「中佐、メロイ中佐。こちらベニートです。突入部隊は準備完了、いつでも行けます」
『了解した、こちらからも支援砲撃を行うが巻き込まれるなよ』
短く通信を終えた彼、カラビニエリ第一パラシュート連隊の隊員であるベニート・ルッソは今回の作戦に嫌気がしつつも、しかし確かな覚悟を持ってフレッチャ歩兵戦闘車に乗り込んだ。
目的はただ一つ、グリフィンの基地を占領し連隊の名誉を取り戻すこと。
彼らはカラビニエリの精鋭中の精鋭である第一パラシュート連隊、当然それに見合う程の名誉と誇りを胸に職務に励んでいた。
同じパラシュート連隊のマルカントニオ・アバド中尉がマフィアやテロ組織に密輸品を受け流していて、逮捕されたと判明するまでは……
それからは瞬く間に第一パラシュート連隊も共同責任として謹慎処分を言い渡された。一時は隊の存続すら怪しいのではと根拠の無い噂話が一人歩きし、それすら信じてしまいそうな重苦しい思考が彼らの頭に根を下ろしていた。
厳しく容赦の無い訓練を耐え抜き、栄えあるカラビニエリとして祖国のために忠を誓った彼らであっても、その仲間が国に背き敵であるはずのテロリストに協力していた事。そして他の隊から向けられる侮蔑の視線は、己の胸の内から煮えたぎる油が沸きつづけるような苦渋だった。
それを終わらせるために彼や仲間達は集結したのだ。
「渡された情報を見たか?グリフィンとやらは年端もいかない女子供に武装させているようだ」
「協働で事に当たる福祉公社も同じらしいが……まったく嫌になるぜ」
「あぁ、マルカントニオのやつが反政府活動なんてしやがったから子供を撃たなきゃいけなくなったんだ。あの馬鹿野郎め」
「だがそんな馬鹿でも俺達の仲間だ。ケツくらいは拭いてやろうじゃないか」
パラシュート連隊の隊員が口々に悪態をついてライフルの薬室に弾薬を装填、子供を撃つ覚悟を胸に車両に乗り込む。
ベニートは無線機を動かし仲間と繋げた。
「俺達はこれから敵基地に突入する。事前に敵主力部隊は偽の依頼で基地を離れていることは確認済みだ、だがそれでも敵の戦力は未知数……だが臆するな、この作戦にはアリエテ戦車とフレッチャ歩兵戦闘車もいる。もし怖がるなら連隊が無くなることに恐怖しろ!」
歩兵戦闘車 主力戦車 歩兵を乗せた4WD 攻撃ヘリ 鉄の獣の心臓に火が付けられ唸りを上げた。
「これより我が隊はグリフィンに侵攻し敵指揮官を排除、基地機能を掌握し動員されている少年兵を武装解除させる。俺達の栄誉を取り戻すぞ、全車前進!」
ベニートの付けた腕時計の針が一瞬止まる1秒間、後方に展開したメロイ中佐率いる味方ロケット砲部隊からの爆撃がグリフィンの基地を揺らした。
時間通り完璧なタイミングでの攻撃。当たり所が悪かったのか派手な煙を上げて崩れる建物の轟音と敵襲を知らせるサイレンが鳴る基地の正面ゲートにベニート達機甲部隊が突撃する。
迫り来る外敵を阻むためのゲートが迫るが、機甲部隊よりも先に上空を進むヒューイから放たれたロケット弾が防壁を吹き飛ばし道を作り出した、
地上部隊はアリエテ戦車を先頭にして突撃、続く形でフレッチャ歩兵戦闘車も雪崩れ込み、後部ハッチを開け放つ。
「歩兵部隊、展開急げよ。さっさと敵の頭を潰してこい」
「おうよ!子供を盾にしてるクソ野郎はキッチリぶっ殺してやるぜ!」
3両の戦闘車に続き4WDからも歩兵部隊が次々と降車し、彼らは精鋭の名に恥じぬ迅速な動きで陣形を整えつつあった。
そうして歩兵を下ろす戦闘車の装甲を銃弾が叩く。
ベニートが車長席のペリスコープを覗き込む、その先には懸命に応戦を始めたグリフィンの戦術人形、63式と56-1式。
「ど、どうしよう!応戦、応戦!?」
「敵戦車隊が基地に侵攻!応援を!」
まだ幼い子供が銃を手に撃ってくる。
何とも拭いきれない不快感と共にベニートは同じ戦闘車に乗り込む砲手に攻撃を命じた。
「……撃て」
「了解」
砲手はただ一言だけ応えると、彼女達を照準し発砲。
搭載された25㎜機関砲は何の躊躇いも無く砲弾を吐き出し、彼女達を破壊していく。
戦術人形など知りもしないベニート達は、砲弾が直撃し爆ぜる様に倒れた子供を見て顔をしかめた。
「嫌になりますね、子供を撃つなど」
「言っても仕方がない。さっさとサイファーとか言うクソ野郎を殺して制圧するぞ、そうすれば投降するだろ」
「だと良いのですが、本当に嫌になります」
「俺だって子供の死体に興奮する趣味はない……各車前進、このまま勢いに乗る」
瓦礫を、バリケードを、倒れ伏す戦術人形達を踏み越えてカラビニエリ達は基地内を進む。
栄誉を取り戻すために。
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「コンタクト!」
「カバー!」
降り立った基地のあちこちから似たような言葉が響く。
爆音 銃声 怒号 悲鳴 嘆き 叫び。
自分達の家が、居場所が破壊され失われていく。
燃え上がる火の手が家族との記憶を上書きしようとその手を伸ばしている。
M4はショートしそうになるほど荒ぶる怒りを胸に、戦場となった基地を進み、侵入者と交戦。躊躇う事など微塵もなく殺して行く。
あのゴーストタウンで敵対したのと同じ、テロリストではない正規軍だ。
「AR小隊!?無事だったんですね!」
敵兵を撃ちつつM4達が飛び込んだ遮蔽物、元は建物を支えていたであろう横倒しになった柱ではM14達が応戦していた。
「イタリア陸軍の攻撃です!MLRSで格納庫や各施設に攻撃を受けて……」
「敵の戦力は」
「歩兵の数は分かりませんが主力戦車のアリエテが2両、フレッチャ歩兵戦闘車3両、ヒューイ2機が侵入して来ました」
そう説明しているM14の横でM21が狙撃しながら話す。
「最初のロケット攻撃で重装部隊の装備格納庫がやられたの!瓦礫の中から装備を回収しようにも手が回ってなくて、IWS2000達が足止めはしてくれているけど……」
「あいつらだって歩兵戦闘車の相手が精々だろう」
「ハインドは?」
「羽虫の相手をしてる。それにロケットも残り少ないはずだ」
ハインドのスタブウィングには増槽とロケットポッドだけ、しかも対地支援と戦闘ヘリとの戦闘で弾薬を消耗している。
空襲妖精を発信させようにも飛行場は押さえられているし、対戦車兵器はM21の言うように瓦礫の中。
M16も応戦しつつ状況を伝えると、真っ先に声を張り上げたのはリロードを終えたM60だった。
「指揮官やカリーナ達非戦闘員の救助にはK2達が向かっている、私達の仕事はマナーのなってない来客を蹴り返す事だ!」
小柄なM60がフルオート射撃で荒れ狂う銃口とベルトリンクを巧みに操り敵軍に制圧射撃を行う。
毎分550発のレートで放たれた7.62㎜徹甲弾は射線上に居た者に死を、逃れられた者には厚いプレッシャーを与え、何よりもその派手なマズルフラッシュは味方を引きつけた。
「我々が道を拓くぞ、全隊私に続け!フーアー!」
「M60の言うことが正しいなら、私達もK2達の時間を稼ぐためにも打って出る方が良いか……」
「迷うなAR小隊!これ以上奴らの思い道理にさせないためにも動ける部隊を纏めなければならん、そのためにも我々が動くんだ。続け続け!」
炎が照らす闇夜を曳光弾と共にM60が走り、その姿は否応なしに味方を焚きつける。
雄叫びをあげ飛び交う銃声をものともせず戦うM60は正しく英雄であろうとした。
だがこの戦場となった我が家においてはM60の火は小さな火だ、直接その姿を見ているM4達AR小隊やM14達は鼓舞できても戦域全隊に散らばる者には届かない。
だがその火は確かに輝いている。
そして全てを焼き尽くすのを待っている。