境界剣士の最愛精霊《レスティアート》   作:時杜 境

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 応援ありがとうございます。ひとまずチュートリアル編はこの回で区切りになるかなと。


16 永遠愛告

 ──朝、目覚めると酷く身体が怠かった。

 こう、やる気というやる気をごっそり落としてきたような感覚。睡眠行為とは本来、休息・回復のために行われる身体機能だ。だというのに、なぜこんな疲労感を覚えるのか……?

 

「──……ん?」

 

 ……なんか、柔らかいものに抱き込まれている感覚がした。ふわふわしている。温かくて良い匂い。額を擦りつけてみると、どこまでも受け入れてくれる大らかさを感じる。その感覚に夢中になって、つい力を込めたところで、

 

「……ぁんっ……」

 

「ッ!?!?」

 

 一瞬で理性が回復し、頭を引き剥がした。

 勢い余って体ごと後方にスライドしたので、俺はそのままベッドから落下する。

 

「ァがッ……!!」

 

 受け身とれず。重力による無情な天罰を食らう。

 ……だがそれで幾分か冷静になれた。頭をさすりながら体を起こして寝台を見やると、そこには──白髪の、()()()ほどにみえる絶世の美少女が眠っていた。

 

 オールヌードで。素っ裸。

 首筋から肩へ流れるような曲線、白絹の髪に隠れた乳房、無駄のない美しいウエスト、清らかな白魚のような手足が、めくり上がった布団から覗いている。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ、」

 

 見惚れてしまい、そして思い出す。

 ……昨晩の、なんかアレ、あの、すっごいアレやコレやの、生々しい夜のアレ──ッ!

 

「……あ~」

 

 呆然としたまま、しかし完全に理解する。

 どう見ても、どう取り繕おうと、朝チュンだった。

 記憶はある。故に言い逃れも余地もない。速攻求刑、有罪判決で閉廷解散。

 

 ……一般的な男女の営みの基準を知らないので、俺たちのケースがどんなもんだったのか、計る術はない。ただ、ただ、ずっとレスティアートが凄く可愛かった……可愛くて、すごかった。そんなことしか覚えていない。

 

「……あと凄い目に遭った気がする……」

 

 というか彼女が本来の姿──俺が一目惚れした、この十六歳体になった辺りから記憶がぶっ飛んでいる。で、次に気が付いた時には、舌なめずりしながらこちらを見下ろす彼女の顔が──

 

“────お返し、です☆ キリセってば……楽に眠れると思わないでくださいね……?”

 

「……」

 

 あっ、なんか思い出してしまった。たぶん俺的には、男として記憶の奥底に封印しておかねばならない系統のものを。

 ちょっと一瞬、性別変わった? ぐらいの衝撃があったような気がする。本能的に記憶に蓋をしたようだ。俺史上、後にも先にもレティにしか見せられない醜態を晒したらしい。南無三。

 

「ん…………あれ、ディア……? でぃあ~……?」

 

 ぱすぱす、と美女の手が何もいない布団を叩く。まだ寝ぼけているようだ。

 その間に俺は枕元にあった携帯を取り、時刻を確認してみる。

 

 六月一七日、日曜日。午前六時半……ン? ()()()

 あれちょっと待て。休日は二日あったはずだ。俺たちが寝たのは金曜の夜。だからここであるべきは、土曜の朝のはず…………なのに??

 

「……え」

 

 なにそれつまり俺たち、二十四時間以上もぶっ続けで……ッ!?!?

 

「きりせ……おはよー……」

 

 と、携帯から目を離すと、すぐ目の前まで美女が這い寄ってきていた。

 ふにゃり、と蕩けた微笑みを向けてくる。見慣れたロリ姿ではないが……青い瞳、この声色、間違いなかった。

 

「……おはよう、レスティアート……」

 

「んふふ……」

 

 頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす。嗚呼、可愛い。

 だがそれはともかく、現状について確認しなければ。

 

「あの……昨日っつーか、一昨日は……」

 

「はい……最高でした、存分にいただきました……」

 

「そ、それは、どうも……」

 

「餓狼のように私を求めて……えへへ、キリセってば肉食だったんですねぇ……おかわり、しますか?」

 

「し、しないわ!」

 

 腹上死もかくやという程だわ!

 自分で自分にドン引きだ! どんだけ飢えてたんだよ俺は!!

 

「んまぁ、大体は私のせいですねぇ……キリセと私の命はリンクしてるので、必然、霊力がお互いに循環しやすいのです。私から溢れた霊力がキリセの方で処理しきれずに、ずっと元気になってしまったというか……」

 

「元気って……」

 

「私が元の姿に戻った辺りから、それはもう」

 

「いや、あの」

 

「当世風に言うならエンジンかかりっぱなし、っていうか。『ロリコンってわけじゃない、レティのことが好きなんだー』って。いっぱい、いーっぱい告白されたの、覚えてますよ?」

 

「…………あの」

 

 もうやめて。やめてください。

 素面でそれ聞くと、自分の存在を蒸発させたくなるから。

 

「ああ、その後も最高でしたぁ……カッコいいばかりだったキリセが、あんな──」

 

「レティさん頼むお願いしますそれ以上の言及はホント勘弁してくださいッ!」

 

 ぐぁああああ!! やっぱりバッチリ捉えられてたかチクショー!

 レティだからいいけど! レティ以外だったら死んでるけど! でも恋人に見せたくない姿ナンバーワンにランクインするレベルのを見せてしまったらしいな!! ああ! 記憶消してぇー!!

 

「? なんでそんなに慌てるんですか? すっごい可愛かったですよ?」

 

「やめてー……」

 

 両手で顔を覆う。

 無垢かつ無邪気なきょとん顔が、今は俺に対して最大威力の凶器と化している。

 ま、まあ、実態は未来永劫レティしか知り得ないから、良しとしよう……

 

「とっ、ところで肝心の霊力は回復……したのか?」

 

「ふふふ、絶好調です。全盛期の……十割くらい?」

 

「完全回復!?」

 

 確かに肌ツヤがやたらと良い気がする……髪の艶も輝いているようだ。

 道理でずっと上機嫌、にこにこしているのか。行為自体は(つたな)かっただろうが、こいつの役に立てたなら何より……、

 

「……おい?」

 

 不意に、レティの手が俺の右手を掴んでいた。

 ──青い瞳は、ぎらぎらと。ありつけた獲物を逃がさんとする、狩人のようだった。

 

「ぉ……おまえ、完全回復って……」

 

「満足したとは言ってません♪」

 

「いや、もう、日曜だし、朝だし……!」

 

「おかわりを所望します!」

 

「いやもう出な──ぁああああああ!?」

 

 まな板に引きずりこまれる(おれ)。精霊の筋力にただの人間が敵うはずもなく、押し倒してきた女王様は、舌なめずりしながら──言った。

 

「愛してます……私の愛しい人」

 

 ──それだけで俺が骨抜きになったのは、言うまでもない。

 

 

     ◆

 

 

 諸々が終わったのは、結局昼前だった。

 風呂に入ったりして落ち着いた俺たちは軽く飯(トーストと目玉焼き。トースターを崇めろ)を食べ、余韻に浸るべく、リビングでまったり──

 

 していなかった。

 

「レスティアート。こっち見ろ」

 

 そう発した俺の声色は決して甘いものではなかった。

 目の前には普段着用のゴスロリ姿で正座した白髪美少女。その青い眼はさっきから明後日の方角の虚空を泳ぎまくっている。

 

 で、立っている俺の右手には一本の缶飲料。ラベルにはこう書かれていた──「精霊用:()()()()()」、と!!

 

「俺も間抜けだったぜ……恋人が出来て、生活環境も急激に変わって、色々と見逃してたわ。そりゃそうだよなァ、契約者の体液からしか霊力が回復できないとか、んじゃ竜と契約してる如月はどうしてんだって話だよ。現代の技術なら、それに合った製品も開発していて然るべきだ」

 

「……あ……あう……」

 

「見逃していたのは俺のミスだ。しかし問題は、こいつが()()()()()()()()コトなんだが?」

 

 生活必需品はマンションの運営サービスである程度、揃えられている──

 だが、こんな精霊士には必須とも言えるアイテムを、果たして彼らが床下収納庫とかいう見つけにくい場所に置いておくだろうか? 答えは否。どう考えても否。

 

「だ……だって……そんなのあったら、絶対に使うじゃないですか!」

 

「使うわ! 使うに決まってんだろ! 『霊力が半分しかない』って言った時点で飲ませるよ!」

 

「じゃあエッチできないじゃないですか!!」

 

「欲望に忠実すぎだろォ!!」

 

 なんて精霊だ。なんて恋人だ!

 どこか、俺はレティを甘く見ていたのだ。甘々恋人モードの顔の裏で、虎視眈々と冷徹に計画を実行する獣の側面を認知していなかった。そう、清純無垢な知性体などいない。欲望があるならそれに従って行動するのが基本原則。レスティアートもその例に漏れず、見事に俺を召し上がったように!

 

「というかレティ──()()するがよ、お前、()()()()()()()()()()()も持ってんじゃねぇのか……?」

 

「……も、『持ってない』とは、一言も言ってませぇん……」

 

「レ~~ティ~~ぃぃいい~~~~……」

 

 ──本来私は契約者を必要としません。

 病室で、最初に言われたことを思い出す。あの時はレティの願いの方にばかり意識が向いてしまっていたが、発言を振り返れば、彼女は初めから()()言っていた。

 

「私自身の機能としてではなく……霊力の生成術式があるだけというかぁ……戦っている間に、後から作ったといいますかぁ……」

 

 ただの天才の所業であった。自動回復(リジェネ)持ちの広範囲アタッカー、魔獣殲滅のために力を向けられていなかったら即出禁だ。

 

「け、けど! 霊力不足に陥っていたのは本当ですよ! 生成術式は界域でしか使えませんし、あの十四学区では、霊力の消費量に、生成量が追いついてませんでしたし!」

 

 止めて超正解だった。生成術式が決して万能でないことも分かったが、それはそれとして、無茶しなくていい手段があったのにも関わらず、私欲で彼女がそれを秘匿したのは事実である。

 

「とにかく……これからは霊力回復にはコレを使うからな」

 

「そ、そんなっ!」

 

「そんなじゃねぇよ。霊力不足のたびに、いちいちヤってられねぇって」

 

「キ、キリセはもう、私としたくないんですかっ!」

 

「したいよ。したいに決まってんだろ。けどそこでいちいち『これは霊力回復のためだから』って建前掲げないとできないほど男捨ててねぇよ」

 

「えっ……? え、じゃ、じゃあ……」

 

 誰かを愛することに、建前も大義名分も必要ないだろう。

 そこら辺に余計な気を回してしまう辺り、レティのかつての教育環境が垣間見える。確かに人間には打算があるが、それが全てではないだろう。極端な話、本当に合理だけで生きてるなら、生まれた時点で死んでいる。

 

「……霊力とか関係なく、普通にするよ。じゃなきゃ……さっき風呂場でしてねぇって」

 

「……!」

 

 結論が出たところで、回復剤を冷蔵庫に戻しに行く。

 本当に何をしているんだか。

 

 

     ◆

 

 

 日曜日は始まったばかり。

 落ち着いた俺たちは、今度こそソファでゆっくりと時間を過ごしていた。

 ワイシャツとジーンズに着替えた俺の膝の上にはレティが座り、鼻歌うたいながら首元に鼻を擦りつけてきている。あぁ、高級シャンプーの良い香りっ!

 

(……しっかし……)

 

「~~♪」

 

 膝上レティ、外見は十六歳。

 少し背が伸びて、顔立ちが大人びて、胸囲は大きく変わらないものの魅力度が上がって……なんだ、下手な例えを出すのが失礼にあたるんじゃないかってぐらい、可愛すぎる。

 

 一目惚れした、最初の姿。

 そんな彼女が、こんな甘々モードで擦り寄ってきている。理性がブッ飛んでた時ならともかく、今はヘンなことを口走りそうだ。確実に理性が溶かされる。

 

「……機嫌、いいな」

 

「えへへ。うふふ。正直な話、ロリってる時より此方の私に夢中になってくれて凄く嬉しいのです。あ、別に幼女してる時に想ってくれるのが複雑ってわけじゃないですよ? でもこれが私の本来の姿なので~、やっぱり、嬉しいですよね! って話なのです!」

 

 もうキスして塞ぎてぇこの唇。

 特攻だ。この姿のレスティアートは俺にとって特攻兵器すぎる。ゴスロリとか、格好とか、あらゆる要素が、あまりにも造形が、声が、態度が、クリティカルすぎるのである。

 

 ……本当、どうにかなりそうだ。いや、なっていると言えばなっているのだが、この甘すぎる空気感、慣れなさすぎる。堂々としていようにも、レスティアートを見つめていたくてたまらない。

 

 魔性だ。魔性の精霊だこれは。そ、そろそろ表面的にでも、真面目な話をしなければ──!

 

「あー……レティ。俺、寝てる間になんか見知らぬ記憶っつーか……たぶんお前の過去っぽいの、見えちまったんだけど……」

 

「あら」

 

 内心恐る恐る切り出すと、レティはどんぐりでも見つけたような反応。

 彼女の記憶。彼女の経歴。彼女の過去。

 垣間見えた理由は情を交わした影響か。それは三千年前の帝国に生まれた元王女を襲った悲劇であり、十年間、戦い続けた孤独の時間だった。

 

「いいですよ、言ってください。どの道、ディアには私の全部を知ってもらいたかったですし」

 

 そっとこちらの頬を撫でてくるレスティアート。

 気遣いたいのはこっちなのに、気遣われてしまっている。もどかしい心地だったが、俺は続きを話す。

 

「……アレは、ねぇよ。いくらなんでも。世界のためだの人類のためだの、国のためだの……そんなお題目、お前の人生を使い潰す免罪符になんかならねぇだろ……」

 

 人間と精霊の融合体。それが「英雄レスティアート」の正体だった。

 いわば精霊士でなくとも制御できる高位精霊の創造だ。レティに本来、契約者が不要というのも、元が人間だったから。自分自身を楔に精霊の力を使っているのだから、単騎性能としては一級品だ。

 

 創造に莫大なコストはかかるが、魔獣を自動的に殲滅する機構としては、もっとも効率の良いアイデア。質が極まってるので、量産の必要さえない。世界のため、人類のために使われ続け、隷属させられ続けるだけの人形兵器。

 

 そこにレスティアート個人のパーソナリティは必要とされていない。

 だけど俺が一番理解できないのは──

 

「……お前、なんで恨んでねぇんだよ……?」

 

 この少女が。

 その気なれば母国も、世界すらも敵に回せるだけの力を持つ彼女が──()()()()()()()()()()()()()()()ことだった。

 

「役目でしたからね」

 

 それに、レティはあっさりと答える。

 淡々と、業務内容でも報告するように。

 

「貴族王族に生まれる者は、大体そういうものです。お家の存続のために嫁ぐとか、王位を継ぐとか、聞いたことあるでしょう? 私の場合、それが『魔獣の掃討』だったというだけです」

 

「……納得、いかねぇな」

 

「ありがとうございます。キリセのそういうところ、愛してます!」

 

 晴れやかで、にこやかな笑顔を向けるレスティアート。

 それが俺には痛々しくて、見るに忍びない。

 

「ふわふわした子供でしたからねー、私。こうも上手く計画が運んだのは、そういう気質もあったからなんだと思います。夢見がちで現実なんか見えていない。いえ、目を逸らしてた。一種の自己防衛でしたかね、今思えば。というか帝国上層部、人間性が終わってるのです。誰もどれもこれも、機械のように動く人たちばっかりで。とりわけ父は別格でしたね。計算づくで感情を模倣、再現するタイプでして。理解できなくても計算でこなす傑物です。うん、アレって異星人だったんですかね?」

 

「自分の実家に対して、随分と言うな」

 

「こんな愚痴を吐ける人も、いませんでしから」

 

 あはは、とまたレティは笑う。──なにも、笑えない。

 

「でも……もしかしたら、私も同じものなのかもしれません。気に入った夢物語に恋い焦がれて、計算で、恋心や愛を、模倣してるだけかも──」

 

「それ、俺がレティを嫌う理由になるか?」

 

「……ならないんですか? これ実質、『情なんてないかも』って言ってるのと同じ……」

 

「あのなぁ。たとえお前の想いが欺瞞だったとしても、俺はもうとっくにやられてんだ。これから先、レティが化物になろうが地獄に堕ちようが、俺はどこまでも付いていくぞ。執拗なストーカーみたいにな。相当に面倒な男だぞ、俺は」

 

「め、面倒なんて……す、すっごい想われて、ますね?」

 

 はぁ、と俺は息を吐きつつ、改めて彼女の細い身体を抱きしめる。

 

「そもそも感情なんてのは曖昧なもんだ。重要なのは意志の方だと思ってるぜ。俺はレティに嫌われてもレティのために生きたい。それだけだ。傍に居てほしい、ってお前が思ってくれるなら──俺はいつまでもレティの傍にいる」

 

 我ながら、自分勝手な動機だと思っている。

 けれど、もうこういう生き方を見出してしまったんだから、始末がつかない。

 

「……キリセは、私のことを過大評価しすぎです。う、器が大きいわけじゃないし、絶対すぐ嫉妬するし、独占欲あるし、……みみっちぃですよ、私……?」

 

「つまり、最高の相性ってことだろ。それは」

 

「うぅ……! ま、またすぐそういう風に前向きに解釈して!」

 

 ま、欲目はあるにせよ、全肯定のしすぎが毒なのは分かってる。

 けど関係が円満であることに越したことはない。どうせこれから先、嫌というほど俺は愛を口にするんだろうし、毒にならない程度に開き直ることは大事だろう。

 

「……レスティアート。俺にとって、お前は全てだ。愛し尽くしても足りねぇくらい、愛してる。だからお前が何を抱えてようと、何であろうと、関係ない。お前が破壊の精霊だの、英雄だの、化物とか怪物だのと言われようと、俺はお前が好きだ」

 

「──」

 

「……重くて悪いな。けど解っといてくれ。お前が選んだ男はそういう奴なんだよ。嫌になったらいつでも──、」

 

 そこまで言うと口を塞がれた。唇で。

 顔を離した花嫁は、少し目付きが鋭くなっていた。

 

「それ以上を言ったら怒ります。私はあなたと離れる気持ちなんて微塵もありません。変な女に引っかかったことを後悔するぐらい、愛してください。あなたは私の半身、比翼の片翼だという自覚を忘れずに。──私以外に目を移したら、殺しますよ?」

 

 満面の笑みには凄みがある。殺しますよ? なるほど、俺は常にレティに命を握られている身だ。彼女が手放そうと思えば、いつでもこの身は骸となるに違いない。

 

 ──それは、もうなんというか。

 

「そりゃあ、最高だな」

 

 至上の人生。そう言う他に、なかった。

 

 

「キリセから言ってくれたので、私も白状しますけど」

 

 と、しばらくしてからレティが言った。

 

「────あなた。なんなんですかあれは! ()()()()()()()()()、生還するために戦うならともかく、ストレス発散に自ら界域に行く日常がありますか! しかも刀一本、精霊の加護もなし! どういう神経してるんですかっ、もうずっと家に篭って読書でもしててください!!」

 

 ……俺の過去も遂にバレてしまったらしい。

 といっても大したことじゃない。レティほどの重いエピソードはない、ホント。

 

「ディアの家族の人たちは……なんなんですか。あんな扱いをされて、どうしてあなたはそんなに優しいの……」

 

「い、いやそうハードル上げないでくれレティ。そんな出来た人間じゃねぇから……」

 

 俺の過去は簡単な話。

 『妥当品』として実家連中に認定されてから、俺という個体は殺処分が決まった。そこで選択された殺害方法が、「俺を界域に放逐する」というやり方だったのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()──それが中学時代の俺の日常だった。本当にあの家はクソだった──それだけの話。

 

「……じゃあ自発的に界域に行っていたのが世界貢献と言わず、なんと言うんです?」

 

「……いやまぁ、だって、不良を殴るのは暴行罪で捕まるかもだけど、魔獣ならどんだけボコっても問題ねぇし……?」

 

「目を逸らさないっ! あんな投げやり精神がまだ残ってるなら私が矯正しますよ! 性的な手段で!!」

 

「性的な手段で!?」

 

「方法なんか選びませんよ、私は! 使えるものなら全部使います。キリセの命を預かる伴侶として、その全ての責任を果たす覚悟があります! 私が言えたことじゃありませんが、自己犠牲なんか許しません! 相互監視するべきです!」

 

「そ、相互監視」

 

「私のために無茶すること、可能性を模索せずに命を捨てるようなこと、私から離れるようなこと、あえて私を突き放すようなこと、全て!! 禁止!! します!!」

 

 あ、圧が物凄い……

 つーか、やけに具体的なのはアレか? 恋愛あるあるだからか? すれ違いはカップルの醍醐味って言うしな。

 

「すれ違いも勘違いも起こさせませんよ……報告、連絡、相談! 絶対です! いいですね!」

 

「わ、わかったよ……」

 

「誓いますか」

 

「誓います……」

 

「では誓いの儀式を行ってください」

 

「……? 儀式って、どんな」

 

 するとレティが俺の正面に座るようにし、両手で祈るように指を組んだ。

 にまり、と小悪魔的な笑みを浮かべられる。

 

「ディープキスをどうぞ」

 

「……欲望に忠実な聖職者もいたもんだ」

 

 こうして俺とレティの間で、恋人としての約束事が更新された。

 願わくば……いや、この幸せを──必ずや永遠に。

 それが俺たちの、誓いになった。

 

 

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