カリーナが目にしたのは目を覆いたくなるような光景だった。
「酷い……」
戦闘から一夜明け、陽に照らされる基地は酷い有様。
未だ黒煙立ち上り崩れた建物、撃破された無人機と戦車装甲車が鎮座し、遺体の回収すら間に合わず屍を晒す者もある。
マシンガンの掃射を受けたのか無数の銃創をその身に刻む遺体。その一人を見て、退避していたラバロがつぶやく。
「パラシュート連隊か」
「ラバロさん?知り合い……でしたか」
「昔共闘した事がある、それだけのことだ。それよりもサイファーはまだ見つからんのか」
「はい……」
悲痛な面持ちのカリーナを、ラバロは初めて見たような気がした。
戦術人形達に拉致されグリフィンに身を置く様になってからの付き合いとは言え、グリフィンには良くして貰っていた。
そんなカリーナが纏うその空気に共鳴でもしたというのか、ラバロもまた、どこか胸の奥の忘れかけていたような物が痛みだす。
「すみませんラバロさん。少しお時間いいですか?」
「お前は」
「はい、64式消音短機関銃です。捕虜の尋問のことでお願いしたいのですが……」
「俺が必要なことか?」
「人間が介入しないと情報を喋らせる前に捕虜が死にますから」
ラバロは64式に連れられて捕虜の元に向かう。
冷たい風音に刃向かうように外骨格の駆動音を響かせて。
基地の地下にある尋問室歩みを進めるラバロの耳に防音材で防ぎきれない絶叫が聞こえてきた。
そして尋問室の扉が乱暴に開かれると、まるでゴミを扱うかのように血塗れの人間を引きずってUMP9が出てくる。
「あ、ラバロさん!どうしたの?」
「ッ!?その捕虜に何をした!」
「大したことはしてないよ?ちょっと皮を剥いで、中身を引きずり出しただけ」
ずるずると廊下に血の跡を残してUMP9はゴミを捨てに行く。
その姿は普段の陽気な姿と変わりが無い、指揮官の行方が分からずメンタル的には不安定にはなっているが元気で明るい9のままだ。
その笑顔のまま残虐な行為を行える姿に、彼女の認識を改めるとラバロは決めた。
確かにこのままでは捕虜が皆殺しにされるのは間違いない、彼は腹をくくって尋問室に足を踏み入れる。
「大尉殿じゃない、ゴミ掃除に来てくれたの?」
「ゴミ掃除……だと」
「あら?気に障ったのなら謝るわ」
薄暗い尋問室には4人の人影と一人の息遣い、そしてそれらを囲う様に部屋一面を彩るかのようにぶちまけられた血痕と、鼻を突き吐き気を催してしまいそうになる鉄臭さと死の臭いとしか言い表せない異臭。
直感的に屠畜場を連想させる部屋にはUMP45 M4SOPMODⅡ アルケミスト達その道のスペシャリストが異質な部屋を気にすることもなく佇んでいる。
彼女達が平然としているのは当たり前の事である、この尋問室を凄惨に模様替えしたのは彼女達なのだから。
そして椅子に縛り付けられた男が一人。
MLRS部隊と共に後方支援をしていたところを急襲され捕らえられたメロイ中佐だった。
「やはりお前だったか、メロイ」
「ラバロ……大尉?どうして貴方が」
顔を上げたメロイ中佐の表情は憔悴した酷い顔そのもの。見た限り外傷はないが、それが逆にUMP45達のした事がどれ程彼の精神を甚振ったのかを想像させる。
「お前達何をした」
「自分の可愛い部下達を目の前でバラしてやっただけさ、一人ずつじっくりと嬲って。さっきも……ベニートとか言ったか?そいつの顔の皮をグリフィン人形が剥いでやったのさ、良い腕をしているよ」
「へへっ!バラバラにするのは得意だもん!それに」
アルケミストに褒められたSOPⅡは人の血と脂でぬらぬらと気味の悪い輝きを放つ義手を、メロイ中佐の顔で拭う。
「できるだけ苦しめて苦しめて、生きてることを後悔させてやれってお姉ちゃん達に言われたもん」
「ッ!狂ってる!」
「お生憎様だけど私達は正常よ、正常でコレをやってるの。まさかワインでも出して、もてなしてもらえるとでも思った?」
「止めんか!」
声を荒げたラバロに肩を竦めるUMP45。
「彼は捕虜だ……IHLは守れ。捕虜の拷問殺害など許されん」
「IHL?あぁ、国際人道法ね。馴染みが無かったから忘れてた」
「ハハハ、お互いに人権など無かったし、考えることも無かったからなぁ」
「残念、あんた達鉄血と違って私達は人間扱いされてたから……指揮官だけにはね」
メロイ中佐の正面に回ったUMP45はつまらなさそうに頬杖をついて彼の目を覗き込む。
その顔に愛らしさは無く、無機物の様な冷たさを持っている。
「だからね、そんな指揮官に手を出した虫ケラ相手に私は我慢してるほうなのよ?だって昔は捕虜なんて取らなかったし。生骸って言ってね、E.L.I.D.に変異した動物、分かりやすく言ってあげるとモンスターとかミュータントみたいなヤツ。証拠を残さず人間を処理したい時にはそいつらに食わせてた」
ね?我慢してるでしょ、とUMP45は冷たい顔で微笑んで見せる。
そんな恐ろしい姉とは正反対なUMP9が尋問室に帰ってきた。
一仕事終えたような顔だ。
「45姉、ゴミは片付けたよ!あとこれ頼まれたリスト」
「ん、ありがとね9。さてイラーリオ・メロイ中佐、このリストを見なさい。これは私達が捕らえた貴方の部下達よ、この中から好きなのを選んで」
「何を言って」
「だから次に死ぬ捕虜を貴方が選んで、また目の前で殺してあげるから。いちいちこっちで見繕うのが面倒なのよ」
変わらず冷ややかな無機物的微笑みでそう言う45
チャキチャキと義手を鳴らすSOPⅡ
ニタニタと嘲るアルケミスト
彼女達とは対照的に一人明るい9
縛られた身体、スプラッタな尋問室、目の前で酷たらしく殺される部下達。なのに自分には傷1つ付けはしない。それがメロイ中佐から自身の痛みを感じる隙を無くし、彼の精神をより痛めつけている。
意に反して早まる呼吸。
アルケミストが耳元で囁く。
「殺し方に飽きてきたか?ふぅむ、確かに皮を剥ぐのも中身を引きずり出すのも味気ない」
「違う……止めろ……彼奴らは」
「ほう、震えているじゃないか!確かにここは寒いな、なら捕虜にタイヤを巻いて火を付けてやろう。きっと温まるぞ、身も心もな……私はエクスキューショナーとは違うぞ、戦闘以外の殺戮も好きだ」
「もいい止まれ!これ以上は見過ごせん!」
ラバロの怒声にアルケミストは興が削がれたとでも言いたげな顔をしてメロイ中佐のそばを離れた。
もし外骨格ではなく以前のように杖を突いて居たならば、ラバロは何の躊躇いもなく彼女達を殴りつけていただろう。
それが有効かは別として、そのあまりにも人道に反した行いを無視することは元軍人としてのプライドが許さなかった。
「メロイの尋問は俺がやる。お前達は出て行け」
「おいおい!私は尋問拷問のスペシャリストだ。そう作られたからな、だがそんな私を差し置いてアンタが尋問?」
「スペシャリストを名乗るなら私怨を挟むな。今のお前達ではいたずらに捕虜を死なせるだけだ」
私怨と言う言葉に図星を突かれたのか少しばかりムッとした顔を見せたアルケミスト。
言い返そうとその口が動く前にUMP45がパンッと手を叩いて注目を集める。
その目は冷ややかにラバロを見ていた。
「なら大尉殿に任せようかしら」
「なっ!?本気か貴様!」
「えー、お姉ちゃん達に怒られちゃうよ!」
「AR小隊には私から言っておくわよ。9もそれでいい?」
「45姉が良いなら良いけど……」
拍子抜けするほどあっさりと譲ったUMP45は、じっとラバロを見つめた。
見た目幼い少女が放つ異様な威圧感に固唾を飲むラバロ。見えない刃物の、その切っ先が皮膚にめり込む様な痛みを幻覚させる彼女の無垢ならざる無垢な瞳。
「その代わりにちゃんと情報は吐かせてよね。じゃないと……分かるでしょう?」
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基地襲撃前 駐機場
飛び立つヘリ達も既に見えなくなり、ただ空だけが広がる。
「指揮官……その、外は寒いですから……」
「そうだな、ありがとうUSP」
おどおどと袖を掴む本日の副官であるUSPコンパクトを撫でる。
柔らかく目を閉じて受け入れてくれるのが可愛い。
そうして手を動かしていると、頭上から金管楽器のような甲高い鳴き声がした。
「なんだ?鳥か?」
「あっちを飛んでいます。鶴……でしょうか」
「鶴?」
見上げてみれば確かに特徴的なシルエットが飛んでいる。
ヨーロッパにも鶴は居るがそのほとんどが既にスペイン等の温暖な国に渡る。今見あげるのはそんな渡りの季節に乗り損ねた、言わばはぐれ者だろうか。
悠々と、その鶴は空を行く。
悠々と空を……あぁ。
「そうか、思い出した」
「指揮官?どうかしまし……も。もしかしてわたしがなにか!?」
「USPは何もしていないよ。ただ俺が思い出しただけだ、忘れていた事を」
「忘れていたこと……ですか?」
「あぁ、直ぐそばにあった」
ひとつ思い出せば後は次々に忘れていたことが掘り起こされる。
いやはや芋づる式とはよく言ったものだ、正しくその通りなのだから。
「帰ってきたら伝えないとな」
彼女のお願い、存外早く叶えられそうだ。
この時はそう、気楽に考えていた。