GUNSLINGER DOLLS   作:ジョンドウ

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PMSCs

「ぬるい!ぬるいと言っている!」

 

鉄血製ハイエンドのゲーガーが会議テーブルに拳を叩き付けた。この会議室の空気は、彼女達の指揮官が重症を負ってから毎日張り詰めた空気で満ちていた。

 

苛立ちを隠そうともしないのはゲーガーだけでは無い。他の鉄血製ハイエンドモデルや一部のグリフィン人形もそうだ。

元から血の気の多い者達は輪をかけて殺気立っている。

 

「福祉公社の連中……なかなか面が良いじゃないか。顔の皮を剥いでじっくりと甚振ってやる、死神も目を背ける様な方法でな」

 

愛用の武器を握り隻眼を怨嗟の焔で揺らめかせるのは、ゲーガーと同じ鉄血ハイエンドのアルケミスト。

彼女達が話し合っているのは他でもない、福祉公社に対して報復を行うか否かを話し合っているのだ。

 

今にも福祉公社に乗り込もうとする報復派に、冷静を通り越して冷たさを帯びた声でエージェントが話す。

 

「福祉公社との戦闘は極力避けろ、ご主人様からはその様に仰せつかっています。止まりなさいゲーガー、アルケミスト」

 

「なぜ止めるエージェント!我々の指揮官が撃たれたんだぞ、お前は何も思わないのか!」

 

「優先されるべきは私達の思考よりもご主人様のご命令です。我々はあのお方の人形という事を忘れたのですか?」

 

「忘れてはいないさ、だが今回はゲーガーに続かせてもらう。お前が指揮官に忠を誓った様に、わたしも指揮官に忠を誓った。もっとも、主の仇を打つのがわたしの忠だがな」

 

2人の返答を聞いたエージェントはわざとらしく大きなため息を吐いた。

彼女の瞳が呆れた者を見る視線へと変わりゲーガーとアルケミストを捉える。

 

そんな彼女の手はメイド服を思わせるスカートに伸びていた。

 

「メンタルを制御出来ないなどグリフィン人形以下です……まぁ、ご主人様には訓練中の事故とお伝えしましょう」

 

「良いだろう。福祉公社の人間と義体を殺すなど、お前を潰した後でも簡単に出来る。覚悟は出来ているだろうなエージェント?」

 

「ハハハッ!エージェント、お前の中身はわざわざ見なくても分かるが……その腹切り裂いてやる!」

 

一触即発の空気に当てられてグリフィン 鉄血に関わらず、報復派と反報復派が銃口を向けあった。

たった一発の銃声だけで会議室どころか基地のあちこちで戦闘が始まるだろう。

 

だがこの緊張は長くは続かなかった。

 

「何やっている……全員銃を下ろせ!」

 

 

───────────────────

 

 

虫の知らせ、と言う物がある。

 

シックスセンスだとか予知だとか……いわゆる、宇宙に適応した新人類がピキーンとさせる物だと思えばいいか。

数年前と同じ医務室で目覚めた俺に、そんな物が頭を走ったんだ。

今すぐ向かわないと最大級にヤバい事が起きる気がすると……

 

「ご主人様?!どうして!」

 

「馬鹿!傷は塞がっているとは言えまだ立てる状態ではないだろう!」

 

幸いにして医務室には誰も居なかったから、点滴とか何か分からないが体に繋がっていたチューブを引き抜いて来たのだ。

 

フラフラと足元がおぼつかない俺をエージェントとゲーガーが支えてくれる。

 

「嫌な予感がしてな。いや、予感で終われば良かったんだが……全員銃を下ろしてくれ。それから、公社には報復しない」

 

「……指揮官よ。なぜ、そこまで奴らを庇い立てる?奴らはお前を撃ったのに」

 

「アルケミスト、確かに腹の風通しは良くされたけどな。最初に言ったろ?俺の望みは大切な家族の幸せだって」

 

「その中には福祉公社の人間も含まれるのか?」

 

「ヘンリエッタ達の"兄弟"なら、他人事じゃない。ラバロ大尉だってその理由で保護したしな」

 

俺の返答を聞いたアルケミストは心底呆れた表情をすると、肩の力を抜いて武器を下ろしてくれた。

 

「はぁ……お人好しと言うべきか愚者と言うべきか。忠を誓った指揮官に面と向かって言われれば従うしかないな」

 

「ありがとう、アルケミスト。ゲーガー達も良いか?」

 

「……今回は引き下がる、が!もし次に指揮官の身に何かあれば私達は動くからな!」

 

エージェントと睨み合っていた先程と違い、可愛らしく睨んでくるアルケミスト。

 

それに微笑ましい物を感じていると、不意に生暖かい物が腹を伝って……

 

「あ、傷口開いたわ」

 

「「「メディィィイック!」」」

 

俺はあの消毒液臭い医務室に戻る事になった。

そうして毎日誰かしらが監視をしてくる生活が始まったのだ。

 

G36や9A-91、時には珍しい事にG11等の人形がローテーションを組んで身の回りの世話をしてくれる。

ありがたいし何不自由は無いのだが、如何せん負担をかけている事に罪悪感がだな……

 

「なぁG36」

 

「ダメです」

 

「まだ何も言ってない……」

 

「書類仕事ならできるから持ってきてくれ、とでも言うつもりでしょう」

 

こうも図星を突かれれば押し黙るしかないと言うもの、ベッドの傍に控え立つG36は俺にピシャリと言ってくれる。

 

「ご主人様の今のお仕事は体を治す事です。人間のご主人様は私達のように傷を直すだけでなく、失った血液を作らねばなりません」

 

「あー、分かった分かった。大人しくするよ」

 

「はい、そうなさってください」

 

半ば不貞腐れるようにベッドに寝転んだ俺の頭は、ふつふつと纏まりのない思考を行い始める。

これは俺の悪い癖だ。

 

早く普通の飯が食いたいだとか、なんで戦術人形は太るのかとか、元パラテウス組のサナってやっぱExーSだよな、とか。

 

俺って足手まといだな、とか。

 

「ご主人様、貴方様はもっと自信を持ってください」

 

「……何のことかな?」

 

「貴方様の目が濁る時は自分を否定してる時です」

 

そんな言葉と共にG36の碧い瞳が向けられる。

次の言葉だけで無く、俺の心の内まで言い当てて来るとは……さすが完璧なメイドだ。

 

「あと、ご主人様の一挙手一投足で何を考えているかは基地の者なら皆さん理解しています」

 

「そんな事をどうやって」

 

「MG338達と協力しましたので」

 

そうだった……レニーことMG338は人の感情の機微を感じ取れる子だ。

あの子の手に掛かれば俺の思考は丸裸同然だろう。

 

にしても恐ろしい事をサラリと言われた気がするな……

 

「G36よ、人間と言うのは何もしていないとそれはそれで苦しむ生物なんだ。そんなわけでトランプとか持ってきてくれないか?」

 

「トランプでよろしいのですか?チェス等もございますが」

 

「俺の頭じゃ戦術人形の演算に勝てない。ある程度運が絡まないと連敗だ」

 

絶対に勝てるゲームを持ってくる辺り、G36もなかなか強かな人形である。

 

そんな彼女の手が、人で言う耳の下辺りに伸びた。

彼女達戦術人形がこの様な仕草をするのは人形同士で無線連絡を行っている時だ、妹のG36Cだろうか?

 

「……ご主人様、新聞記者を名乗る男が取材をしたいと来ているようです」

 

「新聞記者?PMSCsに取材とは珍しいな。だが……G36がそんな顔をするなんて、普通の人間じゃないんだろ?」

 

普段の淑女然としたG36からは想像もつかない、敵愾心と憎悪とを混ぜ込んだ表情で彼女が続ける。

 

「えぇ、その新聞記者なのですが……ヘンリエッタと思わしき女の子を連れているようです」

 

俺は何故か疼きだした腹部の銃創を押さえながら叫んだ。

 

絶対そいつジョゼさんじゃん!!

 

 

その後猛反対するG36に、『私達が同席するなら』と許可をもぎ取った俺はG36とG36Cを護衛に連れて、いつもの士官服に着替えて新聞記者ことジョゼを待った。

 

しばらくして応接室の扉を潜ってきたのは、もう既に疲れが見えているジョゼッフォ・クローチェ。

そして今にもこちらに飛びかかっても不思議では無いほどの殺気を撒き散らすヘンリエッタ。

 

「本日は突然の申し出を受けていただきありがとうございます。私はリベロイタリア誌で記者をしているカルロと言います」

 

「これはどうもご丁寧に。私はここグリフィンの社長という事になっております、サイファーです」

 

人種的な癖で、差し出された名刺よりも下に自分の名刺を滑り込ませてまずは挨拶。

 

アイサツは絶対の礼儀だ。古事記にもそう書かれているのだから。

 

「ところで、そちらのお嬢さんは?」

 

「あぁ、この子は妹のクロエです。私の仕事を見学したいと言われて連れて来たんです。クロエ、挨拶しなさい」

 

「……クロエ、です」

 

アマティのバイオリンケースを握り締めるクロエことヘンリエッタ。

 

最初は少しビビったが慣れてくるとチワワとかプードルみたいに感じるな。

 

まぁ、この子素手で人を殺せるんですとか歌うけども。

 

「それにしてもカルロさん、大分お疲れですね。遠路無くソファを使ってください」

 

「ありがとうございます。どうやらグリフィンの社員さんの雰囲気に飲まれてしまったようです……」

 

「あー申し訳ない。1週間前くらいに私が銃撃されましてね、それで気が立っているんですよ」

 

「それはまた……傷は大丈夫なのですか?」

 

いやあなたのお兄さんに撃たれたんだけどね!

 

白々しくそう聞いてくるジョゼに殺気を飛ばすG36とそれに応戦するヘンリエッタ。そしてオドオドとしているG36C。

この場においてはG36Cが癒やしである。

 

「うちの医療スタッフは優秀ですからね、数日で良くなりましたよ」

 

「とても優秀な社員ですね」

 

不思議に思っているのだろう、腹に二発も撃たれた人間が数日でピンピンしていることに。

 

これは2060年の未来の技術だからな、彼が分からないのも無理は無い。

医療班が大変優秀なのも大きいが。

 

「G36、お客様にコーヒーを頼む。お嬢さんにはそうだな、冷蔵庫にジュースがあるから濃いめに入れてあげて」

 

「……畏まりました、ご主人様。G36C、ご主人様をお願いします」

 

「分かりましたわ、お姉さん。指揮官は絶対に守ります!」

 

うやうやしく礼をして離れる時もジョゼ エッタを一睨み。

 

こちらの戦力は減ってしまったが、ジョゼに殺気を向けていたG36が居なくなった事でヘンリエッタが落ち着きを取り戻してくれたように思う。

 

義体が一人ならG36Cで十分対処は可能だ。そしてG36が離れることで担当官ラブなヘンリエッタが暴走するのを防げる。

 

「G36にG36C……ですか?」

 

「コードネームとでも思ってください。我が社は全員持っているんですよ。姉がG36、妹がG36Cです。二人とも優秀なスタッフです」

 

「指揮官の警護を務めさせていただくG36Cですわ。よろしくお願いいたしますね」

 

姉と同じく礼儀正しい姿勢で挨拶をするG36C。それを見たジョゼの顔が一瞬険しくなるのを、俺は見逃さなかった。

ラバロ大尉と同じく、条件付けを施された義体とでも思ったのだろう。

 

そんな彼らにドリンクの乗ったお盆を持ち音も無く近づくG36。

 

「お客様、お飲み物をお持ちいたしました」

 

「ッ!?」

 

だがこれがマズかった。

何かがヘンリエッタの条件付けに触れたのか、あの子は手に持つバイオリンケースを振りかぶる。

 

反応が遅れたジョゼが手を延ばすも間に合わない。

アマティのバイオリンケースがG36に叩きつけられ……

 

「G36、後ろからいきなり声をかけたらお客様がビックリするだろう」

 

「申し訳ありませんご主人様」

 

ることは無く、G36はバイオリンケースを片手で難無く受け止めた。

これには流石のヘンリエッタも動きを止めるしかない。

 

「お客様、お怪我はありませんか?」

 

「いえ!……その、大丈夫……です」

 

事も無げに置かれたドリンクの音でようやく我に返ったヘンリエッタ。

 

「いやぁ、子供は元気が一番ですな」

 

「す、すいません妹が!」

 

「いやいや、うちには破壊的に元気の良い子もたくさん居ますからね」

 

SOPとかG41とかアーキテクトとか。

 

「まぁそんなわけで気にはしていませんよ。G36にも怪我は無いですし」

 

「しかし」

 

「それに何の成果も無しには帰り辛いでしょう。答えられることなら話しますよ」

 

「……そうですね。ではお願いします」

 

逃がすつもりは無いぞジョゼさんよ。

 

どこか覚悟を決めた顔をする彼に俺は笑顔を返した。

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