ランペイジ・バレット ~ソシャゲみたいな世界に転生した俺が必死で生き抜いていく話~ 作:捻れ骨子
仕事の合間に、軽トラを駆って街を行く。長々と時間がかかったが、やっと仕上がったアルトワークスを受け取りに、車屋へ向かっているのだ。
封印都市の一角。あばら屋のような町工場が居並ぶ区画に、その車屋はあった。【ミチクサオート】。見た目ぼろっちい中古車屋兼整備工場である。駐車場に乗り入れた俺は車を降り、開きっぱなしの事務所に足を踏み入れた。
「う~っす。親父さんいるか~?」
「お~う、おるぞ~」
事務所の奥から返事をしたのは、作業着を纏った小太りの中年。見るからに中小企業の社長といった様子のこのおっさんはミチクサの親父さん。俺がこの街で車を買うようになってから贔屓にしている。
「車なら仕上がっとるけえ。こっちじゃ」
親父さんに促されて作業場の方に向かう。いくつかの車が整備されていたりバラされていたりするその奥に、新たな車の姿はあった。
「……って、色も形も前のと変わらんな」
「外観を派手にすると目立って盗難とか狙われやすくなるけえ。じゃが中身は別モンぞ?」
言いながら親父さんはアルトのボンネットを開ける。
「エンジンから何から中古品の寄せ集めじゃが、
工業製品は均一の規格で作られるが、個体には僅かな差が出る。その上でパーツ同士の相性などもあり、物によっては同じ製品であっても性能が違う。当たり外れがあると言うことだ。パーツを吟味し良い相性の物を組み上げれば、設定された最大スペックを発揮させることも不可能ではない。
親父さんはわざわざ当たりのパーツを探し出し、相性を見て組み上げたらしい。張り切っていたが本気で取り組んでくれたようだ。前の車がエンジンブローしたのがよほど気に食わなかったと見える。
「ロールケージもぶっこんどきたかったんじゃが、車内が狭くなるけえ止めにした。ボディの溶接増しで茶ぁ濁しちょる。強化でなんとかしとくれ」
「十分だ。だが本当に前のと同じ値段でいいのか?」
これでも高給取りだから、倍の値段でも払えたんだが、親父さんはかぶりを振る。
「手間はかかった。じゃが中古品には変わりないけえな。本来の値は大分さがっちょるし、まあこんなところが妥当じゃろ」
こんなことを言っているが、大分サービスしてくれたんだろう。これ以上の詮索は野暮か。素直に好意を受け取ることにする。
「すまんな、助かる。……手続きを頼めるか」
「おう。こっちの書類を確認して……」
「こんちわー! 社長さんいらっさいやすかー?」
会話を割るように明るい声が響いた。作業場に姿を現したのは。
「おっと、GSの旦那じゃないですかい。ご機嫌いかがでやんしょ」
なんか下っ端が丁稚のような口調で挨拶してくるのは、運送屋のような作業服を纏った、小麦色の肌を持ち髪を金色に染めている……ギャルだった。
もう一度言う。丁稚口調で揉み手をしながら喋る黒ギャルだった。
「ぼちぼちだな。そっちはどうだ【ヤトマ】さんよ」
【ヤトマ・クロネ】。ダンジョン内から探索者が採取した資源や駆逐した来訪者の残骸を回収して運び出す、運び屋クラン【ヤトマ運輸】のリーダーで、中堅どころのテック使いだ。言動はこんなんだが比較的まともな性格で、犯罪や騒動に絡むことも少ない。だから俺と関わることはあまりないが、仕事の都合上何度か顔を合わせたことがある。
そんな彼女は愛想笑いを浮かべつつ、口を開く。
「へえ、おかげさまでなんとか。それはそれとして、旦那も社長さんに御用で?」
様子を探るような言葉。俺が仕事でここに来ているのかと勘ぐっているようだ。
……ふむ。
「いや、新しい車を頼んでいてな。受け取りに来たところだ。
そう問うてみれば、ヤトマ女史はちょっとだけ考え込んだ。
「……う~ん、あーしもはっきりとした確信があるわけじゃあないんでやすが、ちょっと気になることがありやして」
探索者と多く関わっている彼女は、ダンジョン関係の情報に明るい。たまに有用な情報を持ち込んでくることはあったが、どうにも歯切れが悪いな。
「最近妙に羽振りの良いクランがあるんでやすよ。ちょと前まで中堅どころでやしたが、急に来訪者の処理数が増えて来やして」
「ふん? それで輸送の注文が増えたわけか?」
「いえ、奴さんら、自前で車買って自力輸送やってやす。そこで気になるのが、
輸送用の車両をダンジョン攻略クランが購入する。おかしな事ではないように思えるが、実のところ珍しいことである。単純にコスパの問題だ。
ダンジョンでの輸送に使われるのは大体軽トラの類いだが、それでも所持して運用するのにはコストがかかる。封印都市は車検とかいい加減なので、そのあたりは削れるだろうが、燃料代やら何やらはかかる。その上探索者という物は
さらに加えて輸送車両を運転したり護衛したりするのに人材がいる。来訪者相手にしている間、その人材は手持ち無沙汰になるし、だからと言って車両を放置するのは、となるのは当然。人件費もかかるし、よほどの余裕がなければ専門で雇おうなどとは思わない。
結局の所、ヤトマ女史のような専門のクランを必要なときに呼ぶ、と言うのが一番無難だ。俺が個人で探索者やるんなら先行投資と普段乗りをかねて真っ先に軽トラ買うが、最初からそれをやるのは少数派だろう。
自力で輸送手段を用意するのは予算、人材的に余裕のあるところか……
「あんたの勘に引っかかった、ってことか」
「そんな大したことじゃないんでやすがね」
苦笑するヤトマ女史だが、ダンジョンの輸送で生き抜いている人間だ。勘働きはそれなりのものだし、多くの探索者と関わって人を見る目も肥えている。その彼女が何か引っかかっていると感じたのであれば、ちょっと気にかけておくべきか。
「そのクランの話、少し詳しく聞かせてもらえないか?」
そう言って俺は、片眉を上げて口端を歪めた。
「車の手続きが終わってからな」
あっしとあーしって似てるよな。からなぜか新キャラが生えてきた。