ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記)   作:救護騎士団記の記録係

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元スレ:【SSスレ】ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記 Part2
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子育て日記:41日目 朝顔ハナエ

子育て日記:41日目 朝顔ハナエ

スズランちゃんを連れだすとき、

少しでも危険があるとミネ団長が考える場合は

必ずミネ団長がスズランちゃんを背負います。

 

前回のティーパーティーへの参集のときもそうでした。

 

しかし、今回はその限りではないようで

ミネ団長はスズランを私に預け、私達も一緒に生徒会室へと向かいました。

―――――

生徒会室の扉の前、私達にはちょっと緊張するその場所で

ミネ団長はなんでもないような顔で大きな扉をノックする。

 

「救護騎士団、蒼森ミネ。参集に応じて参りました。」

 

ドアをノックして宣言するミネ団長の肩にはベビーベッドか担がれている。

その上には山盛りのスズランちゃんのベビー用品。

ベビーカーを使えば、と思うのだが

「こちらの方が荷物をたくさん積めるではないですか」と

ミネ団長くらいにしかできない事を平然と言っている。

 

教室など、その場所に長居をすることになるときは、いつもこの様子だ。

廊下を通り過ぎる生徒達も、もう見慣れた光景とばかりに気にもせず

私に抱っこされたスズランちゃんへと手を振って歩いていく。

 

スズランちゃんの手を握って

小さく振り返して見ると「きゃー」と黄色い声援。

そうこうして待っていると、生徒会室の扉が開かれて

生徒会の生徒さんが顔を出す。

 

「救護騎士団の皆さま、お待ちしておりました。」

 

お付きの生徒たちによりその両開きの扉が開かれると

そこには生徒会長達と先生が座っていた。

真ん中にはナギサ様、その隣にはセイア様。

空席になっているのはミカ様の席だろう。

 

どうぞ、とナギサ様が手を差し伸べて

私達に準備された椅子へと案内してくれた。

 

「ご足労頂き、ありがとうございます。」

 

"やぁ、みんな。スズランも元気そうだね。"

 

「忙しいのにすまないね。荷物を降ろして楽にしてくれたまえ」

 

先生の足元には、相変わらずいくつもの紙袋。

今回のお土産はスズランの玩具だろうか

鮮やかな色の箱の頭が飛び出していた。

 

私たちに用意された席に座ると、目の前には

スズランちゃんのために既にカットされたフルーツと離乳食

そして私達のために準備されたティーカップとお菓子が並んでいた

 

「先生、お久しぶりです

 ナギサさんとセイアさん…は、お久しぶりという程ではありませんね。」

 

ミネ団長が肩に担いだベビーベッドを降ろすと

スズランちゃんは手をバタバタと降ろしてくれと主張する。

 

私がベビーベッドにスズランを降ろしてあげると

そこにぺたんと座って、ぶんぶんと腕を振り回して、ご機嫌に挨拶の声を上げる。

 

「ぱーぁ!あいあ!ぃえぃあ!」

 

スズランちゃんは先生、ナギサ様、セイア様を順番に指さして何かを叫ぶ。

 

いや、きっとそれぞれの名前を呼んだのだろう、と予想はつくが

もしかして今、先生のことを「ぱぱ」と言ったのだろうか。

 

先生と会うときに先生のことを「パパ」と言ったのは最初に会った時だけだった

と私は聞いていたのだが、そんな前の事をスズランちゃんが覚えているだろうか。

 

驚いて、ミネ団長とセリナ先輩に目をやると

方や何もない空を眺めて頬が赤い、方や地面を見据えてもじもじと。

何かを隠しているかのようなその表情から察するに

犯人は、この二人のようだ。

 

にやりと笑ったセイア様が椅子から立ち上がる。

そして、スズランちゃんの言葉を確認するように質問をする。

 

「やぁ、スズラン。今先生のことをパパと呼んだかい?」

 

「ぃえいあ!あー!」

 

「うんうん、私はセイアだよ。上手だね。

 ところで、誰が先生のことをパパと教えてくれたかを教えてくれるかい?」

 

セイア様は意地悪く、その長いテーブルを回り込み

くすくすと笑いながらベビーベッドを覗き込む。

 

そんなセイア様にこつん、とおでこを合わせ

無邪気に笑うスズランにはまだ何を聞かれているのかわからない様子で首を傾げた。

 

自分達が指さされなかった事にちょっとほっとしたように

相変わらずもじもじとしているミネ団長とセリナ先輩の二人に

話が進まないとばかりにナギサ様がため息をつく。

 

「もう、セイアさん。意地悪はそこまでです。ほら、皆さんお席にどうぞ。」

 

その言葉に救われたとばかりに、ミネ団長とセリナ先輩は席に座る。

 

私も慌てて椅子に座りセイア様が席に戻って来るのを待つのだが

少し待ってみても、いつもの席にセイア様が戻ることはなかった。

そしてさっきと変わらない場所からセイア様の声。

 

「毎度のことですまないが、助けてくれないかい?」

 

まさか、とベビーベッドを方を振り向くと

スズランに耳を掴まれ、困った顔をしたセイア様がいた。

 

―――――――――

 

「また泣かせたのですか、サクラコさん…」

 

「私だって、泣かれたくはないのですが…ないの…ですが…」

 

「…ギヒヒヒヒ…顔が怖いのが悪い」

 

「ツルギ!それを言い出せばあなたの方が大概なのですから!」

 

「子供の価値観というのは面白いものだからね、美人が怖いと言うのもある話だよ。」

 

少し遅れて来た正義実行委員会のツルギ委員長と、ハスミ副委員長

シスターフッドのサクラコ様と、マリー様とヒナタ様

トリニティの首脳陣が集まるこのお茶会は公園での井戸端会議のように楽し気に進む。

 

生徒会ってこんな場所だったかな、とちょっと気が緩み始め

雑談のような連絡会がひとしきり落ち着いたころ、ナギサ様が咳払いをした。

 

「さて……、今日および立てした理由についてお話を。」

 

ナギサ様が、給仕をする生徒達に目配せをすると、少し頭を下げて別室へと控える。

ティーパーティーで込み入った話が為されるときというのは

このように生徒会長達と本人以外がいなくなる。

 

そしてそのような時にされる話というのは

軽い話題ではない、ということは想像に難くない。

 

ティーパーティー、正義実現委員会、シスターフッドそして私達救護騎士団。

学園の主要派閥のトップたちが集められ

軽くはない話題が切り出されるというこの状況。

 

ナギサ様の言葉移行、ぴたりとやんだその談話の空気は

給仕の生徒達が全員別室に控えたのをナギサ様が確認して動き出す。

 

「以前として明らかにならないスズランさんの出自

 もう一歩、踏み込んだ調査が必要だと、私達は考えます」

 

その一言に生徒会室内の空気がピリリと張ったのが分かる。

ミネ団長だけではなく、ツルギ委員長、サクラコ様までもが一瞬にして牙を構える。

 

「……生まれがそんなに…重要か?」

 

「スズランさんは、トリニティ救護騎士団の愛し子

 それ以上に詮索するべきことがあるとは思えませんが。」

 

冷たく、その言動を咎めるように告げられた言葉に

ナギサ様が握るティーカップが小さく揺れる。

動揺を隠しきれず、それをなんとか口に運んだのだが

まだ落ち着かないようで、セイア様がため息ひとつ助け舟を出す。

 

「ナギサは言葉が足りないね。

 そんなだから恨みを買うんだよ」

 

「セイアさんには言われたくありませんが…申し訳ありません。

 詮索することが目的、というわけではないんです」

 

ナギサ様がハンカチで冷や汗を拭うように頬を撫でる。

その表情は焦りと、怯えのようにも見えた。

 

さきほどまでとは180度変わって

敵意を向けられてしまっては気が気でないのだろう。

ナギサ様はなんとか落ち着こうと、大きく深呼吸。

さらにもう一つ大きく大きく息を整えると今日の要件を話始めた。。

 

「この子が大きくなり、もし自分のことを知りたいと思った時

 私たちは何も知りません、というのはあまりに不条理だと思うのです。」

 

ナギサ様が言葉を一区切り、また深く呼吸をする。

きっとこれを切り出すのには勇気が必要だったのだろう。

その後の少し呼吸が浅いのが見て取れる。

 

「情報というのは、時間と共に霧散します。

 今分かることも、この子が大人になってしまってからでは分からなくなることも、あると思います」

 

「……言い分は分かった。しかし、手段はどうする?既に一度調べた事だ。」

 

ツルギ委員長がティーカップ空にしながら言う。

既にその目には敵意はなく、肩に担がれたその銃の引き金に指はかかっていない。

 

かといって迫力が無くなったわけではないその顔に

ナギサ様が固唾を飲んで、次の言葉を選んでいると

その隙間を埋めるかのように、サクラコ様はその涼し気な目元を伏せて言う。

 

「この子の出自で分かっていることは、カタコンベにいたことのみ。

 となるとアリウス学園、ですね?」

 

「…はい。そのために本日は先生に同席をお願いしております。」

 

ナギサ様の肯定に先生へと目を向けると

そこには相変わらずいつもの穏やかな笑顔。

私たちの選択を見守るように、私達ひとりひとりの目を見て笑いかける。

 

「ミネ団長、セリナさん、ハナエさん。最終的な決定は、あなた達にお任せをいたします。

 どうなさりたいか、この子のためを想い、どう決定するか。

 それを尊重し、トリニティ総合学園として出来ることをしたいのです」

 

きっとナギサ様はここで結論を出すつもりではなかったのだろう。

 

しかし、隣に座るミネ団長へと目を向けると、そこには既に凛とした瞳をたたえた団長がいた。

団長は私とセリナ先輩へと目を向けて、その意思を確認する。

セリナ先輩と私だって、きっと団長と同じ気持ちだった。

 

「お願いいたします。

 きっとこの子もいつか、自らの出生を知りたくなる日が来るでしょう。

 少なくとも、このトリニティ総合学院という場所はそういう場所です。」

 

生まれ、育ち、家柄というものが強い影響を持つこの学園では、出自を気にする場面も多い。

そしてそれ相応に、立ち振る舞いが求められ、それが学園を大きく動かすことだってある。

ただ、それは誰しも明確なもので、まず分からないという事はないのが普通だ。

 

ミネ団長の即答に、ナギサ様は少し驚きながらも頷き、肯定する。

そして、先生へと何かを求めるように目線を送る。

 

「はい、私もそう考えます。……先生。」

 

"うん。わかったよ。その前に、紅茶のおかわり、貰ってもいいかな?"

 

先生が静かに頷きながらティーカップを掲げにへらと笑う。

マナー違反もいいところなその行為に、場の緊張は解かれていく。

 

慌ててお茶を注ぎにくる生徒会の生徒さん。

"ありがとう"と一言、すぐに口に運んで

"あちち"とその温度に驚いて、ナギサ様はため息ひとつ。

 

そうして、その空気はもとのお茶会へと戻り、太陽が傾き始めるまで

その和やかな空気をみんなで楽しむことになった。

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