ようこそ、逸般人たちのいる教室へ   作:山上真

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31_合宿後のひととき:02

 どうしよう? どうすればいい? まさか? 本当に?

 現在、私の心中ではその言葉ばかりがグルグルと渦を巻いている。

 正直、情報収集の一環として説明会に参加したのに、こんな目に遭うとは思いもしなかった。

 受付を済ませ、空いている席に座った。ただそれだけの行動。何らおかしなことではないだろう。

 幸にして不幸だったのは、前に佐倉さんと鐘鳴君が座っていたこと。そして、二人が会話を交わしていたことだ。

 無人島試験で実力の片鱗を示した鐘鳴君と、同じクラスとはいえ、外見以外には特に目を惹くところのない佐倉さん。この二人でどんな会話が弾むのか、気になって耳をそばだててしまっても仕方の無いことだと思う。

 その内容を耳にした瞬間、一つの情景が思い浮かんだ。今の今まで忘れていた光景。しかして、確かに自分のしでかしたこと。

 幼少期、私は同じ園に通っていた子供から告白のようなことをされた。ハッキリとは覚えてないので断言は出来ないけど、釣り合わない、だのと言った気がする。

 その相手が鐘鳴君だという保証は無い。だが、断片情報だけだと符合する。

 そもそも、不意にこんなことを思い出したことからしておかしいのだ。おかしいのには理由がある筈であり、その理由は断片情報から齎される過去の連想に他ならない。

 渦巻いた末、私は思い切って訊いてみることにした。もっと詳しく聞けば、或いは別人の可能性だってあるのだから。

 

「ちょっとごめんなさい。私はDクラスの堀北鈴音。そちらの佐倉さんと同じクラスになるわ。

 二人の話が聞こえてしまって、ふと気になったのだけど、もしてかして鐘鳴君は『○○園』の出じゃないかしら?」

 

 突然に私が声をかけたことに、二人は驚きを露わにした。その度合いには差があったけれども。

 

「そうだけど、よく分かったね。何か心当たりでも?」

「その確認のためにね」

 

 言って、私はどうにかこうにか記憶を引っ張り出して質問をする。

 その答えを聞く度に、少しずつ追い詰められる。細かな部分で覚え違いがあるけれど、多分に合一しているからだ。

 つまり、幼少期に私は鐘鳴君を振り、それに起因して鐘鳴君はここまで成長してしまったのだ。……後悔先に立たず、とはこのことである。

 

「ごめんなさい。おそらくだけど、幼少期に鐘鳴君を振ったのは私だと思うわ」

「………………マジで?」

「マジで。まあ、私自身もうろ覚えなのだけれども。そもそも、質問をしたのも二人の会話が聞こえたことで、幼い時のことを思い出したからなの。

 その結果が『今』ということ。既に『釣り合い』の意味が逆転してしまっているのよ。……本当にごめんなさいね。貴方の努力を無駄にしてしまったような女で」

 

 鐘鳴君は、努力次第で人はここまで昇り詰められる、という生き証人だ。

 私も努力はしてきたつもりだが、彼には遠く及ばなかった、ということでもある。だからこそ、ここまでの差が開いている。

 

「そっか。そうだったんだ。……うん、良かったよ。自分の鑑定眼に自信はなかったけど、今を以て払拭された。俺の初恋は、決して間違いじゃなかったんだから」

「ちょっと待ちなさい。どうしてそうなるのよ?」

「うん? そんなの、君が『良い人』だからに決まってる。それ以外に何があるってのさ?

 まあそれはそれとして、連絡先の交換と、改めてよろしくしてくれると嬉しいね」

 

 それが鐘鳴君の言葉で、こうも明け透けに言われると、私も認めるしかなかった。

 私が至らないのは事実だが、全てがそうでないのも事実。また、自己評価と他者からの評価が別物なのも。

 

「まあ、そっちがそう言うのであれば、ありがたく受け取らせてもらうわ。……私はこんなところで終わらない。まだまだ上を目指す。そのために、貴方も糧にさせてもらう」

「良いね。頑張る女の子は美しい。俺も負けてられないって気持ちになる」

「……やっぱり、金田君って言動が軟派だ」

 

 ボソリと佐倉さんがツッコんで、説明会は開始を迎えた。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 まったく、一之瀬の奴は何を考えているのか?

 いや、まあ、これでも入学以来同じクラスで数ヶ月を共にしているのだ。何となくには読めている――と思う。

 対外的な理由としては、『生徒会の一員だから』で通すつもりだろう。確かに理由としては尤もで、可能な限り中立を保とうとするのは妥当と言える。こういった会合の開催に協力はしても、前面には立たないのも筋が通る。――その裏で何を企んでいるかは置いておいて。

 前に用意された席は、各クラスから二人分ずつ。前に出る以上、必然的にその人物は各クラスの『顔役』、『纏め役』として見られる。或いは、二人ずつ出すことからして『リーダー』と『参謀』という見方も出来るだろう。

 一之瀬が出ないのは仕方がない。本心がどうあれ、対外的な理由だけでも十分に納得がいく。むしろ、恣意の強い生徒会役員など、頼れるか分かったものじゃない。なので、そこについては諦めも付く。

 白浜が出るのは分かる。正直、Bクラスどころか一年全体で見ても、その実力は飛び抜けているだろう。無人島で見せた身体能力は言うまでもなく、芸術分野でも名が通っており、学力も上々。テストは各科目で最低でも90点以上をキープしている。Bクラスから顔役を出すのなら、白浜に白羽の矢が立つのは十分に納得出来る。

 一人決まって残るは一人。そこで、何故俺を前に出すのか。誰かを出さなくちゃならないのは分かる。付き合いからして俺が指名されるのも分からないではない。――分からないのは、何故俺をリーダーに推すかだ。

 いや、それも違う。本当は分かっている。分かっていて――認めたくないだけだ。

 無人島試験の最中、白浜と一緒にいるところで一之瀬から誘いを受けた。それだけなら、まあ珍しくはない。普通に受け入れて後を付いていけば、そこにいたのは他クラスの顔役や実力者である。その時点で嫌な予感はしていたのだが、訊けば『試験の落としどころを話し合う』と言うではないか。つまり、一之瀬の誘いを受け入れた時点で防ぐ術は無かった、ということだ。

 基本、白浜は優しすぎる。譲れる部分は譲る傾向が強いのだ。まあ、譲れない部分に差し掛かれば強硬姿勢を取るだろうが、いつ、どこで、それが発揮されるのか、という問題が付きまとう。つまり、性格面で圧倒的にリーダーに向いていないのだ。――と言うよりかは、この学校のシステムとそぐわな過ぎる。これ以上ないほどに『仁君』としての素養はあるのだろうが、この学校でそれを行えば途端にクラス落ちだ。それでも、本人は持ち前の能力でどうとでも乗り切れるだろうが、巻き込まれる側は堪ったものじゃない。

 リーダーとは、果断とした対応が取れてこそ。本人の能力が足りなくとも、周りが支えてくれるならそれで良い。さりとて、ホイホイと受け入れるだけでは意味が無い。それを、一之瀬――と、ついでに白浜――は俺に求めているのだ。

 正直、胃が痛くなってくる。……まあ、こうして前に座っている以上は、諦めて受け入れるしかないのだが。

 胃痛と戦っている内に、開始時間を迎えた。片隅からこちらを見やる一之瀬が妬ましい。

 Aクラスの代表は葛城と松雄、Bクラスは俺と白浜、Cクラスは龍園と坂柳、そしてDクラスは全総と櫛田だ。

 

「静粛に願う。……さて、時間を迎えたので説明会を始めたいと思う」

 

 メガホンを片手に葛城が開始の宣言をした。

 

「ここにいる以上、皆は無人島試験の結果について気になっているものと判断する。そして察しの通り、アレはこうして前にいる俺たち+αで話し合って決めたものだ。その理由は様々にある。順に説明していこう」

 

 そこまでを言って、葛城はメガホンを置いた。一人で延々と喋っていては喉に来る。それを防ぐための二人体制だ。なお、メガホンは各クラスに一つずつ貸し与えられている。

 順番通り、次は俺がメガホンを取る。

 

「まず第一の理由は、開始早々から各クラス――と、恐らくは学校側も――の思惑が崩れたことだ。そこについては今更説明するまでもないと思う。……そう、Aクラスの鐘鳴に端を発する一連の行動だ。

 リーダーを探る必要が無く、悟られる心配をする必要もない。その事実は、大胆な行動を許容するには十分な土壌を生む。

 結果、各クラスの占有スポット数と用意されていた救済処置でこそ不均衡が生まれたものの、各クラスのリーダーが判明していることもあって、物々交換に繋がる流れを生み出した。そうすることで、どのクラスもポイントの消費を最小限に抑えることが出来るからだ。

 それにより、元々想定されていたであろう『サバイバル合宿』は、数段と甘い『アウトドア合宿』へと成り下がった。……各占有スポットから水やら食材やらを回収する手間があるとはいえ、食事を用意する必要があるとはいえ、点呼に参加する必要があるとはいえ、言ってしまえばやるべきことはそれしかない。実際、自由時間の方が有り余ったし、本来のそれより余裕があっただろうことは否めない。この表現は間違いではないと思っている」

 

 そこまで言ってメガホンを置いた。

 俺の言葉に、大多数が頷いている。リーダー探し、この一点が正常に機能しなくなっただけで、生徒たちは大分余裕を持って行動することが出来ていた。

 それを見つつ、次にメガホンを持ったのは龍園だ。

 

「しかし、だ。試験中はそれで良いのかもしれねえが、試験後を見据えると全然良くはねえ。各クラスほぼ均等にCPが入って、一見すれば全員が万々歳かもしれねえが、CPの差は全然縮まってねえんだからな。

 俺たちはそれを危惧した。そしてそれは、Aクラスも同様だった。

 何故か? あくまでもAクラスは、初動で差を付けただけだからだ。確かにそれも『実力』だ。『地力』の表れだ。だがな? 言ってしまえば、当たり前のことを当たり前にやっただけ、でしかない。こんな『特別試験』なんてものもあれば、Aクラスであることに胡坐をかいて他クラスの生徒を見下している奴もいる。本人がそれに見合うだけの『実力』を有しているのならまだしも、軽く埋没する程度の『実力』しか有してねえのにだ。

 Aクラスの統率役である葛城の危惧は相当だろうさ。クラス内には油断と慢心が蔓延し、加え、鐘鳴の独断行動によって自分の統率力不足が露呈したばかりなんだから尚更だ」

 

 龍園がメガホンを置いた。

 他クラスの、それもCクラスの『暴君』である龍園から語られるAクラスの内部事情。……危機感のある者なら悟るだろう。これがAクラスの意図せぬところで掴まれた情報であることに。平たく言えば、Aクラスは弱みを握られていたのだ。

 事前の相談において、これを目の前で語られた葛城の心境は如何ばかりか。危機感を煽られ、否定しきれないのも事実。強気に突っぱねることは出来ただろうが、大ゴケする可能性も否めない。それこそ、『桶狭間の戦い』の今川氏や、『野良田の戦い』の六角氏のように。……この二つは戦国時代を象徴する『下剋上』であり、同年に起こった出来事でもある。

 流石に戦国時代とまでは言わないが、我が校が『群雄割拠』を彷彿とさせるシステムを取り入れていることは否めない。ある程度の学さえあれば、下剋上も視野に入るだろう。される側か、する側かは置いておいて。

 古来より、地力の勝っている側が破れることは起こり得るのだ。その大半において、地力が勝っているが故の『油断』や『慢心』が絡んでいるのは間違いない。しているつもりがなくても、結果としては『していた』ことになってしまう。負けて初めてそのことに気付き、気付いた時には既に手遅れ、というパターンが大概だ。

 それを踏まえると、この先のクラス闘争でも下剋上が実現する可能性の方が高い。

 そんな、葛城が抱いたであろう危機感をこの場で暴露したのには、もちろんのこと理由がある。それこそが、葛城が提案を受け入れるに当たっての条件だったからだ。

 正直、『下剋上』云々と言っても、やはり可能性に過ぎないのも事実。Aクラスによる先行逃げ切りを許してしまう可能性もまた否めない。そして、それこそがB~Dクラスの防ぎたい事柄で、葛城もすぐに理解が及んだ。

 一強状態になるという最高は望めず、現状維持という選択も、最悪が起きた場合を鑑みればリスクの方が勝る。ならば、仕切り直しこそが最善。……葛城はそう判断し――それこそが俺たちの望むことであった。

 今回の試験、CPにマイナスの影響は無いのだ。あるのは、あくまでもプラスだけである。だからこそ、今回の試験で集中砲火を食らったところでダメージは少ない。

 完全な均一にはならないが、誤差の範囲には収まる。また、ここで裏切りを働くようならば、最低限の信も置けない。そうなれば、他クラスから集中砲火を受けることは目に見えている。卒業間近ならばまだしも、現状でのそれは避けるべき事柄だ。

 全総がメガホンを取った。

 

「だから、葛城はB~Dクラスの提案を受け入れた。CPとは逆順に試験ポイントを振り分けることで均衡状態を作り出す、という提案にな。

 CPにダメージを受けることなく、意識改革を促せるんだ。AクラスやBクラスにとっても十分に旨味はある。そもそも、地力が勝っているからこそのAクラスなんだからな。

 そしてCクラスやDクラスにとっても、大量CPの獲得という旨味がある。こっちはそもそも地力が劣っているからな。迫れる時に迫っておきたいのが実情だ。地力が足りないからって機会を見逃してちゃあ、いざという時には手遅れになりかねない。

 そう。俺たちにとっては、これからが『本番』だ。弱けりゃ落ちぶれる一方だ。最悪は退学だ。――それが嫌なら、当たり前のことを当たり前に熟しつつ、己が才を示せ。それによって互いに切磋琢磨することを、俺たちもまた望んでいる。

 面倒だが、俺が代表して言わせてもらう。……既に才を示している『実力者』よ、未だ才を示していない『眠れる強者』よ、成長するための糧となれ!」

 

 そして、全総もメガホンを置いた。

 ああ、終わった。

 そして始まってしまった。

 そう。

 これは一年全クラス合同の『宣戦布告』に他ならない。

 ここからが、本当の意味での『クラス闘争』の始まりだ。

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