか、まぁそんなだ」

 

「家族と……か。少し羨ましいよ」

 

「何言ってるんだ、ジャンがいるだろう?それにヘンリエッタだってな。なんたって2人はフラテッロなんだから」

 

「そうか、そうだな。僕にもまだ残っているものがあるか」

 

ジョゼの優しげな微笑みに俺もなんだか安堵感のような物を感じた。

クローチェ事件で大切な者達を奪われた彼ら兄弟にも待っている人はいるし、心配する人はいる。

 

特に今まさにジョゼの微笑みに胸をときめかせているヘンリエッタのような、な。

 

「そうそう、俺も今何が自分にあるのか、これから何ができるかを考えたら悲観的な考えばかりしてられないなって気づいてな」

 

「これから何ができるのか?ですか」

 

「そうだぞヘンリエッタ」

 

こくりこくりとジュースを飲むヘンリエッタが問いかける。

 

「実はな、最近昔の事が思い出せなくなってきたんだよ」

 

「指揮官、その事を話してもいいんですか?」

 

「別にかまわんだろ、ジョゼとヘンリエッタなんだし」

 

俺の言葉にヘンリエッタは息を呑み、M4の口ぶりから深刻な事であると察したジョゼは静かに口をつぐむ。

 

だがまぁ、そんなに深刻な話では無い。

俺にとって学生時代にもストレスで記憶が飛んだ事もあるから2度目の経験でもあるし、通院から帰ってインフルじゃなかったよーとでも言うような物である。

 

だからそんなに堅くなられると却って話にくいな……

 

「記憶の接ぎ木をしすぎたのかストレスの影響かね、もう過去の事がさっぱりだ。親も友も、顔に名前に思い出にぼやけて思い出せん。俺の本名さえも」

 

「その、怖く……なかったんですか?」

 

「あぁヘンリエッタ、もちろん怖かったさ。1つ記憶が消える度に自分が消える様な感覚だ、痛みは無いのに体がバラバラに切り分けられるような。でも今は違う」

 

「違うんですか」

 

「そうとも」

 

おもむろに隣に座るM4を抱き寄せる。

服越しに感じる心地よい彼女の温もりに、安心する匂い。

鼓動の幻聴すら覚えるほどに愛しい、俺の家族。

 

それが何よりも力を与えてくれる。

 

「忘れた記憶を嘆いて下を向いているよりも、大切な存在と笑って新しい記憶を作った方が良いだろ?

人はいつか忘れるものだ、それが幾分早まっただけ。俺はこれからの記憶を、家族との思い出で飾りたいんだ」

 

「そんな簡単に割り切れるんですか」

 

「簡単ではなかったな。情けなく泣いて、喚いて、縋って……そうして考え出した1つの回だよ。今だって完全には割り切れていないさ、それに物忘れには対処法がある。

ヘンリエッタ、ジョゼが言っていた良い仕事とはどういう事かな?良い仕事は全て」

 

「……単純な作業の堅実な積み重ね」

 

そう言ったヘンリエッタはハッとした顔を向けてくる。

そうだ、それで良い。

 

「忘れたのなら思い出せばいい、簡単な事だろう?

難しく考えすぎて行き詰まったら単純化して考えるのも手段だよ」

 

「そう、ですね。忘れたら思い出す、そんな当たり前の事を忘れてました」

 

「もしそれでも辛くなったり苦しくなったら誰にでも良い、人を頼りなさい、君達はまだまだ子供なんだから。子供が子供らしく居られる様にするのは俺達大人のお仕事だよ。いっぱい甘えて、いっぱい大人を頼って、まぁ怒られん程度にワガママを言いなさい。それは人の子である君達に与えられた権利と義務だ。

もっとも、俺の様な大人が言えた事では無いがね」

 

こんなセリフはきっと聖人君子のセリフだろうさ。

俺もジョゼも、そんな子供を子供で居られない様な道に引き込んだ汚い大人だ。こんな事を言う身分では無い。

けれども言わなければならない。

 

ヘンリエッタ達は子供なのだから。

 

「いかんいかん、説教臭くなっちまったな。まぁ要は辛かったら1人で抱えるなって話だ、うん。だから2人とも忘れるな?そばに誰がいて、自分には何があるかを」

 

「そうだな、そばに誰がいて自分には何があるか。ありがとうサイファー」

 

「おうジョゼ、お前も困り事があったらいつでもウチに来てくれよ。前に言ったろ?

多くの物を背負う貴方に、私は敬意を表する。何かあれば遠慮なく連絡をしてくれって」

 

「僕は自分のやれるところまでやってみる。それでもダメだった時には頼むよ」

 

「もちろん、我々グリフィンはいつでも歓迎する」

 

俺とジョゼは笑い合う。

思えば俺も彼も遠くまで歩んだものだ、けれど目標は変わりない。俺はヘンリエッタ達を、ジョゼ達も含めて生かす。

 

なんとも傲慢な事じゃないか。死に行く者達を生かし助ける、セイバー気取りの愚か者。

けれども、この思いは決して独りよがりでは無い。M4達も同じ思いだと言うことを知ったのだから。

 

そう、自分は一人では無い。

そのことに、このフラテッロが気づいてくれたのなら、微かな記憶の底にある、あのバッドエンドとは違うエンディングにきっとたどり着く。

今はただ、それを願って。

 

 

───────────────────

 

 

ヘンリエッタに体にピースな原液を数本渡して2人を見送った。

既に日も傾きつつある夕暮れの執務室には俺とM4だけ。お互いに何を言うでも無くただ無為に時を過ごす。

 

「指揮官……さっきみたいなのはやめてください」

 

「え?あ、あぁ悪かった。いきなり抱き寄せたりして」

 

「ヘンリエッタ達の前はその……恥ずかしいから」

 

頬を赤らめて視線を逸らすM4の、なんと可愛らしい事か。

M16の妹自慢よりも、直に見た方その姿は遙かに素晴らしいと感じる。

 

そんなM4を思い切り抱きしめる。

今は二人きりだから。

 

「ちょ、ちょっと指揮官!」

 

「……ごめんM4、今はこうさせて欲しい」

 

耳元にかかるM4に溜息に、拒絶されるのでは無いかとも不安を抱くが、帰って来たのは彼女の優しくも強い抱擁。

 

それがなんとも心地よく。また、俺を繋ぎ止めてくれる。

 

「本当に……ままならんなぁ。心を強くあろうとしても、やっぱり……どうにもならんなぁ」

 

「大丈夫、あなたが悪い訳じゃ無いです。でも、それでも悲しくて辛いんですよね。

わたし達はあなたのそんな優しい所が好きですよ」

 

「ありがとう……ありがとうな、M4」

 

こうしている間は、泣いている実感がある。

悲しいと、泣きたいと思って流す涙。それは泣くことに気がつかず、ただ垂れ流す涙とは違う。

 

情けない事だが……どこか嬉しくもある。

自分にもこうして泣ける場所があるのだと。

 

「情けないと笑ってくれ」

 

「そんな事しませんよ、だってこれはわたし達が望んだ事なんですから。

わたし、こうしてあなたが頼ってくれるのが嬉しいんです。戦術人形であるわたし達が戦う以外でも役に立っているんだって感じがして」

 

「そうか……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

暖かさに包まれてM4とじっと抱き合う。

なんとも心地よく切ない時間の中、これが永遠に続けばとさえ思ってしまう。

 

しかしその思いは儚くも散った。

 

「あー!M4だけずるーい!」

 

パッと顔を上げるM4につられて見たのは、今にも抱っこを求めて飛びつこうとするSOPと、それを取り押さえるAR-15とRO。

そしてM16はニヤニヤと笑ってM4の肩を叩いている。

 

どうやら見られてしまったようだ。

 

「いやぁやるじゃないかM4!成長したようでお姉ちゃんは嬉しいぞ!」

 

「もう!姉さんってばからかわないで!」

 

「指揮官指揮官!わたしも抱っこ!」

 

「指揮官が甘やかすからSOPⅡはこうなったんですよ。早く抱っこしてあげてください、そうじゃないと一向に落ち着かないわ」

 

「……RO、あなたも大概SOPⅡを甘やかしてると思うのだけど」

 

先ほどとは一変して賑やかになった空気の中、俺はただ願うばかり。ただ静かに祈るばかり。

 

どうかこのまま、どうかこのまま彼女達と家族で居させてくださいと。




友「今回のハグも経験談か?」
 
「それと記憶が飛んだのもな。ブラックバイトとストーカー冤罪ふっかけられた時に彼女にやってもらった。オキシトシンどばどばだった」

友「その彼女って裏でデリヘルやってオメーの金盗ってホストに鞍替えした女?」

 「だから適応障害になった」

友「付き合った罰だよ」

 「コ☆ロ☆ス」

友「はい死んだー!」
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