ようこそ、逸般人たちのいる教室へ   作:山上真

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一人称の練習作品です。


プロローグ

 霧が晴れた。

 言葉にするならこんな感じだろう。自我が芽生えてからこの方、どこか靄がかっているように感じていたのだが、それが今この瞬間を以て綺麗サッパリとなくなったのだ。

 現在地は、高度育成高等学校旧校舎の屋上だ。入学式を終え帰宅の段になって、何故か強迫観念に駆られたように足を運んでしまったのだが、その理由も同時に判明した。

 この場にいるのは、自分の他に三名。共通項は、おそらく『転生者』だということ。普通に考えてバカバカしい話ではあるのだが、この『転生』にまつわる部分を今まで忘れていたとあっては、自分がその『体現者』だということを認めざるを得まい。

 今しがた思い出した記憶が正しければ、所謂『転生の間』とも言うべき場所には自分以外の姿もあった。状況を鑑みれば、目の前の三人もそうなのだろう。……人数が不一致な気もするが、理由は色々と考えられるため考えるだけ不毛か。

 

「あ~、この場合、『お久しぶり』と『はじめまして』、どっちを使うべきですかね?」

「はじめまして、で良いと思う。確かに面識が無いわけでもないが、互いの名前を知らないのも事実だ。……だろう?」

「確かに。色々と相談し合ったりもしましたが、時間に換算すればほんの一時に過ぎませんしね」

「では、改めて『はじめまして』ということで……」

 

 探り探り、明確な単語を出さぬままに言葉を交わしていき、互いに確信を持つ。

 

「自分たちは『転生者』ということで間違いはない。……互いにこの認識でよろしいですね?」

 

 決定的な単語を交えて問いかければ、銘々に肯定の意を返してきた。……或いは精神病の類かとも思ったが、その可能性は捨ててよさそうだ。今生で初めて出会う四人が四人共に同一の精神病など、そっちの方が余程有り得ない。

 

「では、名乗り合うのは後にして、まずは情報の摺合せから行いませんか? おそらくこの四人は同一の条件下での転生だとは思いますが、確認しておいて損は無いと思います。……どうでしょう?」

 

 またも返るのは肯定の意。

 

「ありがとうございます。……それでは、言い出しっぺの私から。――転生をするに当たり、特に指令や命令は与えられていない」

 

 全員が頷く。

 

「転生をするに当たり、初期ポイントが与えられ、それにより所謂『転生特典』を購入することが出来た。初期ポイントは千。

 特典の価格は一律ではなく、安いものは安く、高いものはべらぼうに高い。個人的意見ではあるが、即効性の高いものほど高額だった印象だ。

 また、保有ポイント以上の特典を購入することも出来たが、不足分はデメリットとして今生に負わされる。どのようなデメリットかは定かじゃない」

 

 頷く。

 

「先の情報の捕捉として、特典は一覧から選ぶだけではなく、ポイントを全て使うことで要望を出すことも出来た。要望が通れば保有ポイント以上の特典を得ることも出来るが、どこまで通るかは定かじゃない。一種のギャンブルだな」

 

 頷く。

 

「転生先は地球の現代を舞台とした作品で、否応なく関わることになる。ただし、『現代』の幅は分からなく、世界観も不明。

 早い話、魔法とかのファンタジー要素やオカルト要素が含まれるのかどうか、含まれるとして一般に認知されているのか、普及はしているのか、異世界に舞台を移す可能性はあるのか、そういった諸々がサッパリ。

 ついでに言うと、この『舞台』に関する情報は、記憶を思い出した今でも不明なままである。元より自分たちがその情報を持っていなかったのか、不都合があるとして消されたのか……。考えるだけ無駄だな」

 

 頷く。

 やはり、四人共に前提条件は同じようだ。

 

「いやさ、ほんっと特典選びには苦労したよ。先の条件だって、補足情報を隅々まで読んで漸くだもん。部屋には俺らの他にも結構いたけど、デメリットとかに気付いていない人もいるんじゃない?」

「まあ、間違いなくいるでしょうね。一次二次問わず『転生オリ主』という存在がありふれてましたし、自分がその立場になれるなら、って安易に考えた人もいるでしょう」

「どうしたって『好きな作品』とか『直近に視聴した作品』のイメージに引っ張られる奴もいるだろうしな。それを否定はしないが、それで上手くいく舞台は非常に限定される。『平和な日常』を舞台にした作品では、過剰な戦闘能力など邪魔でしかなく、その逆も然り。……可能性を挙げていけばキリがない」

「舞台に関わるのはまだしも、関わり具合も分かりませんでしたからねえ。『名探偵』と書いて『死神』と読むようなご長寿番組の場合、一話だけ容疑者として関与、って可能性もありましたし……。そういった中での取捨選択。自分も特典選びには苦労しました」

 

 全員が万感の意を込めて頷いた。 

 明かされた情報が少なすぎて、特典の絞り込みが難しかったのだ。特に指令や命令もなかったので、何を優先するかも自分次第となる。

 

「じゃあ、改めて自己紹介をしよっか。……俺は鐘鳴(かねなり)(ひびき)。Aクラスだ。『ときメモシリーズ』の主人公をベースに+αを加えた要望を出した」

「それもあったか!? 確かに、逸般人の代表格だ!」

「だろ? 最底辺からスタートして、育成次第でどんな分野にも頭角を示すんだからな。しかも、高校生活のたった三年間でだ。この時点で将来性は高い。作品によっては魔法的なものも使うから、ファンタジー要素にも対応出来る。……自分で言うのもなんだけど、そのポテンシャルは計り知れない。

 まあ、俺自身、プレイしてない作品もあるんだけどな。特に『ガールズサイド』は手付かずだ。

 無論、難点もある。転生先の舞台が本格的に始まったからかな? 正直、こうして話している今現在も、彼女が欲しくてたまらないんだ。いやまあ、幼い頃から自分磨きに精を出してたから、欲求が抑えきれなくなった可能性もなくはないんだけど、可能性は低いだろうね」

 

 得意満面な表情を一変させて、響は深々と溜息を吐いた。

 高校三年間でそれだけのポテンシャルを発揮出来る下地があるというのに、それを幼少期から磨いてきたというのであれば、確かに将来性は抜群だ。

 その反面、デメリットも一緒に引っ張ってきた形だろう。『ときメモシリーズ』はギャルゲーであり乙女ゲーだ。主人公の成長目的は、『対象の攻略』が根底にある。その目的を果たせなければ、どれだけ能力が高くともバッドエンドだ。ならば、響が彼女を求めるのは自然と言える。まあ、代価としては安いかもしれない。

 

「問題があるとすれば、君自身のお眼鏡に適う人物がいるかどうか……か」

 

 記憶が蘇った条件を鑑みるに、十中八九、舞台となるのはこの学校での生活だ。である以上、舞台原作でのヒロイン――『攻略対象』に当たる人物はいるだろうが、それが響のお気に召すかは別問題だ。ゲームと違い、エンディングがゴールではないのだ。現実である以上、『原作』という『舞台』のエンディングを迎えても、その先がある。

 

「まあ、そこら辺は特に心配していない。ゲームじゃないんだから、『攻略対象』が特に限られているわけでもない。まあ、現状では『敷地内の人物』に限定されているのは否定出来ないけど、言ってしまえば『安牌』なのが同級生ってだけだ」

「それはそうだろうが、肝心なのはその衝動に君自身が耐えられるかどうかだ。違うか?」

 

 響の言うことは尤もだが、現実的に考えれば難しいだろう。被ったガワの元が元である以上、如何に能力を高め社会的に成功しようとも、彼女が出来なければバッドエンドということだ。……まあ、あくまでも可能性だが。

 

「俺のことはともかく、次に行こうぜ?」

「僕だね。名前は白浜(しらはま)(しょう)。配属はBクラス。『史上最強の弟子ケンイチ』という作品の主人公である白浜兼一と、ヒロインである風林寺美羽の子供、という設定に+αを加えて要望を出したんだ。良くも悪くも両親の影響を多大に受けてるね。

 難点としては、舞台背景かな? 『ケンイチ』の原作には多種多様な武術が登場するんだけど、『活人拳』を掲げる勢力と『殺人拳』を掲げる勢力に分かれているんだ。

 んで、両親は揃って『活人拳』派で、母方の実家はそのトップ勢力のお膝元。これで狙われない理由がないから、幼い頃から武術漬けの生活だよ」

 

 なるほど、と頷く。

 元より、一般に知られざる世界、というものはあってもおかしくない。武術が存在する現代世界である以上、クロスオーバーさせることも容易な部類だろう。この閉ざされた学園でどこまで設定が機能するかは怪しいところだが……。 

 

「じゃあ、次は自分が。……Cクラスの配属で、名前は緋勇(ひゆう)龍也(たつや)。ゲーム版『東京魔人學園』シリーズの主人公がベース。知らない人の方が多いかな?

 確定事項として、『氣』を用いた古流武術を修めている。また、男女問わず人を惹き付ける魅力を持つ。

 学力面は定かじゃないけど、平均はあるだろうね。仲間のバカキャラよりは確実に頭が良い。

 難点としては両親がいない。時期は違えど、どちらとも死に別れている。……あとは主人公の特性が特性故に、それに準じた『厄介事』が起こる可能性が否定出来なくなったかな?」

「厄介事?」

「仕方のないことかもしれないけど、主人公周りで『氣』の関わる問題が起こるんだ。結果、偶発的に巻き込まれたり、自発的に関わったりする。

 物語開始時点で主人公は『氣』に目醒めてるんだけど、確定パーティーキャラは巻き込まれる形で目醒めるんだ。まあ、仲間にも相応の背景が設定されているから、目覚めるのは必須でタイミングの問題でしかない、と捉えることも出来るんだけどね。その『舞台設定』が、どこまで影響を及ぼすか分からなくなったんだよ」

「……なるほど。確かに厄介だ」

 

 翔の自己紹介から、設定元となった原作とクロスオーバーを起こしていることは明らかだ。

 だが、その影響力が不明なのも事実なのだ。

 翔の場合、『主人公とヒロインの子供』という設定にしたため世界に与える影響も大きくなった、と捉えることも可能だ。

 一方、響と龍也はベース――参照元にしただけだ。その時点で別人であることは間違いなく、影響力が最小限で済んでいる可能性は否めない。

 

「最後は俺か。名前は全総(ぜんそう)(やいば)。Dクラスの配属。ベースにしたのは『スパロボ30』のオリジナル主人公。手に職付けて人脈作って、てな具合に考えた結果がこれだった。今では後悔している。大神隊長にしておけばよかった。身体が勝手に風呂場に向かうデメリットを考えてこっちにしたんだけどな。

 性格を始め男女で異なる部分はあるけど、共通設定として『ヤバい特殊機関で色々と叩き込まれた』っていう過去がある。俺の場合、性別が男ではあるけど、双方の設定が振り分けられてる感じだな。男にしては小柄だし、これは女主人公の特徴が現れてんだろうよ。 

 難点としては、口に出すのも嫌な過去だ。『人権』なんてあったもんじゃなかったぜ。一般に知られたら、まず間違いなく叩かれるね。断言していい。脱走が成功して万々歳だ」

 

 久々に過去を思い出し、溜息を禁じ得ない。

 

「『スパロボ』は知ってるけど、今まで生きててこの世界に巨大ロボットなんて存在してないよな?」

「確かに。ベースにしただけだと、影響は最小限で済むと判断しても良いのかな?」

「そう考えるのが妥当だろうね。まあ、この世界にそんな機関が存在するっていうのも嫌な事実だけど……。存外、この世界の原作とか翔の設定と絡み合ったりしてるんじゃない?」

「どっちも否定は出来ねえな。同じ施設で育った奴がクラスメイトだったし、この舞台を原作とする作品の設定に組み込まれた可能性は確かにある。

 その一方で、『殺人拳』派が数を増やすために試みている可能性も十分にある。流石に『活人拳』を掲げる奴が人権無視な施設なんぞ使うとも思えねえしな。

 勿論、んなヤバい施設が幾つもあるとは流石に考えにくいから、両方が混ざっている可能性もある」

 

 いずれにしろ碌なもんじゃない。

 

「さて。取り敢えず自己紹介はこれで良いとして、連絡先を交換しとこうぜ?」

 

 尤もである。数少ない――と思われる――転生者仲間だ。断る理由などありはしない。

 

「んで、どう思うよ、この学校? 正直、厳しいっちゃ厳しい規則だが、一種の『英才教育』と思えば有り得なくもないとは個人的に思ってるんだが……」

「それは否定しないけど、如何せん監視カメラの数が多すぎる。それが気になって仕方ない」

「確かに。……まあ順当に考えれば、来月以降のポイント付与に関わってくるだろうね。十万ポイントは、あくまでも入学を認められたが故の初回ボーナス。面倒な言い回しをしてたけど、担任もそんなことを言ってたし」

「この学校は生徒を実力で評価する、だったな。――だが、果たして俺たちを評価しきれるのかね?」

 

 響の問いに、順番に答える。

 いずれの言うことも尤もだし、紛れもない本音だろう。転生特典を得て、それぞれに努力してきた俺たちは『普通』の枠に収まらない。まあ、分野によりけりであることも否定は出来ないが……。

 

「そこはともかく、個人評価だと思う? それともクラス評価? それによって選択肢も変わってくるんだけど……」

「クラス評価一択。流石に個人評価じゃポイントの割り振りが大変だろ」

「悩んでばっかいてもしょうがないし、先生に訊きに行こうか。どうするかは、その返答次第でもいいんじゃない?」

「社会において『協調性』は大事だが、同じくらい『突き抜けた個』も大事だ。この学校が、その母体である政府が求めているのは、『社会を動かす』人間だろう? つまりは『ステージ』の違いでしかない以上、俺たちは『当たり前』に過ごすだけで良い。

 学校が俺たちの実力を評価するというのなら、文字通りに『実力』を示そうじゃないか。果たして、学校はどう評価してくるのか……。入学早々ではあるが、今から来月が愉しみで仕方ない」

 

 そういうことになった。正直、ありがたい方針である。何だかんだ、常に力をセーブして生活するのも疲れるのだ。そして、誰からも反対意見は出なかった。 




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