ここだけ救護騎士団の子育て奮闘記(本編/子育て日記) 作:救護騎士団記の記録係
子育て日記:22日目 羽川ハスミ
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昨日から救護騎士団の皆さんの体調は
熱も下がり、だいぶ良くなったらしいですが
大事を見てもう1日スズランさんを預かることしました。
正しくは、部員達(主にツルギ)が
とても残念そうな顔をしてるので
こちらから申し出たのですが…
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「ピクニックでもいかがでしょうか?」
マシロが突如として言い始めたことに、私は少しだけ驚きながら考える
私達はただでさえ恨みを買いやすい集団だ。
自分達の身は自分達で守れるとはいえ
スズランさんを巻き込んでしまう可能性というのも捨てきれない。
マシロの提案に思案を重ねていると
イチカがひょこりと私の視界に入って来る。
「いいんじゃないっすかね。…俄然やる気で守ってくれそうな人もいますし
こんな煤けた場所にいたら、スーちゃんも気が滅入るってもんっすよ」
呆れた様子で部室を見渡すイチカの後ろで
1日をかけてやっと少しは慣れたのか
少しは近づいてくるようになったツルギが深く頷く。
昨日からこの様子で、スズランさんを抱きかかえる部員達の周りにいるうえ
昨晩は、私の部屋の隅で寝ずに
この子の護衛という名目で見守っていたのだから困ったものだ。
「そうですね、では準備をしましょうか」
「「「はい!」」」
「キェヤァァァァァァァアアアア!」
ツルギが上げる奇声にちょっとびっくりしながらも
その言葉を聞いた委員会の子たちが
普段の任務よりもてきぱきと準備を始めたのを見ながら
私はいつもより少し、深いため息をついた。
ピクニックの場所はトリニティスクエアの一角。
芝生が貼られた広場の中に私達はビニールシートを敷いてバスケットを広げていた。
少し強い日差しと人目を避けて
木陰に準備したのだが、目隠しをするわけにもいかず
通行する生徒達は物珍し気にこちらを見ていた。
それもそのはず、こんな正義実現委員会の姿なんて、滅多に見るものではないだろう。
私だって、正義実現委員会の活動を始めてから
メンバーみんなでピクニックだなんて、初めてのことだった。
しかし、そんな奇異の目というのも皆は気にならない様子。
気にならないというよりも、別のものに夢中。
青空と、まだ少し涼しい風に、日傘を差したゆりかごの中
目をキラキラとさせて周囲を見渡すスズランさんの様子の虜であった
スズランさんを囲って雑談をしたりお茶をしたり
それぞれがそれぞれの楽しみ方をする
そんな中、一人の生徒が近づいて来た。
「あの。すみません…これを…」
一応の警戒をする私達に話しかけて来たその生徒は
私たちから少しだけ距離を置いたところから
自分の羽根を1枚抜き取って差し出す。
その行為を見て、すっかりと忘れていた風習を思い出す。
トリニティの古い風習で、子供が生まれるとゆりかごに羽を一枚添えるのだ。
羽帚のように、厄災を優しく払い除けてくれる、のだそうだ。
「だめですか…?」
「いえ、スズランさんは羽根がお好きなようですから大丈夫でしょう。
どうぞ、こちらに。」
その生徒を通してしまったのが間違いだったかもしれない。
それを見ていた別の生徒がこちらにやってきて
私も、と羽根を添える。
さらにそれを見て通りすがる生徒達が
スズランさんをひと目見ようと近づいて来ては、羽を添えてゆく。
いや、それだけだったなら大した量ではなかったのだろうが
委員会の子たちまでもがこぞって自分達の羽根を供え
翼のない子は、翼のある子に一枚貰ってと
気づけばスズランさんはほとんど白黒の羽根に埋もれていた。
「あーぃ!きゃぁ!」
「暑くは、ないのですか…」
そんなスズランさんは、たいそうそれが気に入った様子で
熱気が籠らないようにと、体に乗った羽を避けようとすると
腕を上下にぶんぶんと怒り始める
本当に怒っているのかは分からないが
それが確かにご機嫌を損ねるようなのは間違いない。
何が楽しいのか分からないが
自分の体に乗せられた羽を一枚一枚と手に取っては振り回したりしげしげと眺めていた
はぁ、とため息ひとつ、気が抜けると
私のお腹が誰にも聞こえない程度にぐーと音を鳴らす。
遠く時計を見て見れば、もう昼もよい時間。
「そろそろお昼にしましょうか」
「あーやー…」
羽風呂の状態のゆりかごから、スズランさんを取り上げると
その場所が惜しそうに、ゆりかごへと手を伸ばすスズランさん。
しかし私の膝の上に乗ると
頭の上の私の胸に手を伸ばして、グイグイと押し
興味はこちらに向いたようだった。
「はい、スーちゃんのごはんっす。」
タッパに詰められたフルーツたちとその隣には哺乳瓶のミルク。
保冷剤の添えられていたフルーツはまだ冷たい。
マシロへと渡されたそれが開けられると
スズランさんはそちらへと手を伸ばす。
やはり、お腹が空いていたのだろうか。
この子はお腹が空いても泣きもしないし
おむつを汚してしまってもぐずるくらいなもので、なかなかに分かりにくい。
マシロが口元に一粒のぶどうを運ぶ。
その姿を覗き込んでみると
両手を頬に添えて、もちゃもちゃと咀嚼している様子がうかがえる。
口に運ばれてきたものをそのまま食べたり
手で受け取って自分の口に運んだり
口の周りを汚しながらも、元気よく食事をするその姿を見ていると
私までお腹が空いてくる。
「はい、これハスミ先輩のぶん。」
そんなにうらやまし気に見ていたのだろうか
マシロがバスケットを差し出してくれ、その中にはサンドウィッチ。
周囲の部員達も、自分の昼食をそれぞれに広げ始めていた。
この子が食べ終わったら、誰かに任せて、私も昼食を摂ることにしよう。
モグモグと食べ進めるスズランさんを眺めていると
ぶどうを手に握った状態でぴたりと止まる。
どうしただろう、もうお腹いっぱいなのか
それとも何かが起きたのかと心配になっていると
体をのけぞらせて胸を避けるように私の顔を覗き込むスズランさん。
「あー!」
手に持ったぶどうを一粒、私へと差し出すようにして握っていた。
「あら、くれるのですか?」
スズランさんを自分の目線まで持ち上げると
私の口の方へと差し出されるぶどう。
ゆっくりとスズランさんの手を口の方に近づけると
ぐい、と口の中に放り込まれる。
「むっ…んっ、……ありがとうございます。おいしいですよ」
スズランさんにお礼を言うと
彼女は頬に手をあててニコニコとほほ笑んだ。
そしてまたマシロから受け取ったフルーツを次から次へと私にくれる
「スズランさん、…ん、むぐ…スズランさん、もういいですから…」
そんな言葉を理解したのか、スズランさんは差し出すのをやめて
ほっと一息、膝へとスズランさんを降ろすと
お腹のあたりにポンポンと叩かれた感触。
今度はなんだろうか、とスズランさんを覗き込むと
今度は私のお腹をポンポンさすさす
じーっと真剣な顔で見つめていた
「はい、お腹いっぱいですよ。ありがとうございます。」
お礼を言ってみても通じてはいないのか
まだまだじーっと見るスズランさん。
どういう気持ちなのだろうと考えていると背後からしたツルギの声。
「ギヒヒ…痩せろって……ことじゃないのか?」
「ツルギ!あなたはっ…!」
護衛だと距離を取っていたはずのツルギがスズランさんを覗き込むようにして見ていた。
恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じていると
私の膝の上でスズランさんがうーん、とうなだれた。
「え、まさか、そんなことは…スズランさん?」
もう一度改めて覗いてみると
人差し指を突き出して、ぷに、と突かれた私のお腹。
「スズランさん!?」
「ギェヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」
トリニティスクエアに、壊れたようなツルギの笑い声が響いた。