最強冒険者になったのはいいが専用武器が恥ずかしすぎる件 作:シリアルナンバー113
「とっととずらからねえと!」
「落ち着いて馬車に商品を運び込め!」
王国歴230年。町は夜闇に閉ざされ、男たちの暴挙を見張るものはいない。3人のごろつきは汚い布切れで顔を隠したまま、孤児院から商品を運んでいた。
「────!」
商品とはすなわち、子供。猿ぐつわをかまされ、手足を縛られた10人ほどの少年少女は抵抗もむなしく馬車の中に運ばれていく。ごろつきが最後の一人を馬車に投げ入れ、仕切り板をばたんとしめる。ごろつきたちも馬車に乗り込み、スムーズに馬車を発進させる。
彼らの手際は極めてスムーズだ。つまり、何度も同じことをして何度も成功している。つまり彼らは、奴隷の仕入れを担当する人身売買業者の一味であった。
ごろつきたちは汗をぬぐい、安堵した表情で馬車に身を預ける。
「本当に騎士がいないじゃねえか、この国も本当に終わりか」
「王様が不調で色々機能していないからな。おかげで俺たちのような犯罪者が暴れられる。いやぁ、王国万歳!」
下品な笑い声が馬車の中で静かに響き渡る。いつの時代だって奴隷や違法薬物、そのほか様々なご禁制のものを欲しがるものはいる。しかし、騎士団という存在がそういったものが蔓延るのを常に留めていた。
が、それはあくまで過去の話。騎士団の機能停止は国の治安を著しく悪くし、今やこの町はマフィアが支配しているといっても過言ではない様相だ。
御者を担当しているごろつきは手綱を握りながら地図を開く。蛍光石により夜闇でもほんのりと光って見えるその地図には、大きな町とその周辺に広がる広大な未開の地を示していた。そして町の中に、二つの大きな点が刻まれている。一つは孤児院。そしてもう一つは。
「おい、地図を見るのをやめろ。光でバレるぞ」
「騎士団はいないんだろう」
「騎士団は、な」
御者台のごろつきは改めて地図を見直す。そこには一つの文字列が刻まれていた。
冒険者ギルド支部。
冒険者とは、つまるところ何でも屋だ。馬車の護衛から未開の地の探索までなんでもこなす者たち。だが、警備なら専門の業者もいるし未開の地の探索も本当に重要な場所であれば国が騎士団を派遣する。
つまりそういった隙間を埋める、安価で雇える質の悪いごろつき。騎士団を派遣するほどでもない土地を調べさせたりする、外注業者にすぎない。冒険者ギルドを転職前の実績獲得のための踏み台と思っているものも多い。故に、脅威になるはずなどないのだ。
「話を効いていなかったのかお前。この町には『黒数珠』がいる」
「……マジ?」
黒数珠。その名はこの国にいる者ならば誰でも知っている。この国唯一の金等級冒険者であり、竜を倒す程の腕前がありながら未だに冒険者ギルドに籍を置く異端。圧倒的な戦闘力、そして目に止まらぬほどの素早い攻撃で敵をなぎ倒す、正真正銘最強の冒険者である。
「奴は戦闘力も高いが、それ以上に聖人君子として知られている。だからここの冒険者ギルドの質は高いし、仮に奴に見つかれば奴の利益にならなくとも攻撃される。金も貰わないのに騎士団の真似事、たいしたものだ」
「それはまあ、聖人だな」
ごろつきたちは苦笑する。彼らにとっては明日の生活、明日の手元の金こそが一番であり、そういった正しさのような考えには何一つ興味がない。だからそんなやつもいるんだ、という苦笑しか出てこなかった。
次の瞬間、馬車の車輪が破裂し御者台から放り出されるまでは。
「ぐぁぁ!」
「他のマフィアの襲撃か!?」
回る視界の中で、彼らはとっさに思考を回す。最もあり得るのは他のマフィアが横から商品を奪おうとした場合。だが、周囲にそういった集団の姿は見当たらず、代わりに彼らの目の前には一人の男が立っていた。
白いロングコートを着た、背の高い男だった。年齢は20歳ほどだろうか。体に幾つかのベルトを巻きつけたその男は静かにごろつきたちを睥睨する。金髪碧眼で整ったその顔には怒りが浮かんでいた。ごろつきの一人は遠目に彼を見たことがある。すなわちこの男こそが。
「『黒数珠』……王国最強の冒険者!」
「おとなしく子供たちを返してくれないかな」
『黒数珠』の勧告を無視し、ごろつきたちは腰から武器を取り出し構える。3人は斧、短剣、ナックルダスターを『黒数珠』に向けて走り出した。
「囲んで潰せ!」
戦闘における基本、それは数の暴力。複数の方向から攻撃を受ければ防御が間に合わず、必ずダメージが入る。シンプル故に、どんな世界でも有効な手法。加えて、彼らには力があった。
「「「器術、発動!」」」
器術。それは特定の道具の性能を強化する、人類が魔獣に対抗するべく編み出した技。どのような道具に適性があるかは個人差があり、そして彼らごろつきは斧や短剣など、武器に適性を持つ、生まれ持っての戦士であった。
短剣と斧とナックルダスターが怪しく光り、その性能が大幅に強化される。今や彼らの持つ武器はどのような名工が鍛えた武器よりも鋭く強く、対象を殺傷する兵器と化していた。
ごろつきたちと『黒数珠』の距離は僅か10m程度。近付けば勝てると踏んだごろつきたちは一瞬で距離を詰めようとした。しかし短剣をもったごろつきが不意に吹き飛び、そのまま背後で崩れ落ちる。
「あれが名前の由来の……!」
刹那の攻撃であったが、斧を持ったごろつきの目には一瞬、黒い線のようなものが『黒数珠』の袖より飛び出したのが見えた。崩れ落ちたごろつきが立ち上がる様子はない。恐らく内臓に深い痛みが走り、呼吸すらままならないのだろう。
再び『黒数珠』はその腕をふるう。ごろつきたちは攻撃を防ぐべく腕を壁にするが、仕込んだ金属鎧ごと体が歪み、進みを止められてしまう。
あまりにも早い攻撃速度と高い威力は、ごろつきたちの得意とする接近戦に持ち込むことを許さない。いや、仮に接近戦に持ち込めたとしても。王国最強と名高いこの『黒数珠』が対策をしていないはずがない。場合によっては接近戦の方が強い可能性すらある。
正体不明の器術に対抗する手は、混乱したごろつきたちの頭では思いつくはずもなく。
「こ、こんなことが……」
再び『黒数珠』が腕をふるう。その攻撃を防ぐ余力は、もうごろつきたちに残されてはいなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありがとうございました、『黒数珠』さん!」
「いやいや、偶然だよ。騎士団の人たちのお陰さ」
数時間後。無事に元の孤児院に子供たちが帰っていく。涙を流し彼らを受け入れる院長と、ほっとした表情でだきつく子供たち。『黒数珠』は報酬の一つすら請求せずに彼らを見つめた後、自身の家に足を向ける。その姿を他の孤児院のスタッフたちは憧憬の眼差しで見つめていた。
「さすがは『黒数珠』殿……」
「あれだけの戦士を無傷で、いったいどうやったんだ……?」
『黒珠数』はコートを翻し、悠々とその場を立ち去る。その堂々たる立ち振る舞い、当然のように正義を実行する姿は正しく噂に語られた姿そのもの。だがその中の誰一人として、彼の本心を知るものはいない。皮肉にも彼の思考は数時間前のごろつきたちと一致していたのだった。
(とっととずらからねえと!)
『黒珠数』は足早に教会から立ち去る。そう。聖人と名高き『黒数珠』の正体とは。
(俺のメインウェポンがア〇ルビーズだなんてバレたら人生終わりだからな!!! そういう話題になる前に逃げるに限る!!!)
そう、ごろつきたちが短剣や斧に適性があったように。『黒珠数』の器術の適性は淫具に偏っていたのである。『黒珠数』とは瞬間のア〇ルビーズを視認できた者の証言からつけられた名。
だが、虚栄心の強い彼が真実を公開できるわけもなく。結果として彼は今日も自らのメインウエポンをひた隠しにして日々を過ごす。
(あー金せびればよかった! でもごろつきどもの記憶の風化を待ちたいし、何より万一好感度上げとかないとア〇ルビーズ口止めできない可能性あるし……どうしてこんなクソ武器に適性を持ってるんだよ俺!!!)
これは圧倒的な力を手に入れた代わりに、戦闘スタイルが酷いものになってしまった男の物語。勘違いが勘違いを生み出す、まさしく喜劇である。
続きは明日更新予定です。