ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:72日目 朝顔ハナエ
トリニティ校内であれば、最近は自分の足で歩き回るようになってきました。
しかし、どこで覚えたのか、セリナ先輩のようにフイと消えるようにいなくなります。
行方不明になってしまっては大変だ、と手を繋いで歩くようにしているのですが
それでさえも、何か気になるものを見つけてはいつの間にやら、
その隣にいるので子守りが大変になってきました
―――――――――――――
「スゥちゃん!スゥちゃーん
どこに行っちゃったんですか!?」
私はさっきまで手を繋いでいたはずのスズランちゃんが
影のように消えたことに気付いて見まわしていた。
セリナ先輩と違って、ワープしたかのようにシャーレにいたりせず、
常識的な範囲にいるはずなのだけど
何を見て、どう学べばそれができるようになるのだろうか。
スズランちゃんが消えるのは、
怪我した人がいる時だったり、きれいな羽の生徒を見つけた時だったり
はたまた、何かよくわからないものに興味を示してしまった時だったり。
いろんな理由で消えてしうまうので理由を探して私はキョロキョロ。
そんな私の視界には、中の良さそうな4人組。
ヒフミさん達、補習授業部の皆さんだ。
「あら、この子は例のお子さんですね……」
「誰かの子供!?誰が、誰か子供産んだの!?」
「救護騎士団が見つけてお世話してるんだそうですよ。
■■■して■■■■した結果、■■ちゃった、とかではないみたいですが」
「バカハナコ!下品!子供の前で何言ってるの!?」
ハナコさんがスズランちゃんの頭を撫でながら
どこかで聞いたのだろう、スズランちゃんの事情を説明しているが
半分くらい聞いたことのない単語が混じっているのはなんなのだろう。
そんな説明にヒフミさんは分からない単語はスルーしながら苦笑い。
「コハルちゃん、全校集会を聞いてなかったんですか?
ナギサ様が全校に声明を出していたと思いますけど……」
「なにそれ、知らない。
そのときは久しぶりにハスミ先輩といっしょに正義実行委員会のお仕事してたし」
「そのハスミ先輩もだいぶ可愛がっていると聞いたぞ。」
「え、嘘!?」
補習授業部の面々に囲まれて撫でられて
まんまるオレンジの目をぱちくりさせているスズランちゃん。
私は見つけてほっと一息胸をなでおろして彼女たちに駆け寄ってゆくと
気付いたヒフミさんが私にぺこりと頭を下げた。
「噂をすれば救護騎士団の方ですね。」
「すみませんスゥちゃんが。
自分で歩けるようになって、勝手に色々歩いちゃって……」
息を切らしながら合流すると
なんで疲れてるの?と言わんばかりに首を傾げるスズランちゃん。
「無事合流できてよかったですね
もし悪い人に捕まっちゃったら
■■されて■■■なことになっちゃうかもですからね」
ハナコさん、噂では知っていたがこの人は何を言っているんだろうか。
正直、意味はわかるはずなのに、喋っていることを脳が理解したがらない。
「ハナコ!いい加減にして!
子供にそんな言葉聞かせるなんて死刑よ!死刑!」
「ふふっ、大丈夫ですよ。まだ言葉を理解できる年齢では……
でも覚えちゃったら大変ですね。ごめんなさい。」
スズランちゃんへと目線を合わせて謝るハナコさん。
その手がゆっくりとスズランちゃんの頭を撫でようとするが
私の足の後ろへと逃げ込むと、珍しく涙を目に浮かべて拒絶する。
「やぁ。いやぁ!」
私の足にしがみ付いてしゃくりを上げ始めてしまったスズランちゃん。
自分から近寄って行って、離れると泣き出すことはままあれど
人見知りで泣きだしたのは、初めてかもしれない。
「あの、まだ1歳にも満たないと聞いたのですが……」
「スゥちゃんはなぜだか成長がとっても早くて。」
「確かに、自分の足で歩いて……」
「もうバカハナコ!
あっち行って!ほらもう怖くないから!」
「やぁ!やだぁー!」
コハルさんに押しのけられてぴたりと動きを止めたハナコさん。
拒絶の言葉が突き刺さった彼女にもう一つ
苦笑いのヒフミさんが悪意のない追い打ち。
「ハナコちゃん、嫌われちゃいましたね……」
「ハナコは怖いからな。仕方がない。」
さらにアズサさんの追い打ちに、ハナコさんが動きを止める。
石化したかのように笑顔のまま、しゃがみこんだ体制のまま
ぴくりとも動かなくなった
「子供に卑猥なことを言うからでしょ!当然よ!
死刑!ハナコは死刑!」
「そんなことよりスズランちゃんです!
泣かせちゃったんですから!」
ヒフミさんがリュックを降ろしてその中身をごそごそと。
「えっと、えっと…」とカバンの中から様々な
モモフレンズグッズや手りゅう弾
フリスビーのようなものなどなどが取り出され道の真ん中に広げられる。
よくこのリュックの中にこれだけいろいろなものが入るものだと感心していると
お目当てとしていたらしいペロロ様のパペット人形を見つけ出して手に装着。
もう既に、次々とリュックから出てくるグッズの数々に
唖然として泣き止んでいたスズランちゃん。
ヒフミさんはパペット人形の口をパクパクさせる。
「『はじめまして、僕ペロロペロ~、泣かないでスズランちゃん』」
「……ちゃーて。ぺろー」
パペット人形に頭を下げるスズランちゃん。
さっきまで泣いていたのも忘れたかのように
そのニコニコした顔は、お気に入りを見るときの顔
「みなさん、みてください。
ペロロ様が!ペロロ様がスズランちゃんに気に入られてますよ!」
「きゃいーねー」
「ほらかわいいねって!
かわいいねって言いましたよ!」
「うん、理解者が増えるのは良い事だ。」
ペロロ様は独特なかわいいのセンスではあるが
私もちょっと怖いと感じるツルギ委員長も怖がらず抱きついて
ミネ団長がひっそり集めているウェーブキャットさんに囲まれて
育ってきたスズランちゃんにはどこか刺さるものがあるのかもしれない。
うんうん、と後方で腕組みをして頷くアズサさんと
わからない顔のリアクションをするコハルさん。
「ほら、スゥちゃんご挨拶しないとですよ~」
スズランちゃんは隠れていた私の足の陰から出て
ペロロ様パペットに頭ぺこり。
道におかれたヒフミさんのペロロ様リュックにもペコリしてご挨拶。
もうハナコさんは大丈夫なのかなとちらりと見ると
さっきから石化したままハナコさんは息をひそめ
スズランちゃんは目もくれていない。
ハナコさんはいつまで固まったままでいるのだろう。
そんな事でショックを受けるような繊細な人ではない
と思っていたが思い違いなのかもしれない。
「スズランちゃんは将来有望です!
……ハナエさん、スズランちゃんをお部屋にご招待してもいいですか!?」
「え!?あ、はい!今日は私はスゥちゃんのお世話役なので、時間は大丈夫です!」
目をキラキラとさせて今度は私に詰め寄るヒフミさん
そうして、私たちはヒフミさんの私室へとお邪魔することになったのだった。
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「どうぞ、こちらです!」
ヒフミさんの寮の部屋の扉が開かれると
そこには一面、モモフレンズさんたちの
奇妙にかわいいぬいぐるみやイラスト、グッズが並べられていた。
一角にはたくさんのぬいぐるみが所狭しと並んでいて
圧巻とでもいう光景に、スズランちゃんは手を握っていたはずなのに
気付いた時には、そのぬいぐるみ達の目前に立っておりキラキラと目を輝かせていた。
「どうですかスズランちゃん
って、あれ、えっ……?」
「素晴らしい移動術だ。
私にも気配が分からなかった。」
「なに、瞬間移動!?」
自分たちの後ろにいたはずのスズランちゃんが、いきなり
しかも移動したそぶりも見せずに視界の中に突然いるというのは
やはり私が抜けているわけではないようだ。
「スゥちゃんはいっつもこうなんです。
びっくりしますよね。」
「子供は突然消えると聞いたが、なるほど。」
困惑する私達をさておいて
スズランちゃんはキラキラした目でその部屋の中を見渡す。
表情を言葉にすると「こんな素晴らしい世界があったのか」とでも言うような顔。
あっちを見ても、こっちを見ても
モモフレンズのキャラクターに囲まれた部屋を嬉しそうに眺める。
それでも色々なものを触りにいかないのは
危険な医薬品が所狭しと並ぶ救護騎士団で鍛えられたお作法だ。
「ほぉぉ…きゃぃねぇー」
「分かりますかスズランちゃん!
やっぱりモモフレンズさんは可愛いですよね!」
自分の理解者の登場に、はしゃいだ様子のヒフミさん。
隅で表情が笑顔のまま凍り付いたハナコさんにも気が付かない様子。
ハナコさんは、このまま放置していていいものだろうか
救護してあげた方がいいのではと少し悩むが
治療法も思い浮かばず解決できそうにもない。
「そうだ、スズランちゃんの好きな子はいますか?
スズランちゃんにプレゼントしちゃいます!」
「えへー?きゃいーね」
さあ、とばかりにぬいぐるみを手に取るヒフミさん。
次々と目の前に差し出されるぬいぐるみの頭を
順繰りと撫でるスズランちゃん
本人はもうそれだけで満足げな顔をしてしまい
たぶん言葉の意味までは理解していない。
なので、スズランちゃんに代って私が尋ねてみる。
「いいんですか?ヒフミさん。
この子たちはヒフミさんの大切な子達なのでは?」
「はいもちろん大切な子たちです!
でも、モモフレンズを好きになってもらえるのが一番うれしいですから!」
「そうだな、同志が増えるのはいいことだ。
どうだ、コハルもこの可愛さをそろそろ理解できるんじゃないか?」
「私が異常なの…?このセンスについていけない私が悪いの?」
3人の熱量についていけずに置いてけぼりになっているコハルさんは
余りの熱量のヒフミさんと、それに頷くアズサさんに不審の目。
助けを求めるようにこちらにちらりと向けられる目線だが
私もかわいいと思う派ではあるだけに、ちょっと気の毒に感じてしまう。
「こちらがペロロ様、Mrニコライさん、ウェーブキャットさん…」
「ぺろ、にこぁ、うえぶきゃー。こにちゃー。」
次々に見せられるぬいぐるみ達に挨拶をして
ニコニコと楽しそうに笑うスズランちゃん。
白いカバさん、眼鏡のカバさん、茶色い…何?
私達にはおなじみの長い猫さんがウェーブキャットさん。
みんなに挨拶をするスズランちゃんに
ヒフミさんは嬉しそうに紹介を続けて
そして、水色の鳥さんが目の前に現れた時、スズランちゃんの目がいっそう輝いた。
「こちらはビッグブラザー様です!」
「びぐ!」
明らかに一段階上がった反応に
ヒフミさんが少しビッグブラザーさんのぬいぐるみを近づけると
スズランちゃんが「いいの?」とキョロキョロして
その水色の鳥さんをぎゅっと抱きしめた。