ようこそ、逸般人たちのいる教室へ   作:山上真

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お願いですから『あらすじ』に追記した注意書きを読んでください。
前話において、「」の場所に誤字報告されましたが、誤字ではありません。わざとです。
文脈的にそう指摘してくる気持ちは分かりますが、わざとです。
意図があってあの形にしてます。
確かに三人称視点であれば、自分も指摘された形で書いていたと思いますが、本作においては『』にする必要も、()にする必要もないと思ってます。
明確な誤字脱字でなければ、『誤字報告』機能を使わないでください。機能の名称が名称なので、『ここが間違っている!』と断定された気分になって、書き手としてはあまり良い気持ちではありません。
せめて感想なりでやんわりと提案・指摘してください。


28_軽井沢恵:03

「じぇろにもーーー!」

 

 相も変わらず、口からは妙な悲鳴が洩れる。だけど、それも既に慣れてしまった。何故って? そんなの、師匠との修行では毎度のことだからだ。

 しかしまあ、所変われば品変わる、とは言ったものだけど、この無人島での修業は道場でのそれとは趣が異なる。それにより、新たな地獄が展開されているのだ。……地獄巡りには慣れたつもりだったけど、『つもり』でしかなかったことを否応なく実感させられる。

 修行道具の一環として水着を用意してくれ、海に浸かれたのを喜んだのも束の間。下半身を水に浸けた状態でのダッシュを余儀なくされた。

 そして、これがまたキツイ。最初はそうでもなかったが、数を繰り返すほどに身体が重くなってくる。水の抵抗によるものだ。

 それぞれに修行のメニューは違うが、終わった後は全員が全員、息も絶え絶えにビーチに倒れ伏すのがお決まりの光景となっている。

 

「はぁ……はぁ……何だろうな、はぁ……このしんどさは。これなら、はぁ……まだ『ホワイトルーム』の方が、はぁ……マシだった気が、はぁ……してくるぞ」

「はぁ……はぁ……そりゃあなあ。はぁ……こっちは、はぁ……限界ギリギリを見据えて、はぁ……やれる範囲を、はぁ……突いてきてるからな」

 

 清隆と刃の、そんな会話が聞こえてくる。……正直、会話をする気力があるだけ凄いと思う。

 そして、刃の意見には心から同意する。師匠の課す修行で凄いのは、その『見極め』だと思う。今までに行った修行のどれもこれもが、頑張り尽くせば熟せるレベルなのだ。

 その代償としてヘトヘトになってしまうわけだが、成し遂げた、という実感が湧くのは否めない。

 

「あとは、根底にあるのが『やっているか』と『やらされているのか』の違いも大きいと思いますよ? まあ『ホワイトルーム』に関しては、私も一度見学したことがあるだけなので、知ったような口を叩くのは不快かもしれませんが」

 

 二人の会話に、横から有栖ちゃんが口を挿んだ。……私たちの中で、有栖ちゃんだけは体力に余裕がある。それは私たちとは修行の質が違うからだ。限界ギリギリを攻めるのではなく、限界を探っている、そんな感じ。

 多少羨ましいと思わないではないが、その事情を鑑みれば、仕方ない、と納得も出来る。ましてここは無人島だ。本島に比べれば、医療設備に雲泥の差がある。こんなところで再び心臓がイカレてしまえば――師匠ならどうにか出来なくもないかもしれないけど、対処難度は極端に跳ね上がるだろう。

 見た目に反し、有栖ちゃんは結構クセの強い子だけど、友人であることに違いはない。不要な場面でヤキモキするのは、私としても御免被る。

 

「はぁ……事実だから、はぁ……否定は出来ねえよ。俺たちは望んであの空間にいたんじゃなく、気付いた時にはいて、カリキュラムを受けさせられてたんだ。当初は理由すら分からずにな。言っちまえば『洗脳教育』だ。幸いだったのは、施設の奴らがある意味で一枚岩じゃなかったことだな。おかげで色々と知ることが出来た」

「まあ普通なら、それで何が出来るというものではないんだろうがな。カリキュラムを熟せば熟すほど、『出来ること』が増えていったのは事実だ。

 まったく嗤わせる話だ。『天才の量産』という思想自体がトチ狂っているが、結果の想定が甘い。真に『天才』であるならば『凡人』に御せる筈がないんだ。たとえ『紛い物』でも、それに追いつくことが出来たならば、同じ結末を迎えて然りだろうに。

 オレがあの施設の求める『天才』に至ったのかは知らん。と言うか、今ではもう知る気もない。少なからず『世間』というものを実地で体験した今は、どこまで高望みすれば気が済むんだ? という呆れしか生まれん。何せ、今の時点で『世間一般』というものを遥かに凌駕しているのが事実だからな」

 

 有栖ちゃんの言葉に、二人が返した。……この短時間で息を整えるのだから、それもまた凄い。

 と言うか、パンピーの横で平然と『社会の闇』について語らないでほしい。別の意味で息苦しくなる。――いやまあ、師匠の弟子になった時点で、『パンピー』と呼べるのかは自分でも自信が無いんだけども。

 ともあれ。

 こんな感じで、修行が厳しいのは確かだけど、それを除けば、特別試験中とは思えないほどにまったりしているのが実情だ。――それは、私たちに限った話ではなく。

 理由として、各クラスのリーダーが判明しているのが大きい。『知られず』、『探る』、この二つを行う必要が無くなってしまったのだ。その時点で、学校側の想定していたであろう『真っ当な試験』からは筋道を外れている。

 更には、周りに知られることを気にする必要がない分、スポット占有も大々的に動くことが出来ている。かてて加えて、各クラスのリーダーが『妙手』に近い『弟子級』だ。占有して回るのにかかる時間が、常人とは比較にならないほどに短くて済む。

 そして各スポットには、学校側の用意した『救済処置』がある。流石にどうにもならない部分もあるが、クラス間における物々交換をすることで、大概はどうにか出来る。つまり、ポイントの使用を最小限に抑えることが出来るのだ。

 畢竟、試験の焦点は最後の『リーダー当て』に向いている。リタイアして誰かにリーダーを交代するか、リタイアしたように見せかけてリーダーを続けるか。大きく分けてこの二つだが、前者の場合、『誰に』交代するかも重要な部分だろう。そこにクラスの意見を反映するのか、それとも先生方からランダムに選んでもらうのか、更にこの二つに分かれるわけだ。

 そして、安定を取るならランダム一択だ。これでリーダーを当てられたら、それこそ『不運』でしかない。

 これらの情報は、既に全クラスの生徒に共有されている。故に、この状況でいがみ合うことこそバカらしい、というものだ。――まあ、だからこそ暗躍するには打ってつけなのだろうけど。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

「はあっ!」

「チィッ!」

 

 私たちが浜辺で身体を休めているその先では、龍也君と桔梗ちゃんがぶつかり合っていた。

 事情を知らなければ『暴力行為』として受け取られるのかもしれないが、実際は『特A級の達人級』の監督下に置いての他流試合だ。許可が出ている以上、学校側も文句は言えない。

 これが一種の名物と化しており、先生や生徒たちが見物しているのが実情だ。

 テレビで見る『スポーツの試合』よりもリアリティがあって――あらゆる意味で現実味がない。

 そのギャップが色々と突き刺さるのだろう。この環境ではやれることが限られていることもあってか、非常に観客が多い。日毎に対戦カードが変わることもあってか、尚更に。

 まあ、私と有栖ちゃんは試合には不参加だが。

 改めて今の一幕を説明すると、龍也君が発勁を放ち、それに気付いた桔梗ちゃんが躱した形になる。

 さりとて、放たれた発勁は即座に消えるわけではない。その軌道に沿って砂が舞い上がり、海が断ち割られるのだ。

 発勁が不可視であることも相俟って、これで驚くな、と言う方が無理である。

 

「フッ!」

「なんの!」

 

 今度は桔梗ちゃんが一足飛びに距離を詰めて攻撃を繰り出した。……夏さんの指導で万遍なく鍛えられている桔梗ちゃんだが、肉体面では、より『脚力』に重きを置いている。しかし、どちらかと言えば、の話であって、決して拳が弱いわけではない。

 繰り出されたのは、中国拳法は劈掛拳の一手、『烏龍盤打』。体ごと回転させて手に気血を送り硬質化させ、そのまま手刀、もしくは掌打で叩き潰す技である。

 対し、龍也君は掌打でそれを迎え撃った。打撃においては基本とも言える技だが、龍也君の流派では些か趣が異なるらしい。龍也君の修める『龍技』では、あらゆる技に氣が練り込まれているのだ。

 遠心力やら何やらを加えて放たれた烏龍盤打とただの掌打では、如何に性差の壁があれど、普通に考えれば掌打が圧し負けるのが道理である。――しかし、結果は拮抗。練り込まれた氣が、不足分を補っているのだ。

 二人を中心に衝撃が奔り、砂と海水が巻き上がる。その光景が、今の一撃の威力のほどを物語る。

 そして激突したのも刹那。二人は即座に距離を取る。

 

「つうかさ、アンタのそれ、ホントに反則なんだけど」

「そう言われてもな」

 

 桔梗ちゃんが目を細めて文句を言い、龍也君が困り顔で頬を掻く。

 二人の流派には『勁』という共通項こそあるものの、ほとんどは別物だ。他流であるからして、それは別におかしくはない。おかしいのは、勁の根幹――『き』にあるらしい。

 桔梗ちゃんを始め、広い流派で使われているのが『気』。

 対し、龍也君の流派で使われているのが『氣』である。

 漢字の違いだけかと思えば、実はそうでないようだ。使い方はだいたい共通しているのだが、それを使うための『技術』という点で、大きな隔たりがあるらしい。龍也君の技を実際にその身で受ければ、そのことが否応なく理解出来る。

 例えば、『陽の龍技・玄武の型』が一手、『雪蓮掌』。体内で練った凍気を乗せた掌打であり、雪中に咲く睡蓮の姿を模しているのが名の由来らしいけど、受ければ実際に冷たいのである。受けた際は手加減してもらったから威力はそれほどでもなかったけど、凍えるほどに冷たかったのは間違いない。

 龍也君の技には、そんなのが幾つかあるらしいのだ。『五行思想』やら『言霊』やら、色々な考えが組み込まれている流派であり、それを色濃く今に残している流派ということだ。

 オカルトの一言で切って捨ててしまえばそれまでだが、陰陽師やら妖怪やら、かつてはそれが普通に存在していたのだ。現在では理論付けて大半が否定されただけで、その実際は不明なのだ。

 だからこそ、達人級の中には龍也君に――その流派に注目している者も少なくないのだとか。

 流派というのであれば、龍園君のそれは龍也君と対をなすらしい。源流は同じだが、異なる方向性に重きを置いた技。それ故に『陰』の名を冠するとか。

 そして『陰』と『陽』では、圧倒的に『陰』の使い手が多いのが現状らしい。……師匠のお話によると、だが。

 まあ、龍也君の技量について不満を述べた桔梗ちゃんだが、龍也君から『氣』について学んでいるのも事実である。正確には、師匠も含め、道場の全員が学んでいる。

 それで即使いこなせるようになったわけではないが、人によって部分的には使うことが出来ている。それは私や有栖ちゃんも同じである。

 多分に感覚的なところも大きいが、現代まで色濃く伝えているだけあって、理論の類も他より揃っている。その分だけ会得しやすいのは確かだ。

 その一方、使えるようになってみると、その奥深さに畏れ入る。

 そも、『神氣』や『仙氣』などという言葉があるくらいだ。その人の適性と修め具合によっては、それこそ魔法のようなことが出来ても不思議はないだろう。

 また、『才気煥発』という言葉があるが、龍也君によると、無意識的に氣を行使している人を指してもいるんじゃないか、とのこと。……確かに、そう言われれば否定は出来ない。

 有体に言って、氣は限りない『万能性』と『普遍性』を有している。それだけに、容易に使いこなせはしないのだ。

 武術と同じである。才能、修練の内容、それに費やした努力と時間……あらゆるものが形となって表れる。

 畢竟、氣を学び始めたばかりの桔梗ちゃんと、長らく修練を重ねてきた龍也君で差があるのは、至極当然のことなのだ。

 

「だいたい、それを言ったらこっちも同じことを言うぞ? 流派の違いもあるから完全比較は難しいにせよ、その齢での習得状況こそ反則だろ」

 

 そして、今度は龍也君が同じことを言い返した。

 奥深いのは『武術』も同じである。その点において、幼い頃から谷本夏という師に学んでいた桔梗ちゃんは、確かに『反則』と言ってもいいほどの技術を身に着けている。

 

「それこそ、文句を言われても困るわよ。相応の努力と時間を費やしているんだから」

 

 龍也君の言葉に対する、桔梗ちゃんの返答がこれである。

 まあ、言ってしまえば『どっちもどっち』だ。互いが互いに、隣の芝生が青く見えているだけなのだ。

 

「やめるか」

「やめよっか」

 

 そして、そんなことは二人とも承知である。

 故に、決着が付かぬままに二人は拳を引いた。

 それが正解だろう。これ以上感情に吞まれてヒートアップしていれば、被害は甚大なものとなった筈だ。――まあ、実際にはそうなる前に師匠たちが止めるだろうけど。

 実力者としては、引き際の見極めも重要な要素だ。そして、それを実行することも。

 明確な決着が付かなかったことに、外野から少しばかりヤジが飛ぶ。即座に周りから睨まれて黙らされていたけど。

 内心で溜息を吐く。正直、私と釣り合うレベルの相手が欲しい。師匠も常々ライバルの重要性を説いている。

 しかして、現実には難しい。『武術家』としては未だペーペーに近い私だが、それでも、学んでいるのは『武術』なのだ。――世に広まっている『武道』ではない。

 かてて加えて、師匠が『哲学する柔術家』の異名を持つ岬越寺秋雨である。

 この二つの事実が、希望を難しくしているのだった。

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