ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:81日目 歌住サクラコ
トリニティ学区内で大きなテロが発生したとのことです。
レストランが爆破されて、怪我人が相当数発生した大規模テロとのことでした。
救護騎士団の皆さんは病院でその医療支援を行うとのことで
そこにスズランさんを連れて行くわけにもいかず
シスターフッドでスズランさんを預かることとなりました。
スズランさんをお預かりすることに少し不安は残りますが
シスターとしてできる限り最大限、努力はしたいと思っています。
――――――――――――
「では、シスターマリー。お願いしますね」
「サクラコ様はなぜそんな、柱の影に隠れているんですか…?」
「スズランさんは私と会うと泣いてしまうからです。」
「えっと……、そうなんですか……」
懺悔質の当番だったマリーを呼び出して私は教会の柱に隠れる。
もうすぐシスターヒナタが、スズランさんを連れてくる頃だろう。
困り顔のマリーや、事情を知らないシスター達に様子を伺われながらも、
私は今、そのような些事を気にしていられるような状態ではない。
子供は好きだ。しかし、泣かせてしまうのは本望ではない。
そして、私が預かろうと提案したのだから
シスターの子達に任せきるというのも、あまりに無責任。
だからこうして、スズランさんの来訪を待ち受けて、いや、待っていた。
「あの、……す、スズランさんをお連れしました。」
「たー!」
教会の扉が開かれヒナタとスズランさんが入って来る。
あの子は、教会の空気が嫌いだったりはしないだろうか。
知らない人ばかりのこの場所が怖かったりはしないだろうか。
そうであれば、別の場所を用意させた方がよいかもしれない。
そんな不安とは反対に、ヒナタに抱かれたスズランさんはニコニコと笑う。
まずは一安心のその表情にほっと一息をついていると
その頭にはウィンプル。以前あげたものではないが
きっと救護騎士団の誰かにより手作りされたのだろう
しっかりと頭のサイズに合わせて作られた小さなそれを被ってご満悦。
慣れないこの場所に不安な様子もなく
キョロキョロとそのまん丸な瞳で周囲をキョロキョロ見渡して
隠れていた私の顔を見つけると、ヒナタの腕の中でぺちぺちと
床に降ろしてくれと頼んでいようだ。
「えっと、降りたいんですか?
……あの、あんまり遠くに行っちゃだめですからね」
ヒナタがそーっとそーっとスズランさんを地面に降ろすと
スズランさんはバタバタしていた地面が足をつくのを確かめて
てちてち、と足音を鳴らしながら、一目散にこちらに駆けてくる。
「しゃくらこー!」
「スズランさん、お久しぶりです。」
目線をあわせた私にひし、と抱きつくスズランさん
私に会うと、あんなにも泣いていたのに
嫌われてはいないようで一安心だ。
「だっこ、だっこ!」
「はい、だっこですね。」
事前には、最近は歩くのがお好きと聞いていたのだが
今日はだっこの気分なのだろうか、
私に両手を伸ばしてだっこを求めるスズランさん。
翼をはためかせるスズランさんをなんとか抱き上げると
ゆっくりと追いついてきたマリーが苦笑い
「サクラコ様、だいぶ懐かれているように見えるのですが……」
「普段はお会いするたびに泣かれているのですが
今日はきっと、ご機嫌がよいのですね。」
近づいて来たマリーに、スズランさんは誰だろう、という顔をする。
マリーにはティーパーティーのお茶会に同行してもらう事もよくあるので
スズランさんも顔は見たことがあるはずだ。
記憶にはありそうで、うーんと首を捻るスズランさん。
でも名前は知らないのか思い出せないのか
お顔をじーっと見つめて、首を傾げ続けるスズランさんに
マリーがぺこりと頭を下げて自己紹介。
「こんにちは、スズランさん。マリーと言います」
「まりー、…まり!」
「はい、マリーです。よろしくお願いいたします。」
こっくん、と頭を下げてマリーに挨拶するスズランさん。
マリーもそれに応じて会釈を返すと
スズランさんはマリーへと笑顔を向ける
どうも、この人懐っこい笑顔というのが、私をダメにする。
「ふふ、シスターサクラコ、頬が……」
「あら?」
苦笑いをするマリー。
自分の頬に手をあてて確認すると
そこに真似するように添えられたスズランさんの手。
「おー…」という顔で私の頬を撫でるが、これはどういう感情なのだろう。
周囲を見れば、シスター達が私の緩んだ顔になのか
珍しいスズランさんの来訪になのか、珍しそうな視線を向けていて
様子を伺うシスター達にも手を振るスズランさん。
「かわいいですねー。」
「ええ、とても絵になります。」
そんな雑談も弾むシスター達。
普段は敬虔な空気が重苦しいほどに沈むこの教会の空気がほんの少しだけ軽くなる。
いつの間にか横にいたヒナタ
その背中には、何人かのシスターが隠れてこちらを伺う
きっとこの子たちも、今や学園のアイドルと化しているスズランさんをひと目見たいのだろう。
興味津々なその目線へと私は声をかけてみる。
「みなさんも時間があれば、
スズランさんと遊んであげてください。」
私の言葉にぴたりと止まる教会の中の時間
手を止めてこちらを見ていたシスター達が、慌てたように自分の仕事に戻ってゆく。
もしかして、時間という言葉で、自分の仕事を思い出させてしまっただろうか。
「あら……?」
「あのっ、あの……サクラコ様、」
さすがに教会にずっといるというのも……」
ヒナタの提案に、私は居場所を少し考える。
考えがてらに見上げて見れば、ステンドグラスから差し込む光に
小さな埃がきらりと待って綺麗に輝く。
教会の中は人の出入りも多い場所、
慣れている私達ならまだしも、小さな子の呼吸器にはよくないのかもしれない。
「そうですね、教会内は少し埃っぽいですね。
談話室にでも移動しましょうか。」
スズランさんを抱きかかえたまま談話室に体を向けるのだが
シスターの一人が慌てたように私達の前へと阻み出る。
なにやら、掃除中の様子で汗をかいているが
そこまで真剣に掃除してくれるということなのだろう。
「サクラコ様、お散歩などいかがでしょうか?
その間に談話室のお掃除と準備をしておきますので……」
「はい、ありがとうございます。
では少しお外に出てくることにしましょうか。」
「はいっ……!」
教会を出ると、もう夏もまっさかり
陽気が私達を照らしうだるような熱気にすこしだけ気が滅入る
胸に抱いたスズランさんに目をやると「あ゛い゛~」と熱気に嫌気が差した顔。
内輪でも持って出ればよかったと後悔しながら空を見上げると
横に連れ立つヒナタが、日傘を差してくれ、その熱気は一気に消えた。
「ありがとうございます、シスターヒナタ。
しかしこれは、いったい……」
「えっと、ミネ団長からお借りした日傘で……。
先生から頂いたミレニアムの冷風日傘だそうです。」
「これは、我々も欲しいですね…
ミレニアムサイエンスにお願いをしてみないとなりません」
見た目の貞淑さと引き換えのこの黒く厚手の服では、夏を乗り切るのは大変だ。
しかし、この傘があれば、熱中症で倒れるシスターも減るのではなかろうか。
ミネ団長も過保護というかなんというか、暑いなどと目の前で言えば
「気合が足りません」とでも返されそうだと思っていたのだが
それはきっと勝手なイメージというものなのかもしれない。
「ふふっ、ミネ団長への認識を、改めなければなりませんね。」
一人でくすくすと笑う私に、スズランさんが同調して笑う。
対して、周囲が笑っていない気がするのは、気のせいだろうか
マリーの困り顔と、ヒナタの困惑顔
近くを歩いていたはずの生徒には少し距離を取られたような気がする。
なんでだろう、と思考を巡らせていると隣でマリーが私に訊ねる。
「ところで、サクラコ様、どこへ向かうのですか?」
「えっと、そうですね
図書室……には、さすがに絵本は置いていないでしょうし
古書館に、昔の絵本か童話がないか探しに行ってみましょうか」
――――――――――――――