M16の抱擁の中、M4が聞こえないはずの姉の鼓動を感じようと耳を澄ます。
そして聞こえた。
鼓動ではなく、警告を知らせるアラートが。
「ロックされた!?AAM!」
「フレア!フレア!」
SKSが乱暴に操縦桿を操りハインドを動かすと兵員室のAR小隊の激しくシェイクされる。
互いに絡み合い機内に体を打ち付ける中、コクピットからの怒号が響く。
機体下部から激しい閃光を発するフレアがまき散らされ、目標を誤認したミサイルが逸れた。
「RO……重いよ、潰れるぅ」
「重くない!」
「おいハインド!何が起きた!」
「対空ミサイル!SAMじゃない、これは……戦闘ヘリよ!機種はマングスタ!」
グリフィン技術班に魔改造にも近しい改修を加えられたハインド。それに取り付けられた高性能レーダーが敵機を捉え、SKSとAK-47も目視する。
その機体は丸みを帯びたハインドと違い、スマートで直線的な面持ちの機体だ。
「逃がすつもりは無いみたいね。いいわ、エースの力を見せてあげる!」
「хорошо!行くぞSKS!」
妙に性能の良いハインドを警戒してか後退する攻撃ヘリ、コクピットの2人は兵員室の惨事など気にも止めず突撃。
敵マングスタから放たれる対空ミサイルをハインドでは想定されていないマニューバ機動とフレアで強引に距離を詰める。
兵員室ではM16がM4を抱き止め、AR-15は備え付けの座席にしがみつき、SOPⅡとROが団子になって跳ね回っていた。
「クソ!クレイジーイワン共が!」
さすがのM4も口が悪くなる。
「おい!ちょっとはこっちの事を考えろ!」
「墜とされても良いならそうしてやるよ!」
「なら我慢してやるからさっさと敵を墜とせ!」
「Да!SKS、M16がもっと飛ばして良しだとさ!」
マングスタとクラカヂ-ルが踊るのは少しでも遅れを取れば墜とされる死のダンス。
2基のヘリが互いに激しく上下し、放たれた機銃の曳光弾が螺旋の軌跡を描く。
弧を描く様に旋回し、ローターを掠めたと錯覚するほど接近し交差する。
何度も何度も交差し、上下し、振り回して振り回されて飛行している。
ハインドの腹の中では団子になって跳ね回るSOPⅡとROに、とうとうAR-15が巻き込まれて戦術人形団子は大きくなっていた。
「あわわわわ!」
「うっ気持ち悪い……」
「なんで私まで!?」
SKSがハインドを操り回避を続けるが、重装甲重武装で兵員室まで抱えているハインドでは完全に攻撃を避けられずマングスタの20㎜機銃に被弾。
装甲板が貫徹される嫌な音が機内に響く。
「マングース野郎、あたしのワニ革に穴開けやがったな!」
ガンナー席のAK-47が吼え、操縦桿のトリガーを押し込む。
AK-47の視覚モジュールと連動するように改造された12.7㎜機銃がマングスタを銃撃、撃墜までは持って行けないもののメインエンジンから黒煙を吐かせた。
ハインドとマングスタでは後者に基本性能で軍配が上がる。
ハインドがいくら無類の強さを誇る最強ヘリとフィクションでもてはやされようと、既にロールアウトから30年は経っているし、しかも攻撃と輸送を同時に行う事をコンセプトとして開発されているので、純粋な戦闘ヘリのマングスタが性能は上だ。
だがグリフィンのハインドにも明確に上な物がある。
それはパイロットの差。
「良いぞ。マングスタのパイロットはへばってやがる」
「エリートな私に着いてこられなくて当然!このまま仕留めるわよ47!」
「Да-да」
機体に振り回されて受けるGと、SKS達が駆るハインドのプレッシャーが敵パイロットを疲弊させ鈍らせた。
「マシンスペックで勝ってるからって!」
SKSがスロットルを上げ最大出力で何度目かの突撃を敢行する、だが今度の突撃はスレスレを交差する軌道ではなく真っ正面からマングスタめがけての突撃。
カミカゼでも狙って居るのかと、ブレる照準で20㎜機銃や対空ミサイル、無誘導ロケットまでもを乱射するマングスタ。そのパイロットの恐怖に歪んだ顔を認識できると思ってしまう距離、その激突ギリギリの距離でSKSがフットペダルを踏み込み機体を動かす。
コクピットの視界が180度変わる。
鈍重なハインドが持てる力の全てを使い、マングスタを掠める様にロールした。
度重なる魔改造とSKSの謎の頑張りが実現した有り得ない光景。
ハインドの背面飛行である。
「後ろを取ったわ!」
「喰らえ!」
慌てて旋回するマングスタにAK-47がS-8ロケットを放つ。
直撃すれば主力戦車すら破壊可能なHEAT弾頭、戦闘用とは言え所詮ヘリコプターのマングスタに耐えられる訳もない。その機体は無残にも砕け散りイタリアの山中にその残骸をバラ撒いた。
「до свидания!」
勝利の美酒とばかりにAK-47がスキットルからウォッカを流し込む。
「どうよAR小隊の皆様方、エースの力を特等席で見た気分は?」
「……あぁまったく最高だった。最高過ぎてみんな目が回ってるよ、地上が近かったら今すぐ機体から飛び出したいくらい最高だ」
「ふふん!そうでしょそうでしょ!なんたって私はエースでエリートだものね!」
高らかに鼻を鳴らし上機嫌のSKS、どうやら続く様に無線機から流れたM16のため息には気がついていなかった。
追っ手を撃破しようやく穏やかな飛行に戻ったハインド、その兵員室に乗り込んでいるAR小隊は酷い有様だ。
M16とM4以外は疲労困憊とばかりにうなだれている。
「大丈夫か?」
手にしたアサルトライフルを支えに、座り込むM16が伸びきった妹達に声をかけるも大して良い返事はなかった。
「降りたらあいつらをコクピットから引きずり出してぶん殴ってやる!」
「RO、よしよししてあげるね」
「ありがとうSOPⅡ……おえ……」
M4にも何か声をかけようと、その綺麗な顔を覗き込む。
その顔に表情は無く、見る者がゾッとするような面があった。
「……今回の作戦、敵はただのテロリストじゃなかった」
「あぁ」
M16がM4の瞳に映る自身を見る。
妹と同じ面をしていた。
「パンツァーファウスト、ミニミ、ベレッタアサルトライフル、追加にマングスタ戦闘ヘリコプターだ。敵はテロリストじゃない……軍隊だ、それも正規軍。イタリア陸軍」
「404小隊も奴らに?」
「十中八九そうだろうな、私達だけが狙われたとは思えない。他の隊も同じだろう」
「つまり……正規軍が私達を、グリフィンを狙ってッ!?姉さん!」
「あぁ!SKS、増速しろ!基地がヤバい!」
更に速度を増し基地へと急ぐハインドの中、M4は只ひたすらに指揮官の無事を祈り続ける。
「管制塔、こちらクラカヂ-ル……おい管制塔!応答しろよ!」
「無線機の故障だと思いたいわ」
「さっきのマングース野郎が壊しやがったか、それとも……とにかく呼びかけは続ける」
AK-47とSKSが基地との通信を試みる。
既に敵の包囲を突破し、激しい空戦を乗り越えて時刻は夜だ。辺りを暗闇が包み、兵員室の照明がAR小隊を照らしている。
最悪の事態に備え、小隊は弾薬を補給し警戒態勢をとっていた。
その緊張に包まれた機内でM4が祈りを捧げるようにアサルトライフルのハンドガードを両手で握る。
『わたし達は騙されたの!』
『敵はただのテロリストじゃなかった』
『敵はテロリストじゃない……軍隊だ、それも正規軍』
「……指揮官、無事で居て」
悲痛なM4の声は頭上のエンジン音に掻き消される。
「そろそろ基地が近いはずだ……全員、最悪の覚悟はしておけよ」
M16の声に全員が視線を合わせる。
最悪の覚悟、M16の言葉の意味する物がなんであるかなどAR小隊は想像つく。
「もしそうなったら私は……」
隊の中でも仲間思いのAR-15がつぶやく。
普段は騒がしいSOPⅡもその様子を心配してAR-15に寄り添っていた。
杞憂であって欲しい思いとは裏腹に、自分達同様グリフィンの部隊が襲われた事実が鋭いその身を突きつけてくる。
誰もが祈り願い、そして備える。
「おい……マジかよ……」
「そんな……」
ハインドのコクピット、一番外界を見ることの出来る場所に陣取るAK-47とSKSの絞り出すかのような声。
「ハインド!何があった、何が見えた!」
「基地が、基地が燃えている!」
ハインドの兵員室の窓。それが一瞬パッと明るくなった、色はオレンジ。
何かが燃えるような色。
「ハッチ開けるぞ!全員構えろ!」
機体側面のハッチが開かれる。
そしてM16は戦場を見た。
夜の闇の中、轟々と燃え盛る基地施設。
我が物顔で旋回している敵のヘリ。
ロケット弾を撃ち込まれたのか破壊され倒壊している格納庫。
そして懸命に応戦している仲間達。
「そんな……」
「遅かったの……クソ!」
M4とAR-15が呆然と広がる戦火に照らされる。
「まだだ」
M16は叫ぶ。
「まだ終わってない!」
M16はアサルトライフルを構え、揺れる機内から基地を占領せんと行動している正規軍を銃撃。
その発砲音がM4達の意識を切り替えさせた。
「AR小隊!基地上空に武装したUH-1を確認したわ、わたし達は空の羽虫を墜とす!あなた達は降下して基地を守って!」
「了解!」
ハインドが強引に高度を落とし強烈なダウンウォッシュが炎を押さえつけ道を作り出す。
AR小隊に迷いは無い。
大切な基地を、帰るべき家を攻撃された報復心が彼女達のメンタル内で紅蓮の渦を巻き上げ、思考からその身を焼き付く程の怒りが産まれる。
「あたし達は上空のクソ野郎共をぶっ殺してやる!下は頼んだ!」
「任せろ!行くぞAR小隊!」
M4達は戦場となった家へと飛び込む。