ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:1日目‐昼 蒼森ミネ
ミルクを飲ませると、今度は健康的なうんちでおしめを汚した。
その色には少し驚いたものの、本によるとこれで問題ないらしい。
私達は子育てに関して知らない事が多すぎるので
もっと勉強をしなくてはならない。
心なしか、顔色はずいぶんよくなったように感じる。
そして元気よく泣き出すようにもなった。
それ自体は私たちを困らせるが嬉しい事であったのだが
そんな、安堵と余裕の間に困りごと。
問題はこの子の呼び方だった。
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「やっと、一息ですね」
セリナが、赤ちゃんの胸をポンポンと優しく撫でながら言う。
たった一晩、まだ出会って24時間も経たない寝顔は
天使そのものな生き物を見ながら
私たちは世の中の母親という生き物に共感して深くため息をついた。
「ええ、子育てというものを、
私たちは、甘く見ていたのかもしれませんね…」
「もうへとへとです~。私も一緒に眠りたい~、わっ!?」
ベビーベッド代わりにしている急患用ベッドへと
へたり込もうとしたハナエを慌ててベッドから引き剝がす。
これで起きられてしまっては
次に疲れて眠ってしまうのは私達の方ではないかと感じたからだ。
「こら、ハナエまた泣いてしまったらどうするのですか。」
「でも、これだけ元気に泣けるのなら
ここに来た時より元気になってくれたって事ですし、なんだか嬉しいですね」
「そうですね~、この子…赤ちゃん…、えっと…」
私につままれながら、ハナエは首を傾げた。
なんだかしっくりこないような顔で、襟首から吊り下げされてプラプラと揺れる
「この子のお名前、なんていうんでしょうね…」
そういえば、今の今まで呼び名がないことに気付かなかった
というよりも気付く暇がなかった
ヒントを探して、この子の入っていたゆりかごの中を探るセリナ。
「ゆりかごの中には、それらしいものはないですね。」
「名前が分かるとよかったのですが、困りました。」
セリナが、この子を抱いていたバスケットを胸に抱えてうなだれる。
自分の子供に名前をつけない、ということは私には想像ができないが
そのヒントすら残ってはいないことが悲しかった。
この子のお母さんは、何を考えてこの子を産んだのだろう、
何を考えてこの子を置き去ったのだろうか。
何か大変な理由があり、この子のお母様も救護を必要としているのではないか
と考えが頭の中を過り、私の胸の中につっかえる。
「あれ?先輩、そのフチに引っかかってるのって…」
摘まんでいたハナエを地面に降ろすと
セリナの抱えたかごをしげしげと眺めながら近づいていく。
そして、小さな白い花弁をつまみ上げると、太陽に透かして見せる、
セリナが、ハナエの摘まんだ花弁をしげしげと眺めながら首をかしげる。
かごをよく見て見ると、まだいくつかの同じ花弁がついていた。
「これは、スノードロップ、いえ、スズラン…ですかね?」
「……この子の出自を知る唯一の手がかりが、これだけですか。」
スズランの花弁、それは花屋などでよく見るそれで
特に変わった様子もないその花弁。
とはいえ唯一のヒントであるそれを手近にあったペトリ皿に入れ保管をする。
何かのヒントになるのならばと頭を抱えていると
ハナエがキラキラとした顔で私達に言う。
「じゃあ、この子はスズランちゃんですね!
救護騎士団スズランちゃんです!」
「ハナエちゃん、その"救護騎士団"は、苗字…?」
「そうです!私達が育てるから、救護騎士団が苗字です!」
セリナが少し困ったような顔をする
さすがに私も救護騎士団が苗字では
仮とはいえ不便なのではないかと思案する
この名前には誇りはあるし、一番わかりやすいのだが
書類に毎回"救護騎士団スズラン"と書く手間を考えると
ほんの少しだけ気が重い。
「仕方がありません、それでは救護騎士団の団長として、蒼森の名前を…」
「私が連れてきたのですから、責任を持つって意味で、鷲見の名前を…」
私とセリナが言葉を発したのは同時だった
二人で顔を見合わせて、それぞれ自分の苗字を言った相手を見ていると
間髪を入れずに、ハナエが声を上げた
「あ!ずるいです!それなら私の朝顔って名前も似合うと思います!
同じお花の名前ですし!」
空気が、空気を読んだかのように、一動くのをやめた
冷房があるとはいえ、快適に保たれているはずのこの部屋の空気。
しかし、今はこの3人の間だけは冷たく凍り付いている。
お互いをじりじりとけん制するような視線。
譲りたくないわけではない、借りの苗字ではあるのだが
「では譲ります」なんて言うのは薄情なようで
なんとなく譲りにくいし、譲ってはいけない雰囲気が身を包む
しかし、ここで日和っていては、救護騎士団団長の名が泣く
「……しかし、さすがに救護騎士団が苗字と言うわけには、いきませんね」
「ええ、そうですね、しかし、誰かの苗字を、というのもやはり…」
どうしようか、と相変わらず張り詰めた空気を突き崩したのは
「うえ…」というスズランの小さなぐずり声だった。
慌てて目を向けると「うぅ…」と小さな声を上げて
寝ぼけ眼で、もう泣くぞ、とこちらを見ていた
そして3人が自分たちでも驚くような速度で、スズランを囲んであやし始める
「苗字はとりあえずおいておきましょうか
今は仮に、この子を"スズラン"と呼ぶことにしましょう」
張り詰めた空気だ、譲れない雰囲気だとかは
この子の元気さの前には薄く軽い問題だった。