「たまにね、声が聞こえるからそれを参考にしたの」
友「わぁ重症だぁ」
見送りを終え、少しばかりの書類を片付けた後は医療班の厄介になる。
潰れた右目を見てもらうのだ。
しばらくは右目が使えない不便さが辛かったものの慣れればさして大したことではなくなった。
なにより眼帯持ちの子からお揃いのを貰うのが嬉しかったりする。
あの時の眼帯はSAAから貰った物だった。
「終わりです指揮官さん。特に異常はありませんね」
「まぁ、目が潰れてるのが異常ではあるがな」
「……指揮官、それ笑えませんからね」
「すまん」
冷ややかなHS2000とGSh-18の視線が刺さる。
そうして眼帯を付け直していると医務室に新たな来客が……孤児院からの来客だ。
車椅子を押すカリンと、大人しくそれに座るアンジェリーナ。
今日はこの子の定期検診だった。
「こんにちはアンジー」
「こんにちはお兄さん、その目どうしたの?」
「ん、どうだこの眼帯?似合ってると思うんだが」
「えーっと……あんまり?」
はにかむアンジェリーナを見ると、どうにも胸が痛み出す。
しかしこの子は今も生きている、なら子供として生きられるようにするのが俺達の役目だ。
どうかこの子の未来は、どうか平穏な物であって欲しい。
そう願わすにはいられなかった。
だがそうは行かなかった。
爆発、揺れ。
基地が攻撃された。
「きゃっ!」
「なにこれ!?」
突然の爆音に飛び上がりそうになるアンジェリーナをHS2000が抱き押さえる。
「爆発、事故じゃない。これは……指揮官さん!」
「HS2000 GShはカリンとアンジェリーナを連れてセーフティルームに迎え!」
それからは……
あーどうだったか。
63式と56-1式の無線が。
『ど、どうしよう!応戦、応戦!?』
『敵戦車隊が基地に侵攻!応援を!』
K2達の無線が。
『指揮官!今K5達と一緒にそっちに向かってるよ!』
「こっちよりアンジェリーナを頼む、俺はUSPコンパクトがいるから大丈夫だ」
「えっ、わたしですか!?」
あぁ、彼女達が押されていたから、USPと協力して途中基地の全体放送で呼びかけて。
「放送繋ぎました!」
「よし……この基地に居る、全ての者に告ぐ」
それから……あぁ、それから……
USPと指揮所に向かって。
USPが撃たれて。
「うぐっ!?」
「USP!」
崩れ落ちる彼女の身体を支えようと飛び出す俺。
必死に伸ばした手を、あと少しで触れられたはずの手を。
その手を掴まれ、殴り倒された。
どこをどう殴られたのかは分からない、だが鈍く鋭い痛みで息ができず、世界がブラックアウト。
引きつった呼吸をBGMに横になった視界の中、俺を殴り倒した男がUSPの元へ。
その手に持つハンドガンを……
「止めろ!待て、待ってくれ!」
「あっ……指揮か」
サプレッサーで減音された銃声、USPの頭が跳ねた。
倒れた時に落としたハンドガンに手を伸ばすが、USPを撃ったであろう敵に腕を撃たれた。
ライフル弾が骨を砕き、破壊された肉片が散らばる。
それでもと、まだ動く手を伸ばせばUSPを撃った男に踏みつけられた。
俺を見下ろし睨む、どこまでも冷たく重い目の男。
そして暗闇から現れるUSPを狙撃し、俺の腕を撃ち抜いた少女。ロシア製狙撃銃を手にしたリコが。
「ご、ごめんなさい。サイファーさん」
「リコ……じゃあお前は」
俺を睨み付ける男は、ジャン・クローチェは何も言わず、俺の体が仰向けになるよう蹴り上げてくる。
「貴様さえ」
「ぐぅッ!」
「貴様さえいなければ!」
リコに撃たれて痛みしか感覚の無い腕を踏みつけられる。
「貴様がいなければジョゼは復讐を止めなかった!貴様がいなければ俺達兄弟は復讐の道を走れた!貴様がいなければ!」
「ジャンさん、その……もう」
「ッ!やはりあの時殺しておくべきだったか」
確実に殺すためだろう。USPを撃ち殺した拳銃の、まだ微かに熱を持つサプレッサーが眼帯に押し当てられる。
残った左目だけの視界には正しく鬼の形相とでも言うべき顔のジャンと、いたたまれないとばかりに気まずそうに視線を逸らすリコ。
これが人生最後の光景かと、諦めにもにた虚無感に陥り見ている光景が引き延ばされるような感覚の中、必死に残された左手を伸ばす。
「まだ死ねない!まだ……M4のお願いを聞いてやってない!」
ジャンの銃を掴もうと哀れにも空を切るその手。
「待ってくださいジャンさん。彼はまだ利用価値がありますよ」
トリガーに指をかけ今すぐにでも殺さんとばかりのジャンに待ったをかけたのは俺でも、ましてリコでもなかった。
「アーネスト貴様」
「おぉ怖い怖い、そんな顔を向けないでくださいよ。我々は仲間なんですからね」
アーネストはフラテッロであるピアという名の少女を連れた福祉公社の担当官。
細身で高身長、どこか胡散臭い顔でジャンを止める。
そして、その少女らしい身の丈に合っていないM16A2ライフルを構えるピアと共に近づいてきた。
「お久しぶりですねサイファー。あなたには色々と良くしていただきましたが、少々やり過ぎましたね。ですがまぁご安心を、殺しはしませんよ。むしろ生きて貰わせばなりません。ピア、眠らさせてあげなさい」
「はい、アーネストさん」
ピアの瞳がじっと俺を捉える。
少しばかりの憐憫を滲ませたピアは、しかしアーネストの指示を聞き、ライフルのストックを顔面に叩きつけた。
それから俺は……
どうなって……
「やれ」
冷たく固い何かを押し当てられバツンッ!と音が鳴る。
瞬間、自分の体が弓なりに動き、冷たい感覚の後に焼けるような激痛が骨の髄を掻き回りながら暴れ狂う。
反射的に噛み締めた口からは叫び声を出しているのだろうが聞こえない、音が無い。
負荷に耐えられなくなった歯が砕けてエナメル質の破片が口内に刺さる。
引きつけをおこした呼吸が空気ばかりを吸い込んで吐くことが出来ない。
数秒にも永遠にも電撃の濁流が終わり視界が開けた。
「目が覚めたか」
幾分か落ち着きを取り戻したのか、激情では無く静かに怒りを滾らせるジャン。そして如何にも人を痛めつける為の道具を持った男達。
嫌でも分かる。
俺は拷問を受けている。
「こう言う事は初めてだろう」
「記憶の中では……2回目だ、受けるのは……初めてだが」
俺では無い俺の、ネイト達に拷問を受けた『指揮官』の記憶だ。
「まだふざけた事を言えるか。まぁいい、全てを話して貰うぞ」
「分からんよ、お前には。理解できんよ、常人には……ジャン、過去に行くにはどうすればいい?」
「何が言いたい」
「分からんだろう?俺もなんだ、分からなくて、でも止まれなくて。だから必死に足掻いて今のグリフィンを」
なんだ、頭が回らん。
「あぁいや、神保町の邪心使いなら過去にも行けそうか?ふふふ、懐かしい……あの作品は友人にオススメされた」
俺は何を言っている?
思考がまとまらない、思った事が血と歯の破片と共に口から垂れ流される。
「しゃべる気は無いか」
「いいや……ジャンみたいな良い声の男となら話したいよ……待て、その注射は」
「アーロン・チチェロにも使った非抑制型自白剤だ、2本目のな」
2本目、だから不思議な感覚なのか。
「全てを吐いて貰うぞ。目的も、何者なのかも」
福祉公社のフロアの一角にはフラテッロ達が集まり、静かな困惑と不安感を共有している。
原因はサイファーだ。
アレッサンドロにとって、それは認めたくない光景であった。
「サンドロ……」
「あぁ、何か公社がコソコソと準備してると思ったが。これは……」
ペトルーシュカが口元を抑えて俯く、手にしたホットコーヒーは口を付けていないのに熱が冷め切ってる。
「ジャンさんはこんな、こんな事をする人じゃ無い。こんな向こう見ずな……なにが彼をそうさせたんだ?」
「分かりません、でも様子が普通じゃなかったです」
おそらく公社の中では一番深くグリフィンと関わってきたヒルシャーとトリエラの言葉にたの面々も思い当たる節があった。
「ジャコモを取り逃がして、過激派テロリストの行動に頭を悩ませてるこの時期にグリフィンまで敵に回すのか?
冗談じゃねぇ!だから俺はジャンさんをあまり怒らせない様に頼むぜって社長さんに言ったのによォ……」
「問題はもっと深刻だぞアレッサンドロ」
まるで自身を守るように腕を組み、眉間に深くしわを寄せるマルコー。
彼が何を言いたいのか分かる者はヒルシャーとトリエラだけだ。
「グリフィンは僕達よりも進んでいるんだ、ずっと先を」
「マルコーさんにヒルシャーさんも何です?先って」
「アイツらはな、未来から来たらしい」
マルコーのその言葉を予想するのは流石に出来なかったアレッサンドロ。
彼は馬鹿げたことをと言いそうになるが頭のどこかで否定できない物が居る。
トスカーナで助けられたデストロイヤーとイントゥルーダー。
鐘楼攻略戦時の、指向性地雷を防ぎきったSPAS-12達。
「マルコーさん、今から辞表出してもいいっすか?」
「受理されると思うか?」
「ですよねぇー!」
アレッサンドロは長いため息が皆の耳に残る。
そんな時にコツコツとどこか急いでいる靴音が近づいてく来た。
「んぁ?アーネストか、どうしたんだよそんなに急いで」
「アレッサンドロに皆さんですか。いえ少しばかり予定が狂いまして」
「まぁ、よりによってグリフィンと敵対しちまったんだからよ。どんな予定も狂うさ……それよりサイファーはどんな様子なんだ」
「ベルグラード パルディスキ ベルリン、聞き覚えのある言葉もありますが殆どがうわごとですよ。ロクサット主義やアスキーメディアとか」
では急ぎなので、そう言ってアーネストはピアを連れ早足に去る。
「はぁ……で何でしたっけ?グリフィンが未来から来たっての、詳しく教えてくれませんか」
アレッサンドロがその好奇心を後悔するのに、そんなに時間は掛からなかった。
流石に拷問をする側も疲れた。
ジャンもアレッサンドロ達とは別のフロアで一時の休憩を取っている。
咥えたタバコに火を付け紫煙を吐く。
ふと、自分は何をしているのだろうかと、そんな考えが浮かんだ。
傍らには彼にしか見えない痛みが、エンリカの亡霊が楽しそうにしている。
『大丈夫よ兄様、何も間違ってはいないわ』
そうだ、間違ってなどいない。
『えぇそうよ。私の事を忘れずちゃんと見てくれるのは兄様だけ、ジョゼ兄様は復讐を止めてしまったもの……あの男に唆されて』
分かっている、そうでなければジョゼはヘンリエッタの条件付けを強化していたはずだ。
そうだ、あの男がいなければ。
サイファーさえ現れなければ。
俺から離れなかったはずだ。
だからこれ以上は……
「ジャンさん……大丈夫ですか?」
不安に怯えたリコがジャンに聞く。
『どうかしたのかしら、兄様』
「何がだ」
「えっと、その……辛そうにしてたから」
『随分辛そうにしているわ。もしかして兄様もジョゼ兄様と同じ?』
「……何でもない」
たいして吸いもせず灰となったタバコを灰皿に押しつけ火を消す。
執拗なまでにタバコを潰す姿は、リコからも十分に異常に見えた。
普段からジャンを盲信しているリコでさえ最近のジャンにはどこか近寄り難いものを覚えていた。
「なら良いんです……無理、しないでくださいね?」
『兄様、今度こそ私のために動いてね。理不尽に、身勝手に殺された私のために』
「分かってるよエンリカ」
「エンリ……カ?ま、待ってくださいジャンさん!」
また尋問に戻ろうと喫煙所を後にするジャンと、慌てて彼を追いかけるリコ。
リコはどこか理性の奥、本能とも言える感覚で理解した。
彼のそばに居なければならないと、義体としての条件付けでは無く、リコが持つ人の心がそう語りかける。
私の担当官、私のフラテッロ、そして私に自由な体を与えてくれた人。
だからこそ、何かに怯える様な彼に寄り添おうと隣に並んだ。
だがそんな時間は直ぐに終わりを告げる。
今度は福祉公社が襲撃を受けた。
ジョゼ「復讐はしたいけどヘンリエッタをマシーンにするのは違うよね、あとエンリカに理由を押しつけるの止めるね」
ジャン「俺の知ってるジョゼならヘンリエッタを強化して一緒に復讐してるはず、絶対サイファーが悪い、リコを誑かそうとしていたと思うから間違いない。何よりこれ以上家族を奪われたくない。でも俺の考えは合ってるのか?」
エンリカ(幻覚)『Vai!vai!(行け、行け~!)』
サイファー(自白剤投与)「サン○ーン……少女前線……アス○ーメディアワークス……PS2……相○先生……」
アーネスト「どんな意味が隠されているんだ」