ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:50日目 蒼森ミネ
今日は、アリウスの方とお会いするお約束の日です。
場所はトリニティ学区の外れにある、古い教会。
シスターフッドも、正義実行委員会も
そしてティーパーティーも支援をするとのご提案を頂きました。
エデン条約、あの時の遺恨を考えると
その"支援"が穏当なものとも思えず、お断りをさせて頂きました。
先生が共にいる以上、彼女たちも変なことはしないでしょう。
―――――――――――
「先生、待ってたよ。」
先生と共に私達が古い教会を訪れると
そこには既にアリウスの二人がいた。
確か名前は秤アツコさんと、戒野ミサキさん。
古ぼけたその教会はきっと今では使われていないはずの場所。
しかし直近に掃除がなされたのだろう。
埃や黴臭さはなく、机や床、窓ガラスまで丁寧に掃除されていた。
きっと、シスターフッドの手回しだ。
あまり顔を合わせる機会、というのもある方達ではないが
過去に会った、いや共闘した事がある。
その際は4人組だったと記憶をしているが、残りの2名はどこにいるのだろうか。
部屋の中を見回していると、それを察したかのように
ミサキさんが私が聞きたいことを答えた。
「要件は先生から聞いてる。リーダーももうすぐ来るはず」
あと一人はどこに?
隠れているのであれば襲撃を警戒をしてしまうが
2人の手には、武器らしきものはなく、先生にちらり目をやると
"大丈夫だよ。"とでも言いそうな目が
穏やかに、そして無警戒に私達を見ていた。
本来2人が持つであろう武器は遠く教会の壁に立てかけられている。
きっとこれが、戦闘する気がないことの意志表示。
彼女たちにとっては、かなり勇気のいる決断だっただろう。
「承知致しました。
では、お待ちすると致しましょう。」
少し歩み寄ると、今度は二人が警戒をする。
警戒を解こうと、セリナとハナエに銃を降ろすよう指示をして
私は救護の証明をホルスターに仕舞う。
二人が銃を背中に回すと
ほんの少し、安心した様子のアツコさんが
私の背中に背負われたスズランの顔を覗き込むように確認した。
「この子が、件の?」
「はい。セリナ…この子が見つけ、私達が保護をしています。
発見場所は…カタコンベ。あの地下墓地です。」
「そう。……でも、アリウスではあまり見ないタイプの子だね。」
まずはヘイロウ、次に顔、最後に翼へと目を滑らせて、首を振る。
私もアリウス分校の事は調べた。
先生からの話、連邦生徒会からの支援活動の写真。
その情報のどれにも、あまり翼をもった生徒は多くはない。
しかし、それは逆に言えば
この子の血縁者がアリウスにいるのならば探しやすいという事でもある。
二人で相談をするように話し合うアツコさんとミサキさん。
しかし、情報の出ない二人の会話を聞いていると
静かな声が奥の扉の方から聞こえ来る。
「すまない、遅れてしまったようだ。」
2人の背後、影からスゥと現れた長身の少女。
こちらは、錠前サオリさん。
アリウススクワッドのリーダーだ。
そっと、ゆっくりと部屋に入って来る彼女は両手を上げ
その片手にはマガジンの装填されていないライフル。
敵意はないことを示しながら、ゆっくりと歩き
その銃をミサキさんとアツコさんの武器の隣、壁へと立てかける。
その全ての動作はゆっくりと
足のベルトに仕舞われたナイフ、手榴弾に至るまでを床に置き
両手を挙げた状態でこちらに近寄って来る。
2人に並ぶと、ミサキさんがサオリさんへと声をかけた。
「久しぶり、リーダー。」
「ああ。世話をかける。」
旧知の有事にに会ったかのように口調は穏やかではあるが
警戒は解かず、注意深く周囲を見渡すサオリさん。
そして何かに気付いたのか
高く取られた窓の向こうを見据えると、その挙げた両手が少し強張る。
「アツコ、ミサキ。」
2人に目配せをすると、その2人も両手を挙げた。
私達は戦闘態勢を解除している。
だとすれば、その降伏の姿勢を向けているのは別の者。
まさか、とその視線の方向を見ると、その建物の上には黒い影。
数百メートルは離れていると思われるその距離から
正確なことは分からないが3人はいる。
この昼の日差しの中でも、黒い影を落とすのは正義実行委員会の制服だ。
「まったく。あの方々は!」
私は3人の前に阻み出て盾を構える。
きっと彼女達ならば、少なくともハスミさんならば
この意図は汲み取られることだろう。
そして彼女たちは私の思惑を読んだように
その屋根の上からその姿を消した。
「すみません。失礼を致しました。」
「いや、構わない。
私達のしたことを考えればこの程度の警戒は理解できる。」
「…おそらくは、貴女方ではなくても、こうなったかと思います。」
心配性なあの保護者達に深く大きくため息を一つ。
これでは私達が制裁を加えるために誘き出したかのようではないか。
だから"支援"をお断りしたというのに。
しかし、その支援者というのは1組ではない様子。。
ようやく両手を下げた3人、話し合いを始めよう。
場所はどこが良いだろうかと見渡していると
窓から頭を覗かせるウィンプル。
ガチャガチャ、ガタン、窓が開かれ
軽々と放り込まれた緑髪の少女が「ぐえっ」と声を上げて床を転がる。
その両手には、大きな対物ライフルが抱かれていた。
「あ、あの、こちらの方をお忘れのようでしたので…失礼いたしました…」
と、頭を下げて窓枠の外に消えたのは、ヒナタさんの声。
所属はシスターフッド、つまりこの近隣はシスターフッドが制圧済、という事なのだろう。
遠くは正義実行委員会、近くはシスターフッド、正面には私達救護騎士団
彼女たちにとっては、これ以上ない四面楚歌だろう。
緊張の走る彼女たち3人の中
間の抜けたような声を上げるヒヨリさん。
「うぇぇ…痛いです…」
「なぜヒヨリがシスターに投げ込まれている?
いや、聞くまでもないか…」
「リーダーたちに何かあった時の逃走経路確保だって
姫ちゃんに言われてたんですが…
うわぁぁぁぁん、やっぱり私じゃダメでしたーーーー!」
きっと、逃走経路を覗くように狙撃地点を確保していたのだろう。
それをシスターフッドが見逃してくれはしなかった。
見つかり、捕まり、そして放り込まれるに至る、ということだろうか。
「外傷は…銃創なし、転んだ傷くらいでしょうか。
セリナ、治療をしてあげてください」
「はい。団長」
セリナさんがヒヨリさんに歩み寄ると
怪我がないかを確認する。
一緒に目を走らせるが、大した怪我はなさそうで
投げ込まれた時に就いたであろう
おでこの傷に一つ大きな絆創膏を貼りつける。
「気にするなと言っても無理な話なのは分かりますが、気にしないでください。
過保護な保護者が多いだけなのです。」
「ああ。きっと私達を確保しようとするのであれば、もう動いているだろうな。」
「私達が何もしなければ、無事に帰してもらえるってわけだね。
まあ、先生がそんなだまし討ちに加担するとも思えないし。」
ミサキさんの言葉に私達の後ろに立っている先生に目をやると苦笑い。
きっと先生でも、ここまでの総出は想定していなかったのだろう。
いや、各組織が互いに、各組織のほぼ総力をここに注込むなど
誰も予想はしていなかったはずだ。
おそらくは今あたり「どうしてあなた方がここに?」
なんて連絡の応酬があっているのではなかろうか。
窓の外から聞こえてくるそんな予想通りの喧騒にため息をつく私。
サオリさんが小さく笑い、アツコさんが仮面の下からクスクスと笑うしぐさ
ミサキさんはやれやれとでも言いたげに眉を顰めていた。
それが飲み込めない様子のヒヨリさん。
「なんでみんなそんな落ち着いていられるんですかぁ!
もう終わりです!洗い浚い吐いたら捕まって拷問されて殺されるんですー!」
「ヒヨリ、うるさい。」
「姫ちゃんもなんでそんな落ち着いていられるんですか!」
冷静沈着な3人の中、ひとり泣きわめくヒヨリさん。
私達がどう言い訳したところで、信じてもらうという事は難しいだろう。
どうしたものか、と頭を悩ませていると。先生が割って入る
"お茶とお菓子を用意してるから、食べながら話さない?"
手には、大きめのコンビニのレジ袋が握られている。
その中には、ペットボトルやケーキ、シュークリームなど、色々なお菓子。
先生は持参したジュースとお菓子をテーブル起き
そのテーブルに着いた私達。
コンビニエンスストアのお菓子ではあるが
緊張を解くのに、甘いものは有用なはずだ。
先生がその袋を解こうとしていると
どこからともなくロールケーキが差し入れられ
トリニティの制服を着た生徒達が、お茶会の準備を始めた。
茶器に、お菓子、3段トレーにはサンドイッチにスコーンに。
テーブルの上がにぎやかになっていく。
"ナギサだね…"
「ええ、ナギサさんですね。」
そのお茶菓子がロールケーキ、というだけで断定してしまうのは
あまりに短絡的かもしれないが
こんな事を画策するのはあの人くらいなものだろう。
いきなり始まったお茶会にアリウスの方達は
見慣れない様子でひそひそと話をしている。
警戒させてしまったのではないか、と気にするが
漏れ聞こえるその内容は決して不穏なものではなく
「このケーキ、食べていいの?」
「これは、マカロン…?初めて見た。」
「姫、こういう場のマナーを知らないか」
「もう終わりです!きっとこれは罠です…
逃げられないならいっそ、全部頂いちゃいましょう!」
なんというか、その雰囲気に似合わず年相応なやりとり。
今まで、武闘派という噂ばかりに気を取られ、その生い立ちに同情を覚え
救護の対象とすべきではないのかと悩んでいた
私の考えをきれいに裏切ってくれた。
そんな安堵からか、私の口を笑いが飛び出す。
「ふふ。ただのアフタヌーンティーですから
マナーなど気にせずお召し上がりください。
……セリナ、ハナエ。私達も頂きましょう」
それぞれのティーカップへと注がれるお茶。
一つのティーポットから注がれたお茶のよい香り。
これは、かなりいい茶葉を出してくれたようだ。
私は、背負っていたお眠な様子のスズランを、膝の上へと抱きかかえる。
お茶会には邪魔な盾を床に置くと
アリウススクワッドの方々の緊張が少しだけ緩んで見えた。
――――――――――――
ぎこちなく始まったそのお茶会。
よい茶葉で煎れられたお茶を潤滑剤にするように
少しずつではあるが会話が回り始める。
「すまない、私達にもその子の親というのは見当がつかないな。
瞳の色、翼の色、髪の色…どれをとっても思い当たる者がいない。」
「そうですか…。残念です。
何か情報があれば、と思ったのですが。」
サオリさんの言葉に、私は膝の上で眠るスズランに目を落とす。
髪の毛の色はともかく、この特徴的な翼の色であれば
何か手掛かりになるのではないかと思っていただけに
分かっていても、心に少し重たく落ちる。
そんな気持ちにお茶を飲むだけでいっぱいの私の目の前
アツコさんとヒヨリさんは、目の前のお菓子に手を伸ばす。
「子供を捨てるにしたって今あそこを通って
アリウスからトリニティに行く事は難しいと思う。」
「もう地図もないですからね。遭難するのが目に見えます。
……あっ!姫ちゃん、そのサンドイッチは、持って帰ろうと思ってたんです!」
確かにあの事件以降
トリニティ側から、またアリウス側からの通行は見張られているし
何より、あの場所自体が形を変える異様な場所。
調査されてはいるものの、未解明な事が多いせいで
調査隊にも行方不明者も出ては捜索が行われていると聞く。
そんな状況下でどうやってトリニティに近く
浅い部分に置きざることができたのか、ということが分からない。
もしかすると、あの地下墓地の地図を持っている人がいる可能性もあるのだろうか。
可能性としては、なんて考えを巡らせる私に
ミサキさんはチョコレートを摘まみながら言う。
「私が親だったら、拾われるならそっちに、というのは納得出来る。
あそこで子供を育てるなんて、"こう"なるのがオチだし。」
「まあ今は、連邦生徒会からの支援も多少はあるみたいですけど
……主犯たる私達は…戻ることもできないんですけどね…、はは…」
ようやくみんなの会話がゆったりと成立するようになってきた頃
スズランがおねむから目を覚まし、寝ぼけまなこでのびをする。
畳んでいた翼をはためかせ、周囲を見渡すと
普段と違う場所にいることに気が付いたようだ。
しかし、そこはさすがスズランとでも言えばよいのだろうか。。
特に気負った様子もなく、怖がる様子もぐずる様子も見せず
アリウスの4人へとにっこりと笑いかけて手を振っていた。