ようこそ、逸般人たちのいる教室へ   作:山上真

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30_合宿後のひととき:01

 無人島合宿特別試験の結果は、物の見事に分かれることとなった。

 一位がDクラス、二位がCクラス、三位がBクラス、四位がAクラスだ。見事なまでのクラス逆転現象が起きている。普通に考えて、これは一クラスが狙って起こせるものではない。間違いなく全クラスの有力者が噛んでいる。……正直言って、これで作為を疑わなかったら正真正銘のバカだろう。

 

「んで、どういうことだよ全総? この取ってつけたような結果、お前だったら何か知ってんだろ?」

 

 そして、どうやら我がDクラスにそこまでお気楽満載なバカはいなかったようだ。この数ヶ月で、緩やかながらにも成長していた、ということか。

 俺を問い詰めている、Dクラスに名高き三バカの一人、池を見やりつつ、そんな感想を抱く。

 誰が発起人か知らないが、池の周りには須藤や山内、本堂の姿もある。しかし、当然ながら女子の姿はなく、正直言ってむさ苦しい。……ラウンジでの優雅なひとときが台無しだ。

 

「とりあえず落ち着け、お前ら。店に迷惑だ。……キチンと説明はする。――するが、今すぐじゃない。多かれ少なかれ、気になる奴が出るのは分かってたからな。今頃は他の奴が先生方と交渉してるよ」

「交渉って、何をだよ」

「全クラス、全生徒を収容出来るような部屋――大会議室とかの貸し出し」

 

 俺の言葉に、分かりやすく『?』を浮かべるコイツ等だったが、取り敢えずは落ち着いてくれた。全員が手近な椅子に着席する。

 

「今の時点で言えることがあるとすれば、この結果は想像通りの出来レースだってことだ。

 試験初日、響の取った行動をきっかけにして、試験の様相は一変した。俺たちの方針もそうだが、学校側の意図からも確実に外れただろう。……まあそれを言うなら、道場の先生方が関わって来た時点で傾向はあっただろうが。

 試験ポイントの使用は最小限に、クラス関係なくワイワイガヤガヤ。おかげで、話し合いの場を持つのに苦労はなかったな」

 

 そこまでを告げて口を閉じる。これ以上は今の時点で教える気はない。

 俺の態度でそれを察したのだろう。誰からともなく立ち去っていく。

 

「これで少しでも考えてくれたらいいんだが、望みは薄いだろうなぁ……」

 

 溜息を吐きつつ、俺はコーヒーの残りを飲み干した。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 夕食後。

 借り受けた大会議室には、殆どの生徒――どころか先生の姿もあった。まあ、強制でないため不参加の生徒もいるが。

 受付役の私たち女性陣――Aクラスからは神室さん、Bクラスからは私、Cクラスからは有栖さん、Dクラスからは桔梗ちゃん――は、先生に用意してもらった一年全クラスの生徒リストと照会しつつ、来場した生徒にチェックを入れていく。……正直、神室さんが引き受けてくれて助かった。

 自由参加なのにわざわざこんな真似をしているのにも、キチンとした理由がある。有体に言って、この説明会に参加しない=興味がない、ということだ。まあ『興味がない』にも様々な理由はあるだろうが、周りからの評価を加えれば大凡の見当は付けることが出来るだろう。

 例えば高円寺君。唯我独尊の評価が高いが、同時にその実力の高さも認められている。であるならば、説明を聞くまでもなく理解しているから興味がない、という可能性が高い。

 こんな感じで、大雑把にでも振り分けることが出来る。見当も付いてないのに、或いは他に優先すべきことがないのに、ただ『面倒だから』と参加しないのでは、最悪と言っていい。正直、この学校に向いてないとすら言えるだろう。どのクラスであれ、そんな生徒は足手纏いにしかならず、遠からず落ちぶれていくことだろう。

 これから先、クラス対抗が本格化していくのだろうが、その一方で他クラスとの共闘を余儀なくされる可能性もある。普通に考えて、体育祭とかはモロにそのパターンだろう。そんな時、この情報を持っているかどうかが、趨勢を分ける可能性だってあり得る。

 こういった細々としたことに対して、常日頃から目を向けているか。そういう、注意力の積み重ねによっても、『実力』は形成されるのだ。

 そして私は、生徒会の一員として、是非とも提案してみたいことがある。ぼんやりと思ってはいたのだが、先の無人島試験で『外部』の意思が通ったことにより危機感が刺激された形になる。

 無論、その『外部』――岬越寺秋雨さんと谷本夏さん、引いてはその母体と思しき『武術家連合』も折れるところは折れ、尤もらしい『名分』を用意してはいた。それによって参加が叶った事実があるのは否定出来ない。

 しかしそれは、『尤もらしい「名分」を用意することさえ出来れば、「外部」の意思が通る』ことを意味している。……いや、正直、敷地内に色々な施設がある時点で、改めて考えるまでもないことではあったのだ。――ただ、私たちの日常生活において、スーパーやコンビニ、娯楽施設等々は、『あまりに身近過ぎる』こともあって、そこまで考えが及んでいなかったのだ。

 日々、種雑多な情報が流れてくる。それは私たちの誰もがそうだろう。或いはテレビで、或いは新聞で、或いは人づてに。

 そしてそんな情報によると、翔君周りは特にキナ臭い。道場については言うまでもないが、綾小路君と全総君の過去もそうだ。断片的な情報だけでも、厄介事の臭いがプンプンする。

 そういう『厄介事』が、私たちに押し寄せる可能性は――ゼロではない。

 未だ仮定に過ぎず、想像に過ぎず、有体に言って『被害妄想』に過ぎないだろう。

 しかし、いざそれが押し寄せた時のことを思えば、ジッとしてなどいられない。私と翔君――と、ついでに友だち――の青春を邪魔するな、という話だ。

 だからこそ、打てる手は打つ。私はこの旅行が終わったら、生徒会を通して『上』に案件を提出するつもりだ。

 とはいえ、正直、私の案件が通るかどうかはどっちでもいい。そりゃあ通るのが一番だが、通らなくても『それを審査する時間』は稼ぐことが出来るからだ。余裕が無ければ、余所事に構ってなどいられないのが必定である。

 まあ、案件を通すにも、審査の時間を稼ぐにも、説得力はあればあるだけ良いのも事実。……正直、今回のコレもその一つである。私は思惑を伏せたままに尤もらしい理由を用意し、他クラスの同意を取り付けたのだ。まあ、その『尤もらしい理由』も、案件に関わる要素であることに違いはないのだが。

 

「それで、入場チェックをする本当の理由は何なんです?」

 

 隣の席に座り、Cクラス生徒の受付を担当している有栖さんが、空いた時間を見計らって質問を投げかけてきた。よく見れば、桔梗ちゃんも有栖さんの向こうから視線を寄越している。我関せずなのは、私の逆隣りに座る神室さんだけだ。

 

「言った理由に間違いはないよ。布石の一つであることも違いはないけどね。旅行が終わって学校に戻ったら、一つ案件を提出してみようかなって」

「なるほど。そういえば、帆波さんは生徒会役員でしたね。そういうことであれば、これ以上を訊くのは止めておきましょう。……楽しくなることを期待しますよ?」

「うっわ、めんどくさ……」

 

 私の言葉に、有栖さんと桔梗ちゃんは真逆の態度を示す。……神室さんは、またも我関せずだった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 訪れた大会議室は人がいっぱいだった。

 入室直後の受付はキチンとクラス別だったのに、席に指定はないらしい。文字通りの自由席だ。同じクラスで纏まっている生徒たちもいれば、別クラスの人と一緒に座っている人もおり、『お一人様』状態の人もいる。

 正直、私としては非常に困る。我ながら交友関係は非常に狭いし、どうしても『他人の眼』を気にしてしまう。ある種の強制が働けば、まだ諦めも付くのだけど……。

 そこまでを考えて、私は首を横に振った。こういう自分を変える必要があるのだと、理解も納得もした筈だ。そのためにも、自分から動く必要がある。――ただ、やっぱり怖いのも確かなので、つい見知った顔を探してしまう。

 最優先目標はわざわざ探すまでもない。何故なら、入り口で受付をやっていたからだ。しかし、だからこそ席に見当を付けるのが難しい。――いや、目を逸らすのは止めよう。この会合の目的、そして前方に他と違った形で席が用意していることを思えば、彼女はそちらに座る可能性の方が高い。

 

「もしかして席探してる? 良かったら俺と一緒に座らない?」

 

 そうしてキョロキョロしていると、男子から声をかけられた。同じクラスではないが、見知った顔だ。鐘鳴響君。無人島試験で初日から目立っていた生徒である。

 

「あ……う……」

 

 返事をしなくては、と思いつつ、上手く言葉が回ってくれない。覚悟が決まっていれば、こんなこともないのだけど。自己嫌悪を募らせつつ、改めて相手の顔を見た。そして、琴線に触れた。

 

「……あれ?」

 

 知っている。私はこの人を知っている。今よりずっと以前から。

 この空気もそうだ。前から覚えがある。

 

「もしかして、(イツキ)君?」

「ありゃ? 気付いてなかった? ……ま、いっか。改めて挨拶を。『樹』名義で雑誌モデルやってたAクラスの鐘鳴響です」

「あ、はい。『雫』名義でグラビアアイドルをやってました、Dクラスの佐倉愛里です」

「良い名前だね。改めてよろしく。……それでどう?」

「……あ。ご一緒してくれると助かります」

 

 そうして、私は樹君改め鐘鳴くんと相席することになった。

 言葉はナンパな感じだけど、それとは裏腹に邪なものを感じないのだ。正直、男子の中では綾小路君や全総君と並ぶほどには落ち着いていられる。連絡先の交換も済ませた。我ながら凄い進歩だと思う。

 鐘鳴君と出会ったのは、仕事現場が一緒だったのが最初だった。『写真を撮って、それを本に載せる』という点では、グラビアアイドルも雑誌モデルも仕事内容は共通している。そこへ、更に学生同士という共通項が重なれば、仕事現場がかち合ってもおかしなことじゃない。同じビル内の一室では私が、別の一室では鐘鳴君が、などということも少ないながらにあったのだ。

 まあ、私は『私』と『雫』を使い分けていたけど、どうも鐘鳴君はそうじゃないみたいだ。こうして近くにいて話していると、それを実感する。

 

「ところで、鐘鳴君は前じゃなくていいの?」

「いーのいーの。事前の話し合いには参加したけどさ、そん時に決まったわけよ。前に座るのは各クラスから二人ずつで、それは顔役とか纏め役ってことに。

 そりゃまあ、顔役と言われれば俺も否定は出来ないけどさ、纏め役って柄じゃないしねえ。

 俺がやる必要性があるならともかく、そうでないなら説明する気も湧かないし。――ま、それは相手によりけりだけど」

 

 私の質問に、鐘鳴君はそう答えた。

 割と人当たりがよく、私にも声をかけてくれた鐘鳴君だが、その根底は他人に対して酷薄なのだろう。より正確には、どうでもいい相手に対しては、だろうか。

 その一方で、その人のことを知らないからこそ『どうでもいい』と認識している可能性を自覚してもいるのだろう。だからこそ、表面的な人当たりを良くしている。

 簡単に言えば、沢山の相手と連絡先を交換するし、連絡が来た際には当たり障りなく接するけど、自分から連絡するのはほんの一握りだけ、みたいな。……そう考えてしまうのは、私の穿ち過ぎだろうか?

 

「ふぅん? うん、やっぱり良いね、佐倉ちゃんは。他人のことをよく見ている。余計なブランドに惑わされず、あくまでも一個人として相手を見ている。……その根底にあるものや理由がどうあれ、それは紛れもない『実力』だ。誇っていいことだと思うよ。

 幼い頃から色々と手を出して来たし、結果として名前が売れたりもしているが、俺は俺でしかないんだ。

 幼少時にフラれたことをトラウマにして、見返すために努力して、対外的な評価を得ても、自分ではメッキとしか認識出来ない、肝心な部分で自分に自信の持ててないただのガキ。今はトラウマを払拭することを目的に、新たな恋を探している真っ最中。だけど、やっぱり自分に自信が無いことに変わりはない。……それが、俺の認識する『鐘鳴響』という人間だ」

 

 鐘鳴君の自己分析は、周囲の評価とまるで違うものだった。彼ほどの『実力者』でも自信が無いことに驚くと同時、ひどくホッとしてしまう。それすなわち、彼もまた『人間』であることの証明だからだ。

 そして、その言葉を聞くに、無人島試験初日の行動には別の見方が出てきてしまう。

 彼の取った行動に対し、松雄君は『最悪を想定して行動したのだろう』と推測していた。それは文字通りの意味でそうなのだろうけど、鐘鳴君の心情もそうだったのだ。あの行動は余裕があるからではなく――余裕が無いことの表れ。

 無人島での生活に耐えられるとは思えず、だけど生活しなくてはならず、『学校の試験』という事実に一面の希望を見出し、出来る限りの『安定』を求めて行動した。……そういう見方が出来てしまうのだ。

 まあ私などは、先陣を切って行動することに『凄い』と思うしか出来なかったわけだけど。

 でも。そうか。

 

「同じ言葉を変えすけど、鐘鳴君も自分を誇っていいと思うよ。ううん、誇ってほしい。……無人島試験初日の行動。私はあんな行動を取った鐘鳴君を凄いと思ったし、今でもそう思ってる。――けど、肝心の鐘鳴君がそれじゃあ、私の思いは凡百なそれになっちゃう。

 私の我がままになっちゃうけど、それは嫌なんだ。だから、鐘鳴君には私の思いを受け取ってほしい。称賛を捨てないでほしい」

 

 気付いたら、私はそう言っていた。

 そしてそれは、私自身に向けても言っていた。

 そう、それが私と鐘鳴君の共通項。自分に自信が無いことに対する、鏡写し。

 自分と違って、けど共通する部分があるから落ち着ける。

 でも、それに甘えてるだけじゃあダメだとも思う。

 だから、私は変わりたい。変わろうと思う。変わる。

 そして、鐘鳴君にもそうあってほしい。

 たとえ互いに変わっても、きっとまた『共通項』は見出せる筈だから。

 互いにそれが出来る相手こそを、きっと本当の意味で『友人』と呼ぶのだろう。

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