ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:38日目 蒼森ミネ
だんだんと言葉らしきものを話すようになってきたスズラン
最初は泣くだけだったのに
次第に「あー、うー」と感嘆のような声を上げるようになった。
そして今では、何かものを指して
その名前を呼んでいるかのような行動を示すことも増えてきた。
そこで問題となるのは、誰が最初にママと呼ばれるのか。
誰の名前を呼ぶのか。だった。
――――――――――――
「スズラン、ハナエママが帰ってきましたよー」
ハナエが病院の手伝いを終えて、勢いよく部室のドアを開くと
プレイマットの上で遊ぶスズランが振り返って
ハナエを歓迎するように、ばんざーいと手を挙げた。
「お疲れ様です。ハナエ。」
「団長~、ただいまです~」
マットの上でボールを握っていたスズランを抱きかかえると
ハナエは頬ずりをして再会を祝っている。
そんなところに静かに帰ってきたセリナも
部室のドアを潜ってスズランの顔を見ると
ぱっと明るい表情に変わり、小走りにスズランのもとへと駆け寄る。
「セリナも、おかえりなさい。」
「はい、団長。ただいま戻りました」
スズランちゃんにに変わりはなかったですか?」
「ええ、元気に遊んでいましたよ」
自分を抱きかかえたハナエをぽすぽす撫でるスズランの顔を覗き込み
私も、と頭を近づけるとスズランも
今度はセリナの頭へと手を移してぽすぽすと手を動かした。
私はそんないつもの光景を眺めながら医療品の棚卸しを行っている。
最近、救護騎士団への来訪者が多くなったように感じるのに
その割に医療品の減りはそんなに早くはない。
みんなスズランの顔を見に来てくれているのだろう。
そんな中、一番よく見る顔と言えば正義実行委員会のツルギ委員長。
以前までは任務でどんな大怪我をしようと来ることはなかったのに
今では小さなかすり傷一つで訪れてくる。
部室に来た時には興味がないような顔をしてはいるものの
やはり気にはしてくれているようだ。
そんなこんなで棚卸を終えると
プレイマットに戻って2人へと合流する。
そんな私を歓迎するかの如く
スズランはこちらへとはいはいで近寄って来た。。
「あら、だっこですか?あら…?」
正面に手を差し出して待っていたのだが
スズランは横を通り過ぎて背後に回る。
私の翼を手がかりに背中にしがみつこうとしているのは
おそらくおんぶ、ということだろうか。
「お出かけしたいんですかね?」
「スゥちゃんのお出かけといえば、ミネ団長の背中ですもんね」
「そういえば、今日はスズランを外に連れていってあげていませんでしたね」
思い返すと、自分自身も部室から出ていない。
救護を必要とする人の声がしなかった
ということは悪い事ではないのだろうが
それでも、外に出ない日というのは少し味気ないものだ。
窓の外を見ると、夕日も落ちかけた黄昏時。
夕涼みにはちょうどいい時間だろう。
そんな私の気持ちを察してか、セリナはおんぶ紐を私に手渡す。
「そうですね、少しお散歩をしましょうか。」
「あーぃ!」
私の翼に掴まり立ちをしながらも
ぺしぺしと私の背中を叩くスズラン。
急かしているかのようにその小さな足はパタパタと足踏み。
私がおんぶ紐を背負うと
セリナがスズランをそこに差し込み
スズランはぎゅっと私の背中に体を寄せて、後頭部へと頬ずりをした。
「セリナ、ハナエ。お疲れのところ申し訳ありませんが
少しだけお散歩に行きましょうか」
「「はい!」」
二人の元気のいい返事に私は立ち上がり部室のドアを潜る。
救護棟の廊下を歩くと救護騎士団な生徒達がこちらに手を振り
それに元気よくスズランが手を振り返すたびに、私の背中が小さく揺れた。
救護棟を出ると、私達を包んだのは、少し冷たい初夏の夜風。
「夜はまだ涼しいですね。」
「そうですね、お昼にはお散歩に行くのもちょっと辛いですが
これくらいの時間なら過ごしやすいかもしれません」
「あ゛~、おーあー」
その風を受けて、心地よさそうに声を上げるスズラン。
小さな小さな翼を広げているようで
セリナはそれを見てクスクスと笑っていた。
そんなスズランの頬をつんつんと突くハナエ。
こんな平和な日々が、いつまでも続けばいいと、私は思う。
「最近スズランちゃんも、言葉を覚えてきたのか
いっぱいお喋りするようになりましたね」
「まだ何を言っているかはわからないですけどね」
「心配しなくても、すぐに喋り出すでしょう。
なにせ、スズランは天才ですから。」
「あぃ!」
夜風に笑い声を溶かしながら、私たちは歩く。
遠くに響く生徒たちの笑い声や、
ベンチに座って肩を寄せ合って何かを見ている生徒達。
遠くに見える学校の柵の向こう側には、
だんだんと灯かりがともり始めていた。
そこには校門の方へと駆けてゆく生徒たちの姿も。
トリニティスクエアをゆっくりと歩き
噴水で少し休憩をして、スズランは流れる水に手を差し伸べて
その冷たさにびっくりしてハナエに水をかけてしまったり
大きな大聖堂の横を抜けて
見上げるスズランが落ちないようにとセリナが手を添えたり。
そんなのんびりとした時間を過ごしていると
遠くから響く乾いた破裂音
足を止め、慎重に聞き耳を立てると
かすかに怒声と、悲鳴が入り混じる。
「団長!」
セリナが私の盾を差し出す。
それを受け取って救護の証明を構えると
私は弾倉へと弾を込め、自分の装備を確認。
二人も、背中に掛けていた自分の銃を前に構え
弾倉を差し込んで初弾を装填する
そうして、自分への操の言葉を口に出そうと
少し息を吸い込んだその時、私の背中で、スズランが声を上げた
「うゅーごー!!」
思わず肺の中で詰まった言葉が
別の言葉になって口を突く。
「スズラン!?今、救護と言いましたか?」
「間違いなく言いました!救護って!ねえ、セリナ先輩!」
「ふふ、スズランは紛れもなく、救護騎士団の子ですね!」