ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
ヒフミさんの腕ごと抱きしめてすりすりと頬ずり。
ヒフミさんがそっと手を抜くと
その手でスズランちゃんの頭を撫でる。
「スズランちゃんは、ビッグブラザーさんがお気に入りなんですね!
じゃあビッグブラザーさんをあげちゃいます!」
言葉の意味を理解しているかは分からないけれど
その行動の意味は理解したのだろう。
ふんすふんす、と興奮気味鼻を鳴らすスズランちゃんにヒフミさんが笑いかける。
「ほら、スゥちゃん、お礼言わないと。ありがとうございますって」
「あじゃ……あじゃまし!あじゃましゅ!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながらお礼を言うスズランちゃん。
胸に抱いたビッグブラザーさんをぎゅっと抱きしめ
それをさらに包むように抱きしめるヒフミさん。
「私も喜んでもらえてうれしいです!」
「あじゃまとー。」
えへへ、あははと笑いあうスズランちゃんとヒフミさん。
その間に挟まれたビッグブラザーさん。
きっとその可愛さを理解できていないのだろうコハルさんが
複雑そうな表情をしながらも、飲み込むように一つ頷く。
「まあ、うん。気に入るのが見つかったみたいで良かったわね」
「コハルちゃんも、お気に入りの子がいれば、一人連れて行ってもいいんですよ
テストの時のご褒美、受け取ってくれなかったですし」
「ううん、やめとく。
でもスズランちゃん良かったわね。」
スズランちゃんの顔を覗き込むようにしゃがんだコハルさん。
スズランちゃんはそこで何かに気付いたように目を丸くした。
その目線はコハルさんの頭の翼。
翼がある子は多いけれど、頭にまでと言う人は多くはない。
初めて見つけたと言わんばかりに
スズランちゃんの目キラキラとして輝き出す。
「えっ、なに?
……どうしたの?何か変だった?」
「きれー」
「きれい!?私が!?」
にゃ!と顔を真っ赤にしたコハルさん。
ぷしゅう、頭から煙があがったように、頭の上に乗せた帽子が飛び跳ねる。
そーっとそーっと手を伸ばし
コハルさんの頭に生えた翼を撫でるスズランちゃん。
ツルギ委員長をはじめ、ハスミさんや正義実行委員会の方たちの黒い翼も
スズランちゃんのお気に入りのひとつ。
「頭の羽が珍しいみたいですね。
とってもかわいいですもんね!」
「あっ。……は、羽のことね!
びっくりするじゃないもう!」
「スゥちゃん、正義実現委員会の皆さんに貰った羽を大切にしてるんすよ
ハスミさんの大きい羽根も好きですし、ツルギさんの真っ黒な羽根も貰ったんですよ。」
「……そっか、そういう風習もあったわね。」
コハルさんはぷつんと自分の頭の羽を一枚抜き取ると
それをどうしようかと少し悩んでスズランちゃんの髪へと差し込んだ。
それに驚いたかのように目をまん丸にするスズランちゃん。
じーっと見えない頭の上に向ける目の前
コハルさんが鏡を見せてあげると、ニコニコに変わってゆく。
「えへー。」
「勘違いしないで、先輩達の真似しただけだから!」
そんな言葉にしばらく何かを考えた後
自分の羽根を一枚抜いて、コハルちゃんに差し出すスズランちゃん。
「何、私にくれるの?……受け取っていいの?」
「あい!」
予想をしていなかったお返しに、驚きながら
受け取ろうかとスズランちゃんの差し出す羽根に手を伸ばすコハルさん。
伸ばしては引っ込めて、としている間に
肩からかけたカバンがずれて、中からゴトリと何かが落ちた
「コハルちゃん、何か落としましたよ。」
地面に落ちたそれに、みんなの注目が集まる。
はにわのようなそれは桃色の水晶のように、きれいに澄んだ色をしていた。
そこからのコハルちゃんの動きはびっくりするほど素早かった。
スズランちゃんから羽根を受け取って、自分の胸ポケットに差し込むと
かばんから落ちたはにわをカバンの中にずぼりと突っ込んで
何事もなかったかのようにキョロキョロと知らんぷり。
「なっ、何よ?」
「あの今のは…なんだったんでしょうか?」
「なんでもない、なんでもないったら!」
私が尋ねると、コハルさんはしどろもどろ。
本当になんだったのかは分からないが
どうやら見られてはマズいものだったらしい。
「なんだか、ちょっと綺麗な色だったので……
でも、なんに使うものなんでしょう?」
「えっと、……これ!これを落としただけよ!」
とカバンから取り出したのは、白黒に金色の意匠の綺麗なボール。
トリニティの武器店でたまに見かける手榴弾だ。
精聖水が入っている、というそれはきれいな見た目をしているが
実用性はあまり高くないとのうわさをよく聞く。
「コハル、こんなところで爆弾を出すと危険……」
「にゃっ!?」
アズサさんが肩を掴んで制するが、その声掛けが裏目に出たようで
コハルちゃんの手からころりと手榴弾が転げ落ち
その安全装置がはじけ飛ぶ。
それが爆発する寸前。
こういう瞬間はなぜだかスローモーションのようで
アズサさんとヒフミさんと私がスズランちゃんに覆いかぶさる。
わたわたと拾い上げようとしたコハルちゃん手の中で、
その手榴弾は爆発して中の液体を飛び散らせた。
「いったぁ!!…くないです?
あれ…なにこれ…くさい!とってもくさいです!
スゥちゃん、スゥちゃんは無事ですか!?」
爆発に驚いて飛び上がりながらも、スズランちゃんに怪我がないかを確認する。
幸い、スズランちゃんにも、部屋の中にいたみんなにも怪我はない様子
しかし、コハルさんの手榴弾が撒き散らしたその液体で部屋中が水浸し。
「これは…コハルが教会でもらえる聖水に傷薬を混ぜたものだ、
臭いも少しくさいけどすぐ消える。でも子供には危ないかと思って…」
アズサさんが髪の毛と羽根についた水気を払いながら言う。
はぁ、と深いため息をつくアズサさんと、
水浸しになってしまったお部屋を見るヒフミさんの顔に
コハルちゃんがしょぼくれた顔に変わってゆく。
「えっと、ごめんなさい……」
しかし、そんなみんなのテンションもどこ吹く風なのは
きっとスズランちゃんが、救護騎士団の子である証
ビッグブラザーさんを頂いたときと同じようなキラキラ顔。
「ほぉ!しゅごぉ!おくしゅり!」
炸裂した手榴弾、それが残した残骸を見てその臭いをくんくんと。
大好きなお薬の匂いにスズランちゃんは濡れた翼をパタパタさせる。
「まさか、スズランちゃん、喜んでます……?」
「手榴弾はスゥちゃんの得意技ですからね。
いつもミネ団長の背中から投げて、敵を一網打尽なんですよ」
「……そうなの?」
「はい、スゥちゃんは爆弾投げのスペシャリストなんです!」
暗い雰囲気を払おうとした私の演説に、周囲のみんなは困り顔。
救護騎士団登場!といえばの顔に変わってゆく。
そんなに変なことを言ったつもりではなかったのだが
なにかおかしかったのだろうか。
「小さい子には、こっちの方が普通の爆弾より安全かもしれませんね
暴発しても殆ど怪我しませんし。」
「そうですね、コハルさんの真似っ子で、これを持たせてあげてもいいかもです!」
「そ!それなら、いくつか分けてあげる!
まだ部屋にいっぱいあるし!取りに行ってくる!」
「いいんですか!ありがとうございます!」
「コハルちゃん、その前にお掃除をお手伝いしてください!」
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そんなこんなで部屋の掃除をみんなで終わらせて
ヒフミさんのペロロ様の絵本の読み聞かせもひとしきり終わり。
そんな頃、夕方の鐘が学園内へと響き渡る。
めいっぱい遊んだスズランちゃんは
とろんとした目でビッグブラザーさんを抱きしめていた。
「そろそろお暇しないとですね
今日はいっぱい、ありがとうございます!」
「いえいえ!ペロロ様の良さを分かって頂けただけで
私はとーってもうれしかったです!」
スズランちゃんを抱き上げると
寝ぼけまなこでヒフミさんとアズサさんに手を振る。
手を振り返してくれたヒフミさんと、アズサさん
そんな中、スズランちゃんはぼんやりと部屋の隅へと目線を向けていた。
その先には、数時間前と一切変わらない笑顔で
ぴたりと静止したままのハナコさん。
すっかりと気配を絶っていたので、私もすっかりと頭から抜け落ちていたのだが
部屋に入って来た時から一切動いていないようにすら見える。
「ところで、ハナコはいつまでそうしているんだ?」
「……お気になさらず。」
器用にも口を一切動かさずに、微動だにせずに言葉を発するハナコさん。
よほど、スズランちゃんに泣かれたことがショックだったのだろう
きっとどうしたら怖がらせないかを考えて気配を消すことに至ったのかもしれない。
「私の事はどうかお気になさらず。」
「……あの、本当に大丈夫ですか?」
「あー……」
眠たそうなスズランちゃんが「あっち」とハナコさんを指さす。
その指さしにまた気配を消して、ぴたりと止まったハナコさん。
その指のままハナコさんの方へと近づいてみると羽をばさばさ
羽毛の中に手を突っ込んでごそごそと何かを探すようにまさぐる
「あげぅ。」
ぴたりと止まったままのハナコさんの目の前に羽根を一枚差し出すスズランちゃん。
えっと、と固まったままのハナコさんに説明をする。
「スゥちゃんの羽根は、お友達の証なんですよ!仲直りですね!」
ハナコさんは私の言葉にゆっくりとその羽根を受け取ると
表情はさっきからのニコニコの表情まんま、顔を真っ赤にして俯いた。
「ハナコ。良かったな。」
「……はい。ありがとうございます」
消え入るように小さなハナコさんのお礼の言葉に
うん、と小さく頷いたスズランちゃんはそのまま眠りの中へと落ちてゆき
そうして、補習授業部の皆さんとの初対面の一日は終わったのでした。