ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
ほんのりと汗ばむ季節になった。
もう少ししたら夏がやってくるのだろう。
そんな陽気にあてられながら、衣料品の袋を胸に抱えて少女は歩く。
自分のストロベリーブロンドの髪は決して長くはないものの
額に張り付いて少しだけ気持ちが悪い。
荷物を置いたらシャワーでも浴びに行こうかな
なんて考えながら歩くいていると
かすかに、ほんのかすかにだが、子供の泣き声が聞こえた気がした。
その声に誘われるまま、地下へと続く道へと歩みを進める。
どれだけ歩いただろうか
もう泣き声は聞こえはしないが子供が取り残されていたらと探すのを諦められずにいた。
さすがに、地下とだけあって地上よりは少し涼しいものの
それでもその湿気と篭った空気はやはり暑いと感じる温度だ
ただ直感だけを頼りに歩く、古ぼけた地下墓地の中
彼女の目に不意に入ったのは墓標のようなものの上に置かれていた
周囲の古さに似合わない真新しいバスケット
「これは、なんでしょうか…」
中を覗き込んだセリナが見たのは、見つけてしまったのは
バスケットの中、バスタオルに包まれて、ぐったりとした赤ん坊だった。
泣きもせず、目は薄く開かれて、その双眸は期待もなく、少女を見上げていた。
反射的にバスケットに手を伸ばし、額に手を充てると赤子にしても異様に高いと感じる体温。
なぜこんなところに?両親はどこに?
普段ならそんなことを考えてしまうであろう彼女は
考えるよりも先にそれを抱えて駆けだしていた。
学園の古い扉が勢いよく開かれると
それはバンと大きな悲鳴を上げて部屋にいた人達の視線を集める。
ミネやハナエが何事かと事態を把握しきる前に、セリナはつかつかと駆け込む。
「ミネ団長、要救護者です。お願いします。」
バスケットから抱きかかえられた一つの命は
生まれて数ヶ月も経っていない程だが
子供を抱き抱え慣れていないとはいえ
その大きさにしては、異様に軽いと感じる程の重さしかない。
急患用のベッドの上に寝そべらせると
ゆっくりと離したその手に縋るようにその無力な手が袖を掴んだ。
「生理食塩水とブドウ糖ですが…、この年齢では点滴ではさすがに危険ですね。
一刻を争いますが仕方ありません、経口摂取しかないでしょう」
ミネは点滴をコップに注ぎ、ガーゼを湿らせる
それを赤子の口に添えると力ないながらも
ゆっくりとその水分を喉に通していた。
その光景に、二人がほんの少し安堵を覚えていると、
その柔らかな口調に反して焦ったようなハナエが洗面器を抱えてやってくる
「体を冷やさなないと、えっと急に冷やすのもよくないので、とりあえず常温のお水ですが~」
セリナは銀の洗面器に浸されたタオルを軽く絞り
赤子を包んだタオルケットを剥がす。
赤子とは、こんなに細い体躯をしているものだろうか。
この子は果たして、何日の間そこにいたのだろうか。
そんな考えが3人に浮かぶが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
じっとりと汗で濡れた体に、セリナが濡れたタオルで触れると、ぴくり、と四肢を反応させた
眉間に皺を寄せ、できることをと尽くすミネ
不安に満ちた顔の中、悪い想像を振り切ろうとするセリナ
慌てながらも自分ができることを探すハナエ
その行動は3者3様ながらも
「この小さな命を助けたい」という気持ちは、1つだった
すっかりと日が落ちた。昼はあんなにも暑かったのに、まだ夜は少しだけ肌寒い。
赤子の速かった呼吸もすっかりと落ち着き、今は静かに寝息を立てていた。
「一段落、といったところでしょうか。」
ミネが赤子の脈を取りながら、深くため息を漏らす。
「セリナ。これはどういった経緯でしょうか?」
「子供の泣き声が聞こえた気がして、その方向に向かって歩いたんです。
地下墓地…と言うのでしょうか。そこにこの子が…」
「なるほど。この子の親が…見つかるとよいのですが…」
ミネは窓の外に目を向ける。
それは、少しだけこの結末がどうなるかを知っているかのような悲し気な目だった。
その空気をぶち壊すように、ハナエは赤子の寝顔を覗き込みながらニコニコと言う
「見つからなかったら、その時はみんなで育てればいいんですよ。ね~?」
赤子を起こさない様に、ヒソヒソとした声で触れない程度に頬をつつく真似をする。
そんな簡単に、とため息をつくセリナだったが
ミネはガタン、と椅子を跳ね飛ばして立ち上がり、声を張り上げた
「…そうです!私たちで育てればよいのです!」
ミネの跳ね飛ばした椅子が棚に当たり、上に乗っていたものを叩き落す
どんがらがしゃんと立てられた派手な音に
二人はあわてふためき、ミネを制そうとするが
起こしてしまった音は止まらない。
赤子は目を覚ましさっきまでとは打って
変わりけたたましい泣き声を上げ、
その声に彼女たちは少し安堵するのだった。