ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:62日目 鷲見セリナ
かなりスズランちゃんの言葉がはっきりと形を成すようになってきました。
今までの母音に釣られがちだった言葉、濁音半濁音が不明瞭だった言葉が
だんだんと明瞭になりつつあります
何を指示しているのかもよく分かるようになってきました
そしてそれが、きちんと言葉を覚え
その意味も理解しつつある、
――――――――――――――――
「行きますよ、スズラン!誇りと信念を、胸に刻み!最後の、その瞬間まで!」
「きゅうご!!」
ミネ団長が空高く飛び上がる。
二人の大きな翼が上空で大きく広げられて、若干の滑空。
ぽい、とスズランちゃんの手から放られた手榴弾を
それを団長が空中で射抜き、足元で爆発が巻き起こる。
そこに轟と着地をして、不良生徒達を吹き飛ばす。
最初は冷や汗を流しながら見ていたその光景も
見慣れてしまえば、いつもの光景だ。
「みねまぁまー!」
「はい、スズラン!」
起き上がって発砲しようとした相手
スズランちゃんが指さす相手に、ミネ団長の散弾のヘビーパンチ。
後方からの私たちの支援射撃よりも早く、相手をなぎ倒す。
だんだんと見慣れて来たものの
この異様な光景に、若干の戦慄を覚えてはいる。
教育上悪くはないのだろうか。
そんな心配をしていると、スズランちゃんが別の方向を指さした。
「ぶーぶ!ぶぶー!」
「姑息な…。本当に救護が必要な人たちのようですね!」
派手なエンジン音が迫り
公園の外から生け垣を薙ぎ倒すように戦車が迫る。
兵器まで出されてはさすがに少し分が悪いだろうか。
前線のミネ団長達に向く砲身を
こちらに視線を向けさせようと装甲に向けて発砲するがターゲットは変わらない。
それに気を引かれたのは、戦車の上にいた不良生徒達だけだ。
こちらに向いたいくつもの銃身が完全にこちらを捉える前にと
ハナエの襟首を掴んで移動を開始する
「セリナ先輩!ふたりが!」
私に引っ張られながら、戦車に銃を撃つハナエ。
しかし、その抵抗も甲斐なく、戦車の主砲は正面。
ミネ団長とスズランちゃんを捉えて離さない。
盾で正対するミネ団長と、戦車を睨むように目を離さないスズランちゃん。
車体がブレーキをかけて大きく揺れを残して止まり
主砲が撃たれるか、というその瞬間。
戦車の横腹を貫く閃光と、数秒遅れて到着する爆発のような発射音。
それと共に到着したのは悪魔のような黒い影に連れられた正義実行委員会の人たち。
「ギャハハハハ!ギィーッヒヒヒヒヒ!
やらせる訳が。ないだろう!!」
「ちゅるぎー!」
「あっ…スズランちゃん……ちょっと待っててね。
…動くな、死ね!死ねっ!死ねェェェエエエエエエ!!」
一瞬、ツルギ委員長の悪魔のような顔が
乙女になったような気もするが、それもたった一瞬のこと。
爆発する戦車から放り出される不良たちが空中で散弾に捉えられる。
ツルギ委員長の発射数よりも多く蹴散らされているのは
ミネ団長のみでなく、マシロさんのものもあるのだろう。
その登場から瞬く間に制圧された不良生徒を確認すると、私達の後ろから声が響いた
「取り押さえなさい。誰一人逃がしてはなりません。」
「包囲を崩さず、確保するっすよー!
そこ、包囲甘いっす。第二部隊、フォローに回るっすよー」
黒い制服の生徒達に取り押さえられる不良たち
そのほとんどは、身動き一つ取れそうにはないのだが
それでも容赦をしないあたりが、正義実行委員会らしい。
それからというもの、ほとんど抵抗できないままに
一気に取り押さえられた不良たち。
やっと戦闘の落ち着いたこれからが、私達の本番だ。
「セリナ、ハナエ、負傷者の治療にあたりますよ。」
「「はい、団長!」」
とは言うものの、負傷者といえば不良生徒達。
自分達で倒しておいて、それを治療するというのは
少しマッチポンプな気がしてならないが、けが人はけが人だ。
負傷の少ない不良たちと、負傷の大きい不良たちは
正義実行委員会の子たちにより振り分けられ
治療の必要な不良生徒は次々とこちらへと搬送される。
今までなら怪我人を無理に連れていく正義実行委員会と
小競り合いになっていたのだが
最近はすっかり連携も上手く行きはじめ
これもまた、最近変わった光景で、見慣れ始めた光景だった。
次々運ばれてくる負傷者に、私とハナエちゃんで対処をしていると
制圧を終えたハスミさんがミネ団長の方へと歩み寄る。
「ミネ団長、スズランさん、お怪我はありませんか?」
「はい、私もスズランも、かすり傷の一つありません……あら?」
ふとミネ団長の疑問符にそちらを見ると
おんぶひもが切れそうに、薄皮一枚を残して耐えていた。
団長の激しい動きと戦闘にここまで耐えていたのだから
逆にすごい性能だったのが計り知れるそれは
先生が持って来てくれたものの一つ。
「先生が下さったおんぶ紐だったのですが…まあ仕方がありませんね…」
ミネ団長が名残惜しいそうにそれを肩から外すと
スズランちゃんを背中から降ろし、地面に立たせる。
地面に降り立ち、ばんざい!とポーズを決めるスズランちゃん。
やはり自分で歩くのがお気に入りなのだろう。
「はーしゅ!」
「スズランさん、お喋りが上手になりましたね。」
スズランちゃんに呼ばれたハスミさんが
その高い背を曲げて、スズランちゃんの頭を撫でる。
スズランちゃんはそれに照れるように頭を押さえ
ゆらゆら頭を揺らしてしばらく撫でられ満足したのか
パタパタこちらへ駆けてくる。
「せりまま、ぼーろ、ぼーろ!」
「たまごボーロですか?…えっと、ちょっとまってくださいね。」
ポーチの中を探して、たまごボーロの小袋を取り出す。
すっかりお気に入りのそのお菓子の袋にキラキラお目々を輝かせるスズランちゃん。
その封を切ろうとするが、その手をスズランちゃんが抑え「や!」と否定した。
どういう意図なのだろうか、と考えてみて
袋をそのまま手渡すと「あーとー!」とお礼を言って
またハスミさんのもとへと駆けだした
「はしゅ!あげゅー!」
「…あの、お気持ちは嬉しいのですが……
スズランさん…私は…あなたにどう思われてるのでしょうか…」
そのままたまごボーロの袋をハスミさんに渡そうとするスズランちゃん。
確かに、ハスミさんはお菓子や甘いものが好き
という話は聞いてはいるが、この子はどこでそんなことを覚えたのか。
自分のお菓子を渡すことを心底嬉しそうにニコニコとしているスズランちゃん。
受け取っていいものかと悩むハスミさんに
ミネ団長も苦笑して「受け取ってあげてください」と口添えをすると
ツルギ委員長がハスミさんへにやりと笑う
「げひゃひゃ…そりゃ、食い意地張ってると思われてるんじゃないのか?」
「くっ……、ありがとうございますスズランさん…」
ツルギ委員長に笑われながらも
両膝をついてスズランちゃんからたまごボーロを受け取るハスミさん
苦虫を嚙み潰したような表情を真っ赤にしながら受け取るそこに
スズランちゃんから思わぬ追撃がひとつ。
「ぽんぽ、ぽんぽ!」
お腹をよしよしと撫でられて、ハスミさんは両手で顔を覆う。
お肌と同じく白い耳が、遠目で見てもはっきりと分かるほど真っ赤に染まっていた。
以前、ゲヘナの生徒に体格をバカにされたときは
周囲を破壊するほどに怒り狂ったとは聞いたことがあるが
きっと善意100%でやっているスズランちゃんには、怒るわけにもいかないのだろう。
それを笑うわけにもいかないと
いろんな顔でいろんな感情を我慢している正義実行委員会の生徒達とは対照的に
ツルギ委員長は耐えきれないとばかりに大笑い。
「ギヒヒヒ!ヒャハ…ヒャハハハハ…ギィ…ヒヒ……アガッ!!」
狂ったように転げて笑うツルギ委員長の眉間に弾丸が撃ち込まれる。
至近距離から放たれたその弾丸の持ち主はハスミさん。
真っ赤な顔のままでお怒り顔。
片手でライフルを構えて、ツルギ委員長の眉間へと撃ち込んでいた
「ツルギ!笑い過ぎです!」
驚きながらも、大の字に天を仰ぐツルギ委員長。
怪我はないかと心配になって覗き込むのだがその心配はいらない様子。
まだまだ笑いは止まらないようで
地面に寝そべったまま、ゲラゲラと笑っていた。
「ちゅるぎー!」
「あ゛あ゛?」
地面に寝そべったままのツルギ委員長の顔の横に立つスズランちゃん。
撃たれた眉間をよしよし、と撫でられると
止まらなかった笑いも止まり
ツルギ委員長の顔も真っ赤に変わってゆく。
恥ずかしいのか、顔を両手で覆い隠し、体を丸めるツルギ委員長だが
最近色々なことを覚えたスズランちゃんの手は止まらない
自分の胸に襷掛けしたポーチから、一枚の絆創膏を取り出して
裏のシールを剥がしてくれとミネ団長に渡す。
「みねまま、きゅーご!」
「はい、スズラン。」
ミネ団長がシールを剥がしてスズランちゃんへと返すと
ぺちん、とツルギ委員長のおでこに貼りつけた。
ウェーブキャット柄の、ピンク色の大きなばんそうこうが
恐怖の対象、ツルギ委員長のおでこで主張する。
自分が何をされたのかわからず、顔を覆い隠した指の間から目をぱちくり。
おでこの絆創膏の柄を知りようもないのだろうが、周りから見れば異様な姿だ。
これが本当に狂犬や死神とすら呼ばれる、あのツルギ委員長の姿だろうか。
「ふふふ。ツルギ、よく似合っていますよ」
仕返しとばかりに手鏡で顔を移して見せるハスミさん。
「キャアアア!」と奇声を上げて飛び出していったツルギ委員長だったが
その日トリニティの各所では、おでこにかわいい絆創膏を張り付けたまま戦う
ツルギ委員長の姿がそこかしこで見かけられたのだと言う