ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:35日目 朝顔ハナエ
スズランちゃんはすくすくと育っています。
みんなで一緒にお出かけをすることも増えてきました。
救護騎士団の本来の活動も
元のように行えることが多くなってきたことで
不足した医薬品の買い出しに
今日はみんなでおでかけをしました。
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「ずいぶんと、暑くなりましたね。」
スズランちゃんを背中に背負い
日傘をさすミネ団長が空を見上げる。
だいぶ高くなった空の色は、気持ちいいほどの青。
その一番高い場所は団長の翼の色よりも
ずっと深い青色に染まっていた。
「そうですねー。もうすぐ夏、って感じですねぇ。」
頬を通りすぎていく風も、ほんのりと夏の香りを帯びていて
ずいぶんと夏が近づいて来るのを感じていた。
この暑さにすこし気怠げなスズランちゃんも
風が吹くと、その風を浴びようと、少しだけ背筋を伸ばすのを見て
セリナ先輩がうちわでパタパタとスズランちゃんを扇ぐと
もっと気持ちよさそうな顔をして、スズランちゃんが目を細めた。
「おんぶしてると、ちょっと背中が熱いですよね。」
「そうですね…しかし、この体温を感じているのもあまり長くないのかと思うと…」
スズランちゃんの成長速度が異常と言えるほど早い
ということは私達だけではなくみんなが知っている。
そんな早い成長に、気にかけてくれる人達は
今の姿を目に焼き付けようと、事あるごとに訪ねてくるようになった。
日々、はいはいが上手になっていく姿、つかまり立ちに失敗する姿
事あるごとにみんなが撮っては印刷してくれたり送ってくれたり
先生が提案してくれたアルバムも
もう既に1冊目が埋まりそうな勢いだ。
私もうちわの風を楽しむスズランちゃんの写真を一枚。
そんなこんなで、みんなで歩いていると
遠くから銃声と怒声と叫び声。
そんな声にふとミネ団長の足が止まる。
「……救護を求める声がします。」
だいぶ久しぶりに気がするその言葉。
左手に提げていた盾を構えなおし
腰のホルスターから抜かれる救護の証明
これは、と私とセリナ先輩が焦り始めて
セリナ先輩がミネ団長の背中、スズランちゃんに手を伸ばした
「団長、せめてスズランちゃんを…」
そんなセリナ先輩の手が届く前に、団長は駆けだしていた。
その背中で揺られるスズランちゃんの顔は
とても楽しそうで、駆ける風を一身に受けてニコニコ笑顔。
まるで生まれて初めて乗るジェットコースターのような顔だ。
「ミネ団長、待ってください!
ハナエちゃん、すみません先に追いかけます。」
駆けだしたミネ団長を追いかけるセリナ先輩も
音もなく影が滑るように駆けていく。
あの二人は、どうしてあんなにも身体能力が異常に高いのだろうか。
私はそんなことを思いながら、二人に比べると重い足取りで駆けだした。
「わー!待ってくださいー!」
――――――――――――――――――
私が一足遅れて現場に到着すると
そこには既に、何人かの倒れたナントカヘルメット団と
まだまだたくさんいる元気なナントカヘルメット団の人たち。
怪我をしたトリニティ生もいるようではあるが
どうやら、既にミネ団長とセリナ先輩によって
かなり優勢に傾いてはいるようだった。
ガシャン、とミネ団長が盾を構え
救護の証明をくるりと回すと、薬莢が一つ宙を舞う。
クルクルと宙を舞うそれに
スズランちゃんが手を伸ばすものの
その手は届かず、ちょっと不服なお顔のスズランちゃん。
ちょっとかわいい光景であるが
その向こう、ミネ団長は真剣な顔でナントカヘルメット団を睨みつける。
「ここで引くのであれば今回は見逃します。
次の警告はありません。」
怪我ひとつなく、生徒たちの最前線に立つミネ団長。
真っすぐ伸ばした腕の先には救護の証明。
凛としたその佇まいと言動に
その背中では、スズランちゃんがミネ団長の真似をしてなのか
ヘルメット団を指さしてなにやらキメ顔を披露している。
写真に収めておきたいその表情ではあるが
今は怪我をした人の治療が最優先。
「大丈夫ですか?」
「ひぇっ、救護騎士団の!?大丈夫です!
怪我一つありませんから、手術しなくて大丈夫です!」
私が近づくと少し怯えた表情の生徒。
そんなにひどい目にあったのだろうか。
少し不憫に思うのだが
大丈夫と言うにはひどい擦り傷に私は治療を始めると
向こうではミネ団長に抗うヘルメットの人。
「くそ、救護騎士団はへたれになったって聞いてたのに!」
ヘルメット団の人たちから放たれる弾丸。
そのどれも、ミネ団長を一歩たりとも下がらせることはできず
ミネ団長の構えた盾に阻まれる。
あまつさえその背中には
拳銃弾の一発ですら通り抜けることはなく
隙間から放たれる散弾が前方の敵を吹き飛ばした。
「救護の意思がへたれることなどあるものですか。
誇りと信念を胸に刻みッ!戦場に救護の手を!!」
「だー!いあー!」
「行きますよ、スズラン!」
「ぉおーーー!」
ミネ団長の声にあわせて小さな拳を振り上げるスズラン。
大きな跳躍で敵陣のど真ん中に着地をすると
石畳が裏返るのではないかと思うほどの衝撃波が立ち
吹き飛ばされるヘルメット団達と
彼女らに構築された陣地が上げる砂埃。
ミネ団長が踏み砕いた木箱からは
未使用の弾薬や弾頭、手りゅう弾が宙に舞う。
「さあ、救護が必要な人は、どなたですか?」
「囲めー!」
ミネ団長は敵陣のど真ん中。
好機とばかりに飛びかかるヘルメット団達。
ミネ団長がその程度のことで倒れるはずはない。
しかし、今はスズランが背中にいる状況。
分かってやっているのだろうかと少しひやひやしながら
スズランちゃんを見ると、その手には一発の手榴弾が握られていた
「スゥちゃん、あぶない!それぽいしてください!」
大きな声でスズランちゃんに呼びかけると
「?」を浮かべた顔をしてこちらを見る。
言葉は伝わってないようで
こちらを見て「にこー」と笑うスズランちゃん。
にこーと笑顔を返してしまうが
今はそんなところではない。
「スズランちゃん!それは危ないものです!」
「ぽいです!ぽいですよー!ほら、ぽーい!」
今まで治療に徹していたはずのセリナ先輩が駆けだす中
私は必至で投げ捨てるジェスチャーをする
「あい!」
その必死なジェスチャーが通じたのか
スズランちゃんは手に握ったものをぽいと投げ捨てた
それが落ちたのは、ミネ団長の目の前。
地面に落ちた衝撃でピンが抜けたのか
その球体からは安全装置がはじけ飛んでいた。
それをミネ団長がつま先で蹴り飛ばし
爆轟と爆風周囲を駆け巡る。
破片がひゅんと音を立てて私の隣を擦り抜けて
ちょっと背筋がぞっとしたのだが
今はそんな事よりも、スズランちゃんだ。
その中心部に立っていたミネ団長は
土煙に紛れてはいるものの、立っていることは分かる。
「スズランちゃんは!無事ですか!?」
セリナ先輩声を上げ
団長が無事なのは当然のこととばかりに、土煙へと駆け込んでいく
私も遅れながら駆けだすが、私がそこに着くころには、その土煙も晴れていた。
ミネ団長が盾を構えた周囲には
地面にべたりとのされたヘルメット団達
その主力のほとんどをさっきの爆発で失って
無事な様子のヘルメット団達も散り散りになって逃げだしていく。
そんな彼女らを見送りながら、
ミネ団長は救護の証明へ念のためにと次の弾を込めていた。
「無事に、救護完了ですね
……見ましたか?セリナ、ハナエ。」
「よかった、無事ですね…」
団長の盾にはいくつかの傷が増え
背中のスズランは無傷で両手をあげてガッツポーズ?
自分が何をしたのか分かっているのだろうか。
「この子は、救護の天才です!
囲まれるというピンチに、最高のアシストでした!」
そのピンチを作り出したのは自分では?そして本当にピンチだったのだろうか
という疑問はさておいて、ミネ団長は背中のスズランを胸に回してだきついて頬ずりをする
「この子は救護の天才かもしれません!
いえ、本当にこの子は…間違いなく天才でしょう!」
少し呆た顔のセリナ先輩はため息をつきながら
スズランの頬についた土埃をウェットシートで拭っていた。
私は少しだけ考えてみたが、なにがなんだかよくわからない。
褒めていいのか悪いのか
しかし、この歳の子がこれだけのことをやってのけたのだから
きっと褒めるべきなのだろう。
「はい!スゥちゃんは天才ですね!」
「ミネ団長…、ハナエ…」
あきれ顔のセリナ先輩をさておいて、私と団長はスズランを撫でたり褒めたり
置いてけぼりだったセリナ先輩も、はぁ、と小さくため息をついて
今回のMVPたるスズランちゃんを褒めはじめたのだった。
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駆け足でトリニティ自警団のお二人がやってきたのは
それから数分後の事でした。
「さあ、私が来たからには大丈夫!
トリニティ自警団、宇沢レイサが参りましたよ!」
「かなりの惨状…
とはいえ、戦闘自体は終了しているようですね」
私達にほめそやされて、まだまだ褒められ待ちなのか
気分のいい顔をしているスズランに
負傷した生徒とヘルメット団達を治療する私達。
その姿を見つけると、周囲を警戒するようにして近づいて来る二人
「出遅れてしまったようで申し訳ありません。
怪我人の治療まで…さすがは救護騎士団、といったところでしょうか」
「えー、私達の出番はないってことですかー!?」
自警団のスズミさんが私達のそばに歩み寄り
周囲に敵がいないことを確認し終えたのか
胸に構えていた銃を降ろした。
その隣には、レイサさん
なんだか賑やかなその人は元気いっぱい
戦いが終わっているのならまあいいや、と言う顔で
ミネ団長に抱えられたスズランちゃんに気付いた様子。
「あー!この子は噂の!こんなところでお会いできるとは!
パトロールに追われて、なかなかお会いできずにいましたが!」
スズランの顔を覗き込むレイサさん。
大してスズランちゃんはと言えば
きょとんとした顔でその目を見つめ返しては、ぽかんとしている。
その顔に、にへら、と笑い返すレイサさんの笑顔には、愛嬌がにじんでいた。
「こんにちは、自警団の方々。こちらは制圧済みです。
犯人の一部は取り逃がしてしまいましたが、
この子の活躍により、生徒たちに重傷者はおりません」
さっきの一件から鼻高々なミネ団長は
スズランの手を掴んでぶんぶんと振る。
しかしその当人は、やっぱりレイサさんの顔を見て固まったまま。
何を考えているのだろう。
普段ならリアクションのひとつでも返すと思うのだが
レイサさんをひたすらじーっとぽかんと見ているだけ。
「おや、そうなんですねえ!お手柄ですねえ!」
と、レイサさんがスズランの頭に手を伸ばそうとしたその瞬間だった。
あまり人見知りをしないはずのスズランが、その手をぱしり、と弾く。
「えっ?」と言う顔のレイサさん
その後ろでやれやれと言わんばかりの顔のスズミさん。
「私、何か嫌われる事しちゃいましたか…?
声が、声が大きいからでしょうか…」
「赤ちゃんにそんなぐいぐい行くからですよ…
まったく、親御さんの許可もとらずに撫でようなんて
不審者と扱われても仕方ありません」
はー、やれやれという表情のスズミさん
ショックを受けた顔のレイサさん。
私達にも初めてのスズランちゃんのリアクションに
どうしたものだか、なんと伝えようかと考える。
「この子はあまり人見知りをする方では…ないのですが」
ミネ団長の言葉に、レイサさんが固まり
2、3歩下がったかと思うと
少しだけ泣きそうな顔になりながら「そうですよね…」とつぶやいた
「はい…調子に乗りすぎました…
す゛み゛ま゛せ゛ん゛…」
私達が対応に困っていると
スズミさんはそんなレイサさんの様子にも慣れた風で
スズランに目線をあわせて
静かな声でスズランを褒める
「レイサさんが怖がらせてすみません。
ご協力、ありがとうございました。」
「ほら、スズラン、どういたしましては?」
「おー、う!」
頭を下げて見せるミネ団長の真似をして
首をこっくんと下げるスズラン。
そんな写真をぱしゃりと取っていると
そのフレームの隅には地面にへたり込んでいるレイサさん
「あー!あー!」
スズランはそんなレイサさんに手を伸ばし
そっちに近づきたいのだとミネ団長に伝える
ミネ団長はスズランちゃんの手を伸ばす先へ
探り探りにスズランちゃんを近づけていくと
そこにあったのはレイサさんの頭。
レイサさんの頭をぺしぺし。
不器用にも叩くように撫でるスズランちゃん。
「こんな小さな子に慰められるとは…
ありがとうございます…」
そんな光景に、スズミさんはくすくすと笑い
レイサさんの手を取って立ち上がらせる。
「私達にはまだ仕事が残っているんですから
こんなところで凹んでいる場合じゃないですよ」
スズミさんはよろよろと立ち上がるレイサさんの
スカートについた土を軽く払い
ちょうど応急処置を終わらせて
集合しようとする私たちに頭を下げる
「繰り返すようですが、到着が遅くなり申し訳ありません。。
…これは、つまらないものですが…よかったら子守唄にでもなれば」
「これは一体?」
ポータブルプレイヤーを受け取るセリナ先輩。
その画面を覗き込むと、その中にはどうやら、1曲しか入っていないようだった。
「私のお気に入りの曲、オスティンビーバーのベイビーという曲が入っています」