ようこそ、逸般人たちのいる教室へ   作:山上真

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誤字報告感謝です。ただ、採用はせず、元の文章を若干変更しました。


14_緋勇龍也:02

 発表された小テストの結果には、さしもの龍園も危機感を刺激されたようだ。彼はその日の内に勉強会の開催を決定・義務付けた。

 時間は通学日の早朝と放課後。部活動がある者はそちらを優先していいが、必ずどちらかには参加してもらう。休日は自由。

 不満はあるだろうが、クラスメイト達もそれを断りはしなかった。それだけ小テストの結果がヤバかったのだ。赤点以下は退学、というルールを聞かされたら、危機感を覚えるのが普通である。

 その波は俺たちにも押し寄せた。件の小テスト、有栖は百点、俺と恵も90点は取った。Cクラス内では紛うことなき上位である。教師役として白羽の矢が立つのは、無理からぬことかもしれない。

 俺たちの他にも、金田悟という男子と椎名が教師役として抜擢された。この五人で、クラスの面倒を見なければいけない。……正直言って、ひたすら面倒臭い。

 勉強を見るのは別に構わない。――が、それも相手が協力的ならの話。あれだけ簡単な問題でこの結果ということは、そもそもが勉強に忌避感を持っている証左である。そんな奴が、如何に危機感を覚えたところで、積極的に勉強しようとするだろうか? とてもそうは思えない。

 それは龍園も承知のところで、彼が俺たちに求めているのは『監視役』だ。金田以外は、早々に龍園の支配を認めたのだ。たとえそれが条件付きのものであっても、周りからしてみれば、龍園に近しい、と思うのが道理である。

 教師役を担うことができ、その一方で、真面目にやらなかった場合の告発を危惧される存在。それが、大半のクラスメイトが持つ俺たちへのイメージなのだ。

 金田としても、独り教師役の中で出遅れているのは否定出来ない事実である。龍園による治世の中で確かな忠誠を示すためにも、己が立ち位置を確保するためにも、結果を出さなければならないのだ。

 それらの事実と小テストの成績を鑑みた上で、龍園は教師役と生徒のグループを一存で決めた。

 金田のグループには比較的反発の少ない者をまとめ、護衛役として石崎を組み込んでいる。同じく有栖のグループにはアルベルトを、椎名のグループには伊吹を組み込む気の利かせようだ。……龍園に対し早々に反旗を翻した石崎、アルベルト、伊吹の三人は、今や龍園の側近として取り上げられている。特に伊吹は、三人の中でも龍園への嫌悪感を隠していない。それでも側近として取り立てるのだから、この辺り、龍園がただの暴君ではないことを如実に表している。

 そして、件の龍園本人は、何の因果か俺のグループだ。……全く以て面倒臭い。

 武術を嗜んだ者は、その度合いにもよるが、普段の動作にも片鱗が現れる。それは俺も龍園も恵も変わらない。

 そのため、俺が龍園を気にする一方で龍園の気を引いてしまうのは、ある意味で仕方のないことなのだろう。何せ、龍園が『陰の龍技』を修めているのと同様に、俺は『陽の龍技』を修めているのだ。

 源流を同じくし、分かたれた流派の使い手。オマケに、過去に出会ったことのない相手。気にするな、と言う方が無理だ。

 理屈として理解も納得も出来るが、我慢の出来ないことだってあるのだ。

 

「龍園、今は勉強の時間だ。氣をぶつけて俺を挑発するのは止めろ」

「ハッ。流石は、『陽』の使い手、と言ったところか。この程度でも気付くとはな」

 

 俺の制止に対し、龍園は鼻で嗤う。

 世に数ある武術だが、中でも俺たちの流派は、既に失われたとされる『氣』を扱う。……歴史の流れの中、『氣』は『気』へと移り変わり、それに応じて数ある武術もその技の形を変えたが、俺たちの流派は、原型に等しい形で今に残しているのだ。

 そして氣の習熟次第では、炎氣や凍氣などへと変換することも可能である。無論、変換せずにそのままぶつけることも可能だ。俗に言う『発勁』であるが、龍園はこれの極小版を以て俺にちょっかいをかけているのだ。

 その技術は素直に認めるが、それはそれだ。俺がイラつくのも無理はないだろう。

 

「………………やるか?」

「やらいでか」

 

 互いに席を立ち、俺の視線と龍園の視線がぶつかり合う。感情の高ぶりと共に身体から溢れ出した闘氣が渦を巻き、ガタ、ガタタ、とポルターガイストめいた現象を教室に巻き起こす。

 構えは互いに似通っている。それも当然。『陽』と『陰』で得手は違うが、源流への回帰こそが至上命題。である以上、流派が分かれた際、構えまで方向性に合わせて曲げる必要はなかった、ということだろう。

 

「止めろや、このボケども!」

『ッ……!?』

 

 瞬間、口上と共に割って入った乱入者により、強制的に断ち切られた。

 

「……桔梗か。悪い。イラつきが抑えきれなくなった。止めてくれてありがとう」

 

 俺たちを止めたのは桔梗だった。さしもの俺たちも、互いに注視しあっている中で桔梗ほどの実力者に横合いから仕掛けられたら、完全に防ぐのは難しい。防御することは出来ても、それで精一杯だ。

 気を取り直した俺が桔梗へ謝罪と感謝を告げる間にも、続々と集まって来る面々。一言で言えば道場仲間。桔梗が一番最初だったのは、隣のクラスだけあって距離が近く、状況に気付きやすかったからだろう。

 

「チッ。気が削がれちまった。――が、教室内での明確な暴力行為。これで訴えたらどうなるかな?」

「お好きにどうぞ。私はあくまでも、このクラスにいる友人からの頼みで止めに入っただけだから。一触即発の状況下、手段の是非に拘ってはいられないと思わない?」

「桔梗さんの言うことは事実ですよ。状況を危惧した私が、グループチャットで援軍を頼みました」

「私もー」

 

 龍園の挑発を桔梗は笑って受け流し、有栖と恵が桔梗のフォローに入った。

 

「間違いないぜ。いきなりの援軍要請で、最初は何事かと思ったけどな」

 

 言いつつ、刃がチャット画面を見せる。いや、この場に集まったチャットメンバーの全員が。俺も自分の端末を確認し、その画面を龍園に見せる。

 

 坂柳有栖:うちのクラスの王様が龍也君を挑発してます。援軍希望。

 軽井沢恵:いつぶつかり合ってもおかしくないね。ちなみに私じゃ止められない。まだ実力差がありすぎる。

 

 これが二人のメッセージだ。ハッキリシッカリと、自分たちでは止められないが故に助けを求めたことが書かれている。

 

「お前の負けだな、龍園。問題として提起した場合、不利なのはどう考えてもお前だ。無論、それでも提起した場合、俺は桔梗の味方に付く」

「チッ。やれやれ、分かったよ。――しかし、世は案外広くて狭いもんだ。まさか同学年に、これだけの実力者が揃っているとはな……」

 

 俺の言葉に、龍園は殊勝な言葉を発したかと思いきや、ニヤリと笑って宣った。

 

「ッ……!? なるほど、やられましたね。それが狙いでしたか……」

「正確には、これも狙いだった、だな。良策、ってのは一手で複数の効果を狙うもんだ」

「類は友を呼ぶ。実力者は実力者を知る。……敢えて俺を挑発し、一触即発の空気を発生させることで、止められる奴らを集めた――集めさせた、というわけか。

 集まらないならそれでも良い。その場合は、俺という人間をもっとよく知ることが出来る。

 つまり、俺は上手いことダシに使われたわけだ。……やってくれたな、龍園」

 

 有栖の言葉に、龍園は補足して返す。

 全く以てしてやられた。言葉通り、龍園は一手で複数の効果を狙い、おそらくは最大級の結果を引き当てた。

 この場に集められた面々は、あの状況下で俺と龍園を止めることが出来る人材だ。それだけ戦闘力が高いことを意味し、引いては身体能力も高いことを意味している。その詳細までは掴めずとも、ある程度の目安を立てることは出来るだろう。龍園にしてみれば、『自分と同等以上』ということを念頭に置けば良いだけなのだから。

 情報は力だ。知ると知らないとでは大きな差がある。無論、使い方に左右されるのは間違いないが。

 Cクラスもまた龍園が容易ならざる人物であることを周りに明かしてしまったが、代価としては十分にお釣りがくる。

 俺の言葉に、集められた面々も事情を察したようだ。

 

「へえ~、聞いた感じ、龍也たちが一杯食わされたってわけか……。良いね良いね! それでこそってもんだ。そうでなきゃ面白くない! 

 俺はAクラスの鐘鳴響だ。以後はよろしく頼むぜ、Cクラスの王様さん。良ければ連絡先を交換してくれよ」

「龍園翔だ。覚悟しておけよ。流石に今すぐというのは無理だが、いずれは俺たちがAクラスに成り代わってやるからよ」

「期待してるよ。切磋琢磨こそが成長の糧だからね。……ああ、僕はBクラスの白浜翔だ。是非とも僕を追い詰め、僕の本領を引き出してほしい」

「Dクラスの全総刃だ。現状、うちのクラスは相手として問題外だからなぁ~。俺自身は学校生活を楽しみたいし、舞台に上がれるだけの力量を付けさせるためにも、是非ともうちのクラスにちょっかいをかけてくれるとありがたいんだが……」

「同じくDクラスの綾小路清隆だ。クラスなんぞに興味はないが、オレの平穏な生活を壊そうとするなら容赦はしない。まあ、オレ自身が直接巻き込まれない限り、結果に対してはそこまで文句を言わんようにする。だから、クラスに手を出す分には構わんが、精々オレを巻き込むな」

 

 やって来た面々が、順次龍園と連絡先を交換していく。龍園自身、それを拒まない。

 

「あ! 女の子たちも交換しようぜ!」

 

 そして、響は案の定のセリフを叫んで、女子の元へと近寄っていく。女子たちもそれを拒まない。むしろ、中には進んで交換しようとする人もいる。――まあ、伊吹のように面倒そうに応えている人もいるが。

 他の面子も、それぞれ気になった相手に対し交換を求めているようだ。人気なのは、アルベルト、伊吹、椎名、といったところか。

 

「まさか椎名さんまでいるなんてなぁ~。さっきの龍園君の言葉じゃないけど、世界って広いようで狭いね。――ところで、千影さんは元気?」

「ええ、お元気ですよ。よく御友人からケーキバイキングに誘われては出かけているようです。

 日増しに自堕落感が増しているような気がしますが、本人もそれを自覚している様です。私がここにいるのは、それもあってですね。私が一緒にいると、先生もついつい私にやらせてしまいますので……。なのでまあ、先の言葉は過去形にするのが正しいのですが……。

 ところで、私は茶道部に入りましたけど、白浜君は何か部活には?」

「へえ、茶道部。うん、良いんじゃないかな。椎名さんに似合ってるし、実際に美味しいしね。――僕は入ってないなぁ~。これ! ってものも特にないし、何より道場に通っているからね」

「道場……ですか? 白浜君が通えるほどの?」

 

 視界の隅に、そんなやり取りをしている翔と椎名の姿が入る。……よもや、椎名まで知り合いとは。一体全体、翔の交友関係はどうなっているんだか。

 椎名は小首を傾げて翔に問い返している。うん、可愛い――じゃなくて、その気持ちは分かる。普通の道場では、翔ほどの実力者を背負いきれるものではない。翔の実力を知るのなら、抱いて当然の疑問だろう。

 

「僕だけじゃなくて、響君、龍也君、有栖さん、恵さん、清隆君、刃君、桔梗さんも通ってるよ。秋雨先生と夏おじさんが責任者をやってるんだ」

「あら? 秋雨先生と夏さんが……。では、私も近い内に御挨拶に伺った方が良いでしょうね」

「うん。その方が二人も喜ぶと思うよ。……都合が合えば僕が案内しても良いんだけど、どこのクラスもテストに向けて対策をしてる最中だろうし、同じクラスの誰かに任せた方が良いかもしれないね」

「……確かに、その方が良いかもしれません」

 

 それで二人のやり取りは決着がついたわけだが、俺たちにしてみれば興味津々である。

 

「まあ、案内する分には構わないが、二人はどんな関係なんだ?」

「両親の友人兼ライバルに櫛灘千影さんっていう女の人がいるんだけど、彼女は秋雨先生に並び立てるほど万能の天才でね。椎名さんはそのお弟子さんなんだ。

 その関係で、僕や夏おじさんに秋雨先生とも面識がある。椎名さんは僕と違って一般的には名前が知られていないけど、千影さんの教え子だけあって、幅広い分野において僕と並び立つ実力者だよ。――まあ、身体能力はそこまででもないけどね」

「『櫛灘流柔術』は『技10に対して力0』が真髄ですからね。身体能力は最低限にあれば十分です。成績には特に興味ありませんし。

 先生の家には沢山の本が置いてありますし、それだけでなく、やることやれば好きな本を買ってもらえたので、私としてもありがたい環境でした。……政府直轄だけあって、この学校も蔵書量は見事なものですし、私としても十分に満足のいくレベルです」

 

 そう言って、ニッコリと笑う椎名。うん、可愛い。

 それにしても驚きだ。見て取れる限り、椎名の身体能力はそこまででもなかったので、武に関してそれほどの実力者とは思いもしなかった。界隈では未だ『弟子級』であるとはいえ、一武術家として、己が未熟さを突き付けられた気分である。

 しかし、言われてみれば道理でもある。それぞれの流派、それぞれの師匠には、それぞれの特色、それぞれの方針が有って然るべきなのだから、そんなぶっ飛んだものがあってもおかしくはないのだ。――まあ、それにしたって極端過ぎではあると思うけど。

 

「ハッ。これが、棚から牡丹餅、ってやつかもな。俺自身、まさか椎名がそこまでの奴とは思いもしなかったぜ。芸術界隈で『若き天才』として名高い白浜翔がそこまで認めるとなれば、うちのクラスとしては幸運だな」

 

 そして、龍園が嗤った。……そう、能ある鷹は爪を隠す。或いは臥龍に鳳雛。正しく、椎名はそう評されるに相応しい人物である、ということだ。

 椎名が実際にその実力を発揮するかはともかく、この学校生活がクラス対抗と切っても切り離せない以上、その事実だけで他クラスに対してプレッシャーを与えることは間違いない。

 期待し過ぎれば逆にうちのクラスが不利になるかもしれないが、ならば話は簡単だ。元から期待しなければいい。それこそ、棚から牡丹餅の如く、運任せにするくらいが丁度良い。他のクラスであれば難しくても、『暴君』龍園翔の支配するクラスなら、やってやれないことはない。

 龍園ならば、心理戦の『有力駒』として機能するだけで、椎名に価値を見出すだろう。

 

「まあ、それはそれとして。おい、緋勇。その道場とやら、俺も興味がある。連れていけ」

 

 そして当然の如く、龍園もまた道場に興味を抱いた。まあ、龍園ほどの武術家ならば無理からぬことだが。

 

「はいはい了解。……ただ、連れていくのは構わないが、道中で無用なちょっかいをかけてよこすなよ」

「分かってるよ。信頼がねえなぁ~」

「お前の人柄を、正しく認めればこその結論だよ」

 

 まあそんなわけで、龍園と椎名も道場に連れていくことが決まったのだった。 




ひより逸般人化――ただし、純粋な身体能力は並――の回。
仕方ないのです。『ケンイチ』の原作時間軸より二十数年経っている設定のため、兼一氏周りの人物も達人級と化していておかしくはないですし、翔や桔梗のように、それぞれに子供なり弟子なりがいてもおかしくはないのです。
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