GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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デンジャークロース!

「完全な廃墟ですね」

 

「ここ一帯は1980年の地震で完全に放棄されたゴーストタウンよ。場所も山岳地だから浮浪者も住み着かないわ」

 

M4A1とAR-15は足を踏み入れてそう呟いた。

 

南イタリアのゴーストタウン。

AR小隊がハインドから降下したこの場所は震災によって放棄され、昔ながらの石作りの住居が自然へと帰りつつある旧市街。

 

色褪せて崩落した屋根、苔むした石壁に緑生い茂る街道。どこか神秘的な雰囲気のこの場所には不釣り合いな銃火器を携えM4達は進む。

 

「じゃあわたし達以外は全部撃っていいってこと?」

 

「民間人はいないと思いたいけど注意は払いなさいよ」

 

SOPⅡとROは共に周囲を警戒するもののそれらしい影は見当たらない。

放置され朽ち果てた家具と、野生動物の住み家に役割を変えた古い家電がほんの少し。

 

テロリストどころか人すら見当たらない状況の中、M16はふと変な気分になった。

懐かしいのだ。

 

「なぁM4、こうも人が居ないとなんだか昔を思い出さないか?無人の廃墟、動くのはコーラップスに汚染されたモンスターか鉄血だけの世界……」

 

「そうですね、もう随分と前のことです」

 

「あんな世界でも離れれば懐かしく思えるなんて不思議なモンだな。ま、今の生活の方が万倍マシだけどさ」

 

格段に美味くなった飯と変わらず美味いジャックダニエル。

基地には頼もしい仲間と、愛する妹達。

そして忠を尽くすと決めた指揮官。

 

自分は戦術人形だというのに酷く人間的な考えをしている、きっと指揮官の考えが感染したのだろうとM16は一人笑う。

 

「姉さん?」

 

「何でもないさ。さぁ、任務を終わらせて家に帰ろう。早く指揮官とジャックダニエルが飲みたい気分だ」

 

「いつもじゃないですか」

 

「そりゃあジャックダニエルは私の趣味で、私と指揮官は同好の士だからな」

 

AR小隊は静かに素早く、それでいて見落としの無いよう注意深く探索を続ける物の依然として人影すら無い。

これがただの探索であったのなら、ドングリでもかき集めて帰還してやろうとも思えるのだがとM16は考えた。

 

「今回の作戦、情報は大丈夫なんですよね?テロリストが居た痕跡すらありませんが」

 

「指揮官が言うにはニキータ・アラゴンとか言う国家安全保障会議の参事官が依頼してきて情報もくれたらしい」

 

「国家安全保障会議って……そんなところがグリフィンに依頼を?この国はよほど人手がないのか」

 

「どちらにせよ、私達のやることは変わらんさ」

 

ROとそんな事を話しつつ、さて引き続き捜索をとライフルを構え直したM16に通信がかかる。

 

「通信?404小隊から?」

 

ツェナープロトコルネットワークによる通信が彼女達の中でCOLL音をかき鳴らした。

意識を集中させ通信を繋ぐと銃声と爆音を背景に416の声が響く。

 

『誰でも良い!この通信が聞こえているなら撤退しなさい!』

 

「416か?何があったんだ」

 

416の叫び、いつもM16に突っかかる時とはまた声色が違う。

 

『わたし達は騙されたの!』

 

AR小隊全員の思考に嫌なノイズが奔る。人間的な表現をするのであればそれは悪寒であろうか。

 

騙された、誰に。

指揮官に?否、絶対に有り得ない。

なら事前に渡された情報が違うのか、それで騙されたということか。

 

瞬間、何かが発射される音を聴覚モジュールが捉える。

 

「ッ!?RPG!」

 

誰が言ったのか分からない。でも確かにAR小隊の誰かが警告を発したのは聞き取れた。

 

爆発する廃墟、炸裂した火薬の紅と爆煙の黒がAR小隊に襲いかかり、無いはずの鼓膜と内臓を揺す。

フラつく暇も無く遮蔽物に飛び込んだAR小隊、奇跡的に初撃が外れた彼女達を刈り取ろうと銃弾が飛来する。

 

「待ち伏せだー!」

 

「AR-15はRPGの射手を潰して!皆は援護を!」

 

SOPⅡが声を上げ、隊長であるM4は素早く指示を飛ばしM16達を率いる。

敵がどうとか何故待ち伏せされていたのかなど様々な考えが過るが今対処すべきは眼前の敵だ。

 

姉や妹達が応戦し、銃弾の応酬が静かだったゴーストタウンを騒々しく駆り立てる中で、AR-15は静かにスコープを覗く。

 

「ロケット弾の発射予測地点はおよそ2時方向の山岳地……見つけた」

 

敵は持っていたパンツァーファウスト3を再装填している。

丁寧に描かれた迷彩服に身を包み、防弾ベストとヘルメットで防御を固めて。

だがどれだけ防御を固めようとAR-15のVFLスコープに捉えられれば後は死ぬだけだ。

 

AR-15は何の躊躇いもなく発砲。

ロングバレルによって十分な射程を与えられた300BLK弾が敵の顔面を穿つ。

 

「RPG排除!」

 

「撤退する。RO、ヘリを要請して。迎えが来るまでは耐えるしかないわ」

 

「ひとまず移動しよう。廃教会ならランディングゾーンにもできるし抗戦しやすい」

 

M16の提案にM4は頷き、部隊を率いてゴーストタウンを駆けた。

立ち塞がる敵兵を撃ち、SOPⅡの榴弾でまとめて吹き飛ばす。

 

神秘的で退廃的美しさを静かに漂わせるゴーストタウンは既に戦場となっている。

銃声に爆音、流れ弾を受けた廃墟が倒壊する轟音。敵陣を突き進むAR小隊の怒号と死にゆく敵兵の断末魔。

 

AR小隊が廃教会に退避した頃には、それは正しく戦場であった。

 

「被害報告をお願い」

 

「数発被弾したが問題ない、防弾ベストに助けられた」

 

「弾薬が少ない、持ちこたえられるか……」

 

「グレネードランチャーの弾もあと三発しかないよ!」

 

M16は破損してその役目を全うした防弾装備を脱ぎ捨て、AR-15とSOPⅡは残弾に焦る。

 

廃教会に立てこもった事で敵が一旦の落ち着きを見せはしたものの依然として孤立した状態には変わりない。

M4もマガジンを交換し敵の攻勢に備えていると、ROが声を上げた。

 

「ヘリと通信繋がった!ハインドが全速力で引き返してくるわ」

 

「じゃあそれまで我慢すればあいつら全員皆殺しだね!」

 

ROの報告にパッと顔を輝かせて喜ぶSOPⅡ。

 

しかしM16とM4は素直には喜べなかった。

 

「姉さん。敵の装備も練度も、テロリストとは思えません」

 

「私もだ。どれも軍隊レベル、民間品の改造とかコピーなんかじゃない。まるで正規軍を思い出す」

 

「ここは山岳地帯なので戦車や装甲車が出てこないのは幸いでした。でもハインドが来るまで持たせられるか……」

 

「持たせるしかないさ。大丈夫だ、私達ならできる」

 

そう言い切る姉の姿はAR小隊に広がりかけた絶望感を晴らすには十分すぎた。

 

「そうね。今までだって散々無茶な任務を言われて生き残って来たんだから、私達ならできる」

 

「うんうん!お姉ちゃん達と一緒ならなんでもできるよ!」

 

「それなら彼らに地獄行きの道を教えてあげましょうか」

 

一転して好戦的な笑みを浮かべるAR-15達。

M16も笑ってM4に向き直る。

 

M16に瞳に映るM4もまた笑っていた。

 

「さぁ、やるぞM4」

 

 

 

 

 

戦闘再開を告げたのは廃教会を包囲する敵集団の一斉射撃だった。

 

目出し帽で顔を隠し、野戦服と防弾装備に守られた彼らは非常に統率の取れた射撃を行う。

ミニミ軽機関銃やベレッタAR70/90から放たれた銃弾は苔むした石壁を削り取り、腐った木製の骨組みを叩き折る。

 

しかしAR小隊には届かない。

それどころか反撃の一つとして返っては来ない。彼らの頭に弾切れが予感が姿を見せた時、それは投げられた。

 

「閃光弾を投げる!」

 

廃教会から投げられたのはM16が装備しているスタングレネー

ド。

だがそれは脅威ではない、なぜならどう飛んでも敵集団には届かないからだ。

 

スタングレネードはその閃光と轟音で敵を制圧する非殺傷兵器、屋内ならいざ知らず屋外の敵の対してはその効果は著しく低下する。

だから敵兵はあまり動きもせず、むしろスタングレネードを投擲するために姿を表したM16を射殺せんと銃口を向けた。

 

「頼んだぞ15!」

 

「外しはしない」

 

AR-15が素早く狙いをつけ、それを撃ち抜くのではなく撃ち弾いた。

 

空中を舞うスタングレネードが軌道を変える。

 

どれだけ優秀であろうと、どれだけ訓練を受けていようと、人間とは予想外のアクシデントや異常な行動光景を目にすれば思考に一瞬の隙が生まれるものだ。

今回のこれのような。

 

神業的狙撃技術で弾かれたスタングレネードが敵集団の中央に落ち、激しい閃光と爆音が彼らを包んだ。

 

昏倒する事は無いにせよ一瞬の空白が戦場に生まれ、そしてその白は致命的である。

 

「行くわよSOPII!」

 

「うん!突撃ー!」

 

M4とROの援護を受け、SOPⅡが敵集団に喰らいついた。

AR小隊の動きは全員が一流の兵士であり数多の激戦を潜り抜けたプロ中のプロ。そしてその中で一人異彩を放つSOPⅡは正しく獣である。

 

「みんな死んじゃえ!」

 

それは破壊の義手の名を表すかの如く。

 

SOPⅡが腕を振るえば敵の首はへし折れ、貫手を放てば防弾ベストのプレートごと体を貫かれる。

鮮血を浴び、返り血と狂気に染まったその顔は無邪気な程に歪んでいた。

 

「あっはははは!壊れろ壊れろぉ!」

 

「この程度ならなんてことは!」

 

「援護は任せて!」

 

SOPⅡを殺そうと動く者もいるが獣の様に俊敏なその動きでは照準どころか銃口すら向けるのは困難であり、ROとM4の的確な射撃がSOPⅡの防壁となっている。

 

闘志はある、殺意も滾るほど十分に。

体だってまだまだ動かせる。

しかし弾薬の底が見えてきた。

 

苦々しい顔でマガジンを交換するM4、そしてそれを援護する様にM16とAR-15が躍り出た。

 

「M4、私達も前に出るぞ!」

 

「私もM16もライフルが弾切れだ!こうなったら突撃してやる!」

 

M16はコルトパイソンを手にして、AR-15は太もものホルスターからナイフとP226抜いた。

 

AR小隊を取りまく確実に状況は悪くなっている。弾薬は底をつき、敵の包囲は厚く未だ部隊は孤立している。

 

「まったく……久々に骨の折れる任務だな」

 

「体が鈍ってるんじゃない?」

 

「そんなことは無いさ、妹達に良い所見せないとな!」

 

M16とAR-15は笑う。

 

「まだまだ殺せるよ!」

 

「もうSOPⅡったら……帰ったら洗ってあげるから、思う存分暴れなさい」

 

「みんなでお風呂だね!」

 

ROとSOPⅡも笑う。

 

「それで、どうすんだM4?まぁやる事は想像つくけどな」

 

「決まってます、絶対に帰るんです!私はまだ、指揮官にお願いを聞いてもらってない!」

 

M4も獰猛な笑みを浮かべる。

AR小隊が放つその気迫は確かな厚みを更に増し、5人だけのAR小隊を奮い立たせるには十分だ。

 

銃が無くなればナイフで、ナイフが無くなれば手で、手が無くなれば足で。

どんな手を使おうとも必ず帰還しなければならない。なぜなら指揮官にそう言われたから。

指揮官が帰ってこいと言ったから。

指揮官が待っているから。

 

じっくりと炙られる様な、ヒリつく焦燥感に包まれる空気の中でAR小隊も敵もじっと睨み合い、身動き一つで再び激戦となることは想像に容易い。

 

「デンジャークロース!」

 

睨み合いを終わらせたのは無線から聞こえた至近弾の警告と、風切り音と共に降り注いだ80㎜S-8ロケット弾。

 

炙られる様な焦燥感など一瞬の内に忘れてしまう程の現実の爆発が突如として敵を耕す。

人を消し飛ばし吹き飛ばし、圧倒的な破壊と暴力を振りかざした主がその巨体を表した。

 

「エース参上!助けてあげるんだから感謝しなさいよね!」

 

「爆撃のお届けだぜ、遠慮すんなよな!」

 

SKSとAK-47が駆るハインド クラカヂ-ルが悠々とランディングゾーンに降り立ち、兵員室を開け放つ。

 

「おいクレイジーイワン!もう少しで私達まで巻き込まれてたぞ!」

 

「アハハハ!仕上げが仕事を飾るんだ」

 

「はぁ?」

 

「終わりよければすべてよしだ!早く乗れよ、急いでんだろ」

 

M16達はコイツ絶対コクピットにウォッカを持ち込んでいると謎の確信を得ながらハインドに乗り込んだ。

 

「全員乗った!出して!」

 

「任せなさい!」

 

装甲に阻まれた弾が跳弾する、あの耳障りな音を掻き消す様に兵員室上のターボシャフトエンジンが唸りをあげ巨体を浮かび上げらせた。

 

乗っているのが人間なら内臓が揺れ動いたかのような錯覚を覚える勢いで再び離陸したクラカヂ-ルは、銃撃してくる敵兵をその重装甲で意に介する事は無く。

逆にチクチクと目障りな射撃をしてくる敵兵をAK-47が機銃で蜂の巣にする。

 

最大出力でローターを回し高く飛び去る。

高高度に達することには、兵員室の窓に曳光弾の軌跡が写ることも無くなり、AR小隊の面々もさすがにホッと息をついた。

 

着込んでいる装備も、銃も置いて楽になりたい気持ちが小隊内で芽生えるものの、戦術人形であるという一種のプライドで気力を保つ、

 

「助けられたな。基地に帰ったらジャックダニエルをおごってやるよ」

 

「ならウォッカにしてくれよ。仕事終わりにキンキンに冷えたウォッカを飲む!最高だぜ」

 

「仕事中も飲んでるくせに。あぁ、でも確かに美味そうだな」

 

廃熱のために胸元を開け放ち、ネクタイを緩めたM16は、今もコクピットのガンナー席でスキットルを傾けているであろうAK-47を少し羨ましく思った。

 

私もジャックダニエルを持ってくれば良かったと、指揮官から貰った葉巻を咥えて兵員室の天井を見上げる。

 

この作戦は全てが変だ。

何かではなく全ておかしい。

 

「吸わないんですか?」

 

「ん?」

 

「その葉巻です」

 

「あぁ。指揮官からプレゼントされたんだが、私はライターを持って無くてな。今度良いのを見繕ってくれるらしい」

 

咥えた葉巻をピコピコと動かすと、M4がうらやましそうな顔をした。

だがその目は未だ緊張感が抜けておらず、不安がにじみ出ている。

 

「M4、ちょっと来い」

 

「姉さん?」

 

「いいから」

 

M16が寄ってきたM4をしっかりと抱き締め、その背中を優しく叩く。

最初は驚いて逃れようとしたM4だったが、逃がすつもりのない姉の抱擁に大人しく従うしかない。

 

「指揮官とよくするだろ?だから安心できると思ってさ」

 

「姉さん……ありがとう」

 

「お礼を言うのは私の方だ。お前は自慢の妹だよ」

 

いつもAR小隊の隊長として、指揮官の副官として頑張っているM4は久しぶりに誰かに甘える様な気がした。

指揮官との抱擁と違って鼓動は聞こえないが、M4は姉の存在を確かめるように抱き返した。

 

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