GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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我々は未来人

突然だがこの基地には地下施設がある。

表には出せないK11の研究施設だったり、彼女達が使う修復施設だったり、尋問や処理を行う部屋だったり。

 

その1つがこの営倉だ。

 

電灯をつけているのに、どこか薄暗く感じるのはやはり地下にあるからだろうか。

 

「MP40、MP41。今日は無理を言ってすまないな、何かあった時は頼む」

 

「はい、どんなご命令でもお任せ下さい!精一杯頑張ります!」

 

「指揮官様にお仕えできるなんて恐悦至極です!何なりとお申し付けください!」

 

張り切っているのはありがたいのだが、彼女達のピシッと伸びた右腕を見るとどーにもこう……苦笑いが出てくる。

 

これは数年前の演説が原因だ。

俺はあんなアドリブなんて聞かせられるモンじゃないと思っていたが、意外にもウケは良かった。

Kar98Kを筆頭とした旧ドイツ軍勢力には。

 

特にこの姉妹は涙を流して右手を掲げていた。

 

うん……確かに参考にしたのは君達のトップだったけども、ここまでなるかね?

 

「俺が許可するまで発砲は禁ずる。いいな?」

 

「「Jawohl.Herr Kommandant!」」

 

営倉の詰所に居るKS-23にも挨拶をして、俺達3人は独房前に立つ。

中からは1人の息遣いが確かに聞こえてきた。

 

うーむ、これから原作の登場人物に会うと考えると緊張する。

だが戦術人形の彼女達と同じく、1人の人間であることを忘れないようにしなければならない。

 

カードキーをかざすと重い鉄属扉が開く、その向こうには1人の男。

 

「貴様は……」

 

「初めましてクラウディオ・ラバロ大尉。会えて光栄です」

 

俺は彼の使っていた杖を渡す。

 

独房のベッドに腰掛けていたのは、福祉公社に務めていながら良心や倫理観を捨てきれなかった担当官。そうラバロ大尉だ。

 

なぜ彼がこの基地に居るのか?

理由は単純、彼女達に頼んでスナッチして貰ったからである。

 

「共和国派では無いな、貴様らは何者だ」

 

「このような所に入れてしまい申し訳ない。詳しい事を話したいので、私に着いてきてはくれませんか?」

 

「ナチスの亡霊め、ガス室にでも送るつもりか?」

 

相手は初老に片足を突っ込んでいる男だ、それも事故で足に障害があるというハンデ付き。

 

なのに発せられる覇気は全くもって衰えてはいない。ただの一般人であった頃ならその威圧感に圧倒されていただろう。

 

「どうか反抗的な事はしないで頂きたい。貴方に何かあれば彼女が悲しむ」

 

「彼女だと?」

 

「貴方と血の通った約束をした女の子、と言えば分かりますか?」

 

「なぜ貴様がそれを!」

 

ラバロ大尉の動きに対してMP姉妹が反射的に動き、銃口を突き付けた。

 

一触即発のこの空気はあまり好ましくない。それに銃を突きつけられては落ち着いて話も出来ないだろう。

 

俺は2人の肩をそっと叩いて落ち着かせ、その銃口を手で遮る。

 

「いい、2人とも銃を下ろせ」

 

「しかし指揮官様!」

 

「いいえMP41、指揮官さまのご命令です。銃を下ろしてください」

 

姉に諭されたMP41も渋々といった様子で従ってくれる。

俺を思ってしてくれるのは嬉しいがラバロ大尉を死なせる訳にはいかないからな。

 

お礼に2人の頭を撫でているとラバロ大尉の方から口を開いた。

 

「条件付けか」

 

「福祉公社と同じと考えられるのは心外ですな、ヘンリエッタやアンジェリカの様な事はしていませんよ」

 

「……どこまで知っている?」

 

「それを話すためにも着いて来て頂きたいのです」

 

俺はドルフロのコラボイベントからGUNSLINGER GIRL……ガンスリにハマった。

単行本も買い揃えたし、アニメもゲームも買った。なんならフィギュアも買った。

全てとは言えないが福祉公社や彼らの事は分かる。

 

この作品の素晴らしさは語り尽くせないが、1つ言うなれば彼女達には死んで欲しくなかった。

例え一足先に楽になれたとしても生きていて欲しかった、こんな事に巻き込まれなければと思わなかったことは無い。

 

「どの道、大尉殿には拒否権はありませんがね」

 

「……フン」

 

しかしヘンリエッタ達は義体になったからこそ得られた物がある。

少女に与えられたのは、大きな銃と小さな幸せ。

 

俺としてはあの子達に目一杯の幸せと祝福を与えたい。いや、子供として当然の幸せと祝福を受ける姿を見たい。

そんな自己満足を満たしたい。

 

嫌々ながら手を取り立ち上がったラバロ大尉は、俺達の後に続いて営倉を出る。そしてそのままMP姉妹に連行されるように執務室に連れて行った。

 

「まぁ、座ってください大尉殿。MP40、コーヒーを2人分入れてくれ。冷蔵庫にお茶菓子が入っているからそれも頼む」

 

「畏まりました、指揮官さま。お任せ下さい」

 

俺と大尉が睨み合う事数分。

MP40が俺とラバロ大尉の前に小さなカップと皿を置くと、香り高いコーヒーが鼻腔をくすぐる。

 

本番イタリアのエスプレッソだ。そこいらのドリップコーヒーとは香りから味まで全てが違う。

事実カフェ店長のスプリングフィールドが太鼓判を押す程の味わいだ。

 

「ウチの部下が入れるコーヒーは最高の品ですよ。お茶菓子も部下が腕によりをかけて作ってくれた桜餅です、どうぞ召し上がってください」

 

一〇〇式と四式がたまに作る和菓子、これがまた意外な事にコーヒーと合うのだ。

彼女達曰く天然物の素材のおかげとの事だが、それだけでは考えられない美味さがある。

 

1回だけ普段彼女達が食べていたという合成食品を食べさせてもらった事があったが酷いものだったな。

 

「サクラ、モチ……ジャポネーゼか」

 

「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私のことはサイファーと呼んでください。しかしよく分かりましたね」

 

「数年前までは日本人の旅行者を見かけた、不況になったのか最近は見なくなったがな」

 

そう言えば日本はバブルが弾けた頃だったな。

チッ、もう少し早く転移していたら大儲け出来そうだったのに。

 

本題を忘れかけていた事を思い出しエスプレッソを飲む事で一端の区切りをつける。

このままどうでもいい事を話すのも良いが本題に入った方が良いだろう。

 

「それで、サイファーと言ったか。なぜお前達は俺を拉致した、お前達は何者だ、なぜ福祉公社の事を知っている」

 

「ラバロ大尉、読書家な貴方ならSFやファンタジー作品は読まれた事があるでしょう。ならタイムスリップや異世界転移という事は知っていますか?」

 

「冗談を言っているのか?真面目に答えろ」

 

「大真面目ですよ大尉殿。大真面目に、気がつけば半世紀以上も前のイタリアに飛ばされたんですから。そう……我々は未来人、とでも言いましょうか」

 

「そんな馬鹿げた話を信じろと?」

 

「ならば証拠を出しましょう。MP41、例の物を」

 

ラバロ大尉の後方に控えていたMP41がタブレット端末を差し出す、俺達からすればカリンが普段から持っている会社支給のタブレットだ。

 

だが1990年代からすれば未知の代物、なんせガラケーが最新機種として売られている時代だ。

軽くて丈夫な薄型タブレットなど、誰しもが夢見る未来の端末。

 

そして未知から流れるは彼の既知。

 

大人びた声色の少女の声。

 

「クラエス?!」

 

そう。戦術人形の子達と楽しそうに笑って畑を耕し、歌を歌うクラエスだ。

誰かのメモリーから取り出した映像の中で、普通の少女の様に振る舞う彼女の言葉一つ一つがラバロ大尉の胸を打った。

タブレットからクラエスの声が流れる。

 

眼鏡をしている時はおとなしいクラエスでいて欲しい……誰かとそう約束したんです、と。

 

私は無為に時を過ごす喜びを知ってますから。多分、遠い昔にパパか誰かに教えてもらったんだと思います、と。

 

「…………」

 

「いいですかラバロ大尉、落ち着いて聞いてください」

 

目頭を抑えソファに沈み込む彼に俺は説明した。

 

夢中劇と名付けたられた騒動のこと

義体から戦術人形として変わった彼女達のこと

我々が2060年代の未来から来たこと

そして基地の宿舎から忽然と姿を消したヘンリエッタ達のこと

 

「ラバロ大尉、我々の目的はヘンリエッタ達の回収。それが出来なくても、殉職は回避させたい。できるならば他のフラテッロ達も、ヘンリエッタ達の仲間なら我々の家族ですから。彼女達は幸せに生きる権利がある」

 

「義体の幸せのため、それが俺を拉致した理由か」

 

「えぇそうです。貴方は福祉公社をマスコミに告発しようとした。それが原因で不幸な交通事故に合うのですよ」

 

「口封じだな……」

 

「そうなる前に我々で保護させてもらいました。クラエスのパパなら、我々としても他人事では無い」

 

俺も話疲れた。一〇〇式お手製の桜餅を口にすれば、上品な甘さと塩気と共に独特の香りが口に広がって疲れを飛ばす。

そして口直しにエスプレッソを飲めば甘さをスッキリとした苦味で洗い流し思考をクリアにしてくれる。

 

さて、俺達の事情は話した。あとはラバロ大尉が納得してくれるかだが……このまま保護するしかないだろう。

 

「ラバロ大尉の疑問には答えられましたかな?」

 

「理解は出来た、納得はしていないがな。……俺はもう公社には帰れない、お前の話の通りなら口封じで殺される。他に行く宛ても無い」

 

「手厚く保護させていただきますよ。衣食住はもちろん、新しい脚も用意しましょう……しかしラバロ大尉にはやってもらう事があります」

 

ラバロ大尉の覚悟の籠った視線が俺を捉える。

 

「クラエスが居なくなってから菜園の手入れは我々が交代制でやっていましてね。大尉殿には、菜園の専属お世話係になってもらいます」

 

気の抜けた表情をする彼を見て、俺は笑った。

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