境界剣士の最愛精霊《レスティアート》   作:時杜 境

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72 8月10日、回想と召喚

「祭壇これでいいか?」

 

「ああ、代用としての機能があれば問題ない。後は向こうが応えてくれるかだが……」

 

 八月十日、早朝午前七時すぎ。

 時永市の拠点、その一室はオカルト部屋そのものになっていた。

 床にチョークで描かれた魔法陣。

 俺がガタガタと動かして周りに良い感じに配置した机群。

 そしてその中央の机に、榊がごとりと置いた、掌より少し大きいぐらいの()()

 

 これで壁や天井から布が垂れ下がっていたら完全にオカルト研だったが、生憎とそこまで飾り付けする余裕はない。

 

「当日になって一か八か、か……」

 

「だがやるしかあるまい。こんな才能でいいなら役立たせてもらうさ」

 

 よくもまあ、そんなに謙遜できるもんだ。

 文字通り、今日の榊には──世界の未来がかかっているというのに。

 

「しかし存外、ここまで足掻けるものだな。あの触媒、どうやって手に入れてきたんだ?」

 

 そう言って榊が目を向けるのは机上にある一品。

 台座に刺さるように突き立つ、十字形のオブジェ。それはつい昨日、思わぬ幸運から借り受けたものだった。

 

「厚意……親切……いや、『縁があった』ってのが正しいかもな。世界が窮地になると、意外と色んな奴が協力してくれるもんらしい」

 

 これから思い出すのはちょっとした前日譚。

 決戦日になりうる今日を乗り越えんと足掻いた、昨日の記録である。

 

 

     ◆

 

 

 八月九日。

 境黎市へ戻り、日下部が入院したという病院の受付で聞いたのは、耳を疑う事実だった。

 

「退院!?」

 

「はい。二時間ほど前に、日下部草紀さんは当院から退院されています。保護者の方がいらっしゃって……()()という人でしたね」

 

「ッ……!」

 

 流石に顔が引きつった。

 村雨式実。今日だけでよく名前を聞く女だ。会ってもいないのに、なんだか全ての物事の中心にいるような気さえしてくる。

 

 二時間前といったら、俺と獅子月の精霊たちが廃墟で出くわしていた頃か。

 後手に回っている。村雨の拠点らしき場所は獅子月たちの情報を元に探ったようだが、そこにいたのは異様な生物だったと聞く。拠点を出た村雨はまず、日下部を回収してどこかへと消え去ったと考えるのが妥当だろう。

 

「──榊」

 

『ああ、聞こえている』

 

 左耳の通信機から応答する声がある。

 隣町の拠点、その通信室にいるだろう榊だ。

 

『今、近場の監視カメラにアクセス中だ。……あった。確かに日下部と歩いているな。だが……彼の動きは虚ろだ。精神を操られている可能性が高いか……チッ、途中までしか映っていないな』

 

「村雨の写真を寄越せ」

 

 病院を出てほどなくして、携帯のグループに村雨式実の顔写真が送られてくる。

 地味な色合いの女だ。黒髪ストレートに黒い瞳。三十歳前の年ごろにみえる。

 

『推定年齢二十八歳。経歴は…………無い』

 

「無い?」

 

『白紙だ。観測局のデータベースには登録されていないのか……? 戸籍を持っていないか、消去したのかもしれないな……』

 

「往石の手記には?」

 

『観測局から今あがっている情報で、助手に関する記述は……十五年前の日付が最後だな。「聖女の中から助手を雇い入れた」、とある。村雨式実は機関の人間で間違いなさそうだ』

 

 ここで聖召機関が出てくるか……

 庭園が表立って動く裏で、連中が動く。手記が正しければ、明日のアストラル降臨儀式を目論んでるのも聖女長という話だ。

 

「……連携してる気配がするな。庭園と聖女で組んだのか?」

 

『その可能性はあるだろうな。聖召機関の拠点跡に行った獅子月一向を始末するため、庭園が刺客を差し向けた……むしろこれは、“始末するために”「そこに向かわせた」という見方もできる』

 

 獅子月の力を削ぐため、庭園に協力を仰ぐ……

 聖女側としても庭園としても、それは獅子月という障害の一つを取り払うメリットになる。それなら、

 

「なら……聖女が日下部を持っていくことに何の意味がある?」

 

『順当に考えれば人質、か。或いはお前の懸念通り、「やり直し」をする要因として連れて行ったか、だな。アストラル召喚は失敗する可能性がある……?』

 

「──もし私なら、クサカベさんを庭園に引き渡しますね。自分たちの陣営の儀式を邪魔されないよう、協力関係を強固にするために」

 

 隣からレティがそう述べる。

 両組織の取引材料……それに日下部が使われた?

 

「庭園は精霊を違法に研究する組織だと聞きます。アストラル召喚にせよクサカベさんにせよ、彼らは聖女たちに少し助力するだけで研究データが得られる。こちらへの陽動がそれかもしれません」

 

『盤石の構えだな。一方、こっちにあるのは「明日」という情報だけだ。奴らはもう、潜んでいるだけで作戦を完了できる段階にある』

 

 なるほど、ほぼ詰んでいる。

 ならここから逆転できそうな手は──

 

「……聖女たちの拠点、割り出せねぇか? なんとかして」

 

『そうしたいのは山々だが難しいな。庭園も聖女も、おそらく拠点は界域深くだろう。観測局の全ての観測機を拠点の割り出しに使っても、そうなると現世の防衛が甘くなる。魔獣たちの侵入を許すなど本末転倒だ』

 

「その前に世界が滅びるのとどっちが大事だ?」

 

『現実的な話……手記のたった一文を信じて動くというのもリスクが大きい。上層部が素直に首を縦に振るか、だな』

 

 ……か細い。

 あまりにも希望の線が細すぎる。

 せめて敵の位置さえ分かれば……

 

「…………榊お前、適当に召喚したらなんか引き当てられないか?」

 

『無茶を言うな!? オレの残高(ライフ)に余裕はないぞ!?』

 

「金なら俺が出す。界域周回でアホみたいに稼いでるからな。(ラック)(マネー)で物を言わす。──どうだ?」

 

「ふむ……発想自体はアリかもしれません。しかしいきなり闇に突っ込むのは無謀です。観測局のデータベースに、使えそうな精霊のデータはありませんか?」

 

『すぐ調べる! っていうか、ええい、いいのか! ガチャで世界を救うなど!』

 

「そういうソシャゲは今時たくさんあるだろ」

 

 リアルでやるというのが異質感あるだけで。

 

『レーダー役……となると、フィールドに干渉できる高位精霊か? いるかそんな奴……?』

 

 カタカタカタ、としばしタイピングの音がする。

 ──やがて、むっ、と声がした。

 

『界域戦において猛威を振るった精霊……相手の位置を特定し、数千キロ先の霊力まで探知……だと?』

 

「いたのかよ」

 

『だがそう簡単な話ではないぞ……まずこいつは、正規の召喚精霊じゃない。()()()()()()()()()()()()()だ』

 

「人造? でっちあげの伝承で成立とか、そういう系統か?」

 

『逆だ。既に浸透している伝承から逆算し、対応する精霊を成立させた……という実験があったらしい。こいつの場合はヴァンパイア……吸血鬼だ』

 

「キュウケツキ?」

 

 ってなに?

 

「血を吸う鬼、と書く分類ですね。元は民間伝承に伝わる存在でしたが、多くの媒体で題材にされることにより知名度を得たという……それでもマイナーな精霊だと思いますが」

 

『まぁ民間伝承は二年生からの範囲だからな。漫画や精霊士と縁遠い生活を送っていたのなら知らないのは無理もない』

 

「漫画かぁ……偶に道端に落ちてんのを拾って読んでたなー……」

 

 あの絵で展開される物語が全て人間の手で描かれたもの、と知った時の衝撃たるや。

 だって絶対にそういう系の精霊が描いたもんだと思ってたし。

 

『で、その吸血鬼はまず普通に召喚できるものではない。人造的な経緯とはいえ、精霊は精霊だ。実験後、そいつは幽世へ退去し、以降は特殊な触媒がないと召喚できなくなったようだ』

 

「触媒?」

 

『伝承を逆算成立させるにあたり、核となったものだな。その触媒も専門の家系が厳重に管理している。──如月家によってな』

 

 

     ◆

 

 

「でっか……」

 

「これが当世の権力者が好む建築なんですね……?」

 

 ──数十分後、俺とレティはとあるビルの正面にいた。

 塀には「如月家」の表札。その奥にそびえるビルは世話になっているマンションよりも高く、ぶっちゃけ頂上が見えねぇ。個人の邸宅とは思えない……つーか半分会社になってんのかコレ?

 

『悪いが、如月家の敷地までは通信が届かない。その家のセキュリティは、間に合わせの機材では越えられん』

 

「了解。まぁ吉報を待っとけ」

 

 通信機を耳から外してズボンのポッケに仕舞いこむ。

 ……さらっと聞き流してしまったが、どんなセキュリティ強度してんだ如月家は。ジャミングでも張ってんのか。

 

「警備員……的なもんはいないのか?」

 

「いえ、精霊がいますね。ちょっと私と視覚共有してみましょうか」

 

 瞬間、視界に薄青いフィルターがかかったようになる。

 レスティアートの視覚──幻眼によって見える世界。そこには、

 

『グルルルルル……』

 

 ──ビルの前に鎮座する、赤い竜が一体存在していた。

 十メートルくらいのサイズだが、人間への脅威には十分な大きさだろう。

 獰猛な目つきのソレは、しかし此方を睨みながらも怯えているようにも見える──主にレティを見て、だが。

 

「別に襲撃しに来たわけではないので、通ってもよろしいですか?」

 

『……』

 

 レッドドラゴンが軽く首を振り、道を空けるように端へと移動した。

 そこでフッと視界から青さが消え、元の視界に戻る。そこにはもうドラゴンの姿なんか一ミリもいやしなかった。

 

「いいみたいですね! 行きましょうか!」

 

 レティの王族メンタリティを感じる。今の、たぶん脅迫のラインにちょっと踏み込んでたやり取りじゃなかったか?

 

(……破壊精霊、か)

 

 思っていたよりも世界は彼女のことを、「可愛い女の子」として見てはいないらしい。

 レティを独占していたい俺でも、それは少し悲しい事実だった。

 

 

 自動ドアをくぐってビルに入ると受付が見えた。

 やはり個人邸宅というより会社の雰囲気が近いようだ。ひとまず受付まで行くと、

 

「良夜様のご友人、刈間斬世様とその契約精霊様ですね」

 

 スーツの女性が話しかける前にそう言った。

 レティと思わず顔を見合わせる。

 

「その通りだが……別に良夜に用があって来たわけじゃない。ていうかあいつ、いるのか?」

 

「いえ、御子息様はプライベートでいらっしゃいません」

 

 だよな。知ってる。

 七月の件でこの街がキナ臭くなってきたからか、良夜は遠出に出されている。架鈴と一緒の小旅行、という名目で。

 本人たちは「親が勝手に決めた旅行」、みたいな認識だろう。俺としても世界危機の時に、良夜たちがこの街を離れているのは有難い事実だ。巻き込まれる知り合いは少ない方がいい。

 

「あー……ここじゃ話しにくい用件なんだが──」

 

 率直に「触媒」について訊いていいものか迷いつつ、言葉を続けようとした時。

 

「──おや? ここで会うとは、珍しい客人だね」

 

 知っている声がした。

 いや知っているというより──懐かしい声が。

 

 さっと左を見ると、そこには一人の人間。

 帽子から靴まで白統一の服装。中折れ帽、スーツ、I字の杖、革靴。やや白髪の入った髪で四十代くらいの、()()()()()()。彼の名は──

 

「如月……悠楼(ゆうろう)

 

「港で会った時以来になるね? もっとも、あの仕事は私の力不足で失敗に終わってしまったが」

 

 その黒い瞳がレティの方へ向く。

 

「お久しぶりです、殿下」

 

「……畏まる必要はありません。今の私に皇位はありませんから。ですが、確かに──数か月ぶりですね、如月隊長」

 

 レティとも顔見知り……なのは別に不思議なことじゃない。

 俺が彼女に「ぶっ殺された」後、病院への手配までしてくれたのは、目の前にいる男だと聞いている。その時、レティとも多少は言葉を交わしたんだろう。

 

「此度は当家にどのようなご用件で? 生憎、当主は会議で留守にしているから、今この場で話を聞ける上の者は私くらいしかいないが……」

 

「……ならアンタでいい。この家が管理してるモノについて、話があってな」

 

 ほう? と如月悠楼が声をあげる。

 知り合い……ではあるが、相変わらず距離が計れない。なんというか、二度目だから掴める印象としては、まるで空白が具現したような人物だ。

 

 俺たちの始まりの日にいた一人。

 まったく失念していたのが奇妙なくらい、不思議な再会だった。

 

 

     ◆

 

 

 時間軸:現在。

 八月十日の時永市拠点。

 召喚部屋で聞き手になっていた榊が小首を傾げる。

 

「……ん? 待て待て、なぜそこで話を止める。その後の取引などはどうした」

 

「いや……俺たち的に印象が強かったのはそこまでで、その後は……」

 

 言葉を引き継ぐようにレティが続ける。

 

「──サクサクと話が進みました。あらかた事情を話すと、如月氏の電話一本で触媒の持ち出しまで許可が出てしまったようで」

 

「なんだそのデタラメは!? おい、タダより高いものはないぞ!?」

 

「別にあちらさんとしては、タダってわけじゃなさそうだったが……」

 

 異様な話の理解力にそのまま押し流されてしまったというか……如月悠楼の言によれば、

 

「『護衛任務の埋め合わせにでもなれば』……だとよ。裏がありそうでなさそうなラインだよな」

 

「でもヨシヤさんの叔父にあたる方だといいますし……それに如月家の私設部隊の隊長を任されているほどの人です、仕事人という観点では筋の通る理屈ではありますね」

 

「部外者なオレが一番怖い! 金持ちの考えることが分からん!」

 

 そこは俺も同意見。

 人間、屈託のない善意ほど怪しんでしまうのは皮肉なもんだ。

 

「よーっす。皆ここにいたん──ってなにこの部屋? 召喚室?」

 

 その時ドアが開いて栄紗の奴が入ってきた。

 後ろから黄泉坂も顔を出す。

 

「あ、噂のアレだ! この魔法陣、描いたの!? すごーい!」

 

「なんだその反応……学園にもちょくちょくあるだろ」

 

「ん!? 十字()だ! なんで!?」

 

「聞けよ」

 

「目に入るもの全てに飛びつく子供か?」

 

 俺と榊二人がかりのツッコミも意に介さず、しげしげと触媒に近付いて見つめる黄泉坂。

 相変わらず台風みたいな奴だな。能天気の権化か。

 

「サカキさんの召喚適性を軸にした、聖女たちの拠点割り出し作戦ですよ。上手くいけば、彼女たちの居所が分かるかもしれません」

 

「チャットで聞いてはいたけど、ここまで準備が整ってるとはね……私たちの方は実質収穫ゼロ。人員は用意できるけど、どうやっても召喚が起きないことには動けないみたい」

 

「アストラルの気配が現出するまでは行動不能か。後手に回らざるを得ない状況だな──この召喚作戦以外は」

 

「頼むぜ榊。……てか吸血鬼と契約する間、今の精霊との契約はどうなるんだ?」

 

「既に手は打ってある。──あれだ」

 

 榊が視線を投げたのは、部屋の片隅に置いてある石碑だった。

 傘立てのスタンドくらいの大きさがある。そこからは精霊──氷狼の気配を感じた。

 

「『契約碑』というアイテムでな。使い捨てかつ、たいへん高価な! 高価な代物だが、一日限定で精霊一体の契約を保持しておくことができる。無論経費で落としたが問題あるまい?」

 

 領収書を人差し指と中指でカッコよく見せつける榊。ムダに決まってやがる。

 受け取った栄紗が頷く。

 

「はいはい了解。犯罪組織をしょっぴけば上も文句はないでしょ。作戦が上手くいけばの話だけど」

 

「ふ、プレッシャーをかけるな。こう見えてさっきから胃がキリキリしてるんだよ! 吸血鬼精霊に全身の血を抜かれたりするんじゃないかとな!」

 

「召喚できる自信はあるのかよ」

 

「吸血鬼! 吸血鬼!? えー()()()()()だ! ()()()()()! 護国の将軍の人だよね!」

 

「なに言ってんだお前……?」

 

 黄泉坂は一体なんの漫画の話をしてるんだ。

 一応レティに視線を投げてみるが、困ったように首を傾げている。うん、黄泉坂のハイテンションの理由は考えるだけ無駄だろう。

 

「面子も集まったし、そろそろ始めていいか?」

 

「おう。頑張れ先輩」

 

「どーらきゅら! どーらきゅら!」

 

「はいはい、盛り上げも程々にねー?」

 

「逆算で成立した精霊……どんな方なんでしょうか」

 

 各々で魔法陣の外へはけると、前に出た榊が右手をかざす。

 詠唱が始まる。

 

「“地より生まれし常夜の者よ。血を以って魔を払う異聞の者よ。”

 “耳あらば聞け。目あらば見よ。口あらば応えるがいい。”──」

 

 召喚陣が紫の光を帯び、霊力が収束していく。

 それに反するように室内は夜のように暗くなっていき、カーテンも閉めていないのに陽光を遮断する。

 

「“十字の標を伝承とし、現世の使命を誓いたまえ。”

 “道を示すは我が呼びかけのみ。汝の幻想は我らが作るもの。”」

 

「……な、なんか……雰囲気、大丈夫?」

 

 隣の栄紗がそんな声を漏らす。

 事実、室内に満ちていく霊力は清浄なものではない。黒い光が飛び始め、魔法陣は邪精霊にも似た気配が濃厚になっていく。

 正直、俺も少し気分が悪いんだが……その中で、榊だけは顔色一つ変えずに詠唱を唱えきる。

 

「“彼方より現界せよ! 我が契約の精霊よ──!”」

 

 瞬間、黒い光が全てを満たした。

 満ちていた霊力が召喚の役割を果たし、室内の異様な暗さは静まっていく。

 その中で、新たな精霊の気配が榊の前に現れていた。

 

(成功……か?)

 

 一見して、まるで影が佇んでいるようだった。

 そこにいたのは長身な美青年。古めかしい貴族のような黒ずくめの服で、雰囲気のあるマントは床につくほど長い。肩くらいまでの銀髪は毛先にかけてウェーブがかっていて、人外的な美貌と病的に白い肌を持っていた。

 血のように赤い眼が開き、召喚者の榊を見据える。

 

「『銀鬼(ぎんき)卿』ファイン……現世の呼びかけと我が伝承の証に応じて参上した」

 

「よく来てくれた。オレが召喚者の榊だ。お前との契約になにか特殊な条件はあるか?」

 

「うん……そうだな……」

 

 そこでファインと名乗った精霊の体がフラついた。

 影はそのまま大きく傾き──ぶっ倒れた。

 

「まずは血をくれ……契約の楔に……なる、か、ら……ぐはっ」

 

「うわああああ死ぬな死ぬな死ぬな──ッ!?」

 

「ヴァンパイアすぐ死んだぁぁ──!?」

 

「もう消えかけてる!? 退去には早すぎますよ!?」

 

「この流れでハズレ精霊なんてオチになるの!?」

 

「あれ……? 吸血鬼、強く、ない……?」

 

 サラサラと体の末端から塵化しかける新顔精霊。

 阿鼻叫喚になりながら、俺たちはこの虚弱を引き留めるため、手を尽くし始めたのだった……

 

 




如月悠楼
 あしながおじさん。

黄泉坂古今
 音楽の次に歴史が好き。
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