アレッサンドロは暗闇の中にいた。頭が揺れ、水中に居るかのように音がくぐもって遠く聞こえる。
モザイクをかけられた音、だがどこか聞き覚えがある。
本能的に身を隠したくなるような破裂音。
そうだ、これは銃声だ。
「サンドロ!サンドロお願い目を開けて!」
「うッ……あぁチクショウ、何があった」
「敵が侵入して来たの!それでロケット弾を撃ち込まれて……」
「吹っ飛ばれたのか……お前、怪我は無いか?」
「私は無事、トリエラ達も」
目を覚ましたアレッサンドロは不意に痛む頭に触れると赤い血が手についた。
爆風に当てられて強く打ったのだと理解した彼は、頭を振って感覚を取り戻すとその耳にクリアな音が飛び込んでくる。
福祉公社のフロアは多数の銃声と爆発音、そして人の叫び声が響く地獄となっていた。
アレッサンドロ達は各々ハンドガンを手に迎撃するが防戦一方。
福祉公社を襲撃した勢力を相手にするには拳銃だけでは力不足だ。
「グリフィンか?それにしたって早過ぎる!」
「ターミネーターがデロリアンに乗って来たって思えば遅い方でしょうよヒルシャーさん!」
ヒルシャー達担当官も必死で応戦。
「ヒルシャーさん伏せて!」
トリエラがP230を発砲、襲撃者が投擲しようと構えていた火炎瓶を撃ち抜き周りを巻き込んで人型の松明を作り出した。
それを見てトリエラは確信する。
「コイツらグリフィンじゃない!」
ペトラとアレッサンドロがトリエラの言葉を確かめるべく死体を覗き見る。
トリエラによってキレイなまでに眉間を撃ち抜かれたその死体は、防弾装備と言うには粗末な中古品を杜撰に着込んだ男。
そしてパダーニャブルーのスカーフとイタリア国旗のワッペン。
「サンドロこれ!」
「パダーニャ!?共和国派か!」
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「今回の作戦指揮とブリーフィングは私、カリーナが務めさせて頂きます。皆さん落ち着いてください!静かにしてください!
……私達の状況は皆さんが知っての通りです、基地が政府軍に攻撃され指揮官さまが連れ去られました。ですが捕虜から聞き出した情報と修復が終わったUSPコンパクトに記録されていた視覚データから、指揮官さまは福祉公社に連れ去られた可能性が高いと判断します」
「ならさっさと福祉公社に乗り込んで人間共を皆殺しにしてしまえば良い!奴らは協力していた我々を裏切り、あまつさえ指揮官を奪ったんだぞ!」
「福祉公社……最初に指揮官が撃たれた時に報復するべきだった。銃を向けられた時に同じ事をしなかったから舐められたんだ」
「ゲーガーさんもSCAR-Lさんも待ってください。先程述べた様に指揮官さまが福祉公社に連れ去られた事は事実です、問題はどこに指揮官さまを連れ去ったかですが……先程ある情報が送られて来ました。こちらをご覧ください」
「『サイファーは福祉公社本部に捕われている、私と妹の安全を保証してくれるなら手引きする』……信用できるのか?カリーナ」
「分かりませんM16さん、ですが私達はこれを信じるしかないんです。そこで少数の部隊で福祉公社本部を強襲、指揮官さまと情報提供者を確保します。
私は皆さんの様に戦うことは出来ません、だからどうかあの人を……指揮官さまを、私達の灯りを取り戻してください!」
無事に動けるヘリが4機。それぞれ進路を福祉公社本部へと定めて飛んでいる。
AR小隊 404小隊 反逆小隊を機内に納めたブラックホークが3機、そして特殊装備とそれを扱う特技兵と医療班、ゲストであるラバロを乗せたチヌークが1機。
「ふぅ、キッツいなぁM4」
M16が妹の頭を撫でる。
落ち着くようにと諭しているそれは、自分にも言い聞かせているようだ。
呪詛を吐き続けるM4が顔を上げM16に顔を向けた。
「だってその装備は」
「特殊戦術機動装甲、私の負担が大きいからって指揮官が封印を決めた特殊装備さ。封印を解く指揮官が居ないから無理矢理持ってきた……でもそれが原因じゃない」
M4の頭を撫でる手が止まる。
「色々あった。元のあの世界で、指揮官の元でまたお前達と会えてAR小隊として過ごせるようになって、指揮官を知って……不思議な感覚だった。戦術人形として人間に従うんじゃない、私として、一つの意識として指揮官に忠を誓った」
「そんな指揮官を奪われた」
「あぁ……キツイよ」
「だから取り返すんです、指揮官を」
「そうだな、そうすればまた皆でジャックダニエルが飲めるようになる」
M4が呆れた顔をしてじっとM16を見つめる。
そんな視線を向けられたM16はと言えばどこか得意げで、それで優しい微笑みだ。
M4は分かっている。
優しくて妹思いの姉が自分の黒い空気を祓おうとしていることを。
「ありがとう、姉さん」
少しだけ落ち着きを取り戻したM4を見て家族思いのM16達はホッと胸をなで下ろしたくなる。
『こちらカリーナ、緊急の連絡です!イレギュラーが発生!』
「イレギュラー?」
『探索妖精がキャッチした情報によると、共和国派と思われる勢力に福祉公社が襲撃を受けているようです!』
「何?タイミングが最悪だなクソッ!」
M16の悪態がエンジン音轟く機内でもハッキリ聞こえる。
「でも姉さん、襲撃を利用するのは?その状況なら多少強引でも行けると思います。それに時間をかければ指揮官が危険に……」
「どの道、私達の札には様子見も撤退も無いさM4。全隊に連絡!作戦変更だ、私達は福祉公社本部に直接乗り込む!」
ヘリ部隊は速度を上げ指揮官を目指す。
向かう先に灯りがあると信じて。
『AR小隊、こちらAN-94。福祉公社本部が見えた、黒煙が見える』
「こちらでも確認した。全隊構えろ!コウモリの巣に乗り込むぞ!」
M16の号令でヘリが速度を増し、その視覚モジュールに襲撃を受けている福祉公社が広がる。
突如として現れたヘリ群に動揺し武器を構えるのは共和国派だろう。
そして舞い降りるブラックホークを撃ち墜とさんとRPGを向けるが、それよりも早く無数の銃弾が人を肉塊に変えてしまう。
「SOPⅡ!Guns!Guns!Guns!」
「りょーかい!」
ROの声と共にSOPⅡがドアガンナーとして咆え、ブラックホークに備え付けられたM134ミニガンが火を吹いた。
あまりの連射速度に曳光弾が光の帯状に延びて敵に降り注ぐ。
それは一秒にも満たないごく僅かの銃撃だが、一秒晒されるだけで55発の7.62㎜ それもMk900SLAP特殊徹甲弾が放たれるのだ。
遮蔽物のコンクリートどころか共和国派が乗り込むのに使っていた旧式の軍用車両すらズタズタにしてしまう。
そうして普段は静かな、少しばかりの銃声しか響くことの無い福祉公社に物々しい軍用ヘリ達がホバリングし強烈な風が吹きつける。
「404、反逆小隊は先行して特技隊の安全を確保!私達が援護する!」
『いちいち命令されなくたって分かってるわよ!』
『了解、作戦行動開始、深度演算モード起動』
2機のブラックホークから小隊がファストロープ、直ぐさま武器を構え残敵を排除。
そうして強引に着陸したチヌークのカーゴランプからは特技隊がその所以たる装備を背負って降り立つ。
その中のラバロも、外骨格を軋ませながら懐かしき福祉公社へと降り立った。
「あたしらを痛い目に遭わせた福祉公社の野郎どもには勿体ない装備よね!」
「おしおきを受けさせるには生かしておかないと意味がないわ」
M870とFP-6はいつものショットガンとは別に、大型のライオットシールドとフルフェイスのガスマスクを身につけ背負った装備を確認する。
そんな二人に続くようにチヌークを降りたSuper-Shortyがラバロに向き直る。
「ラバロさん。こんな事態になったとは言え、アタシ達は担当官も福祉公社の職員も出来るなら殺したくない、それが指揮官の望みだったから。でもそれが無理と判断したらアタシは殺すわ、それがラバロさんの知り合いであっても」
「……分かっている。それくらいの割り切りは出来る」
「なら結構。でもクラエスは殺したりしないから、そのためのこの装備、そのためのアタシ達特技隊よ」
Super-Shortyのその言葉にどこか安心しているような気がする自分に、ラバロは少し嫌気が刺す気がした。
ラバロが無理を押して作戦に参加したのは無論クラエスのためである。クラエスに色々な物を託したとは言え、己の行動はクラエスの元から去ったことには変わりは無いと言うのに。
なのに今度は強引にも会うのだから我ながら自分本位だと自嘲する他ない。
そんなラバロの心情などつゆ知らず、AR小隊も降下を終え部隊を展開した。
「AR小隊降下完了、全隊降下完了!後は作戦通りに、M16姉さん」
「了解したM4……総員、これよりビーコン作戦を開始する!篝火を見つけろ!」