ようこそ、逸般人たちのいる教室へ   作:山上真

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10_鐘鳴響:02

 由々しき事態だ。女子の友だちが出来ない。いや、これだと正しくない。既に何人かは女子の友だちもいる。

 正確に言うと、自発的に作ることが出来ないでいた。声をかけてはいるんだが、何でか上手くいかないのだ。今いる女友だちは、全員が全員、紹介してもらった相手ばかりなのである。畢竟、俺の携帯端末に登録されている女子は、全員が他クラスだ。

 男子であれば、その限りではないのだが……。葛城康平、橋本正義、鬼頭隼と、既に三人は登録されている。これをどう捉えるかは、人によって判断の分かれるところだろう。少なくとも、俺自身は満足している。無駄に数だけ登録していても意味などないからだ。

 

「何故だ橋本! 鬼頭! 葛城! 何故、クラスの女子は俺が声をかけても逃げ去っていくんだ!? そりゃあ、彼女が欲しい! と日々豪語してはいるが、それ以外に嫌われるようなことをした覚えはないぞ!」

「何故も何も……なあ?」

「ああ」

「考えるまでも無いな」

 

 俺の叫びに対し、三人は顔を見合わせた後、口々にそう言った。――うん、全く以て分からない。

 

「あ~、つまりだ。一言で言うなら、お前は有名に過ぎる、ってことだ。高嶺の花、と言い換えれば分かりやすいか。中学時代から全国模試のトップ常連、雑誌でのモデルもこなし、それ以外にも色々と名前を売っている。当人の顔を知らんでも名前は知っている、って奴は一年の中でもそこそこいるだろ」

「ハッキリと言えば、この時点でお前は社会的成功者だ。女子にとっても、付き合う相手としては有望株だろう」

「しかしと言うべきか、だからこそと言うべきか。女子の中でも牽制しあっているか、或いは畏れ多いと慄くか。主にはこの二通りだろう。

 これだけ時間が経てば、クラス内はもちろん別クラスにも友人が出来ていてもおかしくはない。お前から声をかけられて嬉しいだろうし、本心では応えるのも吝かではないのだろうが、それを裏切りと密告されることを恐れ、その一方で己の行為を裏切りではないかと自戒する。もしくは、必要以上に緊張してしまう。……その結果が、逃げの一手というわけだ」

 

 三人は分かりやすく補足してくれた。うん、本当に分かりやすく。

 

「っておい! それじゃあ、いつまで経っても俺は女友だちを作れないってことになるじゃねえか!?」

「まあ、あくまでも俺たちの予想に過ぎん」

「合っていたとしても、探せば例外もいるだろうしな」

「それに、既に連絡先を知ってる女の子も何人かいるんだろ? だったら良いじゃねえか」

 

 これまた口々に言う三人。

 言ってしまえば『特別視』。人が人である以上、向ける方か、向けられる方か、という違いがあるにせよ、切っても切り離せない問題だ。それが現状を招く要因となっている、ということだ。

 俺自身は平凡な一般家庭の生まれであり、努力で上り詰めただけで、根は『凡人』だ。このポテンシャルが、『転生特典』という、ある意味で『外付け』の産物と知ってしまったからこそ、その意識は尚強い。

 加え、男女問わず連絡先を登録してある奴らは、そんな様子を欠片も見せなかった。あくまでも、俺の一側面でしかない、と考えてくれたのであれば嬉しいが。

 ともあれ、人間性よりも肩書やらを見てしまうのはおかしなことではない。第一印象と同じようなものだ。そこから間柄をどう変化させるかで、関係性の呼称が変わるわけである。

 

「チッ。……となると、どうやって距離を縮めるか?」

 

 俺はアプローチの方法が間違っていたことを認めた。『クラスメイト』から『友人』を目指すのは間違っていないと思っていたが、まずは『クラスメイト』としての関係自体を深める必要があったわけだ。

 相手を良く知らんから、友人となって知ろうとする。これも間違いではない。その一方で、よく知らん相手とは友人にならない、という考えもある。無論、これ以外にもあるだろう。人によって色々な考え方があるのだから。

 俺自身、俺に興味を持ってそうな相手にのみ話しかけるようにしていたが、だからこそ失敗していた、とも考えられるわけだ。

 逆説、俺に興味を示していない相手であれば、もっとスムーズに友人となれるのではなかろうか。俺に興味を示していないということは、余分なフィルターも無い、ということなのだから。先入観やら何やらはあれ、真っ直ぐに俺と向き合ってくれる可能性は高い。

 アプローチに対する考え方を変えた俺は、グルリと教室内を見渡す。現在は昼休み。大半は食堂なりに行っているため、教室に残っている生徒は少ない。だからこそ、堂々と叫ぶことも出来たのだ。

 その、残っている生徒の中から、一人でいる女子をピックアップする。該当は神室真澄、森下藍、山村美紀の三人だ。

 入学して半月以上が経っている。これを『もう』と見るか『まだ』と見るかは人によって分かれるだろうが、付き合いのある相手がいる者の方が大半だ。そんな状況で尚も一人でいるということは、理由はともかく友達作りに積極的でない証左。

 だからこそ、都合が良い、とも言える。たとえ友だちが出来ようと、彼女が出来ようと、俺は『自分磨き』を止めるつもりはない。止めてしまえば、遠からずしてメッキが剝がれてしまうからだ。その点で考えると、こちらの都合をお構いなしにグイグイと来られるのは、不都合なことこの上ない。どうしたって一定の配慮は欲しいのだ。

 今時点で独りでいることを苦と思わないのであれば、常日頃から必要以上に迫ってくる可能性は低いだろう。

 

「ちょっと声かけてくる」

「お~、行ってこい行ってこい」

 

 三人に言い捨て、橋本の声援を受けながら席を立つ。

 まず向かったのは神室の元だ。単に五十音順で選んだだけだ。どの道、三人ともに接触するつもりなのだから、順番自体はどうでもいいと言えばどうでもいい。

 

「やあ、神室さん。良ければ俺と友だちになってくれないかな」

「……なに。声をかけた女子の悉くに逃げられたからって、私にまで声をかけてくるの? 何て言うか、物好きね」

「グフッ……。いやいや、生活に彩を齎す上で、友人とライバル、そして可能なら彼女が欲しい……と、そう考えるのは男子としておかしくないと思ってるよ。まあ、かく言う俺自身、好みのタイプが分かっていないのが難点ではあるけどね」

「ふぅん? まあ連絡先の交換くらいなら良いけど、私を彼女にするのはお勧めしないよ。私、正直言って『重い』から……」

「ふむ、一考させてもらうよ。――だがまあ、先も言ったが、俺自身が自分の好みのタイプを分かっていないんだ。友人として付き合ううちに惚れ込んでしまったのなら、本気で落としに行くから覚悟はしておいてくれ」

「フフ……。そうなったら願ったり叶ったりね」

 

 そうして、俺は神室と連絡先を交換した。

 神室は終始アンニュイな表情を崩さなかったが、実際に言葉を交わすことで分かったこともある。彼女の言葉には、常に『諦観』が先に立っているのだ。しかし、その一方で『希望』を捨てきれていない。そうでなければ、この学校に入学してはいないだろう。

 自らを『重い』と評したことからも、おそらくは人間関係か。家族に必要とされなかった人間、などというものは、人口比で考えると珍しくも何ともない。実際に出会う確率が低いから珍しいと思われているだけなのだ。事実は小説より奇なり、とも言う。ドラマの題材にだって使われたりするのだから、現実では普遍的な現象だろう。

 ともあれ、精神的なストレスを抱えた彼女は、その矛先を他に向けたのだろう。別にその行動自体はおかしなものではない。そして誰かしらを捕まえたまでは良かったものの、結果としてその相手には逃げられた。

 それ故の『重い』発言だ。そうやって自分が悪いとすることで自分を慰めることにより、ギリギリの部分で神室は押し潰されずに済んでいるのだろう。

 他人に必要とされたい。そう思いながら、再び逃げられることを恐れて自分からは詰め寄れずにいる。その一方で、連絡先の交換にすんなりと応じたことから、関係の構築自体を捨てきれてはいない。あくまでも受け身になることで、関係が壊れた場合に自分が負うダメージを最小限にしているわけだ。

 推測でしかないものの、そう外れてはいないんじゃないだろうか。しかし、これが真実だとしたら、俺とは別ベクトルで難儀な人間である。

 内心で溜息を吐きつつ、気を切り替えて次の相手へ向かう。

 

「やあ、森下さん。良ければ俺と友だちになってくれないかな」

「鐘鳴響ですか。……貴方は純粋に能力が高く、同じクラスだ。心証を良くしておくに越したことはない。快く応じますとも」

「感謝するよ。節度を保ちつつ、仲良く出来れば嬉しいね」

「ええ、こちらもです。Aクラスで卒業出来るよう、貴方には頑張ってほしいものです。そのために必要とあれば、健全なお付き合い程度はしますとも」

「はてさて、果たしてそれを『健全なお付き合い』と言っていいものか、判断に迷うところだな。まあ、期待に応えられるよう頑張ってみせるとも」

 

 こうして、森下とも連絡先を交換した。

 話した感じ、これまた強烈な人間である。……が、Sシステムの詳細に気付いていそうな口ぶりだ。わざわざ『Aクラスで卒業出来るよう』なんて言うのだから、答え合わせを終えているかはともかく、疑問には思っているのだろう。このことから、頭の回転が悪くないことは窺える。

 俺自身としてはAクラスでの卒業などに興味はないが、クラス闘争に関してはまた別だ。今までとは別ベクトルで、自分を高められる可能性があるのだから。

 最後に向かうのは山村のところだ。

 

「やあ、山村さん。良ければ俺と友だちになってくれないかな」

「構いませんけど……よく、私に気付きましたね」

「は?」

「いえ、私って影が薄いので。よく存在を忘れられたり、名前を間違えられたりするんです。なので、鐘鳴君のような日向の存在には、目に映っていないのかと思っていました」

 

 声をかければ、返って来た返答がこれである。

 だが、言われてみれば頷けるところがないわけではない。言われ、こうして目の前に立つことで初めて分かったが、山村は非常に気配が薄いのだ。目には映っているのだが、気配は空気も同然なのである。

 これでは、周囲に人がいれば容易く埋没してしまうだろうし、目に入っても見逃してしまうだろう。俺が山村に気付くことが出来たのは、丁度昼時で山村の周りから生徒がいなくなっていたからに他ならない。曲がりなりにも『武術』を学んでいる俺からしてこうなのだ。そこらの一般人では、容易く見失うのも無理はないだろう。

 

「そうだな。ハッキリと言うならば、俺が山村さんの存在に気付いたのは今の状況に助けられた部分も大きい。俺の感覚をも誤魔化すそのステルス性は、正直に言って驚きだ。今後は是非とも仲良くしてほしい」

「カフッ……。何ででしょう? 褒められている筈なのに、酷く心が痛みます。――ともあれ、こちらとしても気付いてくれる相手が増えるのは正直に嬉しいです。今後はよろしくお願いします」

 

 山村とも連絡先を交換し、ついでに握手も交わした。……すべすべで柔らかいお手で御座いました。

 幸福感を胸に席へと戻る。

 

「やったぞ! 無事に三人の連絡先をゲットしたぜ!」

 

 そして、この喜びを橋本たちと分かち合った。自慢したとも言う。

 

「あ~、はいはい」

「見ていたから知っている」

「良かったな」

 

 しかし、男どもの返答は素気無い。葛城はともかく、橋本と鬼頭。

 お前らそれでも友人か!? 素直に俺の躍進を喜べよ! などと心中で叫びつつ、この思いを言葉にすることはない。何故なら、俺自身もまた、自慢をされれば喜ぶより先にウザったいと思うに決まっている方らだ。……男の友情なんてそんなもんである。

 まあそれはそれとして、俺はこの喜びを他の友人にも分け与えることにした。

 

 鐘鳴響:クラスの女子三人の連絡先をゲットした。やったぜ!

 

 分かりやすく言えば、グループチャットでメッセージを送ったのだ。

 昼休みということもあってか、程なくしてそれぞれから返信が送られてきた。

 

 白浜翔:良かったね。

 緋勇龍也:まあ、良かったんじゃない。

 全総刃:ケッ、自慢なんざしてくんじゃねえよ!

 綾小路清隆:クラスの女子だと、俺はまだ桔梗としか交換していないからな。男子も刃と平田だけだし、素直に尊敬する。

 

「素直か!?」

 

 返信を見た俺は、思わず叫んでしまった。翔に龍也、刃の返信は予想通りと言えば予想通りだったのだが、清隆の返信が予想外に過ぎたためだ。……境遇を思えば無理も無いのかもしれないが、清隆に男としての欲はあるのか心配になってくる。

 その一方で、軽く流した他三人と違い、清隆の返信を嬉しく思う俺がいるのも確かな事実。

 うん、出来る限り、清隆には優しくしよう。……どこまで長続きするかは不明だが、俺は一つの思いを抱くのであった。   

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