境界剣士の最愛精霊《レスティアート》   作:時杜 境

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37 暗黒聖女

「──()ッ!!」

 

 風を断ち裂いて、刃を──斬撃を奔らせた。

 三度殺せば弱体化するのでは、とレティは言った。

 まずはその一度目。巨体から生える三本の首を、一閃で胴体から斬り離す──!

 

《──GaaaAAAAAA!?》

 

「おー、効いてる効いてる」

 

 着地し、存在の輪郭がブレて一層ノイズが酷くなるケルベロスの巨躯を仰ぐ。

 だが地獄の概念と繋がっているためか、斬った首が地に落ちることはなかった。ザザざザ! と激しく黒いノイズが走ったかと思うと、次の一瞬ではもう繋がっている。

 

 再生というより、修復の能力といったところか。であれば、

 

「なら死ぬまで斬りゃいいだけだ」

 

 死なないなら死ぬまで殺す。極論、シンプルな殺害法。

 刀身に伝えるイメージは刹那で事足りる。俺という存在に巡る霊力を宿し、抜刀の瞬間に()()を放つ。

 

 刹那の一閃──それは真紅の斬撃となって発生した。

 刀身ではなく、飛ばす斬撃の方に霊力を付与した破壊斬撃。それは真っ向から中央の獣の首を両断し、胴体を半ばまで裂いた。流血があるような傷口ではなく、そこには黒いノイズの切り口が覗いているだけだった。

 

『んー、上手く霊力が乗りきらなかったか。真っ二つにしたかったんだが……50点?』

 

『なんで何も教えてないのに技を編み出してるんですか!? 300点!!』

 

『何点満点なのか怖い配点だな……!』

 

 途方もない数字限界のテストだったらどうしよう──などと思いつつ、前足の薙ぎ払いが来たので飛びのく。鉤爪がコンクリを引き裂いて、粉塵の嵐を巻き上げる。

 

《Graaaaaa!!》

 

 ケルベロスが跳び上がって後退する。再び元の形状を修復した三つ首は、次の瞬間、その口を一斉に大きく開けた。──ブレスか!

 

 直感的な予感だった。三つの首に霊力が収束し始めた瞬間、斬撃を一閃する。それは左の一本を切り裂いたが、残る二つの首からのブレスは止めようがない。

 

《GAAAAAaaaaaa──ッ!!》

 

 ──中央は雷撃、右は火炎。

 直後、俺は右手にあった近場のビル壁へと跳んだ。すぐ真下で業火が燃え盛っていく。追ってくる雷撃は音で回避し、壁伝いに駆け上がって地獄犬の上を取る。──斬撃を振り放つ。

 

「抜刀、刹火(せっか)……!」

 

 タイミングを音にして、今度こそ斬撃に霊力を乗せるコツを掴む。振り放ち、直後、刃から斬撃が飛び出し切る直前に乗せる感じか。居合術に似た感覚だ。

 

 真紅斬撃が火炎のブレスを断ち切り、残っていた二つの首を同時に落とす。これで都合二回目の殺害。そこで最初に斬った左の首が再生し、こちらを仰いだ。

 

《GraaaAAA……!!》

 

「覇気がねぇぞ覇気が! オラ、三度目──!!」

 

『に、2万点……』

 

 刃を放つ。落下しながら胴体を斬って、一気にトドメ──といきたかったが、斬撃が届く前にかわされてしまった。首を二つ再生しながら、ビル群の陰へと逃亡しようとする。

 

「逃がすか」

 

 間合いのイメージ拡大。

 目標距離まで目算三十メートル。

 

 足を斬って機動力を削る──却下(NO)

 ビルごと斬って障害物を設定する──却下(NO)

 

 一撃確殺。

 逃げられる前に殺し切れ。

 

「──────今」

 

 斬撃が(ほとばし)る。

 三つ首の巨体へ向けて、最後の一撃を解き放つ。

 無限に引き延ばされた刹那は(やじり)となって、地獄の獣を模した界域主を斬断した。

 

 

     ◆

 

 

「三回殺した、ぞ……?」

 

 頭から胴体を真っ二つ。

 道路に伏した番犬は、輪郭を保っていられず、黒いノイズの物体と化していた。

 もはや修復も再生も効かない。十メートルほどのところまで近寄ったところで大きくノイズが乱れ、形そのものが解け──瞬間、光に砕け散って消えた。

 

「討伐完了、ですね。お見事です!」

 

 と、目の前にレティが出てきた。

 討伐完了……ということは、本当にこれでもう終わりか?

 

「……なんかあっさりしてたな」

 

「そこはディアの実力の表れですね。当初の私の予定では、苦戦した頃を見計らって、先の『霊力付与』を手取り足取り伝授しようと思っていたのですけど。思っていたのですけど!」

 

「己の才能を憎悪するぜ……やっちまってんじゃねーか俺!! 何やってんだ!」

 

 思わずその場に膝から崩れ落ちる。

 レスティアートからの講義のチャンスをみすみす逃すとは、間抜け以外のなんだ!? 起伏も逆境もない界域主討伐!? 初めから全力出してんじゃねーよボケ!

 

「そんな落ち込まないでください!? 偉業なのは確かですから! ディアすごーい、すごーい!」

 

「リベンジだ! リベンジを要求するケルベロス! 復活しろよオイ!! 三回殺されたぐらいで死んでんじゃねーよ雑魚!」

 

「強敵! 強敵だったんですってばディア! ただあなたが強すぎただけで!!」

 

「あああああ!!」

 

 なんだこの気持ちは! 加減を知らずに人間を殺しちまった化物かよ! 俺にとって手応えのある敵って貴重なんだな! 自己分析が深まったよ! チクショー!!

 

「はぁ、はぁ………………よし、一通り発狂できたし、そろそろ帰るか」

 

「いきなり落ち着くんですね……」

 

「ああ。早く帰ってお前からのご褒美を頂きたいからな」

 

「ご褒美!? ……ご褒美!? そ、そんなこと言いましたっけ!?」

 

 言っていない。

 ただ、適当なことをほざいておけば、なんかくれるんじゃないかという、浅ましい期待心だ。

 

「くれないのか?」

 

「くっ、ぉ……か、考えておきましょう…………」

 

 むむむむ、と顎に手を当て、難しい顔をし始めるレスティアート。

 こりゃあ帰った後が楽しみだな──と、界域の出口……ここへ入ってきた地点へと向かおうとした時だった。

 

「ッ……!?」

 

 ゴゴン……という震動がまずあった。

 次に右手の遠方から光が差し込み、一瞬、目が眩む。光の強さが落ち着いたところで視線を投げてみれば、数百メートル先、ビルとビルの合間──否、それらを薙ぎ倒しながら。

 

 つい先ほど倒した界域主よりも、二、三倍の大きさはある、獅子の怪物が出現していた。

 

 

「……おいおい、まさか『界域主は二体いた』、なんてオチじゃねぇだろうな」

 

 確かにあの学園長からの依頼にしては、あっさりした終幕とは思ったが。

 だからって、こんなおかわりが欲しいなんて、誰も言ってないぞ。

 

「違います──あの獅子は界域の在り方に沿っていません。まさか、誰かがすげ替えた……?」

 

「すげ替え? そんなことできんのか」

 

「界域が完全に現世へ回帰する前に、空席になった主の座へあれを据えたのかと。つまり、まだディアにご褒美は早いということですね!」

 

 マジかよ。これが天罰ってやつか。

 人間、余計な欲をかくとロクな目にあわねぇな……レスティアートがいるだけで俺は満足なんだから、冗談でも軽々なことは口にせざるが良し、ってか。

 

《■■■■■■────!!》

 

 雄叫びをあげる光の獅子。ケルベロスとは異なり、禍々しさはなく神聖だ。だが山のような威容は、人からすれば災害以外の何物でもない。

 途端、獅子は手当たり次第に周囲の建物を破壊、捕食し始める。どんどんそいつを中心に、街の様相が変わっていく──

 

「界域の塗り替え……! させません!」

 

 するとレティが白杖を出し、超長距離の光線を発射する。

 閃光の一条は真っすぐに獅子へと届いたものの、直撃する寸前、パリンとガラスのような何かを壊したような音がし、減衰した光線が獅子を掠った。

 

「防がれた……?」

 

「──危ない危ない。一撃で終わってしまうところでしたわねぇ?」

 

「!?」

 

 声がした。

 不意に──妖艶な響きを帯びた、少女らしき声が。

 

「レティッ!!」

 

 咄嗟に、刃が動いていた。

 レティの死角から影が揺らめいた時、反射でそれを迎撃する。──金属の塊のような一撃だった。打ち払った衝撃だけで後ろへ押され、飛びさがる。

 

「あら、中々のお手前。成りたてだったとはいえ……伊達に界域主を瞬殺してませんのね?」

 

「──誰だ」

 

 前方、二十メートルほど先に、そいつはいた。

 黒い髪。毛先にかけて、緩いロールを描いた髪型。その長さは肩をすぎて肘の辺りまで届いていた。衣装は漆黒の修道服で、どこか喪服じみている。フリル調の傘をさして、鑑賞人形が如く──一人の若い女がそこに佇んでいた。

 

「……?」

 

 傘? おかしい。先ほどの接触とのイメージと合わない。

 確かに金属の凶器じみたものを弾いた気がするんだが……?

 

「お初にお目にかかります──わたくし、『聖召(せいしょう)機関』所属の聖女・ドロティアと申します」

 

 聖召機関……って確か、裏組織のビッグネームの一つ……だったよな?

 若干ながら記憶力に不安はあるが、恐らくそうだ。しかしなんだってこんな所で……

 

「──あれを放ったのは貴方たちですか」

 

 威圧感のある口調でレティが前に出る。

 若干、その周りの空間は歪んでみえた。

 

「ご明察。あちらは我が機関で飼い慣らしている『聖獣』でございます。美しいでしょう?」

 

「美しい……? アレからは精霊の気配がします。それも複数の。精霊を餌に合成を繰り返した、ただの人造兵器ではないんですか?」

 

 ……なんだその存在は。

 精霊を餌にした? 道徳倫理の壁を完全にぶち抜いている。発想からしてイカレているとしか思えない。

 

「人造兵器? それは貴方様も同じでしょう──レスティアート元王女殿下」

 

(……レティのこと知ってんのか、こいつ)

 

 一体どこから情報が洩れたのか。

 気にはなるが今は後回しだ。察するに、向こうの目的は……レティか?

 

「それで私も餌にしようと? 傲慢も極まりますね」

 

「そうでしょうか? 確かにあの聖獣では、貴方を飲み込んだ瞬間に破裂してしまうでしょうが……我々の『聖母』様への供物としては、これ以上とない贄だと思いますわよ」

 

「戯言を──」

 

「レティ」

 

 杖を構え、完全にここでやる気になっている彼女の肩を押さえる。

 

「この女は俺が対処しておく。お前は向こうの奴を片してくれないか?」

 

「む。ディアとこんなのを二人きりにさせろと言うのですか」

 

「戦力配分的には妥当だろ。いや、どうしてもっていうなら俺が行くが……」

 

「ふふふ! 勇敢な方ですのね、破壊精霊の契約者。あちらに向かうのならお気をつけくださいませ? 我が同胞たちが、首を長くしてお待ちしてますから♪」

 

 その言葉にチラと聖獣のいる方を見ると、ビルの上にはちらほらと人影らしきものがあった。

 ……あれ、全部が「聖召機関」の奴らか? それに加えて聖獣の討伐となると……骨が折れそうだな……

 

「がっ、く……それではディアのハーレム状態ではないですか! 許しませんよそんな事ッ!」

 

「そこは孤軍奮闘とか四面楚歌って言うんじゃねぇのかなぁ……」

 

「~~ッ!! わ、かりました……ええ、分かりましたとも! 一秒で片付けてきます!」

 

 瞬間、レティが光線を黒い聖女へ向かって射出した。女がかわした時、レティは既に空中高くへと舞い上がって前線へと移動しており──

 

「──くッ!? 連携がお上手で……!」

 

 俺は一息に黒髪女の懐へと入り込み、一閃を放っていた。

 咄嗟に相手が迎撃し、また衝撃で後ろへと跳ねのけられた。見れば、ようやくその得物を拝見することができた──凶悪にデカい回転鋸だ。マジかこいつ。

 

「どういう変形機構だよ……」

 

 傘から回転鋸に、って。明らかに通常の武器じゃない。つまり契約武装ということであり、こいつもまた何らかの精霊と契約していることを指す。

 

「まったくもって許し難い重罪人ですのね。それほどの才覚に持ち得ながら、あまつさえ王女殿下をたぶらかすとは」

 

「いや、先に襲われたのは俺だし」

 

 つーかぶっ殺されたし。

 

「自己弁護は結構ですのよ。貴方様のような『強者』を、わたくしは許しませんし認めもしません──その陰で、一体どれほどの理不尽を生み、弱者を苦しませてきたのか……罰を下してさしあげましょう」

 

「自分の世界観に浸ってんじゃねぇよクソアマ。歪んでる正義感が一番タチ悪ィっつの」

 

 あの回転鋸と真正面から撃ち合っても弾かれるだけだ。近寄るのはやめ、斬撃を乱雑に飛ばしてみることにした。

 

「信念の無い者らしい口の利き方ですわねぇ。理不尽のなんたるかも知らず、弱者を顧みず、利己的に生きてきた浅ましさが透けますわよッ!」

 

 すると回転鋸の刃が稼働し、一撃を振るわれた途端、斬撃は塵屑のようになってかき消された。

 通常の斬撃は通じない、か。なら──

 

「浅いのはそっちの観察眼だと思うが……、なッ!」

 

「!!」

 

 真紅の斬撃を振り放つ。

 界域主さえ断ち斬る一閃。これをどう対処してみせる──?

 

「わたくしに『必殺』は通じません──!」

 

「何──?」

 

 斬撃が女に当たった瞬間、真紅の色は弾けて消えた。

 今のは……加護か? どういう条件で発動した?

 

「さぁ、さぁ、さぁ──死んでくださいまし? 聖処女に男は不要。リア充、死すべし!」

 

「口上にしては俗すぎないか!?」

 

「社訓ですのでッ!」

 

 マジかよ聖召機関。ドン引きだわ。

 まぁ回転鋸をブン回してくる女とか怖すぎるしな。好きな奴は好きかもしれないが……、

 

「くおっ……!」

 

 なんとか攻撃の軌道を逸らすものの、すぐさま次の攻撃がきて後退を余儀なくされる。

 あの鋸の回転に刃が巻き込まれたら武器を持ってかれる。どんな怪力してんだこの女ッ!

 

 とにかく、一合、二合、三合──と、撃ち合いながらも俺はとにかく後ろへ下がるしかない。フェイントもかけて隙を作ろうとはしているが、こいつ対人戦に慣れてやがる。完全に殺し屋系のなんかだ。こんなのが聖女であってたまるものか。

 

「キッ、ハハ!!」

 

 残虐な笑みを浮かべ、狂声混じりの笑い声を上げながら追ってくる回転鋸女。

 ……こいつを見てると、回転鋸を武器にしてくるヤンデレって図が浮かんでくる。つーかさっき、チラッと回転鋸の刃に血のような赤が見えた。絶対にヤベー奴だろこれ!!

 

 しかし一番警戒すべきは──どこで精霊の力を振るってくるか、だ。

 契約武装でしか刃を交えていない今、そしてそれが拮抗している現在、後は決め手となる札を切られる瞬間が、俺にとってこの場を打破するチャンスとなる。

 

「……ッ、あの獅子──聖獣ってのはなんなんだ!?」

 

「あちらは長らくわたくしたちの手でお世話してきた傑作の一つですのよ──界域主、十体ぶんの純度を保証しましょうっ!」

 

「じゅっ──」

 

 十体ぶん?

 なんだそのチート野郎、聞いてねぇぞ。

 それを知っていれば、みすみすレティに任せたりなどしなかったものを──

 

 

()()()()()()()

 

 

 その時、だった。

 一度俺たちは大きくまた撃ち合い、距離をあけて止まる。

 界域全土に伝わるような──震わすような、大きな力の奔流を感じたからだ。

 

『純度を高めた? 精霊を餌にした? 時間をかけて育てた? そうですか。無駄な努力をしたんですね。ご愁傷様です──』

 

 それは念話で伝わってきた、愛しい声の冷めた声音。

 俺ですらそのプレッシャーにぞくりとする。レスティアートの発する新たな声色だ! 罵倒されたい気持ちすらちょっとわいてくる──いや、これは我ながら気持ち悪いな!

 

『この程度で私に対抗できるなどと、随分と思い上がりましたね。……傲慢ですよ、人間』

 

 最後にかけては、慈悲すら感じさせる優しい響きだった。

 或いは、俺としては──寂しそうに聞こえたが。

 

「…………冗談でしょう?」

 

 回転鋸を振り回していた女の目は、光の獅子がいた方角へと向いている。

 獅子は……止まっていた。ピタリと、空を仰ぐように。首を絞められ、呻くように。

 ともあれ結論、というより結果を言ってしまうと──

 

 ()()()、と。

 

 次の瞬間、獅子の聖獣は淡い黄金の光に包まれて、あっさりと消滅した。

 

 

 ……消滅した。

 跡形もなく。なんのドラマもなく。見せ場もなにもなく。マジで本当に、消えた。

 まるで大がかりな手品を見たような気分だ。巨大豪華客船の消失マジックじみていた。大規模な破壊現象ではなく、穏やかな消失であったから特に。

 

「……」

 

 俺もレティを精霊としてより、恋人として猫可愛がりする日々を送っていた弊害で、その実力を見誤っていた節がある。無意識に過小評価していたと認めざるを得ない。この状況においては。

 

 だが考えてもみろ。

 地図どころか補給も無しに十年間を界域で過ごし続け、ひたすら魔獣を討伐していた彼女が。

 今さら──界域主の一つや二つ、十や二百、出てきたところで、それは果たして敵に値するのか。

 

「……まったく、化物が過ぎますわね。これが伝説の大精霊の力……ということでしょうか」

 

「次にあいつを化物呼ばわりしたらぶっ殺すが……詰みじゃねぇのか、自称聖女? それともまだ切り札があんのか?」

 

「いいえ? 詰むのは貴方様の方ですし」

 

 にこり、とたおやかに微笑んだ途端──こちらに飛び込み、再び回転鋸を振ってくる。それを、怪訝に思いながらも俺は同じように弾き飛ばした。

 諦めが悪いのも考えものだ。レティの気配は、もうとんでもない勢いで此方に向かってきている。このまま俺に勝てたとしても、こいつは──

 

 ……こいつは。

 一体、何が目的なんだ?

 

「お前、何を狙って────え?」

 

 一撃を弾きながら、俺は思いっきり聖女野郎に飛ばされて──飛ばされた。

 そこで終わりだった。追撃はない。

 レスティアートの介入があったわけではない。俺が反撃に動いたわけでもない。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「あ」

 

 起こったことは実にシンプル。故に最大の間抜け。

 俺が飛ばされた先、そこは──大穴だった。

 

 地獄犬ことケルベロスが這って、出てきた、巨大な(うろ)の中だった。

 

「て────テメェエエエエエ──ッ!!」

 

 落下は止まらない。

 人間では羽ばたけない。

 空を蓋にしたような穴が、指先よりも小さくなっていく。

 

 人は死んだら地獄に落ちる。

 一度は死んでいるのにも関わらず、そんな仮説を笑えない絶望に苛まれながら──俺は深い深い異界の穴の底へと落ちていった。

 

 

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