境界剣士の最愛精霊《レスティアート》   作:時杜 境

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18 庭園デート

 ──努力しなければならない。

 俺は今、心底から己の怠慢を呪っていた。

 

「卵焼きってこんなに焦がすモンじゃねぇよなぁ……? クソッ、ここは妥協して目玉焼きしか出せねぇってのかよ……っ、クソッ、クソゥ…………」

 

 フライパンの上に錬成されているのは、炭まで一歩手前といったところの元完全栄養食。

 違う、本当はもっと良い色のものが出来上がると想像していたのだ。だが圧倒的に料理レベルが足りていない! ナゼ俺はこれまで料理という崇高な事業に従事していなかったのか────!

 

「んにゃぁ~……いいにおい……朝ごはんですか、ディア……?」

 

 と──後ろから妖精の声がした。稲妻の速さで振り返ると、そこにはネグリジェ姿で、なぜか枕を抱えてしまっている、起き抜けの頭ふわふわ状態のレティ(幼女だ!)が立っていた。

 

 陽光に照らされた真っ白な絹髪が輝いている。寝間着がちょっとズレて小さい肩が見えている──どころか隙だらけの鎖骨まで覗いていた。そんな状態で目を擦っているんだから、もはや幼女の可愛い度は計測不能領域に到達していた。

 

 かわいい! 天気快晴! レティかわいい! ナンバーワン! せかいへいわ!

 

「くんくん……卵と……トーストと……ディアの匂いがする……ってことは……ッ!?!?」

 

「待て。待て待て待て。朝からどんなハードコースを想定するつもりだキサマ」

 

 カカァッッ!! とレティが目を見開いたので、慌てて制止する。なんでこの朝の流れで俺まで献立に加えられなきゃいかんのか。デザートは休日だけですよお嬢様。

 

「違いますか……残念です…………ちらっ」

 

「寝ぼけてるなら顔洗ってこいよ。てか、縮んでるぞ」

 

「んぁ……朝なので……ふわぁ……ねむいとちょっと面倒になってロリに……」

 

「そんな低血圧みたいな感覚で……?」

 

 自由すぎるバージョン変更。いやどっちにしろ可愛いけど。

 

「もう用意できるぞ。準備してこい?」

 

「はぁーい」

 

 とぼとぼと洗面所へと引っ込んでゆく油断ならないロリ。

 ……ふむ。がっかりさせてしまったことに罪悪感を覚えたい所だが、そんなしょげた後ろ姿さえも可愛い──という感想しか出てこなかった。

 

 

     ◆

 

 

 登校する中、俺は周囲からの視線を感じていた。

 いや、視線を感じることくらいはよくあるのだ。白髪だし。ガラ悪だし。だが本日の頻度は異常ともいえた。明らかになにか、注目されている。

 

『金曜の件がどこかに洩れたか……?』

 

『す、すみません。きっと私のせいですよね……』

 

『そりゃ、お前のワーカホリック性は今後の改善事項だが、あの件の情報統制に関しては別口の管轄だろ』

 

 筆頭容疑者、芒原。しかし奴はあれでも教師の仕事から離れた行いはしない。他に、故意でなくともポロッと言ってしまいそうな面子と言えば……、

 

「──あ! 刈間斬世さんですよね! お噂はかねがね! 取材よろしいでしょうか!?」

 

 やがて校門に辿り着くや否や、メモ帳やらカメラやらを構えた、学生集団に絡まれた。

 なんか二十人以上いる。ずっとここで張っていたのだろうか。学内の新聞部、情報部、広告部……とか、やたら多種多様な部活名を思い出すが、これ全部か?

 

「よくねぇよ。退()け」

 

「うわぁ、素で不良口調だ! 今まで何人倒してきたんですか!?」

「それより契約精霊の詳細を! 超絶美麗可愛いとの話ですが!」

「副会長、奏宮華楓さんとはどういうご関係で!?」

 

 ……うわぁ。

 苛立ちよりも先に戦慄を覚える。なんだこの狂人集団。プライバシーって概念を知らないらしい。

 

『──ディア』

 

『ああ、頼むわ。これじゃ前に進めん』

 

 ここは素直にレティの力を頼らせてもらう。一人一人殴り倒しながら進むのも効率が悪い。彼女の卓越した霊力操作なら半殺しくらいの威力で吹っ飛ばせ、

 

『〈天雷破界(ラグナロク)〉』

 

 ──今、物凄い必殺の技が聞こえた。

 それって人に撃っていいやつ? と俺が問う前に、事象は発生する。天から巻き起こった雷が吹きすさび、嵐となって人だかりを一瞬にして蹴散らした。

 

「ごああああああ!?」「うああああああ!」「きゃあああああ──!!」

 

 情け容赦のない破壊の鉄槌。悲鳴の合唱は、なんかもう、魔王にでもなったような気分だった。

 すっきりはしたが。

 

『お見事』

 

『えへへ』

 

 そう、派手に蹴散らしたが死人は出ていない。流石の腕前だ。やや感電しているのか、一部の女子生徒は黒コゲになってピクピク痙攣している。まぁ、保健室に行けば治療系の精霊がいるだろうし、そこまで深刻になることでもない。

 ともあれ、道は開いたので登校を続行する。敗者たちにかけてやる言葉などなかった。

 

「実に破壊的な朝ですわね、刈間斬世くん?」

 

 と、目の前に一人の人物が立ちはだかった。

 初見の相手……ではない。話したことはないが、何度か姿を見たことがある。そう、直近でいえば、主に入学式とか一学期の始業式の壇上挨拶とかで。

 

「生徒会長……の、なんだっけ」

 

聖麗院(せいれいいん)シュリアと申します。ぜひ覚えていってくださいまし?」

 

 軽く笑顔を引きつらせる、ゴージャスな会長様。

 艶めく長い金髪、片腕で持ち上げているポーズでやたら巨乳であることが強調されている胸元、しかし優雅な口調と立ち姿。まさに貴族家系のお嬢様、といったイメージがそのまんま具現化したようだ。

 

「何の要件だ。人の登校を邪魔すんな」

 

「邪魔、などと。(わたくし)はただ、貴方にお礼を述べたいと思って」

 

「礼……?」

 

「先週末、我が生徒会の副会長が、貴方の契約精霊に助力いただいた……とか。お陰で上級魔獣の討滅を完遂できたということで、会長である私自ら、こうして伺った次第です」

 

 言って、優美な礼をする。こっちとしては、はあ、そうですか、としか言いようがない。

 

「あっそう」

 

「お待ちください、話はまだ終わっていません」

 

 通り過ぎようと足を動かしかけたところで、鋭く睨まれる。この礼儀知らず、と暗に語られているようだった。メンドくさいお嬢様だ。なんなんだ一体。

 そう思いつつ相手の動きを待っていると、すっと片手を差し出された。

 

「──話を聞く限り、貴方の契約精霊は非常に高貴かつ、強大な存在とお見受けします。なのでぜひとも、我が生徒会役員の一人として、貴方をスカウトしたいのです」

 

 ……途中から予想した台詞が全部当たった。あえて遮ることはしなかったが、実際に訊き終えるとウンザリする。

 ここで断る、と俺が即答するのは向こうの予想範囲内だろう。ならば、

 

「時給は?」

 

「えっ」

 

「俺の契約精霊をそんだけ買ってるんだろ? 働かせるって事は、相応の金額が用意できてるんだよな?」

 

「ええと──せ、生徒会はあくまでも学園の自治組織でして、そういったようなものは……」

 

「じゃ断る」

 

「ぉ──お待ちなさい! あ、貴方、プライドはないんですの!? 強い力を持つ者は、相応の責任を果たす義務があります! この提案も、貴方のことを思って──!」

 

 横を通り過ぎていく中、後ろからそんな反論が聞こえてくる。

 責任。義務。確かに生徒会入りは、俺にも相応のメリットがあるんだろう。だが──

 

「お前みたいな女の下に、俺の最愛を従わせる義理はない」

 

 サイアイ! と念話でレティが盛り上がる。それに内心苦笑しつつ、俺は振り返ることなく校舎に向かっていった。

 

 

     ◆

 

 

 ──登校直後の暴れっぷりを目撃された影響か、やはり、教室でも話しかけてくるような輩はいなかった。以前に突っかかってきた連中も、ドアの隙間から様子を伺ってくるだけで、一睨みすると瞬く間に消えた。

 

 すごいぞ、レティと契約してから一気に周囲が平和になった。

 やはり世の中は力……力なのか。ま、お陰で目撃例の少ないレティの想像図は、生徒たちの間では阿修羅のようなものとなっているらしいが。

 

『今日は屋上じゃないんですか?』

 

『レティと二人きりがいいんで』

 

『はぅっ』

 

 どうせ如月たちとは午後に顔を合わせるのだ。今度こそレスティアートと真の昼休みデートを満喫したい。

 なので俺が向かったのは庭園エリア。鍛錬好きな生徒たちがグラウンドに向かっている姿も見かけるが、それらを無視して、なるべく人気のないところを狙って空いているベンチに腰掛ける。

 

 昼飯の内訳は通学中、コンビニで買ってきたラインナップとなる。俺はハンバーガーを、左横に座ったレティはメロンパンにかぶりつく。

 

 ──ちなみに外での彼女の姿は幼女バージョンを維持してもらっている。

 これは俺の希望だ。

 十六歳の本来レスティアートなんか衆目に晒してみろ、国教が設立されてもおかしくない。

 

 ……単に俺が独占したいだけだが。

 

「さて、まずは卵系から攻め落としたいところだな……」

 

「? ディア、さっきから何を読んでるんですか?」

 

 バーガーを食べながら、俺は片手に雑誌を持っていた。これもコンビニで買った一冊だ。

 ──タイトルを「初心者必見・料理指南」。俺でも手のつけやすそうな初級者レシピが載っている。

 

「これからの献立の参考用にな。いつまでも買ったモンばっかお前に食わせたくないし」

 

「え、そんな……朝のお料理もすっごく美味しかったですよ?」

 

「そう言ってくれると助かる。けど現世にはもっと美味いモンがあるぞ。そいつを俺が作って、レティにも食べてほしいんだよ」

 

 ────俺の作った料理がレティの栄養になる、と考えるとなんか凄いやりがいを感じるし。

 しかし作りやすさを考えると、刺身系はいけそうな気がするんだよな。包丁捌きには自信がある。

 

「……じゃ、じゃぁ……私も一緒に、作りたいですっ。ディアに手料理、とか……」

 

「────物凄くそそられる提案だが、却下だ」

 

「な、なぜっ」

 

「『俺が料理をマスターしてからレティに教えたい』からだ。なのでそれまで、レティには味見役に徹してもらう」

 

 一緒に料理を極める──確かにいいだろう。素晴らしい発想だ。素晴らしい日常だ。

 だが! それでは二人とも料理をマスターしたところで、その料理道は終わってしまうッ! 俺はかつての俺のように、料理に四苦八苦するレティが見たいのだぁぁぁアア──ッ!!

 

「ぜ、全部念話に漏れてます……もう、分かりましたよ。ディアって変なところで頑なですよねっ」

 

 はむっ! と口を尖らせながらメロンパンを食べるレスティアート。むきになってるようだ。それでもしっかり噛んで食べているのが可愛い。その咀嚼回数を数えているだけで、いくらでも飯が食える。

 

「…………、た、食べますか……?」

 

 じーっとその様子を見つめているとレティがメロンパンを差し出してくる。

 

「たべる」

 

 昼休みのデートは始まったばかりだ。

 この後ゆっくりと、これからの日常となる一時を過ごした。

 

 

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