艦隊これくしょん─黒き破壊獣と原初の爵銀龍─   作:コウハクまんじゅう

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未開の島

 

 

 

 

某年某日 小笠原諸島沖 未開の島にて

 

 

 一寸先も見えない闇の中、月明かりの光のみを頼りに海上を進む。波の音と自分たちが進む音のみが響き渡る。夜風と水しぶきが頬に当たり心地が良い。

 

「もうすぐ目的地に到着する。皆気を引き締めろよ」

 

 リーダーらしき人物の声が鋭く無線から聞こえる。それに静かに了解の意を返すと艦隊は速度を上げ

た。周りからは緊張からかピリついた空気が伝わってくる。

 

 

「ッ!あれだ。周囲への警戒をしつつ上陸するぞ。」

 

「「「了解」」」

 

 

 

 

 島へと上陸した部隊は素早く展開し、周囲を探索した。拠点を作れそうな場所を探し、資源なども無いか調査する。鬱蒼とした夜の森林は底しれない不気味さがあり、少しの物音も敏感に捉えてしまう。

 

「ふむ…拠点が作れそうな場所も見つけたし、今日はここで野宿か…」

 

 そう呟いたその時。

 

 

「■■■■■■■■!!」

 

 

「ッ!?何だ!?」

 

 突然、恐ろしい鳴き声のようなものが響き渡り、同時に凄まじい衝撃と轟音が加わった。

 

「これは一体!?」

 

 混乱しながら状況を把握しようと仲間に訊ねるが、仲間も何が何だかわからないといった様子だ。とにかく一旦島を離れると判断を下し迅速に行動を開始した。

 

「まったく、何だってんだよ…」

 

 苛立ちながら離脱をしようとするが

 

「えっ…うわぁああ!?」

 

 

 突然何かが爆ぜ、巨大な炎が巻き起こり、真っ黒な煙が天高く立ち上っている。周囲の空気は熱に歪み、息をするたび喉が、肺が、焼けるようだ。その巨大な煙の下で2体の怪物が睨み合っていた。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

「▓▓▓▓▓▓▓▓!!!」

 

 怪物達が同時に咆哮した。耳をつんざく大音声に目眩と吐き気を催す。一方は金属音が重なり合ったような独特な咆哮と、もう一方は腹に響く重低音の咆哮。

 

「なんなんだよ…これは…」

 

 非現実的な光景に、私はただそう呟くほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「『小笠原諸島沖新設鎮守府』……かぁ、これはまた随分と遠い所だな」

 

 船に揺られながら渡された資料を読みながら思わず呟く。窓の外には果てしなく碧い海が広がっており、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。もうかれこれ一週間ほどずっとこの景色だ。いい加減飽きが来ているのだが、文句を言った所で変わるわけでもないのでこうして資料に穴が出来るほど目を通している次第だ。

 

「でも俺よく提督になれたよなぁ…配属先も激戦地じゃなくてよかった…」

 

 おっと、申し遅れた。俺の名前は立花徹。つい最近提督になったばかりの新米だ。提督になった経緯を説明するとそう長くはない。大学を卒業してからやることもなくフラフラしていたのだが、ふと目についた『提督募集』のポスターが目に止まり応募したらあっさり採用。最初は気味が悪いほどトントン拍子に進んでいく話に不信感が募っていたが、海軍の服と帽子を渡された事で正式に採用されたのだと実感が湧いた。

 

 そして提督になるにあたっていくつかの諸注意を受けた後に配属先が記された資料を渡され、そこで自分は小笠原諸島沖に最近作られたという鎮守府へ配属される事を知った。そして今現在俺は船に揺られて鎮守府へと向かっている。

 

 とまぁ、経緯はこんな所だ。今でもこんな簡単に提督になれた事が信じられないが、この海軍服が採用されたことを物語っている。

 

「現在、深海棲艦とは各地で拮抗しており、海軍の見解では…」

 

 テレビからニュースが流れてきた。どうやら前線の様子と海軍の見解を特集しているらしい。

 さて、ここまで提督だ何だと色々説明してきたが、何のことだかさっぱりだろう。加えて今しがたテレビから出てきた「深海棲艦」という単語。傍から見れば奇妙なことだらけだが順を追って説明しよう。

 

 まず数年前、突如として深海棲艦という異形の怪物が海に出現し人類は瞬く間に制海権及び制空権を喪失した。各国のシーレーンは完全に破壊され、世界は騒然となった。この事態を重く見た各国は軍を派遣し深海棲艦の討伐を試みたが、結果は返り討ちに合い被害が増えていく一方であった。

 

 世界は未曾有の惨禍に見舞われ、世界滅亡は秒読みだと思われていた。しかし救世主もまた突如として現れた。異形の武装を纏い海を荒らす深海棲艦と対を成すようにして現れた救世主…その名は「艦娘」。

 

 彼女達は深海棲艦を瞬く間に蹴散らし、人類の制海権をある程度取り戻してくれた。人類は差し伸べられた救いの手を喜んで握り、彼女達と協力して今日まで深海棲艦と戦ってきた。しかし最初の方こそ破竹の勢いで勝ち進んだものの、次第に戦局は低迷し、深海棲艦側も強力な個体が次々と出現したのが決定打となって戦局は完全に停滞した。

 

 戦局が停滞するということは戦が終わらないということ。ニュースではやれ「拮抗」だ何だと騒いでいるが、それはひとえに国民の戦意を喪失させないための情報操作のようなものである。

 

「一体いつになったらこの戦は終わるんだろうな」

 誰に言うでもなく呟く。情報操作の事は俺自身海軍に入ってから他の人が話しているのを聞いて初めて知ったことである。これでも他人の話に耳をそばだてるのは得意なもんでね。

 

「さぁ…それは何とも分かりませんね…」

 

 おっと、独り言のつもりだったが誰かいたらしい。声の方へ目を向けると、セーラー服を身にまとった少女がいた。

 

「吹雪、見張り交代よ。さっさと準備しなさい?」

 

 ドアが開き、銀髪のセーラー服を来た少女が入ってくる。吹雪、と言われた少女は「あ、うん。わかったよ叢雲ちゃん」と言って部屋を出ていった。

 

「はー、疲れちゃった。まったく、なんたって私が護衛任務なんか…」

 

 ぶつくさ言いながら椅子に腰掛け、水を飲んでいる。

 

「お疲れ様。」

 

 労いの言葉をかけると少女は片手を上げて応えた。

 

「あんたも苦労するわね〜、こんな辺鄙な所に配属だなんて」

 

 いくら新米と言えど、こっちは提督だと言うのに尊大な態度を取る目の前の少女…叢雲。まぁそれを咎める気はさらさら無いし、キャリアで言えば向こうのほうが遥かに先輩だからあまり文句等は言えないのだが。

 

「はは、新米なんてこんな扱いさ。しかも俺が配属される所は激戦地じゃないし、何より『鎮守府』というよりかは『観測所』として扱われているらしいから」

 

 そう。今回俺が配属される鎮守府は、どうやら『鎮守府』というよりも『観測所』の扱いらしい。資料を渡された時にそう告げられた。

 

「観測所?何それ。こんな所に観測するもんなんて何もないわよ?」

 

「俺もそう言ったんだがはぐらかされてしまってね」

 

「あんた騙されてんじゃないの?そもそもあんたつい最近採用された新米らしいじゃない。採用されて即配属、しかも辺境の地なんて怪しさ満点じゃないの」

 

 おおう、かなりズバズバ言ってくるお嬢だ。ここにいるのが俺じゃなかったら即刻処罰ものだろう。

 

「ま、あたしには関係無い事だし、せいぜい頑張りなさい。ただ、用心することね」

 

「……ああ。」

 

 言いたいことを言って満足したのか、それからは髪を弄りながらテレビを見ることに興じている。新米とはいえ提督の俺にここまで物申す事ができる強さと、注意を促してくれる面倒見の良さを垣間見た気がする。ここまで尊大だと良い意味で安心できる。

 

「外の空気を吸ってくる」

 

 とだけ告げて外に出ると、遠くに島の影が見えてきた。おお、ようやく到着かと背筋を伸ばして周りを見ていると先程出ていった少女…吹雪が見えた。頑張っているなぁと思いながら見ているとこちらに気づいたようで綺麗な敬礼をされた。それに敬礼を返すとまた周囲を警戒し護衛に戻ったようだ。

 

 生真面目だなぁと思いながら俺は再び島へと目を向け、到着を今か今かと待ち望むのだった。

 

 

─────────────────────

 

 

 

「ここが俺の配属される鎮守府…」

 

「やっと着いた…」

 

「ん〜、陸地を見るのは久しぶりね…」

 

 島に上陸して俺は荷物を持って埠頭に立っていた。そばには護衛をしてくれた吹雪と叢雲が控えている。二人とも伸びをして体をほぐしている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 島は中々大きく、鬱蒼とした森が広がっている。まさに「未開の地」と言った様だ。島のちょうど半分の境目に鎮守府は置かれている。新設されたと言うだけあって外見は綺麗だ。綺麗、なのだが…

 

「…何か隠されている感じがするな。まるで外敵に見つからないようにしてるみたいだ」

 

 そう。この鎮守府は森の中に建てられており、かなり目立たないようになっている。深海棲艦に見つかりにくいようにしているとも考えられるが、ここは戦略的にもさほど重要ではないし資源もさほどない。よって襲撃される可能性は低いのだが…

 

「やっぱ何か訳ありかな。」

 

 採用されたばかりでまだ何も知らない新米提督、本土から遠く離れた辺鄙な島、鎮守府ではなく観測所、そしてこの隠しよう…怪しすぎる材料が揃いすぎてフルコースが出来そうだ。しかしながら今更逃げ出すことなどできるはずもなく、とりあえず中に入ることにした。

 

「さーて、早速中に…うん?」

 

「?どうかしましたか?」

 

「……いや、何でもない」

 

 今一瞬なにか見えた気がするが…気の所為か?何やら紅い蝶のような物が飛んでいた気がするが…まぁきっと見間違いだろう。長旅で疲れているしな。そう誤魔化して俺は今度こそ鎮守府に入ったのだった。

 

 

 

 鎮守府内も、新設というだけあってかなり綺麗だった。設備も問題なく作動し、ベッドもフカフカで居心地がいい。これら全てが今日から自分の物になると考えるとそれだけで胸が踊った。

 

「っとと、忘れてた」

 そうつぶやいて俺は急いで電話を探した。というのも、島についたらまずは大本営に着いた事を報告せよと指示を受けていたからだ。

 

「電話電話…あった!」

 

 俺は電話を見つけると、電話番号が書かれたメモを取り出してその番号に掛ける。

 呼び出し音が何回か鳴ると繋がり、俺は小笠原諸島沖鎮守府に着いたと報告をした。

 

「おお、そうかそうか!無事に着いたか。長旅ご苦労、立花提督。」

 電話に出たのは、俺に資料を渡してくれた大将だった。俺は労いの言葉に感謝した。

 

「ハッハッハ、むしろ感謝するのはこちらの方だ、立花提督よ。よくぞ辺鄙な島に嫌な顔一つしないで赴いてくれた。」

 さて、と。労いの言葉も程々に大将の声色が気の引きしまった真剣な声色になった。思わず俺も背筋が伸びる。

 

「立花提督よ。今回君が着任した鎮守府及び島には色々と複雑かつ面倒な事情が絡んでおってな…これより話すことは国家機密だ。決して外部に漏らしてはならんぞ。」

 

 国家機密、という言葉に一瞬頭が白くなり嫌な予感がしたが覚悟を決めて話を聞いた。

 

「うむ。実はその島には…」

 

 話を聞いた俺は卒倒しそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ〜…」

 大将の口から国家機密を聞いた俺は長い溜め息をつき、これからどうしようかと頭を悩ませていたが取り敢えず今やるべきことをやることにした。

 

「あ、あー…吹雪、叢雲は今すぐ執務室へと来ること。」

 

 これまで護衛をしてくれていた二人を呼び出し、これからのことを伝えるのだった。

 

 

「はぁ!?『吹雪、叢雲の二名は本日を持って小笠原諸島沖鎮守府に配属』だぁ!?どういう事よそれ!!」

 

「ちょ、叢雲ちゃん…!」

 

 執務室に叢雲の怒声とも悲鳴とも取れる叫び声が響き渡る。

 俺は頭を抱えながら大将から聞いたことを全て説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その島には、怪物がいる。」

 

「……は?」

 いきなり出できた「怪物」という非現実的なワードに思わず素で驚く。それと同時に腹の中に段々と不穏な疼きが忍び寄ってきた。

 

「怪物…と申しますと…」

 

「その部屋には我々が置いた資料があるはずだ。見てみろ」

 

 大将の言葉に周りを見渡すと…あった。なになに…『小笠原諸島沖の未開の島における探索報告書』?なんじゃこれ…うん?小笠原諸島沖の島って…

 

「こ、これは…一体」

 

「電話しながらでいい。それを読んでみろ」

 

「は、はい…」

 言われた通り電話を耳と肩で支えながら読んでみると、そこには恐ろしい事実が書かれていた。 

 

「えぇーと…『二体の怪物が島を焼き尽くし、調査隊も半壊…』え、これって…」

 

「そこに書いてある通りだ。」

 

「え…ちょ、ちょっと待ってください!何かの間違いじゃ…大体これって深海棲艦の類じゃないんですか!?」

 

 分からない。非現実的な事の連続で頭がパンクしそうだ。混乱しながら読み進めていくとその時取ったであろう写真が貼られていた。

 

「……」

 言葉を呑んだ。貼られていた写真は三つ。どの写真もブレているがなんとか形は捉えることができた。一つは銀色の鎧を身に纏い、巨大な翼を持つ何か。もう一つは全身が真っ黒でとてつもない巨体を持ち、背中に無数の鋭い岩の様な物がそびえ立つ何か。そして最後の写真には、撤退している最中なのか島が遠ざかっている。そして島からは巨大な黒煙が上がっており、その下には炎が立ち上っていた。

 

「……この写真は」

 

「XX年OO日にその島に派遣された調査隊が撮ったものだ。」

 

 大将は淡々と事実を告げてくる。

 

「調査隊はどうなったんですか?」

 

「記述されている通り、半壊した。だが生き残りがなんとか横須賀に帰還してこの報告書を提出するに至った。」

 

「…では、私がここに配属された理由は?」

 

 最悪の事態を想像して恐る恐る訊ねると、まさに自分が思い浮かべた答えが帰ってきた。

 

「君にはその島にいる二体の怪物の監視を任務として与える。そして、君の護衛につけた吹雪と叢雲はそのまま小笠原諸島沖鎮守に配属させる。」

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあこんな感じだ」

 

「「………」」

 話を聞き終えた二人は驚きのあまり声も出ないようだった。

 

(ただまぁ、色々と納得は行った。)

 こんな新米が提督に採用されたのは、恐らく「喪失しても海軍にさほど影響がない」からだろう。悪く言えば使い捨てと言ったところか。島に着いてから説明されたのは途中で逃げ出さないようにするためだろう。まったく、海軍もえぐいことしやがる。

 

「……今の話は本当なの?」

 

「ああ。なんならそこに報告書もある」

 

 と机の上に広がっている書類を指差す。二人はそれを拾い恐る恐るページを捲ると、絶句したように固まった。

 

「…くそ」

 

 あまりに現実味の無い話だが、証拠があるため何も言えない。これから先どうなるのか不安が尽きないまま、日が暮れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、島に潜む怪物も新たな来訪者の存在を感じ取っていた。

 

「………」

 

 山の住処で低く唸り声を上げながら来訪者を威嚇する者

 

 

「………」

 

 薄暗い洞窟の中にて深く眠りながら地上に現れた新たな存在を感知する者

 

 

 確実に事態は動き出していた。

 

 

 





続くかは分かりません。
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