GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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すまなかった

その声は戦場においても良く響いた。

この状況の中で非常に落ち着き、そして力強い少女の声。

重量7キロを超える5.56㎜マシンガンのFF M249を軽々と天に掲げる少女の、義体の少女クラエスの瞳が見る者全てを射貫く。

 

信念を湛えた目だ。

この身に変えてでも、この場所を守ると言う意志。

この場所とは福祉公社ではない。

それは記憶から消された誰かから受け継いだ菜園、遺された図書、音楽、温もり。

 

「それでも抵抗を続けるのなら容赦はしない!」

 

血の通った約束の場所を守るため、クラエスは一人武器を取っている。

 

それが分かるのはただ一人、物陰に身を隠し心の痛みに胸を押さえるラバロだけ。

 

「クラエス……」

 

ジクリと痛む胸を思わず抑えてキャットウォークに堂々と佇むクラエスを見上げる。

 

少し大きくなっただろうか。

それがクラエスを見上げているからなのか、長い間離れていたからなのかは分からない。

だがラバロが公社を告発するために分かれた時よりも確実に成長していた。

 

その想いを遮るように銃声が連なる。

 

「義体!?政府の悪魔だ!」

 

「同胞の仇を討て!」

 

粗悪な銃火器から放たれる弾丸を覚悟の目で回避するクラエス。

彼女はふっと息を吐くと、瞳を閉じ、顔にかけていた誰かとの約束の証である伊達メガネを大切に懐にしまい込む。

そして開かれた彼女の目は怒りに燃えていた。

 

「……警告はした」

 

もう彼女は忘れさせられてしまった人との血の通った約束を守っていた、あのおとなしいクラエスではない。

 

伊達メガネを大切に懐に収め、穏やかなクラエスから人殺しの義体に戻ったクラエスは即座にマシンガンを構え掃射。空薬莢がぶちまけられる金属音と連なる発砲音の軽快なドラムロール。

銃口から吐き出される5.56㎜の弾幕が抵抗の意思を見せた共和国派を刈り取って行く、その濃密なプレッシャーが戦場に満ち満ちる。

 

「45姉、クラエスが出たよ」

 

「殊勝で結構、ここで無力化すればいいだけよ」

 

「大丈夫!あたい達ならやれるよ。クラエス達を抑えて指揮官を助けるんだ」

 

素早く物陰に身を潜めたUMP達が手早く残弾確認、マグチェンジ。

 

「義体って頭を撃たないと死なないんでしょ、ならそれ以外のバイタルパートを銃撃して黙らせれば良いんじゃない?内臓がダメになっても交換してやれば良いじゃん」

 

「ダメよ、クラエスを撃つのなら四肢の末端を狙いなさい。アンタならできるでしょう、ならやりなさい」

 

「……Alles OK」

 

G11がスコープを覗き、416はグレネードランチャーの弾種を非殺傷のものに変え備える。

その中でただ一人、ラバロだけがライフルを握りしめていた。

Super-Shortyはそれを横目に流しながらスラッグ弾からゴム弾に入れ替えている。

 

「辛いなら下がってて」

 

「いや……俺はもうあの子を置いて逃げない。そのためにここに来た」

 

「そう、なら一緒に戦うよ。困難の中に道を切り開くのがショットガンの誇り。いつも通り、みんなの力になる!」

 

各々が気合いを入れ直しクラエスを見る。

今の状況で一番の障害となるのはクラエスだ。殺してはいけない、しかし無視できる戦力では無い厄介な存在。

既にグリフィン側には共和国派に対する意識は低くなりつつあった。

市民上がりのテロリストよりも義体の方が危険。

だがそれが悪い方向に動き始める。

 

クラエスの掃射の音に紛れるようにして低く唸りをあげる何かが響く。

 

「壁から離れろ!」

 

ラバロの声に404達が一斉に飛び退く。

現れたのは装甲車だ。堅牢な車体が建物の壁をぶち破り、クラエスの銃撃から共和国派を守るように盾となった。

 

「装甲車!?アイツらこんな物持ち込んでたの!」

 

「違う、あれは福祉公社の物だ。普段は地下格納庫にあるだが……共和国派に鹵獲されたか」

 

「そんなのあるなら早く言ってよぉ!」

 

「無駄口叩いてないで逃げる!」

 

喚くG11の首根っこを引っ掴み、416が遮蔽物から飛び出す。

途端に一瞬の間も置かずに2人が身を隠していたコンクリートブロックが爆発、粉塵と破片を撒き散らす。

 

装甲車の上部にある砲塔には重機関銃とベルト給弾式の大型グレネードランチャーが備えられてた。

砲塔は一頻り辺りを銃撃すると、今までマシンガンを撃ち下ろしていたクラエスに狙いを定める。

 

「逃げろクラエス!」

 

ラバロの声に跳ねるように駆け出したクラエスを追うように重機関銃の12.7㎜の曳光弾が軌跡を描き追い詰める。

 

そして手すりを支えにキャットウォークから飛び降りようとしたクラエスの体が、合間を縫うように発射されたグレネード弾の爆発で吹き飛ばされた。

 

「クラエス!」

 

「ラバロ大尉はクラエスを回収!Super-Shortyは盾になって!404小隊は総員援護よ、狙わせないで!」

 

ライフルを投げ捨て吹き飛ばされたクラエスの元にラバロが走る。

 

UMP45は手早くスモークグレネードを投擲して敵装甲車とラバロの間に煙幕を張ると囮となるべく銃撃。

拳銃弾としてはハイパワーな45ACPであっても装甲車を貫く事は出来ずに激しい火花を散らして跳弾した。

 

「止まったら的よ!」

 

轢き殺そうと突っ込んでくる装甲車を飛び退け回避する45。

 

轟音を立てて建物を支える鉄柱に激突したそれは、しかし動きを止めることはなく、対人には過剰な火力を向けるべく砲塔を旋回させ始めた。

幸いにも扱っているのがテロリストなので性能を出し切れてはいない。

 

だが脳が無いのに力だけはある存在がやたらめったらに暴れる厄介さがある。

 

「私と416で時間を稼ぐ!45姉達で何とかして装甲車を破壊して!」

 

UMP9と416が囮のために身を晒しヘイトを稼ぐ中でUMP45はUMP40が隠れている遮蔽物に滑り込んだ。

 

「45無事?」

 

「なんとかね、それよりもラバロ大尉は?」

 

「クラエスと一緒に退避させてる。今の所大丈夫だけど、あのデカ物を倒さないと保証はできないよ」

 

「でも私達は対戦車ロケットどころか地雷だって持ってないんだけど」

 

「それは……じゃーん!」

 

UMP40が見せてきたのは一見45の持つスモークグレネードのような円筒形のグレネード。

 

「何それ……テルミットグレネード?」

 

「そう、殺したテロリストから拝借したヤツ。これをデカ物のエンジングリルに設置して作動させれば」

 

「エンジンを焼き殺して行動不能に追い込める……40、頼める?」

 

「へへっ、あたいに任せなって!」

 

UMP45が即座にスモークを投擲、煙幕に包まれた装甲車が滅茶苦茶に砲塔を振り回して辺りを銃撃し始める。

 

タイミングは今だった。UMP40はテルミットを片手に装甲車に向かってジャンプ。

装甲車に取り付き、そして他より装甲が薄いエンジングリルにテルミットを設置、安全ピンを引き抜き退避する。

 

直後に眩い閃光が周囲一帯を照らした。

限界まで圧力がかかった炭酸飲料のキャップを開けたときのような、何かが吹き出すような音がUMP45達の聴覚モジュールに伝わる。

金属酸化物と金属片 燃料が適切に調合されたテルミットの化学反応が何千℃の熱を持って装甲を溶かしている音に他ならない。

 

「やった!これなら」

 

「まだ動いてるッ!40姉逃げて!」

 

UMP9の声に慌てて飛び退くUMP40。

間を置かずに上部装甲を溶かされた装甲車がUMP40を轢き殺さんとアクセルを全開にしてバック、瓦礫や死体を潰しながら壁に激突し、高台のキャットウォークが崩壊する。

 

UMP40の置いたテルミットグレネードは正常に起動したがエンジンを破壊するには至らなかった。

重機関銃の至近弾を掻い潜り、UMP45が最後のスモークグレネードを投げ込む。

 

「クッソー!キルできなかった!でも穴は空いた!」

 

「416、グレネードランチャーでエンジンルームを狙える?今なら一撃で黙らせられる」

 

「ダメ!キャットウォークが崩れたから高所を取れない、狙えないわ!」

 

416の報告にUMP45は悪態をつきそうになる。

 

その隣でUMP40は静かに息を吐く、深呼吸だった。

戦術人形にはそんな行為は必要ない。だがUMP40は無意識に胸を動かしている。

 

テルミットグレネードはあと一つ。

覚悟は自然とできた。

 

「45、これ持ってて」

 

自分の半身とも言えるUMP45と瓜二つなサブマシンガンを託す。

 

「ちょっと!?何をする気なの!」

 

「もう一回、今度はエンジンに直接投げ込んでやるのさ」

 

「危険過ぎる。もし失敗したら」

 

「大丈夫、あたいを信じてよ。幸運は大胆な者に味方するんだから」

 

UMP40はにっと笑ってグレネードを握り、飛び出した。

45が張ってくれた煙幕はもう消え始めている。

 

「絶対、また帰って来るからさ!」

 

40は自身の駆動部に回す出力を上げてオーバーロードを起こすと、格段に機動力が増した脚で装甲車の前に躍り出る。

距離は僅かに遠い。

 

「来なよデカブツ!」

 

装甲車の砲塔が40を捉える。

抵抗の手段が尽きた少女が愚かにも飛び出てきたのだとでも思ったのだろう。

砲塔に備え付けられた重機関銃とグレネードランチャーが車内からのリモート操作で動き出し、健気にも立ちはだかる少女を吹き飛ばそうと狙いを定めるために止まった。

 

その一瞬を404のスナイパーは見逃さない。

 

「Halt den Mund」(うるさいよ)

 

バースト射撃、G11の狙撃が正確無比にグレネードランチャーの砲口に飛び込む。

その銃弾は今まさに発砲を待っていた40mmグレネード弾頭を穿ち、機関部から爆発し重機関銃諸共破壊した。

 

UMP40が駆け出す。

 

慌てて装甲車も動き出した。

丸見えになったエンジンで再び唸りをあげると、怯えなく突っ込んでくる40目掛けてその巨体で突撃、轢き潰さんと加速する車体。

眼前に迫る装甲を纏った巨体。

 

40は笑っている。獰猛で、勝利を確信した者の笑みだ。

 

「向こうから来てくれてありがとさん!」

 

オーバーロードさせた駆動部にものを言わせ一気に跳ぶ。

再び装甲車に取り付くとテルミットグレネードのピンを抜き放ち、むき出しで動き続けるエンジンに投げ入れ飛び降りた。

 

直後に燃料に引火したエンジンが爆発。

エンジンルームから燃焼した炎は装甲車の車内に回ると乗員を焼き付くし中を巨大な窯へと変貌させる。

 

「やった!心臓が火を吹いた!」

 

「また無茶をしたわね」

 

尻もちをついて燃え盛る装甲車を見る40に45が手を差し伸べた。

 

「おかえり40」

 

「うん、ただいま45」

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

発砲音も瀕死の人間の呻き声も無くなり、血脂と硝煙の臭いが立ちこめた空間。

吹き飛ばされ、気を失っていた私が覚醒して最初に感じたのは誰かに支えられる感覚だった。

 

男が私を覗き込んでいる。

 

「まだ……続ける気か……」

 

硝煙と擦り傷にまみれた私の手がサイドアームのVP70に伸ばされる。

動くのもやっとな緩慢な動作は、大きく ゴツゴツとした手に止められる。

優しい手だ。

 

彼は努めてゆっくりと、しかし確かな力で私の小さな手を握る。

 

痛みは無い、不快感も無い。不思議な心地良さと、どこか求めていた物に手が届いたような安堵のような感情。

 

「射撃の腕より抜くタイミング。俺はそう教えたぞ」

 

「……え?」

 

男の声に固まる。目の前の男は敵だ、福祉公社を襲撃し思い出の場所を怖そうとする敵。

だと言うのに腕が動けない。

 

ずっと実戦には出ていなかったが人の殺し方はすり込まれている。

『射撃の腕より撃つタイミング』が重要だと、なぜか深く残っている言葉に従えば良いだけ。

 

なのになぜ、この人に銃が向けられないのか。

この人がその言葉を知っているのか。

それだけで体が動けなくなるのか。

そしてそれが嫌では無いのか。

 

「大きくなったな……」

 

目に涙を湛え、辛い表情を何とか取り繕っているこの人が誰か。

腕は何かに拘束されているように動けない。

 

しかしそれは恐怖でも、緊張でもない。

幸福感のようなものが見えない綿となって私の体を優しく止めている。

 

「お前は……あなたは……」

 

「もういい。止めろクラエス。お前が戦う理由はないんだ」

 

「私にはある!ここには私の庭園と図書と音楽がある、私の受け継いだ物は……誰にも壊させはしない!」

 

そう気丈に咆える、抜け出そうとして弱々しい力で抵抗する。

だが握られた手が動かない。

相対する男はふっと、口を歪ませた。

 

とても歪で、苦しそうな、けれど確かな笑みだった。

 

「そうか。まだ、大切にしてくれているのか」

 

彼が私の懐から伊達メガネを抜き取る。

大切にしまい込んだ約束の証。

 

片手で器用につるを展開させたそれを、そっとかけさせてくれる。

 

度の入っていないガラス越しの世界に私の動きが止まった。

 

「ラバロ……さん」

 

「クラエス、すまなかった」

 

「あ、あぁ……あぁぁぁぁ」

 

涙がひとつふたつと頬を伝い、止めどない叫びが震わせる。

迷子の幼子が親を見つけ泣き縋るよう。

 

慟哭と表すには確かな喜びとぬくもり。

歓喜と表すには余りにも悲惨で残酷で。

 

私はただ泣きじゃくり、彼に縋った。

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