GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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義体の使命

重苦しい会議室には福祉公社の担当官達と作戦二課課長のロレンツォ、そしてかなりの場違い感が否めない俺が詰めている。

 

その中でも一際重苦しい空気を発しているクローチェ兄弟。

あの2人は憎悪や殺意すら軽く超えそうな、不気味な黒が漂っている。

 

まぁ、ジャコモ・ダンテが出てきたらこうもなろうよ。

 

「それで奴らの要求は何です?こんな派手な事までして、その目的は一体」

 

「共和国派はアーロン・チチェロの解放を求めている」

 

ヒルシャーの問にロレンツォ課長が答えた。

その男はよほど有名なのか俺だけが分かっていないようで、他の面々は眉間を揉んだり天井を見上げたり。

 

アレッサンドロが顔に手を置いてあちゃーと呟いたのが聞こえた。

 

「すみませんロレンツォさん。そのアーロン・チチェロとやらは何者ですか?共和国派の重要メンバーなのは察したんですが」

 

「アーロン・チチェロは我々が捕らえたテロリストだ。クローチェ事件の実行メンバーに近しいと見られていた」

 

「ありがとうございます。それでその男は今どこに?この鐘楼占拠が陽動で、チチェロの奪還が本命と言う事はありませんか?」

 

「いや、それはない。出来ないと言った方が正しいか」

 

その物言いに困惑していると、アレッサンドロが言い辛そうに教えてくれた。

 

「ジャンさんが尋問を担当したんだが……非抑制型の自白剤ってヤバいシロモノを打ち過ぎてな。まぁ、アレだ」

 

「廃人になったから処分した」

 

悪びれる様子もなく言い切ったジャンに、アレッサンドロは肩をすくめて、そう言うこったとでも言いたげな目を向けて来た。

 

まぁ、あのクローチェ事件を実行したテロリストならジャンはやるだろう。

間違えなく、容赦もなく。

 

「そもそも国家がテロに屈するなどあってはならない。我々はこの事件を鎮圧し首謀者であるジャコモ・ダンテを捕らえなければならん」

 

「無論です。我々グリフィンはそのために居るのですから」

 

「心強い限りだ」

 

お世辞と言うことが見え見えなロレンツォ課長の言葉に適当な笑みで返す。

 

そして福祉公社の説明が終わったのなら今度は我々の番であるか。

 

「グリフィンから伝えたいことがあります。ヴェロッキオ大佐の武器横流しルートを辿って居るとき、奴らが別の補給経路を構築している事が判明しました。それはアフリカです」

 

「奴らの武器などどうでもいい!課長、直ぐにでも義体を突入させジャコモを始末すべきです!」

 

「待てジャン……続きを聞こう」

 

その黒い感情をこっちに向けるなよ……

 

「ありがとうございます。諜報班が入手した情報によれば奴らは炸薬量500キロ、威力にして巡航ミサイルクラスの弾頭を入手した事が判明しました。そしてそれがどこかに持ち出された様です。

今回のこの事件、軽率な突入は多くの死を招きます。どうか慎重な決断をお願いいたします」

 

そんな物が爆発すればどうなるのか、それを想像した者達は思わず息を詰める。

それで良い、無闇やたらと義体を突撃させるのはやらせん。

 

原作なんてうろ覚えになって来たが、たしかこの戦いで何人か殉職したのは覚えている。

そうはならないように務めるのだ。

 

決して死なせはせん、誰一人とて死なせなどするものかよ。

 

「今こうしている間にも時間は過ぎている!迅速に行動しなければジャコモに逃げる時間を与える事になる!」

 

「占拠された鐘楼に突入するのは誰だ?リコ達だろうが!あの子達は一発いくらの拳銃弾じゃない、命ある子供だぞ!」

 

「義体の使命は戦うことだ!ならば戦場で死ぬことが本懐だろう!」

 

「その生き方を強いた貴様らが言えたことかッ!」

 

俺とジャンは互いに怒鳴り、距離が近ければ拳を叩き込みそうになっていただろう。

まるでこの部屋の中には2人しか居ないかのように他人から目をそらして。

 

だから俺は拳を握り、自分に一発ぶちかましてやるのだ。

 

「……失礼しました。感情的になりすぎたようで申し訳ありません」

 

口内に滲み出る血の鉄臭さと腫れてくる感覚がする頬を押さえ、この何とも言えない空気の中で心を落ち着かせる。

 

俺は指揮官なのだ、だと言うのに感情的になってどうする。カッとなってで住まされる様な立場でも無いと言うのに。

 

「確かにジャンの言う通りですね、対応の鈍感はテロリストに利する事になる。出過ぎた真似をしました」

 

「そうだ、そして影響は共和国派だけは済まない、国民にも不安が広がる事だろう。そうならないために首相は早期解決を望んでいる、納得してくれとは言わんが理解はして欲しい」

 

悲しきかな宮仕えか、福祉公社の職員も大きく分ければ国家公務員だ。お上のお言葉は絶対であろうさ。

首相としてもここで失態を犯せば支持率も低下する、無茶を承知で言っているだろう。

 

だが承知は所詮承知だ。

 

「分かりましたロレンツォさん、理解は致します。しかし我々にも……私にも意地がありますので」

 

 

 

 

 

その後も話し合い……話し合いか?

まぁ手と銃が出てないから話し合いか。

 

最終的には「現場においては臨機応変、高度な柔軟性を維持しつつ対応致します」で解決した。

 

と、思いたい。

 

「ボス、そいつは話し合いじゃねぇ」

 

「だよなぁ。やっぱトミーもそう思うか」

 

「てか何でここに居るんだ?」

 

「俺も現場に出張るから。援護射撃は任せろ」

 

ルイスとAlfaに手伝ってもらって、体中に防弾プレートを装着したバトルドレスを着て自信ありげに胸を叩く。

今回はマシンガン系の経験値をたたき込んだからリコイルコントロールできません!とかにもならない。

 

持ってきたマシンガンを撫でてこれからの戦いがどうか無事に済むように祈った。

 

「トミーやルイスだけに良い格好はさせねぇよ」

 

「……ま、そう言う事にしといてやるよ。頼りにしてるぜ」

 

小気味良いを立ててバトルドレスを叩いた彼女は、トンプソンサブマシンガンを担いで率いる部隊と共に作戦準備に向かう。

 

本当にトミーは優しい。

きっと俺が作戦に参加した本当の理由も気がついているのだろう、でもわざわざ指摘する事も無く頼ってくれる。

 

「自分だけ安全な所に居られるかよ」

 

「指揮官、無理はしないでね」

 

「ルイス程じゃないが上手くやるさ」

 

嬉しそうに銃を手に取るシルヴィアとそのフラテッロを見る。

無表情ながら微かな関心を露わにして、担当官のベルナルドの話を聞いているベアトリーチェを見る。

 

『その生き方を強いた貴様らが言えたことかッ!』

 

……ジャンだけじゃない。福祉公社の面々にあんなことを言ってしまったんだ、腹くくって鉄火場乗り込まないと釣り合いが取れんだろう。

ヘンリエッタ達にそんな生き方を強いているのは俺も同じなのだ。

 

「オイオイ社長さんまで出るのか?俺達と一緒に後方待機じゃないのかよ」

 

「なんだ?アレッサンドロ達は後方待機なのか」

 

「あぁ、ジャンさんがジャコモは1期生で刺し違えるってさ。俺達2期生は後ろに下げられた」

 

「ふん、刺し違えなどさせるものか、ジャンの思い通りになどさせん。が、クローチェ事件の恨みは分かるからな、ジャコモを捕らえた場合は引き渡すさ」

 

ニコニコと人あたりの良い笑顔を浮かべるアレッサンドロに火をもらいタバコを吸う。

 

ジャンの気持ちも分からんでもない。

両親と妹と、愛する人を理不尽に奪われれば憎悪も芽生えるし手段も問わずに復讐したくもなる。

別にそれを否定はしない、むしろ応援する。

 

だが……やり方に納得いかんな。

 

「あの……そのジャコモ?は何者なんですか?」

 

「なんだ、お嬢さんはジャコモ・ダンテを知らないのか。コイツはとんでもない奴だぜ」

 

アレッサンドロは饒舌に、まるで自分の事のように稀代のテロリスト、ジャコモ・ダンテについてルイスに語り出した。

 

18歳の時、最初のテロとして米軍基地を吹っ飛ばしたとか。

拘置所から脱走して海軍のミサイル駆逐艦を攻撃したとか。

環境大臣を誘拐したとか。

 

そして極めつけはクローチェ事件。

 

「この写真の男がジャコモ・ダンテだ」

 

「うわ!見るからに悪い人じゃないですか!何かもう見た目が怪しいです」

 

「この男がか……テロリストと言うより浮浪者だな」

 

「確かに!橋の下でダンボールに住んでそう」

 

俺とルイスの身も蓋もない言いように、アレッサンドロはケラケラと笑いだす。

 

だってそうだろう。無精髭に暗い顔色、清潔感のない伸びきった髪にヨレヨレの服装は誰が見たってホームレスだ。

 

「社会に不満があるのなら正規の方法で声を上げろってんだ。武力闘争の末路なんて学校のテキストにだって載ってる」

 

「いや……ヤツは理由があって戦っているんじゃないと思うぜ」

 

「まさか手段のためなら目的を問わない、戦いそのものが動機?」

 

「俺はそう睨んでる」

 

「はた迷惑な野郎だ。そう言う考えは大戦争で地上が滅んだり、企業による国家解体戦争が起こったり、新物質が発見された惑星とかでやってくれ」

 

「嫌に具体的だなオイ」

 

その後もアレッサンドロと話をして、あとは少し頼みをして見送った。

 

アレッサンドロに頼んだことが杞憂で終わればいいのだが……あとは願うばかりだ。

 

「それじゃ指揮官、私も突入部隊の所に行ってくるから。あ!出撃のご褒美忘れないでね!」

 

「スペイン広場でジェラートか?」

 

「あたり!」

 

重さ12キロはある軽機関銃を軽々と担ぎ上げるルイスに別れを告げ、俺もマシンガンを携えジョゼ達の元に向かう。

 

「行くぞAlfa、ヘンリエッタ達は必ず守る」

 

「承知しました、私に任せてください」

 

 

───────────────────

 

 

「こちらサイファー、この作戦に参加するグリフィン各位に伝達する。作戦開始と共にルイス隊はシルヴィアとキアーラと共に鐘楼の正面扉に突っ込め。トンプソン隊はトリエラ、ベアトリーチェを連れ鐘楼を一気に登れ、上下で挟み撃ちだ。

福祉公社からの指令はジャコモ・ダンテの確保ではあるが……おそらくこの場には居ないだろう。よって我々の作戦目標はどこかに仕掛けられていると思われるミサイル弾頭の無力化と鐘楼の制圧だ。

なお鐘楼内には人質が居るとの情報もある、公社からは気にするなと言われたが発砲は細心の注意を払え……さぁ、始めるぞ」

 

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