いつもテンプレみたいな感謝しか書けないのが申し訳なくもあるんですが、投稿してる以上、反応があるととても嬉しいのです。なのでこれからも似たような文になります。ありがとうございます。
『──沙汰は追って連絡するよ。君はせいぜい、その危ない精霊ちゃんを捕まえておくようにね!』
「了解」
ピッ、とそんなところで学園長との通話を切り上げる。
あれからマンションに無事帰宅。観測局の役員がすっ飛んできて事情聴取を受けたり、良夜は家の人に連行されていったり、界域のルート入手に学友野郎の名前を出したら一発で解放されたり、諸々あったが俺たちはひとまず無事の帰宅を許された。
俺たちは俺たちの問題を解決しなきゃならん。
「とりあえず家でおとなしくしてろってよ。俺は夕飯作るわ」
「あっ……は、はい……では私もお手伝いを──」
「座ってろ」
「…………はい」
しゅん、となってとぼとぼとリビングに引っ込んでいく白いロリ。制服姿の哀愁漂う背中である。
が、今回という今回はキッチリ言っておかねばならないだろう。ガツンとそう、一発。レティに基本甘い俺だけれども、怒る時はあるのだということを、この機会に知らしめるべきだ。
反省を促す。
距離を取るのはそういう理由。
「い……いただきます」
「……」
出来上がった夕飯を前にレティは食前の挨拶をするが、俺は黙ってスルー。何も言わずに食事を開始する。
……ちらり、と視線を向けてみれば、ぷるぷると涙目になっていた。それでも行儀よく肉じゃがを食べている。……うん、ちょっと罪悪感がなくもないが、反省の時間は続行する。
夕飯を食べ終わり、さっと食器を取り上げて洗って完了。
ソファに座って置物状態になっている彼女をやはり無視して、風呂場に向かう。
「じゃ、俺先に入るから」
「……わ、私も──」
「座ってろ」
「……ハイ」
そろそろレティが作画崩壊……いや、ちょっと人の原型が怪しくなっていたが、スルースルー。
そう、今回ばかりは俺も心を鬼にする。今回のような件を起こしたら「こうなる」のだと学習させなければならない。なぁなぁで終わらせてはいけない……のだ!
「…………ん?」
風呂から上がって着替えると、リビングに彼女の姿がなかった。
すわ逃亡か! などと思ったが、家ん中に気配があるので普通に向かってみた。俺の部屋だ。
何してるんだか、とガチャッとドアを開けて──
「すんすんすんすん……すー……はー……」
恥もへったくれもねぇ変態がそこにはいた。洗濯機に投げたはずの俺のシャツを手にベッドでゴロゴロしている、十六歳姿のレスティアートだった。
「…………押し倒すぞお前…………」
「ひょっ!?」
びくー!! と毛玉みたいに白い少女が跳ね上がった。座り込んだところに近づくと、アワアワとその視線が渦を描く。
「あ、わ、ディ、キ、こ、ここここれはその……っ!?」
「────、」
色々と言いたいことをつぐんで、やんわりと小さい肩を押してみる。
ぽてっ、とあっさりとその身体は倒れ、純白の
細い首。細い手足。此方を見上げる蒼玉の瞳。赤みを帯びた頬に、瑞々しく震える桜色の唇。
……もう幾度となく目にしているその美しい造形に、釘付けになる。
情けないことに、見惚れてしまってどうにかなりそうだ。
「……?」
ぎゅ、とそこでレティが目を瞑ってしまった。どことなく、なにか覚悟を決めたような面持ちで。
……あー、うん。そりゃあ
期待に応えたくはあるが、しかし。
今の俺は鬼畜モード。悪い子にやるものは何もありません。
そう思いながら離れようとしたところで、
『ちゅー! これは間違いなくそういう空気ですね!? ですよね!? わー! ちゅーです! わー!!』
「………………ぉ」
お前な。
お前なぁ!!
なんでそうやって期待してる様を念話で伝えちゃうんだよテンション高すぎだろ、っつかどんだけキス好きなんだよ無邪気か可愛いかッ! 鬼の心が砂糖漬けになっちまうでしょうが!!
「……チッ」
「!?」
動揺の気配。素で舌打ちが出てしまった。
が──もう冷静な判断なんぞできやしないので、そのままダイブした。柔い唇に噛みつき、その感触を欲しいままにする。
「んっ……ちゅむ……ん、んんむぅぅう~……!?」
「っ……──」
……息が苦しくなってきたところで顔を離す。
さすがにこれ以上は理性が危うくなる。呼吸を整え、落ち着いてから立ち上がり、まだ腰砕けになっている彼女の首ねっこを掴み上げた。
「ふぇっ……も、もうちょっと……」
「風呂入れ。あと持ってるモンは洗濯機に入れなさい」
「そんなー!?」
有無を言わさず、そのまま部屋を出て風呂場へと放り投げた。着替え一式は用意しといたから問題あるまい。さっさとその場を後にする。
まったく──恋人にしたってとんでもない奴だ。漫画でありそうなことを本当にやる奴がいてどうする。いやまったく可愛いな。まったく。あーもう、ほんとありえねぇぐらい可愛い。
「あ゛ー……クッソォ…………」
ダメだ。どう足掻いても思考がベタ惚れ状態だ。
リビングまで戻ってきたところで、がっくりとしゃがみ込み頭を抱える。
反省を促す時間、予定より早く終わりそうだった。
◆
「髪は」
「乾かしました!」
「服は」
「着替えました!」
「風呂の湯は」
「……忘れました」
ネグリジェ少女、Uターン。
風呂桶の栓の抜き忘れ。生活のあるあるである。
さて、後はレティが戻ってきたら、改めて話を────の前に。
電話が来た。
『もしもしー。もしもしー? 刈間さんのご自宅でしょうか?』
「なんだその口調。なんか用か、良夜」
珍しい奴からの着信だった。
や、今日に限っては当然の相手といえるか……巻き込んだ形で、随分と世話になってしまったしな。
『あ、あはは。いやぁ恥ずかしい。出るなら出るって言ってよ、斬世~。そっち、大丈夫? なんか色々と大変そうだったけど……』
「審議待ち、ってところだ。今日は色々と……助かった。礼を言わせてくれよ」
『そ、そうかな? そこまで大したことやった気がしてないんだけど……』
「お前と
──あの後。
大精霊が顕現した影響なのか、界域は不安定になり、俺たちはまず脱出を与儀なくされた。そこでレティが城の脱出口を、まぁ派手に作って、そこから良夜に見つけてもらって再び竜に乗り、現世へと帰還──したのだった。
『でも、ビックリしたよ。詠唱したら斬世は消えちゃうし、合流したレティちゃんはなんか別の服着てるし。あの時は詳しく聞けなかったけど、アレが真の姿ってやつ?』
「ん……まぁ、な」
ギリギリ、良夜はレスティアートの十六歳姿を見ていない──合流する直前、慌ててロリに戻したのだ。ああ、そうだよ俺の独占欲だよまだあっちのバージョンは俺だけが知っていたいんだよ!
『ふーん? 一体どんな相手と戦ってたの?』
「筆舌に尽くしがたい変態」
『ええ……』
「知らない方がいいぜ、あんなの。最終的にも自業自得の末路だったしな……」
奴が死んだのか、それよりもおぞましい目に遭ったのかは、俺の知るところではない。
奴への感想は、そうだな。──二度と会いたくない。以上である。
「そういや、良夜。前に公園で妙な子供に会ってたよな。あの時ってなに話してたんだ?」
『え? えーっと……ああ、あの朝のね! え~と、なんだったかな……そうだ、なんか夢とか訊かれたんだよね。「欲しいものはない?」みたいな』
「──、それ、なんて答えたんだ……?」
あの精霊の本性を知った今、良夜にはどんな干渉をされているのか分かったものではない。
やや緊張しながらの俺の問いに、良夜は──
『「迷子なの?」って訊き返したよ』
「……は?」
『え、だってよく分からないじゃん。いきなり夢とか訊かれたって。周りに親御さんもいないみたいだったしさー』
「…………お前、やっぱすげぇな」
善性が。
お人好しスキルだけで、絶体絶命のピンチを神回避してやがる。
『けど本当に叶えたい願いって、なんかこう、他人に言ったら負けな気がしない?』
「負け、ねぇ」
だったらあるんだろうか。
こいつには、そういう願いが。
『でもちょっと前まではあったんだよ! 欲しいもの、叶えたいもの!』
「何だよそりゃあ」
『そんなの、可愛い彼女に決まってるじゃん?』
……なるほど。
そりゃあ、あの日の良夜に訊いても仕方のない質問だろう。あの朝のあいつは、その可愛い彼女を待っていたのだから。
『あ、ゴメン。そろそろ通話料が……』
「金はあるだろ、御曹司……」
『毎日いっぱい話すんだよぉー! じゃね!』
プツッ、とそこで通話は切れた。
友人の多い奴は苦労してそうだ……と思ったが、いや違うか、と思い直す。
そりゃあ付き合いたてなら長電話もするか。
「……たのし気、ですねー……?」
「っ!?」
なにやら圧を感じた。高気圧だ。いや違うが、ニュアンスをわかってほしい。
ソファに座ったまま首を動かしてみると、じとー……っとした目をこっちに向けるレスティアートが立っていた。明らかな不機嫌顔だが、本来の姿でのソレは随分と新鮮にみえる。
普段の俺なら臆するところかもしれんが、今の俺はそうはいかない。
「……今回のあいつは間違いなく恩人だろ?」
「そうですけど……感謝はしますけれども……」
見境のない嫉妬心には痺れるが、俺のなけなしの塩対応も、そろそろ彼女の我慢のしきい値を超えてきたらしい。反撃される前に先手を打たなければ。
「あー、お前の部屋にあった俺の服は全部没収だからな」
「えっ!? そんなぁ!?」
残念そうな声をあげるな。
ハッとなっても遅い。目を泳がせても意味ない。つーかビビッたのは俺だよ。なんでお前の部屋にあんなに俺の衣類があったんだよ。いつ盗んだんだマジで!
「つーわけで、レティ。お前は重罪を犯した。自覚はあるか?」
「あっ……は、はい……」
「一つ、俺の服の窃盗。二つ、俺を二日も放置したこと。三つ、俺を置いて界域に突貫したこと。四つ、俺以外の男を追いかけたこと。五つ、俺を巻き込まなかったこと。六つ、俺を無視しようとしたこと。七つ、俺以外の人間に手を出したこと。八つ、俺が奴と協力する羽目になる状況を作ったこと。九つ、一人で全部片付けようとしたこと。十、自分で髪を乾かしたこと──」
「ちょ……ちょっと待ってください!? いくつか重複してませんか!? というか十個めは!?」
「いや……俺が乾かしたかったんだが……」
レティの髪に合法的に触れる貴重なチャンスの一つなんだぞ、ドライヤーイベントは。
嘆かわしい……実に嘆かわしい。レスティアート、なんて残酷なことをするんだ。
「ま、俺からはそんなところだ。関係各所はあちこちバタバタしてるそうだが、そもそもお前が突っ走ることになったのは元々、俺がヘマしたのが原因だ。……悪かった」
「なッ……ち、違います! あんなの、ディアは全然悪くありません! 私がもっと警戒していれば……それに、相手だって……!」
「──そうだな。俺も未熟だったが相手も上手だった。つか、あんだけ人数引き連れて、高校生一人を出し抜けないってのは在り得ないしな。この反省は次に活かそう」
「えっ。あ……は、はい?」
あの黒い聖女には要警戒だ。
恐るべし邪精霊。例の毒電流は正直、もう二度と食らいたくない。
「──で本題だが。前述した十の罪、反省はしてるかレティ?」
「もっ……もちろん。もちろんです。……勝手に暴走しました。すみません……」
「そんな謝罪の言葉一つで許されると思ってんのか?」
「で、では今後、同じことが起きないように努める……とか?」
「全然分かってねぇな。事の本質を捉えられてるのか、お前?」
「こ、事の本質っ?」
レティの目が点になる。
まったく、これだからお姫様は。大事な出来事が意識の外だ。
「お前がそれらの罪を犯してる間、俺の心情はどうだったと思う?」
「……!」
嫉妬──では済まされない。
怒っていたと、端的に言い表すこともできそうにない。
「──いやホント、殺してやろうかと思ったぜ。よく泣いて謝罪すれば水に流せると思ったな?」
「や、そ……それは……」
にっこりと俺は笑う。
我ながら、爽やかに笑えていると思う。こんなに清々しいまでの殺意を抱いたのは久しぶりかもしれない。
にこやかにもなる。
「あ、あの……わ、私、ちょっと急務を思い出したのでこれで──」
くるり、とレティが踵を返して撤退しようとする。
歴戦の彼女がこのような態度を見せるとは中々珍しいといえるだろう。だが。
「駄目だ。逃がすか」
「っ……!!」
距離を詰め、後ろから腕を回して強く抱き締める。
きゅ、と喉からヘンな声を出してレティが固まる。細い体躯は、少し震えている。
「……なぁレティ。お前、どこかで俺を見くびってねぇか?」
「そ、そそそんな……まさか……」
「所詮は人間だから、とか。庶民だから、とかな。だから俺を怒らせたところで? まあ? 『ディアは私に甘いからどうとでもなるでしょう』、とか思ってたり……」
「お、オオ、思ってマセン、ヨ?」
抱き締める力を強める。ますます彼女の身は固くなる。
震える様は、大精霊とは到底思えない。まるで小動物のようだ。
その様が、なんともまぁ──愛らしい。
「確かに俺はお前が大事だぜレスティアート。愛してるし守りたいとも思う。だが同じくらい、傷つけたいとかぐちゃぐちゃにしてやりてぇ、って気持ちも──なくはないんだな、これが」
「な……なくは、な……? ど、ど、どういう意味ですか……」
「独占欲ってのは態度で示さなくちゃなァ、やっぱり。
「な、なんか、ディア、いつものディアじゃない気がしますっ!? こうあつてきな感じがします!?」
「でも仕方ねぇだろ? 真っ当な異性との関わり方なんて知らなかったんだ。お前に怯えられたりするのが……怖かったんだよ」
他の連中からはどう思われようと知らないが、彼女だけには。
カッコつけたり、堂々としてたり、余裕があったり──そういう
もちろん、世話を焼くのが嫌なわけじゃない。始めた趣味は本気のものだ。なのでこれは態度の話。
相手に合わせて、足並み揃えて、可愛がる。求められた時は応えて、それ以外は積極的に求めない。──なんてそれは、受動的が過ぎる。そんなの相手を信用してないのと同義だった。恋人を前にヘタレてどうする。気遣い? それこそ自分を正当化しようとしたがる建前だろう。
「いや勘違いさせてたみたいで悪かったな。猫被りしてたのはお前だけじゃないんだ。カッコつけて、良い恋人やって、理想の男だって思い込ませてたみたいで」
「ディ、ディアは……カッコイイ、デスヨ?」
「その価値観はどうにかした方がいいなレティ。恋人を抱き潰そうとしてる男なんて獣だぜ?」
「ッッ……!?!?」
じた、ばた、とレティが逃れるように身動きする。
が──逃がさない。絶対に逃がさない。
小枝のような細い手に、指を蛇のように絡ませ、回したままの片腕はしっかりと柔い腹を押さえ、小さい背丈にこちらの身体を被せて檻のように閉じ込める。
「お、お見逃しを……」
「駄目」
「手心など!」
「駄ー目」
「じ、慈悲を……!」
「駄目♡」
「~~ッ!!」
耳元で囁いてみたところでレティが脱力した。預けられた体重を抱えつつ、俺は続ける。
「よく考えてもみろ。二日。二日も離れてたんだぞお前。供給不足にも程があるだろ」
「そ、それは……っわたしも、そうですけど……でも、そのぉっ! こ、こういう流れはえっちな気がします! なにかいけない気がしますッ……!!」
「水着で迫ってきた奴が何を偉そうに……」
「あれは戦略的手段です!!」
「力説するな。いいから諦めろ」
ひょいと抱きかかえてみると、白い花嫁は顔を真っ赤にしていた。うーん、可愛い。
「これはなんなのですか! ディアの新たなさくりゃくなのですかっ!」
「……いやお前、逃げようと思えばできるし、そもそも勝手に実体化解けるだろ……」
「…………」
あ、黙った。
つまりそれを「しない」ということは意志表明はされているワケで、ぐえっ。いきなり首に抱き着いてくるんじゃない。
「……いいんだな?」
「き、きかないで……」
「なら鉄板の台詞で恐縮だが……浮気者にはお仕置き、ってな?」
「あー! あー!! ひどいことされます! きゃ~~!」
「言ってろ。その余裕がいつまで続くか見物だな……!!」
──とまぁ、俺も若干変なテンションになりつつも。
その後の顛末はお察しの通り。寝室にて、俺たちに相応しい一夜を明かしたのだった。