ランペイジ・バレット ~ソシャゲみたいな世界に転生した俺が必死で生き抜いていく話~ 作:捻れ骨子
※another side
対策機構の戦闘指揮車とGSの装甲車。それに対して蟻が集るよう人々が押し寄せてくる。
白目を剥き、口から泡を吹いて、言葉にならぬうめき声を上げてよろよろと動くその有様は、正しくゾンビにしか見えなかった。
「だああああああ! どんだけ集めてきたんすかこれぇ!」
装甲車の側面で
身体ごと銃の向きを変える、狙いがブレない構えで素早く射撃。一つ一つの弾丸が正確に胸の中央を撃ち抜いていた。弾丸の消費を抑えるためにセミオートであるが、トリガーを引く速度が速くほとんどフルオートと変わらない。結局消費にさほどの差は無いように見える。
そうしている間に弾が切れ、ボルトが後退した状態で銃が止まった。
「満員御礼はいらんっすよ!」
片手で銃を捻り空マガジンをイジェクト。銃をスリングで左脇にぶら下げると同時に懐の
「隊長とみんなが戻ってこられれば、とっととケツまくるんすけどねぇ!」
だだん! と再びM4が吠える。
一方戦闘指揮車の周囲を護るのは、蒼と白のプロテクターを身に纏い、重機関砲を振り回す少女、ミナセ・アオイ。
「今のところは何とか凌いでいますが……」
己のテックにより精製された氷の弾丸を、襲撃者の集団に浴びせる。人を討つ嫌悪感などとうの昔に消え去っていた。それよりも弾丸の威力の低下――
精度が落ちていると言うことは、集中力が低下していると言うこと。じわじわと疲労が重なってきていることを自覚し、舌を打ちたいところを堪えた。
「我々を磨り潰す気ですか。的確な戦術ではありますが」
戦力を分断し、有象無象を無数に押しつけ数で圧倒する。使っている戦力はそこらのチンピラか何かを操っているだけなので、実質的に相手は何も損失していない。人道も何も投げ捨てた、しかし有効な戦術だ。実際アオイたちは追い込まれている。
隊長とグラジア、エリーターズの残りを見捨てれば強引にこの場を脱することはできるだろう。だが現状この場の指揮を執っているヒロコが、そんな選択をするはずはない。
それ以前に――
『……みんな、車に……』
「ヒロコさん! 無理しないでください!」
かすれるような雑音混じりのテレパスが届き、アオイは悲鳴のような声を上げた。戦闘指揮車の中では。
「ぐう……」
「ヒロコちゃん! 無理に抵抗しなくても!」
いつでも車を出せるよう運転席に座しているツタエが、気遣わしげに後方へ声をかける。機材に囲まれた後部スペースでは、ヒロコが右手で顔を押さえ、苦悶の表情を浮かべていた。何者かのテックにより天の眼をジャミングされ、それを撥ね除けようと悪戦苦闘しているのだ。
彼女の感覚としては、投網を被せられて思うように身動きが取れないようなものであった。近場なら周辺の状況を把握し、なんとかテレパスも飛ばせるが、その能力は普段の半分以下に制限されている。無理に力を振るおうとすれば、脳が締め付けられるような苦痛を味わう。
それでもヒロコは諦めない。苦痛を押して力を振るおうと藻掻いていた。
「皆の位置さえ、把握できれば……っ!」
転送装置でばらばらに跳ばされたらしい隊長以下の面子の安否さえ分かれば移動できる。それまでは行き違いを防ぐためこの場に留まると、ヒロコは譲らなかった。
彼女以外の人間がテックを使っていることから、どうやら単体に対して妨害効果を発揮するテックか技術が使われているようだ。そうでなければ今頃全員三途の川を渡っていただろう。だがそれも時間の問題だ。
そんなとき、GSの装甲車から近距離の無線(くらいは通じた)が入る。
「
声の主は装甲車の上部ハッチから這い出してきたトザマだ。彼女は一般隊員の頃から愛用している
「ちょっとアンタ! テック使いじゃないのに戦う気!? この状況じゃ死ぬわよ!」
ツタエが泡を食った声で言うが、トザマはにやりと笑って応える。
「これでも一般隊員として修羅場は潜っています。それよりも対策機構としてはヒロコさんを失う方が損失でしょう。なに、隊長達が帰ってきたらすぐに後を追いますよ」
はったりである。トザマはこの状況を負けイベントだと認識しているが、現実である以上死人が出てもおかしくはないと考える。
この世界の謎を解く鍵を握るヒロコを、こんなところで失わせるわけにはいかない。例え命に代えても逃がさねばと、彼女は腹をくくっていた。
「すいません
生声で車内のライト4に声をかければ、ライト4は同様に不敵な笑みを見せる。
「
ああ、やはり彼女らも、自分が大好きなキャラそのままだ。やるべき事は命をかけてやりこなそうとする。
そのような雰囲気を感じ取っているヒロコは、ぎり、と歯を噛みしめる。
まだ、道半ばだというのに、こんな所では終われない。そして自分のために、知り合いが犠牲になるなど認められない。認めてたまるものか。
「こんな……もの……っ!」
テックの拘束を、無理矢理力業で引きちぎろうとする。鼻血と血涙があふれ出すが構わない。自身のダメージを度外視して、己のテックを暴走に近い状態まで出力を上げた。
「なめ、るなぁ!!」
ぶぢり、と何かが引きちぎられる感覚がして――
「そこらで拾ったチャリンコアターック!!」
「そこらでパクった原チャリクラーッシュ!!」
突如おんぼろ自転車に2人乗りしたライト1と3、おんぼろスクーターに2人乗りしたレフト1と3が現れて、襲撃者達を後ろから轢き飛ばしつつ参戦してきた。
……ついでに自身のテックで気配を隠したグラジアが、こっそり合流していた。
ばしり、と何かが弾き飛ばされたような音がして、突如手のひらから血が噴き出す。
「くっ、強引にテックの拘束を引きちぎったか」
傷ついた手を素早く手当てしながら、その人物は唸るように言う。
「今ので耐性がついた。そうでなくともこの次は上手くいかんだろうな」
「あわよくば、と思ったんだけどねぇ。やはり一筋縄ではいかないかぁ」
どこか楽しそうな声が続く。
「ばらばらに跳ばしたはずなのにあっさりくぐり抜けてくるとか、流石と言わざるを得ないね」
「立て直されましたな。戦力を追加いたしましょうか」
冷静な声が指示を仰ぐ。
「んン~……。今回はここまでにしておこうか。これ以上つつくと蛇が出てきそうだからねぇ」
「では【メガ】にも撤退の指示を……聞いてくれると良いのですが」
「あの子も引き際は心得てるさぁ。お楽しみはこれからだし」
ヒロコ達の奮闘を眼下に語る者たちの姿は陰り、はっきりとはしない。
その目だけが、妖しい光を宿していた。
ぎりぎりの勝利っぽい。