境界剣士の最愛精霊《レスティアート》   作:時杜 境

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22 放課後デート

「午後の授業は時間割を変更して座学でお届けするぞぉー」

 

「「うぇ~い……」」

 

「ひっく。テンションひっく。これが青春まっ盛りのハズの男子高校生の姿かぁ?」

 

 午後──一年四組の教室には、俺と良夜に架鈴、それに教壇には芒原の姿があった。

 俺は窓際後方、いわゆる“主人公席”とも言われがちな自分の席に。

 良夜と架鈴は中央列、真ん中に並んだ席に座っていた。

 

「座学って何すんだよ……つか、界域は?」

 

「ローテーションがあんの。安全な実地場所ってのは基本、他の学年とパイの取り合いになってんだよ」

 

「バイトかよ」

 

「あくまでも授業の一環だ。……まあ、実際に『現世回帰』まで成し遂げた刈間の通帳には? 国の結社から相応の報酬金が入ってると思うが」

 

「え。マジで」

 

 知らなかった。というか意識の外だった。

 そうじゃん。現世の領土を取り戻すって、普通に金が入る偉業じゃねぇか!

 

『……、レティの稼いでくれた金、って考えると、凄まじく手を付けづらいな……』

 

『いやいや、私とディアは一心同体。普通に使ってください、ふつーに!』

 

「んじゃ授業はじめっぞー」

 

 チョーク片手に芒原が黒板になにやら書き込み始める。

 ノートを取れとも言われていないし、それらしき教書もない。一体何について学ぶんだ、この時間?

 

「えー、本日のテーマはぁ……『違法精霊士の犯罪組織』についてでーす」

 

「あぁ……テレビとかで偶に見る」

 

 自然と言ってしまってから気付いた。

 ……うわ、めっちゃ創作に出てくる悪の組織っぽい概念じゃねぇか!?

 

「ま、ニュースとかでは主に『精霊を用いた犯罪グループ』って呼称で言われてるな。『違法精霊士』だと……うん、なんかちょっとカッコいいだろ?」

 

「確かにカッコいい!」

 

「思春期的にはロマンを感じちゃう響きだよね」

 

 普段、何気なく流していた組織概念だが、“言われてみれば”な納得感がある。

 そこから連想すれば、俺を船で襲ってきた連中にも繋がるのだろうか……

 

「普通、精霊との契約は、聖來学園(ここ)みたいな専門の教育機関か、国に認められた公共機関で行うもんだ。それには、まず『精霊召喚』の適性の有無が最初の基準になるんだが……」

 

 芒原の目がこっちを見る。なにか意見でも言うべきか。

 

「召喚適性もなく、精霊と契約する輩がいる、と?」

 

「そうだ。その点に限って言ゃあ、刈間は相当な『特例』だな」

 

「「えっ?」」

 

 良夜と架鈴が素っ頓狂な声をあげる。

 そういや、俺とレティの契約の経緯は話したことなかったな。

 

「えー、俺が()()()()()()()()()()()()()……なんかの拍子で顕現した精霊レスティアートが、一方的に刈間と契約を結んだ、ってことだが」

 

「まぁ……合ってるな」

 

 そこに“当時の俺が瀕死の重傷だった”、“レティと命を共有している”といった情報が伏せられているのは、あえてのことだろう。

 

 俺とレティの最大の弱点は、どちらかが死ねばそのまま終わってしまうということ。

 一蓮托生、運命共同体。

 精霊契約の中でも、かなり異例なケースに違いない。そう信じている。

 

「上級精霊に人間側が見初められてしまった場合──人間側は被害者扱いとなる。精霊召喚の適格者ではないものの、刈間から望んだわけではない以上、これを罰することは出来ない。無論、契約精霊が人類側に損害を出したら『災厄精霊』認定だが……学園側から刈間に求められるのは、せいぜい他の精霊士と同様、『契約精霊の手綱を握ること』、或いは、できなくとも『ブレーキ役をこなすこと』、だ」

 

「ほえぇ……レティちゃんってば情熱的……」

 

「結果、イチャイチャラブカップルになったんだから、まあ、人類側としては収穫?」

 

「好きに言ってくれるじゃねぇか。羨ましいか」

 

「えへへへ」

 

 サイレントにレティが膝上に顕現していた。条件反射で頭を撫でる。

 その光景に芒原がややビクッとしたが、レティ相手には咎める気も起きないのか、見なかったことにして授業を進める。

 

「で、話を戻すとだ……違法精霊士って、何が目的だと思う?」

 

「ハイ! 世界征服!!」

 

「精霊ハーレム計画?」

 

「極めて私的で私情による崇高かつどうでもいい目的」

 

「如月ィ、世界征服は実はスゲーコストがかかるらしいぞ。奏宮ァ、そりゃ違法精霊士が全員精霊コレクターって前提条件ありきか? 刈間ァ、正鵠を射てはいるがなんか恨みでもあんの?」

 

「犯罪者問わず精霊士アンチ時代が長かったもんで……」

 

 主に中学時代にかけて。

 俺の地元、界域に繋がりやすい割に精霊士が全然いなかったんだよ。魔獣が減らない、界域は拡大し続ける。だもんで、何度死にかけたことか。

 

「……」

 

 そっとレティが軽く体重を預けてくる。軽く手も握られる。──体ごとぎゅっとしてみる。

 

「!!」

 

 ヒュン、と一瞬で重みと体温が虚空に消えてしまった。嗚呼、寂し。

 

「リア充っぷりを見せつけないと息できねぇ病気にでも罹ってんのか……? ともかく、答えは大体刈間の言った通りだ。違法グループに入る目的なんか、それぞれの精霊士の事情による。治安組織の世話になってんのは、主に単独犯とか小規模グループだからな。だがここに例外がある」

 

 そこでチョークの音が長らく響く。

 つらつらと芒原が書き始めたのは、それこそ漫画や小説に出てきそうな組織名らしき羅列だった。

 

聖召(せいしょう)機関』

伝承庭園(SSS)

『終焉封鎖機構』

『マリア年代紀』

『絶滅騎士団』

『メノット』

 

 ……なんかどれも、ネット記事のタイトルで一度は見かけたことのある名前だ。

 しかし「メノット」とは何だろう。これだけ初耳だ。

 

「おお……並べるとカッコいいですね! 不穏なだけに!」

 

「な~。狙ってやってるネーミングとしか思えんよな。理念とか置いておくと、俺は『絶滅騎士団』とかすげーイイと思う」

 

「聞いてねぇんだよ。『メノット』ってのは知らないが、なんだ?」

 

「さぁ? 都市伝説上でよく話題に出る名前だから書いてみただけ。構成メンバー、思想、一切不明。犯罪組織かもわからん」

 

 わざわざ尋ねた俺が馬鹿だったらしい。授業で都市伝説レベルの信憑性の組織を出すな。暗記の邪魔になるだろうが。

 

「じゃあ……他は」

 

「えーっと、『聖召機関』は“聖女”っつー連中が運営してるとか。学園長によればリア充アンチ? らしい」

 

 なんだそのピンポイントな私怨。

 行き遅れた女たちが組織してるとか、既に嫌な予感しかしない。

 

「次に『伝承庭園』……は、分かりやすいオカルトグループだな。“魔術師”って名乗る連中が多いらしい。SSSとも呼ばれたりするが、何の略かは知らん」

 

「なんだろ。『スピリット・スペシャル・スプリンター』?」

 

「走るの……?」

 

「魔術師ねぇ……」

 

 と聞くと、どうしてもレティの過去に思考が向いてしまうのだが。

 まあ、その辺の個人授業は帰ってからでもいいか。

 

「『終焉封鎖機構』は犯罪組織ってか、傭兵集団に近いな。各国で黙認されてるグレー。公式の組織じゃ手を出しにくい界域調査なんかを請け負ってるそうだ。次、『マリア年代紀』……は、人類アンチの精霊教団だな。見つけ次第ぶちのめせ」

 

「ぶちのめせって……」

 

「最後に『絶滅騎士団』! 勝手に魔獣を掃除してる自称慈善活動団体。だが民間に違法な精霊契約を持ちかける悪徳業者だ、見つけ次第ぶちのめせ」

 

「それはもう警察の仕事だろ……」

 

 ひとまず、代表六例の組織の概要はそんなところらしい。

 『メノット』だけが本気でノイズすぎた。早く記憶から消しておこう。

 

『メノット……「手錠」、ですか。他とは気風の変わった組織のようですね?』

 

 ありがたがれメノットども。レスティアートの声に乗ったから一生俺の記憶に残ることになったぞよかったな。

 

「色々言ったが……このどれかの組織に出くわしたら、ちゃんと逃げろよ? それかすぐ連絡しろ。俺たち学園の精霊士の基本業務は『魔獣の討伐』だ。犯罪組織にカマけてる暇なんてねぇ。そこんとこ、忘れんよーに」

 

「……正直、そんな組織を運営したり、所属してる暇あるなら、魔獣と戦ってほしいよね」

 

「同感だな」

 

 架鈴の意見に満場一致したところで、午後の授業は終息に向かって行く。

 精霊士になる前よりも、少しだけ世界の解像度が上がった気がした。

 

 

     ◆

 

 

 放課後──それは平日におけるメインタイムだと言っても過言ではない。

 不良系白髪男子生徒がフラッとショッピングエリアの衣服店に立ち寄ると、ちょっと引かれ気味な視線を店員さんや他の客から向けられるが、アラ不思議。

 

「何か買うんですか? ディア?」

 

 ぽんっ、という効果音は特になく──

 するっと視界に現れたレティが出てくるだけで、「年の離れた兄妹」を見るような視線に様変わり。

 

 レティと契約してからのちょっとしたライフハック。

 いや恋人だっつーの。

 

「実は通帳にあった金額がヤバくてヤバいからまずレティの服を買おうかと思って」

 

「語彙力! っていうか共有財産なんですし、そこまで気を遣わなくても……」

 

「とりあえずレティにはここにある五着が似合うと思うんだがどう?」

 

「私の目を持ってしてでも捉えられない!? ディア、一体いつ動いたんですか!?」

 

 “そこまで気を遣わなくても……”で一瞬だけ目を伏せた隙に。

 ともあれ、レティの服だ。私服だ。レティの着せ替えしたいしたいしたいした、

 

「き、着ます! 着ますからっ! 落ち着いてくださいディア、順番に着ますからぁ!」

 

 ──それから小一時間ほど、俺得レスティアートファッションショーが続いた。

 部屋着がゴスロリなもんだから、普通のワンピースを着せるだけでも新鮮さの“段階”が違う。パーカーフード、ジャージやTシャツにまで手を伸ばせば、そこには完全に庶民に溶け込んだ元王女様の姿があった。

 

「……なんだこの背徳感。貴族を平民落ちさせて愉しむ高度な遊びかよ」

 

「ディア~、ぜんぶ声に漏れてますよぉ……」

 

 三着目のジャージに袖を通したレティが玄妙(げんみょう)な表情で見つめてくる。

 口元を隠すほど締め切ったチャック、絶対領域を生み出す短パン、それに萌え袖が組み合わさって最強に見える。既に最強だが。

 

 ちょっと後ろ向いてみ、とジェスチャーするとレティが背中を向ける。そこで白髪を上にまとめ上げ、俺が使っていた髪ゴムでポニーテールに仕上げてみれば、あっという間にスポーティ少女(レティ)の完成だ。

 

「────────」

 

 見ているだけで栄養分が採れる。うなじのラインが最高だ。

 

「…………良い」

 

「あの、さっきからそれしか聞いてませんがっ」

 

「残ってる語彙で最大限に言語化してるんだ。っつーかここで話し始めたら五時間はかかる」

 

「ごじかん!?」

 

 既に脳内では「レスティアート宇宙構築論」をテーマに三本ほど論文まで出来上がっている始末である。考証が進みすぎだ。衣装一つ変えるだけで、今の俺はあらゆる可能性のレスティアートを夢想できる境地にいる。

 

「──全部買いだな」

 

「む、無駄使いはいけませんよ!」

 

「あぁ……じゃあ気に入らなかった奴は戻してくるから」

 

「ぜんぶ要りますッ!!」

 

 これまで着てきた十数着の衣服を抱きしめるレスティアート。

 俺は彼女の衣装が増えること自体に利益しかなく。

 レティはレティで、「俺が選んだ」衣装はそれだけで意味と価値が生じてしまった。

 

 俺たち、もしかして服の買い物には向いてないのでは?

 

 まあ……いいかぁ!

 

 

     ◆

 

 

 手繋ぎして帰路を歩いていく。

 ロリ姿のレティなので、完全に絵面が保護者と子供だ。とはいっても、外で本来の姿のレスティアートを晒すのは本気で勿体ない気しかしない。あの運命の十六歳レティは永遠に俺だけが知っていたい……

 

 恋人のジレンマ。

 我ながら浮かれてやがる。

 

「~♪ ~~♪」

 

 隣では心地いい鼻歌が奏でられている。聞き覚えのあるメロディからして、テレビで流れてたやつだろうけど。

 

「──、あ」

 

 ふと、通りすがったウィンドウディスプレイが目に入った。

 レティを着せ替えしまくってた影響か、無意識に注意が引かれてしまう。

 そこにあったのは純白のウェディングドレス。店の内側に張り付けられた、「ジューンブライド」と書かれたチラシ。

 

「あー……そういやそんな季節だったか」

 

「? なんの季節です?」

 

「ジューンブライド。言い伝え(ジンクス)だよ。『六月に結婚する花嫁は生涯幸せになれる』ってやつ」

 

「そっ、そうなんですか!?」

 

「けど、この国の結婚可能年齢って確か十八歳……」

 

「そうなんですか──っ!?」

 

 ──しまった。

 ガガァン、と有頂天から奈落の底にまでレティを突き落としてしまった。石みたいな色になってる。

 

「じゅ、十八……十八ですね、わかりました……霊力を操作すれば、そのくらい……!」

 

「いや、俺も十六だし。レティだけ成長されても意味ないというか」

 

「ハウエヴァぁ!?」

 

 ショックに叫ぶレスティアート。そこはホワイじゃないのか。

 なんにせよ、俺たちの正式な結婚はもう少し先になることだろう。

 その代わりと言ってはなんだが──

 

「ならせめて結婚指輪、買いに行くか」

 

「? ゆびわ??」

 

「結婚した夫婦が付ける装飾だ。明日にでも……」

 

 ぐっ、とレティがそこで強く右腕を引っ張った。

 ……無言で訴えかけてくる青い視線の真意を、ここで読み取れない者はいないだろう。

 

「……今、行くか」

 

「はいっ!」

 

 急遽追加された品物を買いに、俺たちは放課後を少し延長した。

 

 

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