境界剣士の最愛精霊《レスティアート》   作:時杜 境

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 自信を持って純愛バカップルさせていきたいと思います。


21 青春の昼休み

『──じゃ、今週の土曜に待ち合わせってことで。十時ぐらい? あーそうそう、ぜひそっちの彼女とか連れてきてくれよな。お前の性癖がどんな末路を辿ったのか知りたいし。つーかちゃんと優しくしてんの? 気持ちとか言葉にしてる? ホントに大丈夫なのお前? てか写真くれよ写真』

 

『*人類スラング*』

 

 雑にメールのやり取りを終えて携帯を仕舞う。

 クソ学友野郎との再会の予定が決まってしまった鬱に襲われつつの昼休み。二日後に「奴」に会うことを考えると週末の体調にも響きそうなんで、当日まで記憶を抹消しておく。

 

『ディアのお友達……ですか。どんな人なんです?』

 

『この世の終わりを体現した化身』

 

『酷評!! そ、そんなに問題のある人なんです……?』

 

 ある。

 具体的に言うと、中学時代、体育館をキャンプファイヤーしてたぐらい酷い。

 

 だが友人……いや知人……いや同級生……として擁護させてもらうと、その恐るべき破壊活動は「体育館が界域化してたから丸ごと燃やした」というのが真相だ。

 

 それでも絶対にあいつはなんらかの罪に問われて然るべきなのだが、しかしどうして、世界は奴の過激な行いを黙認している。存在自体が暴力みたいな奴だ。理不尽という言葉はあいつのために作られたに違いない。

 

 奴とレティを会わせるのには凄まじい拒否感がある。できれば互いに一生、関わりを持ってほしくないんだが。

 

 ……なんてことを考えつつ、本日は素直に屋上に行ってみる。

 ガチャッと扉を開けて入ると、ベンチの一つにはもう架鈴が座っていた。

 

「よ、この前のやつ参考になったぜ。美味かった」

 

 近づいて洗った弁当箱を返す。月曜にこいつからもらったものだ。主にそれらは俺が本格的に体調を崩し、調理もできなくなった夕飯時に消費された。レティに“あーん”されながら。

 受け取った架鈴は黙ったまま、いつも通りクールな表情を保っている。しかし不意にこっちの目を見ると、

 

「相談があるから聞いて」

 

「お……おう?」

 

 突拍子もない申し出に、軽く首を傾げる。

 良夜の姿はない。となると良夜絡みの案件だろうか? と予想しつつ、すぐ横のベンチに腰を下ろす。と同時に、俺の膝上にレティが現れた。かわいい。

 

「どうしたんですか、カリンさん?」

 

「シームレスすぎる登場に驚愕を禁じえないけど、あえてスルーしておくよ。相談っていうのは──」

 

 そこで言葉を区切り、一つ息をつき、覚悟を決めた面持ちで架鈴は口を開いた。

 

「デートに誘おうかと思ってるの」

 

 誰を、とは訊くまでもなかった。

 俺とレティは顔を見合わせ、いったん朝に作った一つの試作弁当をレティの太ももに乗せて蓋を開け、俺が箸を持つ。

 

「デート」

 

「ですか」

 

「そう……ちなみにこれは映画のペアチケット。こっちはショッピングモールに新設されたカフェのカップル割チケット……」

 

 準備万端だった。桃色だか桜色だかしている券を手に、架鈴は真剣な顔をしている。

 こいつが「誘う」相手なんてのは一人しかいない。その本人がここにいない時に切り出してきたのが何よりの証拠だろう。

 

 で、だからどうだっていうのだ。

 ひとまず卵焼きをレティの口へと運ぶ。

 

「さっさと誘えばいいじゃねぇか」

 

「そう簡単に上手くいくと思う? 男の人って、デートのシチュエーションに拘りがあるんじゃないの? ただ映画に行ってショッピングに行く程度の計画性で、許してもらえる?」

 

「充分じゃねぇのか……?」

 

「ちなみに、遊園地のチケットも用意してるんだけど」

 

「え、映画とモールでいいんじゃねぇのかなぁ……」

 

「あ、あんまりイベントを詰め込みすぎるのも、疲れちゃいますよ……ね?」

 

 というか、相談されても俺たち、まだデートらしいデートしたことないし。

 まだ出会って一か月も経っていない。

 

「そう……じゃあ経験豊富そうな二人を信じて、当初のプランでいくよ。後はターゲットをどうやって捕獲するかだけど」

 

 ふうむ、と少し考えながら、レティに箸を渡し、おぼつかない持ち方をする手を支えながら、彼女がくれるタコウインナーを食べる。

 

「……体育館裏に呼び出すとか?」

 

「直接伝えた方が早いのでは……」

 

「良夜の鈍感度を甘く見ちゃダメ。私が誘っても『友達と遊びに行く』ぐらいの感覚だよ。デートだなんて絶対に意識しない」

 

「嫌に含蓄を感じる言葉だな……」

 

 架鈴がぎゅっとチケットを強く握りしめる。その表情、浮かれる乙女のものではなく、死地に赴く戦士そのものだった。これまで一体どれだけの死闘を繰り広げてきたというのか。

 

「だから二人には、私が誘ったあと、良夜をからかってほしいの」

 

「「からかう?」」

 

「『ひゅー。デートじゃん!』みたいな」

 

 ……俺たちにそんな大役を任せて大丈夫なのか、この娘は。

 っつーか、そんな小学生レベルの冷やかしが手札に入ってくる辺り、良夜(あいつ)どんだけだよ。

 

「そもそもカリンさんとヨシヤさんって、どんなご関係なんですか?」

 

「負けフラグいっぱいのリアル幼馴染だよ」

 

「ウオァ……」

 

 思わず呻いてしまった。架鈴があまりにも笑っていない目でピースしてきたのも相まって。

 属性:幼馴染。舞台:学園。もうダメだ! オシマイ近ぇ!!

 

「そう──だから何としてでも、新ヒロインが出てくる前にリードしなきゃいけないの。来月には夏休みがあるでしょ。だから私というヒロインの独壇場である今だけが、きっと最後のチャンス……!!」

 

「??? 幼馴染って一番付き合いが長いってことですよね? 何が不利なんですか?」

 

「「……一番付き合いが長いからこそ、だよ(だろ)」」

 

 架鈴と言葉が被った。目を合わせ、頷き、俺たちは互いの意志が同一であることを認識した。

 幼い頃から付き合いのある異性──それはもはや兄弟関係にも近しい。必然、鈍感な男は想いを寄せられているのにも気付かずに、後から出てきた本命(しん)ヒロインに持っていかれる可能性が高いのだ!

 

「何としてでも意識させたいから……そう、何としてでも……」

 

「助力……させてもらうぜ……」

 

「ありがとう。持つべきはリア充の勝ち組男友達だね」

 

「褒めるなよ。照れるだろうが」

 

「りあじゅう??」

 

 現世用語に疎いレティは首を傾げるばかりだ。可愛いので顎を撫でておくと、「はにゃぁ……」と蕩け始める。ぎゅっとしたらそのまま昇天しそうだ、この幼女。

 

「やっほー! 一番乗──ってもう皆いる!? 早! なんで!?」

 

 ばーん、と勢いよく屋上の扉を開けて入ってきたのは噂の如月良夜。

 既に集合していたこっちを見て妙な質問をしてくるが、俺はそれに即答できる。

 

「お前みたいに休み時間になった途端、クラスで駄弁るような相手がいないから」

 

「以下同文」

 

 ちなみに俺は四組、架鈴は二組、良夜は五組の所属だ。この面子が一同に(かい)す機会は、昼休みの屋上か午後の授業くらいしかないのである。

 

「えっ、なんで!? ふ、普通、話すじゃん! 隣の席の子とか、前とか後ろの席とか!」

 

「……良夜ってよ、クラスメートの名前全員覚えてたりする?」

 

「覚えるよ! だって最初にみんな自己紹介するじゃん!」

 

 ……同クラスの名前を覚えるのって、強制的に六年間一緒になる小学校までじゃなかったのか。

 見てる世界が違ぇぜ。

 

「安定と信頼のコミュニケーション能力だね。ところで良夜、話を変えるんだけど、今度の土曜日はあいてる?」

 

「土曜日? えーっと……うん! あいてる!」

 

 今の“えーっと”の間、おそらく他の友人から予定を約束されてないかを確認するための間だ。あの頭の中の友人リストと人脈関係図は、一体どうなっているんだろう。

 

「それはよかった。じゃあその日、一緒に映画に行かない?」

 

「え、行く行く! わーい、ありがとう!」

 

「集合時間は午前十時。駅前近くのショッピングモールで。必ず来てね」

 

 チケットを手渡しながら、念押しするように言う架鈴に、「わかったー!」と無邪気な笑顔を向ける良夜。するとそこで、チラと架鈴がこちらを一瞥し、“後はよろしく”という目で頷いてくる。

 

「じゃ、私はこれで。また午後にね」

 

 すたたたー、っとその場を後にしていく架鈴。

 表面上は無表情だったが、やや早口気味だったことから察するに、相応に緊張していたのだろう。一方の良夜は、「あ、またねー!」と特に何もわかっていない顔で見送っているが。

 

 さて、ここからは俺たちの仕事か。

 その前に、唐揚げをレティに食べさせる。彼女が半分かじった残りをいただき、白米を互いの口に運ぶ。

 

「架鈴と映画かぁ~。どんな内容なんだろ? 斬世はどう思う?」

 

「ふーん。『お前らデートじゃん』、って感じ」

 

 平坦に告げると、そこで良夜の動きが固まる。え、と何を言われたかわからないような顔だ。

 マジかこいつ。本当に俺と同じ男子高校生なのか?

 

「で、デデで、デート!? いやいやいやっ、だ、だって斬世たちも『一緒に』行くんでしょ!? ね!?」

 

「行かないが……?」

 

「むしろなぜあの流れで同行想定を……?」

 

 きょとーん、とレティと共に首を傾げると、ハワワワ、と良夜が震え始める。ようやくまともな反応を見せ始めたな。

 

「いや……いやいや。きっと架鈴のことだし、余ったチケットが勿体ないからとかって理由で……」

 

「お前……それは流石にあいつに失礼じゃねぇのか……」

 

「普段の接し方を鑑みて、本当にそう思うなら乙女としてドン引きますね……」

 

「すいませんだって架鈴は大事な幼馴染でそそそ、そういう目で見るのはいくらなんでも失礼だと思いませんかぁ!?」

 

「思わん。むしろ自然な感情」

 

「思いません。むしろ当たり前にして常識的な反応」

 

「あわわ……あわわわ……」

 

 そこで良夜がしゃがみ込んで頭を抱え始める。

 なんだこのピュア濃度マックスな同僚。青春で出来たような性格のクセして恋愛(そっち)方面はクソザコか。健全鈍感主人公のサンプルか?

 

「っつか、本当に何も思ってねぇのか? それとも対象外?」

 

 架鈴本人がいたら絶対に訊けないような問い。

 しかし今の動揺っぷりからして、別段脈ナシってわけではねぇだろう。恋愛方面を考えて“ためらう”ってことは、それなりの感情があって然るべきだ。

 

「……その、架鈴とは今言った通り幼馴染なんだけど……出会ったのは、家が主催する交流パーティだったんだ」

 

 家。

 貴族社会。

 如月家といえば大富豪──そして奏宮家はというと、数ある貴族の家の一つだ。なるほど幼馴染……ならば、かなり長い付き合いになるのだろう。

 

「俺に近付いてくる同年代の友達って、まあ大体が家柄ありき、ってことが多いんだよ。小さい頃から人脈作って将来のためにー、っていうのが当たり前。でも架鈴や、お姉さんの華楓さんもさ、そんな打算抜きで接してくれてるタイプだと思ってる。まあ俺は、もしも打算ありきであっても仲良くしたいって気持ちは変わんないけど」

 

 架鈴が座っていたベンチに座り、如月家の子息は空を仰ぐ。

 その間にも俺たちは代わる代わる箸を持ち替え、念話で欲しいものを注文し、それぞれの口に運んでいく。

 

「……如月家って、それなりに上手くやってはいるけど、薄暗い事情も多少あってね」

 

 そう切り出した良夜の声色は──

 一人の男子高校生ではない、「如月家」に生まれた子供としての声で、表情で、語る。

 

「財閥系あるあるだけど、そんな家に架鈴を巻き込みたくない。というか、誰も関わらせたくない。今ぐらいしか言えない身勝手な理想だけど……貴族とか止めて、俺は普通に暮らしたい」

 

 初めから。

 こいつは、貴族のくせに普通の奴すぎると思っていた。どこにでもいる男子高校生。人懐っこい明るい奴。如月家という苗字が間違ってるんじゃないかというくらい、平凡なヤツ。

 

 しかしそれは、こいつが「そうなりたい」から振舞っていただけのもの。

 どれだけ庶民ぶってもこいつは「如月」だし、大家の御貴族様なのだ。

 

「界域とかいう怖いところにも行きたくないし、やたら難しい授業やる学園もヤだし、ちょーふつーの学生やってたいし、家のこととか一切考えずに架鈴と接したいし──……」

 

「し?」

 

「自由に生きたい。うん、ホラ、探偵業とか面白そう」

 

 極めて軽い口調で言ってのけたが、それが如月良夜の本心。

 家のしがらみが嫌だ。いちいち命を賭けるとか嫌だ。好きな将来選んで自由に生きたい。

 本当によくある、この学園の精霊士なら誰でも持っていそうな悩み。

 貴族だけども、こいつはやっぱり、「どこにでもいる男子高校生」だった。

 

「ふうん。で、だったらお前はどうしたいんだよ?」

 

「どう……って?」

 

「色々嫌で悩んでんのは分かった。で、()()()? 奏宮架鈴とは()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その問いに、良夜はやや目を逸らし、顔を赤くする。オイ、純情。

 

「さ、さ、最終的に……って……いやぁ、だって、男女が付き合うー、とかになったら……さぁ? 色々……なんか、あるんでしょ!? 今もなんかずっとそうやってイチャついてるけど!!」

 

 用意していたおしぼりでレティの口周りを拭きながら俺は頷く。

 

「あるぞ」

 

「ありますね!」

 

「お、おお、俺たちまだ高一だし……? 高校生のカップルって、別れる率も高いっぽいし……? それに、だから、如月の家に架鈴を関わらせるのは、その……」

 

「ほーん。そうかそうか。んじゃあお前は、後々架鈴(あいつ)に婚約者とかが出来て、結婚しても『俺の方が先に好きだったノニィー』的な感情を一切抱えず、満面の笑みで『結婚おめでとう!』──と言える自信が大いにあると」

 

「ディア、ヨシヤさんがもう倒れています」

 

 レティの指摘で左横──の下を見れば、呻きながら良夜が倒れ伏していた。軽く吐血までしている。想像でそこまでのダメージを負うのなら、もうとっくに答えは出ているだろうに。

 

「き、斬世……なんでそんなヒドいこと考えられるのぉ!?」

 

「いや、順当にこのままいけば、お前そうなるだろ」

 

「はぐぅぅ……!!」

 

 おー、歯を噛み締めながら耐えてる耐えてる。

 鈍感が自分の将来を思ってダメージを受ける図、結構面白いな。

 

「覚悟決めろよ、ヘタレ野郎。女一人の人生背負えない程度で、家の事情が背負えるのか?」

 

「がはぁッ!!」

 

「致死ダメージですね。オーバーキルでは?」

 

 大丈夫大丈夫、きっと良夜なら耐えられるって。

 

「そっ……そういう斬世はどうなのさぁ!? レティちゃんのこと、幸せにできるって自信あるのぉ!?」

 

「『できるか』じゃねぇ、『する』んだよ。ま、家の事情に関しちゃ、俺とお前じゃ条件が違いすぎる。実質、天涯孤独だからな、卒業後の進路を今から考えねぇと……」

 

「えッ……そ、そうなんだ。なんかゴメン……」

 

「ちなみにディアの家を消し飛ばしてしまったのは私なんですが……」

 

「俺の人生ってばレティに掌握されてんなー、あはは」

 

世界(ステージ)が違いすぎるッ! なにもかもッ!!」

 

 戦慄を露わにする如月良夜。

 どうだ。俺の境遇ってば羨ましいだろう。

 

「んで、土曜の件、どうすんだ?」

 

「行くよ……行くに決まってるでしょ……! ……どんな格好してけばいいかな?」

 

 友人の相談に乗りつつ昼休みは過ぎていく。

 こういう日も、偶には悪くなかった。

 

 

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