ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記)   作:救護騎士団記の記録係

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元スレ:ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記
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子育て日記:30日目 鷲見セリナ

子育て日記:30日目 鷲見セリナ

―――――――――――――――――

スズランちゃんが来てから

早いもので、もう1カ月になります。

 

最近の私達には心配事がひとつ。

 

子供の成長は早いとはいえ

さすがに早すぎるのではないか、と感じることがあります。

 

ついこのまえ、這いずりをできるようになったと思ったのですが

今度は、もうはいはいをできるようになろうとしていました。

 

育児の本と見比べても、異常に早いその習得に

ミネ団長もハナエちゃんも「天才です」と喜んで

私も嬉しい気持ちではいるのですが

そのどこかに、不安な気持ちが隠れていました。

―――――――――――――――――

「はーい、着替えますよスズラン。ばんざーい」

 

目が覚めたスズランちゃんは、少し不機嫌そうにしながらも

ばんざいと手を挙げて、ミネ団長にパジャマを脱がされる。

 

真っ白なパジャマがすぽん、と脱がされると

濁った声で「あ゛~い゛」と寝ぼけた声を上げ

そして、それと一緒に羽毛が舞った。

 

「あれ…?」

 

着替えを準備して待っている私達の目の前に舞った

ふわふわなガウンのような羽根。

 

私達には見慣れない羽の色。

私の桃色の羽根でもなければ水色でもない

羽根と言うには柔らかなものが床に落ちる。

 

それに驚く私達の事を気にもせず

服を脱がされたスズランちゃんは

おしりのあたりを痒そうにして、もそもそ手のひらを動かしていた

 

私はそのふわふわを摘まみ上げ

ミネ団長の前へと差し出すと

スズランちゃんと一緒に眠たそうにしていたハナエちゃんも

それを覗き込んで、キラキラと目を輝かせた。

 

「団長これ、もしかして!」

 

「はい、ついに…」

 

「スゥちゃんの羽記念日ですね!」

 

3人してスズランの背中を覗き込むと

そこには見たことのない色の翼。

 

これは、黄色だろうか、茶色だろうか。

まだふわふわとした羽毛に包まれたそれは

ほのかに色を帯びているのは間違いなく

私達は目にしたことのない色の翼に目を丸くした。

 

背中をじーっと見つめられたスズランちゃんは

何がなんだかわからない顔でこちらを振り返り

小さく身震いをしたのを見て、私は慌てて着替えの服を掴む。

 

「風邪をひいてしまいますし、とにかく服を着せましょう。」

 

スズランちゃんに服を着せている間

感極まったように目頭を押さえるミネ団長。

 

団長の翼の色も、トリニティではほとんど見ないと言っていい、白か黒ではない翼だ。

 

それが嬉しいのか、それとも単にスズランの成長が嬉しいだけなのか

完全に冷静さを欠いている様子の団長をさておいて

スズランちゃんのボタンを留めて、その上着の間から

ふわふわの翼をやさしく通した。

 

―――――――――

 

そんな騒ぎがあった同日

ミネ団長が何かを見つけて興奮気味に手招きをしていた。

 

「セリナ!ハナエ!見てください!スズランが、はいはいを…!」

 

部室の一角に敷き詰められたマットの上で

スズランが不器用に両手両足で体を持ちあげて

両手を前に、一歩、二歩、前に進むと、ぺたんと地面に伏せる。

 

立派にはいはいをマスターしようとしているスズラン

何度繰り返しても、数歩で地面に伏せるものの

自分の力で前に進めるのが嬉しいようで

何度失敗してもそれを繰り返す。

 

スズランの前で、ガラガラを持って誘導しながら

ミネ団長が嬉しそうに声を大きく上げていた。

 

「スズランは天才かもしれません!」

 

「それは、そう感じる事もあるのですが…いくらなんでも早すぎませんか…?」

 

はい!と停止した思考で賛同したくなるのを押さえ

私が冷静に返事をすると、少しミネ団長が考えるものの

その思考を上書きしていくハナエちゃん。

 

「スゥちゃんは天才ですからね!」

 

「ええ、スズランは天才に違いありません!

 ……いえ、分かっています。さすがに早すぎるという事くらいは。」

 

私の表情に、さすがにミネ団長も素に返ったようで

しゅんとした顔でスズランを抱き上げる。

私が子育ての本をめくると、寝返りを覚えるのが4~5カ月、はいはいは6~7カ月

 

ここに来たときには、ミルクを口にするので精一杯だった子が

それがたった1カ月で声を上げ、寝返りを覚え、はいはいをする。

さすがに、私達でも異常なことだと気付いた。

 

「この子には、何か特別な事情があるのかもしれませんね」

 

「ティーパーティーにも報告しますか?」

 

「……はい。そうですね。そうしましょう。。

 あとはシャーレの先生にも、一報を。」

 

先生はあれから、トリニティに来るたびに顔を見せてくれる。

それこそ実の娘のようにかわいがってくれていて

来訪のたびに"必要な時期かと思って"

と育児用品を山のように抱えてやって来られては逆に申し訳なくなる。

 

と、スズランの成長についてはあまり触れない様にはしていたが

このような状況なってはさすがに

言わない、というわけにもいかないだろう。

 

状況を分かっていない様子のスズランは

焦った様子の私達を見ながらも

両手両足で地面から体を押し上げて

少し不安げにこちらを見ていた。

―――――

 

"スズランに羽が生えたって聞いたから"

 

報告から数時間、素早すぎる程の到着で

紙袋いっぱいにベビー服を持ってきた先生。

 

おそらく、トリニティの近隣の店で買ってきたのだろうそれには

見覚えのあるロゴマーク。

翼のマークのついたそれは、専用の羽根抜き穴を設けた服。

とりわけ高級な子供服のお店のロゴマークだ。

 

「今回はそういった意味でおよび立てしたわけではなく…」

 

"スズランの成長が異常に早い、という件について、だったよね"

 

「はい。」

 

ミネ団長とハナエちゃんと一緒に遊ぶスズランに目をやりながら、先生は言う。

不安な顔で見つめる私に小さく優しく微笑むと

いつも持っているタブレット端末を取り出す先生。

 

しばらく真っ暗なままのタブレットの画面を見つめ

何かを考えこんだようではあったのが

うん、うん、と何度か頷いてタブレット端末から目を離す。

 

何を閲覧していたのだろうか

気になる私に先生は向き直ると

どこか明るく、優しげな笑顔をたたえて言う

 

"…心配することではないと思うよ。"

"悪い事ではないんだから。"

 

「悪い事では、ない、ですか…」

 

きっと、子供の成長が悪い事の訳はないのだろう。

しかしそれが早すぎる

ということは問題ないのだろうか・

 

なんだか、無理に大人になろうとしているような

そんな不安が私の中にざわめいたのを

先生はひとつひとつを取り払うように

静かにゆっくりと、なんだか納得してしまうような声で言う。

 

"子供が誰しも持っている、成長の神秘だよ"

 

「なるほど…そう、なのかもしれませんね。」

 

うん、と自分を納得させてスズランを見ると

こちらに気付いたようにミネ団長の膝の上から

ミネ団長に手を取られながら手を振るスズランちゃん。

 

ニコニコと、そして真新しい服の

初めて通した裾から羽をパタパタと

もふもふとした翼から、もこもこの羽根を散らしながら羽ばたかせる。

 

その姿に私は、何を心配していたのだろう、と頭を振る。

そして先生にお礼を言おうとしたその瞬間のことだった。

 

部室のドアが急に開いて、何人もの生徒がなだれ込む。

その中には、ナギサ様や、ツルギさん、ハスミ先輩に

サクラコ様、セイア様と見知った顔がいくつも並んでいた

 

「あの、スズランさんに、翼が生えたと伺いまして。お祝いにと」

 

「お祝いといえば、教会…と申しましょうか…」

 

「まぁみんな、なんだかんだとスズランの事が気になって仕方ない、ということだね」

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